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「意外ですね」
ジェシーが笑ってLに言った。
広々としたスイートルームのソファに座ったLはいつものように座りパソコンを眺めていた。
机の上には大量のお菓子が並んでいた。今日は愛しい人のケーキではなかった。朝から出かける同窓会の準備に忙しそうだったので、珍しくLが辞退したのだ。
並べられた高級菓子は大変美味だが、やはりどこか物足りないな、とLは思っていた。
「何がですか」
「Lなら同窓会の様子、監視するかと思ってました」
笑いながらジェシーは言った。
Lは爪を噛みながら答える。
「正直言うと監視したくてたまりません。今なんとか自分を抑えています。しかし彼女が他の男と笑いながら話す様子を見ては私は絶対に会場に行ってしまうと思うので、ならば見ない方がまだマシかと。」
「なるほど。賢明です」
「あれほど楽しみにしていたゆづきのクラス会を台無しにはしたくありません」
そう言ってふとLは、そういえばもうジェシーは彼女を本名で呼んでいたか、と思い出した。クラスメイトと再会したことで自然と名前呼びに変化していったのだ。
だが、呼び名などどうでもいい。Lはため息をつく。
朝からめかしこんで顔をキラキラさせながら出かけていった彼女の姿が微笑ましくもあり恨めしくもあった。私と出かける時あれほどめかし込んでいただろうか。
まあ、仕方ない。
ゆづきが学生時代に強い後悔を抱いているのは以前から知っていた。毎日見る予知に辟易し、中々人を信じられず、なるべく関わらないよう生きてきたという。
その半生と能力を考えれば当然だと思った。むしろ人間不信に陥ってないのが不思議なくらいだ。
彼女は持って生まれた才能なのか、あれほど気遣いも出来て人から愛される人柄なのに、友達の一人も作らなかったというからあまりに不憫だ。
そんな過去を知ってて同窓会への参加を許可したのは苦渋の決断だった。
他の男に言い寄られたら。触られたら。…などと、完全に人を信じていない自分に呆れる。
あの吉沢という青年だって、確かに人柄はよさそうだが信じきってるわけではない。男心はふとした時に変わるものだ。油断ならない。
が、さすがにあんなに楽しそうにしていたクラス会に水をさしたくはなかった。何かあれば時計の緊急コールで知らせるだろうし、何よりほんの数分あれば彼女の元へかけ連れられる距離にいる。まだLは安心できた。
背後でワタリが笑う。
「相変わらずですね。L。しかし成長したと思います」
振り向けば座ってパソコンを操作していたワタリがこちらを見ていた。
「以前のLなら、絶対に参加を許さなかったでしょう」
言われてまたパソコンに向く。確かにそうだ。自覚してるが自分の独占欲と嫉妬心は並外れている。よく彼女は逃げ出さずにいてくれると思う。
これが成長、か?
温かな紅茶を一口飲んだ。
まあ、彼女が笑顔でいるのが何よりだ。自分の嫉妬心がいくら燃えようとも。自分の感情を優先して彼女が笑顔を失うようではだめだ。私もさすがにそこまでは落ちぶれていない。
「ほんと、ワイミーズのみんながみたら倒れますね」
肩をすくめながらジェシーがいう。
しかしすぐ笑った。
「私はとてもいいと思いますけどね。こんなL」
以前ゆづきに攻撃的で自分に迫ってきた過去など嘘のような笑顔だった。こちらの彼女の方が本当なのだろうな、とLは思った。
時計を眺める。そろそろ会は終わりのはずだが。
ジェシーはそんなLの様子を見て言った。
「まだ時間が早いから、二次会もあるかもしれませんよ」
「二次会、ですか」
「ええ、近くにカラオケもあったでしょう。」
想定外だった。強く爪を噛む。
「まあ、ホテルから出るような事があれば電話してくると思いますけど」
「…そうなればジェシー、移動の彼女をしっかり尾行してください」
「はいはい」
呆れたようにジェシーが返事をした時、足元から地響きよような揺れを感じた。
ふとLは足元を見る。
ジェシーとワタリも顔を見合わせた。
「地震でしょうか?」
ジェシーが訊ねる。
Lは爪を噛みながら答えた。
「どうも地震とは違うようですが…」
地震のように揺れも感じたが、それだけではないような地響きが伝わってきた。
ゆっくり眉を潜める。
そしてすぐにポケットから携帯を取り出した。ゆづきの電話へ掛ける。
幾度とコールが鳴り響くも、相手は出る様子がない。
留守電に繋がったため一度切る。そして再び掛ける。
これまたコール音が響くだけで出なかった。
まあ人混みの中で話をしていれば、カバンの中の電話など気づかない可能性の方が高いが。
Lは耳から離すとワタリに言った。
「ワタリ。このホテルの管理システムにハッキングして監視カメラの映像を映せますか」
「はい」
すぐにワタリがパソコンを滑らかな指感触で打ち始める。
ジェシーが言った。
「私、光を見てきましょうか」
「少し待ってください…」
どこか嫌な予感がする。すぐにでも彼女の元へ駆け付けたいのを必死に抑え、Lは考え込んだ。
次の瞬間、ワタリの持つ電話から甲高い音が響いた。Lとジェシーははっとそちらを見る。
ワタリはすぐに手を止めて携帯を見た。
「L…光さんの緊急コールです」
Lは目をみひらき、素早く目の前のパソコンを操作した。長い指先でキーボードを叩きつける。
まさか。先ほどの揺れは。
しかし緊急ボタンが押せたということは逆にいえば彼女は無事だ。
パソコンからわずかな音声が鳴った。
『お前…ちは一人…人質となる。…にいる人間は一か所にまとめる。…両手…に当てた…ま移動しろ』
微かな声だが聞き取れた。高性能なマイクはさすがだが、やはり聞き取りにくい。
「ジェシー、マイクの音の調整を」
「は、はい」
慌てたジェシーはパソコンを睨みつけて操作する。不鮮明な音声が大きくなり聞こえやすくなってくる。雑音も同時に混ざるが致し方ない。
大丈夫だ。やはり彼女は無事だ。Lはなんとか自分を落ち着かせる。
「音声は一つ残らず全て録音してください」
「はいL」
初めに聞こえてきた男の声、すべては聞き取れなかったが人質、という単語が聞こえた。それは聞き間違いなどではないはず。
鋭い眼光で考え込む。
先ほどの揺れと衝撃、それに人質…まさか…
パソコンから漏れる音声は、離れているであろう男の声を拾う。どうやら、今いる場所から移動させられるらしかった。両手を上げて整列し歩くよう指示している。
周りの雑音の中には女性からすすり泣く声も聞こえてくるが、その中にゆづきの声はないように思う。
いくつもの足音が響いた。従って歩き出しているらしい。
…あちらの声は聞こえるが。こちらの声も聞こえるような道具を彼女につけさせておくべきだった…
Lは後悔する。
まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかった。
その時、部屋から音声が流れた。館内放送だった。
『この Hyatt Hotelは我々ソマディアが占拠した。客はみな人質となる。1階にいるものは指示に従って移動しろ。
客室にいるものはそこから一切動かず部屋で待機しろ。同志がそれぞれの階に銃を構えている。部屋から出た瞬間発砲する。
出れても出入り口は爆弾で破壊した。窓から飛び降りたいなら好きにしろ、それも気づいた時から射殺する。
警察にある条件を提示する。警察が呑まなければお前たち諸共消し飛ぶ爆弾を作動させる。
爆弾が脅しでないのは先ほどの衝動で分かってるはずだ、大人しく警察に祈ってろ』
ジェシーが小声で「No way!(ありえない!)」と小さく呟いた。
Lはさらに爪を強く噛む。
「ジェシー、警察長官へ連絡してください」
「は、はい…ここに滞在してることを伝えるのですか?」
「非常事態です。館内にいると言うことぐらい伝えても仕方ないです」
ジェシーは急いで電話を取り出す。
Lはそれを待ちながら頭を回転させた。
テロリストだ、と思った。
日本では非常に珍しいが、前例がなかったこともない。日本の歴史でも有名すぎるほどの事件もある。無差別に人を殺めた恐ろしい事件。
しかし人質をとって警察に交渉を持ちかける事件は未だかつてなかったのではないか。
(ソマディア…?)
国内外過激派の組織は溢れている。要注意リストは各国警察内で作成されて、Lもそれを入手していた。
しかし先ほどの名前は聞いたことのない組織だった。まだ作られて新しいのか、警察の目をかい潜って活動してきた者たちか。
「L、どうぞ」
Lは電話を手に取る。
「Lです。単刀直入に言います。もうどこかから通報があったかもしれませんが、 Hyatt Hotelで爆破が起きました、なんの因果か私は館内に滞在しています。
組織名ソマディア、目視で確認してませんが銃を所持、爆破でホテル出入り口封鎖したと放送がありました。彼らは警察に交渉を持ちかけるようです。
情報がまだまだ少ない、とにかく交渉内容などこちらに情報を全て流してください」
電話口の相手は戸惑っていた。警察のトップでも、こんな状況は初めてだろう。
このホテルにいる何百もの人が人質の事件とは。
「こちらもわかる情報はすぐに提供します。
とにかくソマディアの交渉を待ち、なるべく時間をかけてください。法外な要求をしてくるのは目に見えている」
Lはそう告げると一度通信を切った。
背後からワタリの低い声がした。
「L、監視カメラの管理システムは破壊されているようでハッキングもできません」
「やはりか。そこそこ頭の回る相手のようですね」
まあこれほどの大掛かりな事を警察に勘づかれず遂行している。それなりに出来たトップでなければむりだ。
「ワタリ、ソマディアという組織について調べてください。ジェシー、このホテル館内の見取り図の用意を」
ゆづきの時計からの音声に耳を傾ける。
Lは自分で分析した。大丈夫だ、半年前より私は冷静でいられる。
危険が迫っているのはわかっている。しかし彼女の居場所も分かるし向こうの様子も音声のみだが分かる。
ふうと息を吐いた。
さまざまな過激派組織やテロリストとかかわることはあったが、生まれてこのかた人質にされたのは初めてだ。
パソコンから愛しい声が聞こえた。
『大丈夫だよ…警察が…助けてくれる』
思い上がりだろうか。
エルが助けてくれる。
彼女が本当はそう言った気がした。
