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会場内には老若男女、人々で溢れかえっていた。
中には小さな子供もいた。ハルくんくらいだろうか。それをみて、私は心が痛くなる。そばに母親らしき人がいるのがせめてもの救いだ。
ソマディアという組織のメンバーはざっと数えただけで会場に7人はいた。放送では各階にもいるとのことだけれど…大きな組織なんだろうか。
すすり泣く声や祈るような小さな声が一つになり、完全に沈黙が流れているわけではなかった。
私は時計を見る。
聞こえてる、んだよね?あのワタリさんが作ったって言ってたし大丈夫。
松田さんだって一度緊急サインを送ってきたこともあった。正常に作動してるはず。
…エルが何を考えているか、分からないけれど、こちらの様子をそれとなく伝えたほうがいいのだろうか。
役に立てるか分からないけれど、彼の推理の材料の一つにでもなれば…
「…7人、いるね」
私は小さな小さな声で呟いた。私にぴったり寄り添ってる遠藤さんが目に涙を溜めながら頷いた。
「…みんな銃持ってる…男ばかり、目出し帽で顔分かんないけど…出入り口も崩れてたし、爆破だったんだね…」
松井さんは不思議そうに私を見た。何を突然状況説明を始めたのかと言いたいようだった。
それもそうだな…一人ブツブツ話すのも怪しまれるかもしれない…
私は一度押し黙る。
館内放送はエルだって聞いてるはず。
この状況で…どうするんだろう。
私は何ができるんだろう。
非力さに俯く。
「…大丈夫か藍川」
背後から声が聞こえたので振り返れば、吉沢くんだった。
苦い顔してこちらを見ていた。
「ごめん…俺が選んだ場所で…こんなこと…」
「吉沢くんのせいじゃないよ。大丈夫」
私は精一杯微笑んだ。嘘じゃない、だって彼は何も悪くないもの。
こんなことになるなんて誰も想定できない。
彼には感謝しかない。私は今日、本当に楽しかったんだから。
一人一人の男たちを見た。年齢すらよく分からない。でも体つきはみんなしっかりしてるように見える。
銃を構えた男たちがこれほどいれば、こちらの人数がどれほど多くても反抗はむずかしい。
…先ほどの放送では、警察に交渉を持ちかけると言っていた。
なんの目的があるというのだろうか。
金銭だろうか。いや、それだけでは大掛かりすぎる。強盗でもやったほうがまだ成功するんじゃないだろうか。
これほどの人数を人質にとって成し遂げたい事とは。
会場に入ってくる人々の波がなくなった。恐らく1階にいた人々は集まり切ったのだろう。
遠くに立つ男たちの一人が、何やら口元をボソボソと動かしたのが分かった。
周りにいる仲間に話しかけてる様子ではない。
どこかと通信してるのだろう。確かに、他の階にも同士がいる、と言っていた。部屋の外に出たら射殺すると。
「集まったな」
男が一人声を上げる。
そして怯える人々を見渡し通る声で話した。
「お前たちは人質だ。余計な真似はするな。疑わしい言動は慎め。放送でもあったように警察がどう対応するのかでお前たちの命の行方が決まる」
私の手を握っていた遠藤さんが、更に強く握ってきた。
私は大丈夫だよ、というように握り返す。
「声を上げるな、動くな。とにかく待ってろ、お前たちに今できるのはそれだけだ」
男はそう言うと、銃をぐっと構えた。
そして突然、発砲した。
叫び声が響き渡る。火薬のような臭いが鼻についた。
撃った先には誰もいない。
銃の種類はよく分からない。ショットガンというやつだろうか、マシンガンだろうか。
どうやら威嚇のようだった。これは偽物なんかじゃない、本物だぞ、というように。
男は怯える人々を見て満足げに頷いた。
(…爆弾も、銃も、本物だった…)
この状況の勝機などあるのか。
エルがいるけど、彼だって人質の一人なのだ。
震える唇でそう考えた時、遠くから多くのサイレンの音が聞こえてきた。
パトカーだった。
サイレンの音が遠くから聞こえ、ジェシーが窓を覗いた。
最上階からも、あの赤く光るランプの存在は分かる。さすが、とてつもない数の車数だった。
それもそうだ、まずこの周辺を封鎖せねばならない。他に被害者が出たら大変だ。それだけでもかなりの労力と時間を要するだろう。
恐らく、いや間違いなくSATも出動してるはずだ。
「警察が来ましたね」
ジェシーは短く言うとまたすぐに座ってパソコンを操作した。
「L、ホテルの見取り図です」
Lは無言でパソコンを見つめる。
チョコレートを摘み上げ口に入れながら考える。
(1階分の出入が出来る部分は5か所か…)
爆破したと言っていたのはこの正面玄関だろう。一番広く人が出入りする玄関。
その他には厨房裏、駐車場から繋がる入り口、スタッフ用の裏口、西側にもある。
正面玄関を塞いだのは爆弾が本物と見せしめるため、それと勿論警察の突入を阻害するためだろうが…
あとの入り口はどうなってる。
「ワタリ、ここに武器はないか」
「拳銃1つです」
たった2泊するだけのつもりだった。武器だけでなく、さまざまな機械も普段より大いに不足している。
予想外の事態だ。仕方ない。
「組織の情報はあるか」
「今のところ皆無です。もう少し調べます」
情報はなかなか掴めない、か。Lは少し眉を潜める。
「ジェシー、長官にまた連絡を。外の状況が知りたい」
「はい」
監視カメラも見れず部屋から出れないのでは1階の様子がまるで分からない。ゆづきが装着している時計からの音声くらいだ。
先ほど発砲した音が聞こえたがどうやら威嚇のようだった。死人や怪我人が出ていればもっと大騒ぎになっているはずだ。
ジェシーが電話を渡してくる。耳に当てた時、聞こえてきた名前は少し懐かしい気がした。
『竜崎か』
最近はその名で呼ばれる事はなかった。Lは声ですぐに電話の主が分かった。
「夜神さんですか」
『今ホテル前にいる。長官から転送された。長官をわざわざ通すより話が早いからな。我々がキラ捜査で面識があることを覚えていたらしい』
確かにこの方がスムーズでやりやすい。
これほどの大事件、様々な者が駆り出されているに違いない。
「夜神さん、そのホテルには出入り口が5つあるはずですが」
『正面玄関は聞いていた通り爆破されて瓦礫の山だ、2階部分も崩れ落ちててここから突入はまず無理だ。西口も同じように爆破されている』
「なるほど。爆破されたのは1か所ではなかったのですか」
『厨房裏もだ。地下駐車場からの出入口はシャッターが閉まってご丁寧に溶接してある。音なく突入は無理だ。が、唯一一つ無事な扉があった』
「スタッフ用の裏口ですね」
『しかし勿論中から見張りが立っている。あえてここだけ破壊してないようだ』
Lは眉を潜めた。
あえて1か所だけ破壊していないというのは、不自然だ。
こういったテロリストたちは己の命は捨てる覚悟でことに及ぶ。だが中には勿論逃走し他にもテロを起こそうとする組織があるのも事実だ。
だが一階の出入口では。警察に囲まれて逃走など出来ないのに。
逃走するならば屋上が相応しい。ヘリやジェット機を使用して空から逃亡するのが。
『それと…正面玄関前に、パソコンが置いてあった』
「なるほど、それで交渉するつもりですね」
『まだ何も反応はないが恐らくそうだろう』
「交渉班には、なるべく刺激しないよう、時間を少しでも稼ぐように伝えてください」
『竜崎…君が中にいるということは…彼女も?』
少し沈んだ声がする。Lはチョコレートをまた口に入れて言った。
「ゆづきも人質です」
『……』
「電話は切らずに置いておいてください。そのパソコンからの音声は必ずこちらに聞こえるように」
『わかった』
Lはそっと電話を置いた。
ふうと息をつく。
ジェシーが戸惑ったように聞いてきた。
「警察の突入は難しいのでは?」
「まず無理でしょうね」
何百、いや千を超えてるかもしれない人質、武器は銃だけでなく爆弾もあるらしい。突入した途端ドカンで終わりだ。
「どんな要求が来るか分かりませんが…警察がそれを呑むしか助かる道はないんでしょうか」
「さあ、それもどうでしょう」
「…というと?」
ジェシーが険しい顔で尋ねた。
「このソマディアという組織がどんな思想を持ってるかはまだ分かりませんが、ここまで大きなことをしておいて要求が叶ったら人質を解放するなど素直すぎです、ならこんなに大人数を人質にする必要などない」
「……」
「要求をのんだとしても、自分たちは何らかの経路で逃走して爆弾を作動させるかあるいは自らもろとも消し飛ぶつもりか…」
「そんな!」
「まずはどうにかしてその爆弾の在り処を調べあげます。」
「でもどうやって」
「このホテルを破壊するほどの爆発物…一つならば大きさもそれなりになる。小型を何台か設置したのかそれとも…さて、どうしたものか」
Lはふうと息を吐きながら紅茶を飲んだ。
「時間はない。やれることも限られてますがとにかく小さなことからやるしかない。
放送ではすべての階に見張りがいるとのことでしたが、果たして…」
ここにもいるのか。
Lは考える。
ここは最上階スイートルームだ。普段はあまり利用客もない特別な部屋。最上階にはこの一部屋しかない。
普通の客室に手一杯でここを見逃してる可能性はないか。
黙って話を聞いていたワタリが言った。
「通気口を使いましょうか」
「それしかないな」
Lは見上げた。部屋から出た瞬間発砲するとなれば、廊下の様子を確認するにはそこしかない。
が、通気口とは元々人が通るように設計されていない。映画のように易々と進めると思ったら間違いだ。
それに物音で気づかれればすぐに射撃される恐れもある。
「ワタリ、あれは持ってきてるか」
「幸運にも」
ワタリはすぐに置いてあったスーツケースを漁った。
ジェシーが不思議そうに見る。
Lが説明した。
「いわゆる動くカメラです。ま、ラジコンのようなものです。これを通気口の中を走らせて隙間から下を覗かせましょう。ワタリが作ったので動きはかなり繊細です」
ジェシーはすぐさま机と椅子を重ねて通気口の蓋を外した。埃とカビのような臭いが微かにする。
ワタリは車輪のついたそれをジェシーに渡すと、彼女はそっと通気口へ忍ばせた。
Lはパソコンのカーソルを細かく動かす。その動きに合わせて、音もほぼなくカメラは動いた。
「見えますね。動かします」
Lはパソコンの画面を見つめながら進めていく。下りてきたジェシーも画面を食い入るように見た。
暗く汚い通気口を徐々に進む。ぼんやりとした明かりが照らす。カメラについてるライト機能だ。
通気口は映画のように美しくなかった。あらゆる所にビスや釘も出ている。埃にまみれていた。
画面を見るジェシーが言った。
「あかりがありますね」
「廊下に出たようです」
徐々に進めたカメラは突如眩しくなった。Lは操作してカメラの角度を変える。真上から下を見下ろす形だ。
あ、とジェシーの声が漏れる。
Lはため息をついた。
「…撤収です」
早くも一つ目の通気口の蓋から、動くものがみえた。目出し帽を被った人間の頭だった。
この最上階にもしっかり見張りはいたらしい。
「いや、このままここに滞在させておきましょう。」
Lは投げやりに言うと紅茶を飲んだ。
この部屋からはとりあえずは動けない、か。
いや、最終的に動こうと思えば強引に動けるが…まだその時ではない。先ほどの見張りの男から仲間に連絡され爆発を早められる可能性もある。
情報も道具も時間も何もかもが足りない、こんな展開は経験したことがない。この私が少し戸惑っている。
まずは何から手をつけるべきか…爆弾の在り処を推測するには、果たして…
窓の外を見る。
…交渉はまだか?
警察も集まり出した、そろそろ始まるかと思うのだが。それともこの状況を泳がせて楽しむタイプの組織か。交渉する者の準備が整っていないのか。
Lが考える。マイクから予想を絶する声が聞こえてきたのはその時だった。
