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明るい吉沢くんや遠藤さんたちのフォローもあり、私はさまざまな人と話が出来た。
みな明るく受け入れ、頻繁に私を驚いた表情で見た。大分昔とイメージが違うのだろう。
途中から吉沢くんは男性たちの輪に入り離れたが、私は困ることなくみんなと話せた。
遠藤さんは相変わらず彼氏にプロポーズしてもらえるにはどうしたらいいか私に必死に尋ねてきては笑わされた。
昔の話に花が咲く。
今の話に花が咲く。
地元で就職した子もいれば、離れた場所に嫁いだ子、もう子供がいる子、弁護士になった子もいた。
各々自分たちの進んだ道を報告し合い質問し合う。
みんな大人になったんだな、と痛感せずにはいられなかった。
まだ制服を着て時間が有り余っていた10代。今では一人一人責任を持った人生を歩んでいて、どこか表情もしっかりしている。
時の流れとは残酷で、素敵で、尊いと思えた。
お腹が痛くなるほど笑った。こんなに続けて笑ったのは人生で初めてかもしれないとさえ思った。
時間はこういうときはあっという間だから驚く。
宴会はすぐに終わりへと近づいていく。
「えー藍川さん旦那外人!?驚きー!」
「遠藤さんは彼どんな人なの?」
「ふつーだよ。会社で出会ってふつーに付き合ったの」
「遠藤さんほど可愛かったら彼から?」
「ううん、私から猛アタックしたの」
長い睫毛を瞬かせて彼女は言う。とても意外だった。そう感じたのは私だけではなかったらしく、隣にいた松井さんが驚いていた。
「えー!美樹から!?」
「ねぇ?全然普通の人なのにさ、運命だーって思っちゃったんだよ。なんだったのかねあれ。プロポーズもまだだし勘違いだったかな」
はあーと大きくため息をついて長い髪が揺れた。毛先まで手入れのされている綺麗な髪だ。きっと彼女はその美を保持するために見えない努力も重ねているんだろうなと思った。
「まあ、これからなんじゃない?」
「えー全然そんな雰囲気ないんだよ!家に行くとパンツ一枚で寝そべってさ!」
「ぱ、パンツ…」
「旦那さんそう言うことする?」
「あまり、しないかなぁ…」
「外人はさすがだぁ!!」
エルがパンツで歩き回ってたら単純に私に叱られるだろう。上半身の服を着ずに歩き回っていたことはあったが。
単にその理由も、いつもの服に紅茶を溢してしまって新しいものに着替えるのが面倒だった、から。
…そう思うとやっぱ彼は変だ。
「ねね。外人ならアイラブユーとか言うの!?」
「えっ、そんなみんなが想像してるほど外人じゃないよ。日本語違和感全然ないし、外見も…でもそういえば愛してますはよく言うかな」
「ひええー!」
遠藤さんと松井さんが同時に叫んで顔を覆ったもんだからまた笑い出してしまった。
そうか、そうだよね。日本じゃあまり言わないよね。
エルは真っ直ぐな愛情表現をしてくれるけど、やはりイギリス育ちだからかな…?
「ねね、ちなみにプロポーズの言葉は!?」
鼻息荒くして聞いてくる遠藤さんについ仰反る。
「え?ええっと…『あなたと一つの名前を共有したい』だったかな」
「うっはー!!!どこの小説だよぉーー!!」
「憧れるぅー!!」
二人がまた顔を覆う。息がピッタリだ、面白すぎる。リアクションが芸能人並みだ。私はケラケラ笑う。
私たちが笑って話してる背後で、吉沢くんの声が響き渡った。
「えーそろそろ時間です!お開きになりまーす!」
周りから残念そうな声がさざめく。そうか、もうそんな時間なのか。私は腕時計を見た。楽しいとなぜ時間ってあっという前なんだろう。
遠藤さんと松井さんが言う。
「ね、このホテルの出入り口にカフェあったじゃない?お茶しない?二次会ってことで!」
「うんそうしよーよ!藍川さんも!」
予想外のお誘いに目を丸くする。
「えっ…私、いいの?」
「うんうん行こうよー!他の人たちも声かけてみよ!」
笑顔でそう言った遠藤さんをみて、嬉しさがこみ上げる。
ホテル内のカフェだし。エルには電話して、ちょっと参加させてもらおうかな。せっかく誘ってもらえたんだ。
「ありがとう!ぜひ!」
「よしよーし!」
周りにいる子達にも遠藤さんが声をかけていく。相変わらずフットワークが軽い人だなぁ。
でもまさか、クラス会のあとのお茶に誘ってもらえるなんて。どうしよう、嬉しくてたまらない。
にやける頬を自制しようと手で覆った時、はっと背後に何かを感じた。
反射的に、振り返る。
…なんだ?
特に何もない。数々のクラスメイトが笑って話しているだけだ。
なんだかゾッとするような、そんな感覚が背筋に通ったんだけど気のせいかな。
少し首を傾げる。
元々どちらかといえば敏感で、警戒心が強い方だと思っている。予知という能力があったせいだろうか?特に半年前あんなことがあってから。
けれども、思い違いだったのか。やはり背後には何もない。
「藍川さん?どーしたー?」
大きな瞳で遠藤さんが私の顔を覗き込んだ。
私はすぐに首を振る。
「ううん、何でもない」
「意外と人数多くなっちゃった!席空いてるかなぁ?足りなかったら他の場所探さなきゃだよねー」
腕を組んで困ったように俯く。隣にいた松井さんが言った。
「そしたらカラオケにでもする?近くにあったじゃん」
「あーそーね」
カラオケ!!私はつい心のなかで叫んだ。実はカラオケなんて殆ど行ったことがないのだ。夢だった、放課後の友達とのカラオケ。
しかしホテルを出るとなればエルが心配するかもしれない。電話して相談してみようか。
「遠藤さん、私ちょっと電話を…」
そう言いかけた時だった。
地面から地響きのような揺れが生じ、同時に聞いたことのないような大きな衝撃音が鳴り響いた。
それはかつてエルを救い出した車が店に衝突してきたような、…いやそれともまた違う音だ。
ピンヒールを履いて油断していた遠藤さんはその揺れに驚き、ゆらりと体を揺らす。私はそれを反射的に受け止めた。
ガラスが割れるような音と、物が破壊されたような衝撃音だった。
大勢いた会場の人々は一斉に押し黙り、唖然とした顔で見つめあった。
「…な、に。今の」
私に支えられた遠藤さんが呟く。
衝撃は一瞬で、長く続きはしなかった。
「じ、地震??」
松井さんも呟いた。周りのざわめきがまた蘇る。みんな各々驚いた表情で話し出す。
「…地震、にしては…衝撃音みたいなのが…」
私は答えた。揺れただけじゃなかった。何か壊れたような大きな音もした。あれも地震によるもの?
「なんだろう。近かったよね…あっ、ごめん藍川さん!」
私が支えてることにようやく気づいた遠藤さんが慌てて離れる。
「ううん、大丈夫」
「ありがとね、支えてくれなかったら転んでた…」
頭を下げる遠藤さんに萎縮していると、吉沢くんの声が響いた。
「あーちょっと!みんな落ち着こ!とりあえず転んでない?平気?」
さすがのリーダーシップである、みんなその言葉を聞いて頷いた。
吉沢くんは冷静にも続ける。
「とりあえずさ、一気にみんなで動くと混乱するだろうから、幹事の俺と宇都宮がスタッフに…」
そう話していた最中だった。誰か女の子の叫び声が響く。背後からだった。
みんなが一斉にそちらを振り向いた。
出入り口に立っていたのは目出し帽を被った巨体な男だった。手には両手で支える大きな銃が見える。
人々が無意識に叫んで後退りした。それは私も同じで、自分の叫び声が喉からこぼれ落ちているのを感じた。
どっと人が男から離れようとこちらに押しよる。私と遠藤さんはその波に押されてそのまま倒れ込んだ。
「静かにしろ」
男女問わずの人数の叫び声が響いているのに、不思議と低い目出し帽の男の声が聞こえた。
「静まらないと撃つ」
男はゆっくりとした口調でそう告げた。ひっと、みんなが息を飲むのが分かる。
呆然と混乱した頭でただ男を見つめた。
遠藤さんが叫び声をあげてしまいそうになるのを必死に両手で口を押さえて止めていた。
みなが震える視線で男をみる。
男は冷たい視線で一度みんなを見渡す。感情が何も感じられない目だった。
私ははっとする。自分でも褒めたいくらい冷静になれたと思う。
そっと右手を動かす。
そして、左手に付けた腕時計のリューズを押したのだ。かち、とした感覚が指先に伝わる。
ドキドキと心臓は大きな音を立ててうるさい。
大丈夫、こんな小さな動きはバレていない。
エルにどう連絡がついたのかは分からなかった。当然ながらこれを使うのは初めてのことなのだ。
長く沈黙が流れたあと、男は言った。
「お前たちは一人残らず人質となる。一階にいる人間は一か所にまとめる。騒がず両手を頭に当てたまま移動しろ」
人質???
目を丸くしてみんな固まる。
なんのことだ、人質だなんて。
男はツカツカと歩み寄り、銃を構えた。
「立て」
そう銃口を向けられては、私たちは慌てて立ち上がるしかなかった。女の子たちは恐怖心からポロポロと泣き出す子もいた。
私も同じように立ち上がる。見れば隣の遠藤さんはカタカタと震え、中々立ち上がれる様子がない。
私は彼女の肩を抱いた。
「…従うしかない」
呟く。彼女は小さく頷いた。
何が起こっているのか。そこにいる人々は混乱で頭をいっぱいにしながらも、言われた通りにするしかなかった。
この男は。
人質とは。
先ほどの爆音との関係は。
私たちは今からどうなるのか。
…考え出したらキリがない疑問が頭の中を占める。
遠藤さんと松井さんが強く手を握ってきた。私はそれを固く握り返す。
「聞こえなかったか、両手は頭だ」
男の非情な声に、私たちは名残惜しく手を離した。
見て分かるほど震えながら両手を頭にあてた遠藤さんを見て、私は一つ冷静になった。
人は自分より怯えている者を見ると冷静になれるというが、その話は本当だったな、なんて頭の中で呟く。
左手の時計は特に何も変わらず時間を刻んでいる。確かに押したよね、もうエルの元へ緊急は伝わっているはず…
そう、私が涙を流さずにいれる理由は一つ。
エルが、近くにいる。
世界のLが。ここにはいるのだ。
「前にいるやつから順に歩け。下手な真似をしようとするな」
男が言った通りにするしかない私たちはゆっくりと足を踏み出した。列を作るようにして歩く。男は冷静にそれを見つめていた。
私は松井さんに続いて並んだ。出入り口に立つ男の側を通る時、これでもかと心臓がなる。
一瞬で通り少し安心した。レジには誰もスタッフはいなかった。
レストランを抜けた時、はっと一瞬足をとめた。
ホテルの広いホールには、何人もの男が立っていた。みな同じように目出し帽で大きな銃を抱えている。いつだったか拳銃は見た事がある。でもそれとはまた違う大きな形は恐怖心を仰ぐ。
そしてホテルの出入り口は無残にも崩れ落ち、外から侵入できないようになっていたのだ。瓦礫の山となっていた。
まさか、さっきの衝撃音は、このホテルの出入り口を塞いでいたのか。
瓦礫のそばにはスタッフであろう人がうつ伏せに倒れていた。はっとし、それを見かけた途端足を踏み出す。
「列を乱すな」
駆け寄ろうとしたところで、すぐに立っている男に銃を向けられた。
「……」
黙って戻るしかなかった。
あの人が生きているのかどうかも分からない、どうか生きててほしいと思った。
列は長く人々が無言で歩いていく。どうやら少し歩いたところにある大きなパーティー会場に集められるらしかった。
その時、館内放送が鳴り響く。無機質で低い声の男だった。
『この Hyatt Hotelは我々ソマディアが占拠した。客はみな人質となる。客室以外にいるものは指示に従って移動しろ。
客室にいるものはそこから一切動かず部屋で待機しろ。同志がそれぞれの階に銃を構えている。部屋から出た瞬間発砲する。
出れても出入り口は爆弾で破壊した。窓から飛び降りたいなら好きにしろ、それも気づいた時から射殺する。
警察にある条件を提示する。警察が呑まなければお前たち諸共消し飛ぶ爆弾を作動させる。
爆弾が脅しでないのは先ほどの衝動で分かってるはずだ、大人しく警察に祈ってろ』
押さえていた悲鳴が小さく漏れる。男たちが銃をこちらを向け、すぐにそれは治った。
…爆発だったのだ。さっきの音と衝撃は。
出入り口を塞ぐために作動させたのか。
震える足で列を乱さないよう歩いていく。少し歩いたところにある大きな会場に入った。
場違いな美しい会場だった。キラキラ輝くシャンデリアが恨めしい。本当なら盛大なパーティーか、もしくは結婚式の披露宴に使われるかもしれなかった。
会場にはすでに沢山の人たちが震えながら床に座らされていた。客はもちろん、ホテルのスタッフや清掃員、料理人たちもいた。
私は松井さんが座った隣にしゃがむ。すぐに遠藤さんがピタリと体をつけるように座った。
会場には更に男たちが立っていた。各階にもいるといっていたし、なかなかの大人数の組織らしかった。服装はみな同じ目出し帽と銃を構えていた。
「どうなるの…私たち…」
ぽつんと小声で遠藤さんがつぶやく。私たちはまた手をぎゅっと握った。
「大丈夫だよ…警察が…助けてくれる」
言葉でそういいつつも、私は頭の中では違うことを考えていた。
エル、が。
エルがきっと助けてくれる。
左手の小さな時計を見つめて、そう呟いた。
みな明るく受け入れ、頻繁に私を驚いた表情で見た。大分昔とイメージが違うのだろう。
途中から吉沢くんは男性たちの輪に入り離れたが、私は困ることなくみんなと話せた。
遠藤さんは相変わらず彼氏にプロポーズしてもらえるにはどうしたらいいか私に必死に尋ねてきては笑わされた。
昔の話に花が咲く。
今の話に花が咲く。
地元で就職した子もいれば、離れた場所に嫁いだ子、もう子供がいる子、弁護士になった子もいた。
各々自分たちの進んだ道を報告し合い質問し合う。
みんな大人になったんだな、と痛感せずにはいられなかった。
まだ制服を着て時間が有り余っていた10代。今では一人一人責任を持った人生を歩んでいて、どこか表情もしっかりしている。
時の流れとは残酷で、素敵で、尊いと思えた。
お腹が痛くなるほど笑った。こんなに続けて笑ったのは人生で初めてかもしれないとさえ思った。
時間はこういうときはあっという間だから驚く。
宴会はすぐに終わりへと近づいていく。
「えー藍川さん旦那外人!?驚きー!」
「遠藤さんは彼どんな人なの?」
「ふつーだよ。会社で出会ってふつーに付き合ったの」
「遠藤さんほど可愛かったら彼から?」
「ううん、私から猛アタックしたの」
長い睫毛を瞬かせて彼女は言う。とても意外だった。そう感じたのは私だけではなかったらしく、隣にいた松井さんが驚いていた。
「えー!美樹から!?」
「ねぇ?全然普通の人なのにさ、運命だーって思っちゃったんだよ。なんだったのかねあれ。プロポーズもまだだし勘違いだったかな」
はあーと大きくため息をついて長い髪が揺れた。毛先まで手入れのされている綺麗な髪だ。きっと彼女はその美を保持するために見えない努力も重ねているんだろうなと思った。
「まあ、これからなんじゃない?」
「えー全然そんな雰囲気ないんだよ!家に行くとパンツ一枚で寝そべってさ!」
「ぱ、パンツ…」
「旦那さんそう言うことする?」
「あまり、しないかなぁ…」
「外人はさすがだぁ!!」
エルがパンツで歩き回ってたら単純に私に叱られるだろう。上半身の服を着ずに歩き回っていたことはあったが。
単にその理由も、いつもの服に紅茶を溢してしまって新しいものに着替えるのが面倒だった、から。
…そう思うとやっぱ彼は変だ。
「ねね。外人ならアイラブユーとか言うの!?」
「えっ、そんなみんなが想像してるほど外人じゃないよ。日本語違和感全然ないし、外見も…でもそういえば愛してますはよく言うかな」
「ひええー!」
遠藤さんと松井さんが同時に叫んで顔を覆ったもんだからまた笑い出してしまった。
そうか、そうだよね。日本じゃあまり言わないよね。
エルは真っ直ぐな愛情表現をしてくれるけど、やはりイギリス育ちだからかな…?
「ねね、ちなみにプロポーズの言葉は!?」
鼻息荒くして聞いてくる遠藤さんについ仰反る。
「え?ええっと…『あなたと一つの名前を共有したい』だったかな」
「うっはー!!!どこの小説だよぉーー!!」
「憧れるぅー!!」
二人がまた顔を覆う。息がピッタリだ、面白すぎる。リアクションが芸能人並みだ。私はケラケラ笑う。
私たちが笑って話してる背後で、吉沢くんの声が響き渡った。
「えーそろそろ時間です!お開きになりまーす!」
周りから残念そうな声がさざめく。そうか、もうそんな時間なのか。私は腕時計を見た。楽しいとなぜ時間ってあっという前なんだろう。
遠藤さんと松井さんが言う。
「ね、このホテルの出入り口にカフェあったじゃない?お茶しない?二次会ってことで!」
「うんそうしよーよ!藍川さんも!」
予想外のお誘いに目を丸くする。
「えっ…私、いいの?」
「うんうん行こうよー!他の人たちも声かけてみよ!」
笑顔でそう言った遠藤さんをみて、嬉しさがこみ上げる。
ホテル内のカフェだし。エルには電話して、ちょっと参加させてもらおうかな。せっかく誘ってもらえたんだ。
「ありがとう!ぜひ!」
「よしよーし!」
周りにいる子達にも遠藤さんが声をかけていく。相変わらずフットワークが軽い人だなぁ。
でもまさか、クラス会のあとのお茶に誘ってもらえるなんて。どうしよう、嬉しくてたまらない。
にやける頬を自制しようと手で覆った時、はっと背後に何かを感じた。
反射的に、振り返る。
…なんだ?
特に何もない。数々のクラスメイトが笑って話しているだけだ。
なんだかゾッとするような、そんな感覚が背筋に通ったんだけど気のせいかな。
少し首を傾げる。
元々どちらかといえば敏感で、警戒心が強い方だと思っている。予知という能力があったせいだろうか?特に半年前あんなことがあってから。
けれども、思い違いだったのか。やはり背後には何もない。
「藍川さん?どーしたー?」
大きな瞳で遠藤さんが私の顔を覗き込んだ。
私はすぐに首を振る。
「ううん、何でもない」
「意外と人数多くなっちゃった!席空いてるかなぁ?足りなかったら他の場所探さなきゃだよねー」
腕を組んで困ったように俯く。隣にいた松井さんが言った。
「そしたらカラオケにでもする?近くにあったじゃん」
「あーそーね」
カラオケ!!私はつい心のなかで叫んだ。実はカラオケなんて殆ど行ったことがないのだ。夢だった、放課後の友達とのカラオケ。
しかしホテルを出るとなればエルが心配するかもしれない。電話して相談してみようか。
「遠藤さん、私ちょっと電話を…」
そう言いかけた時だった。
地面から地響きのような揺れが生じ、同時に聞いたことのないような大きな衝撃音が鳴り響いた。
それはかつてエルを救い出した車が店に衝突してきたような、…いやそれともまた違う音だ。
ピンヒールを履いて油断していた遠藤さんはその揺れに驚き、ゆらりと体を揺らす。私はそれを反射的に受け止めた。
ガラスが割れるような音と、物が破壊されたような衝撃音だった。
大勢いた会場の人々は一斉に押し黙り、唖然とした顔で見つめあった。
「…な、に。今の」
私に支えられた遠藤さんが呟く。
衝撃は一瞬で、長く続きはしなかった。
「じ、地震??」
松井さんも呟いた。周りのざわめきがまた蘇る。みんな各々驚いた表情で話し出す。
「…地震、にしては…衝撃音みたいなのが…」
私は答えた。揺れただけじゃなかった。何か壊れたような大きな音もした。あれも地震によるもの?
「なんだろう。近かったよね…あっ、ごめん藍川さん!」
私が支えてることにようやく気づいた遠藤さんが慌てて離れる。
「ううん、大丈夫」
「ありがとね、支えてくれなかったら転んでた…」
頭を下げる遠藤さんに萎縮していると、吉沢くんの声が響いた。
「あーちょっと!みんな落ち着こ!とりあえず転んでない?平気?」
さすがのリーダーシップである、みんなその言葉を聞いて頷いた。
吉沢くんは冷静にも続ける。
「とりあえずさ、一気にみんなで動くと混乱するだろうから、幹事の俺と宇都宮がスタッフに…」
そう話していた最中だった。誰か女の子の叫び声が響く。背後からだった。
みんなが一斉にそちらを振り向いた。
出入り口に立っていたのは目出し帽を被った巨体な男だった。手には両手で支える大きな銃が見える。
人々が無意識に叫んで後退りした。それは私も同じで、自分の叫び声が喉からこぼれ落ちているのを感じた。
どっと人が男から離れようとこちらに押しよる。私と遠藤さんはその波に押されてそのまま倒れ込んだ。
「静かにしろ」
男女問わずの人数の叫び声が響いているのに、不思議と低い目出し帽の男の声が聞こえた。
「静まらないと撃つ」
男はゆっくりとした口調でそう告げた。ひっと、みんなが息を飲むのが分かる。
呆然と混乱した頭でただ男を見つめた。
遠藤さんが叫び声をあげてしまいそうになるのを必死に両手で口を押さえて止めていた。
みなが震える視線で男をみる。
男は冷たい視線で一度みんなを見渡す。感情が何も感じられない目だった。
私ははっとする。自分でも褒めたいくらい冷静になれたと思う。
そっと右手を動かす。
そして、左手に付けた腕時計のリューズを押したのだ。かち、とした感覚が指先に伝わる。
ドキドキと心臓は大きな音を立ててうるさい。
大丈夫、こんな小さな動きはバレていない。
エルにどう連絡がついたのかは分からなかった。当然ながらこれを使うのは初めてのことなのだ。
長く沈黙が流れたあと、男は言った。
「お前たちは一人残らず人質となる。一階にいる人間は一か所にまとめる。騒がず両手を頭に当てたまま移動しろ」
人質???
目を丸くしてみんな固まる。
なんのことだ、人質だなんて。
男はツカツカと歩み寄り、銃を構えた。
「立て」
そう銃口を向けられては、私たちは慌てて立ち上がるしかなかった。女の子たちは恐怖心からポロポロと泣き出す子もいた。
私も同じように立ち上がる。見れば隣の遠藤さんはカタカタと震え、中々立ち上がれる様子がない。
私は彼女の肩を抱いた。
「…従うしかない」
呟く。彼女は小さく頷いた。
何が起こっているのか。そこにいる人々は混乱で頭をいっぱいにしながらも、言われた通りにするしかなかった。
この男は。
人質とは。
先ほどの爆音との関係は。
私たちは今からどうなるのか。
…考え出したらキリがない疑問が頭の中を占める。
遠藤さんと松井さんが強く手を握ってきた。私はそれを固く握り返す。
「聞こえなかったか、両手は頭だ」
男の非情な声に、私たちは名残惜しく手を離した。
見て分かるほど震えながら両手を頭にあてた遠藤さんを見て、私は一つ冷静になった。
人は自分より怯えている者を見ると冷静になれるというが、その話は本当だったな、なんて頭の中で呟く。
左手の時計は特に何も変わらず時間を刻んでいる。確かに押したよね、もうエルの元へ緊急は伝わっているはず…
そう、私が涙を流さずにいれる理由は一つ。
エルが、近くにいる。
世界のLが。ここにはいるのだ。
「前にいるやつから順に歩け。下手な真似をしようとするな」
男が言った通りにするしかない私たちはゆっくりと足を踏み出した。列を作るようにして歩く。男は冷静にそれを見つめていた。
私は松井さんに続いて並んだ。出入り口に立つ男の側を通る時、これでもかと心臓がなる。
一瞬で通り少し安心した。レジには誰もスタッフはいなかった。
レストランを抜けた時、はっと一瞬足をとめた。
ホテルの広いホールには、何人もの男が立っていた。みな同じように目出し帽で大きな銃を抱えている。いつだったか拳銃は見た事がある。でもそれとはまた違う大きな形は恐怖心を仰ぐ。
そしてホテルの出入り口は無残にも崩れ落ち、外から侵入できないようになっていたのだ。瓦礫の山となっていた。
まさか、さっきの衝撃音は、このホテルの出入り口を塞いでいたのか。
瓦礫のそばにはスタッフであろう人がうつ伏せに倒れていた。はっとし、それを見かけた途端足を踏み出す。
「列を乱すな」
駆け寄ろうとしたところで、すぐに立っている男に銃を向けられた。
「……」
黙って戻るしかなかった。
あの人が生きているのかどうかも分からない、どうか生きててほしいと思った。
列は長く人々が無言で歩いていく。どうやら少し歩いたところにある大きなパーティー会場に集められるらしかった。
その時、館内放送が鳴り響く。無機質で低い声の男だった。
『この Hyatt Hotelは我々ソマディアが占拠した。客はみな人質となる。客室以外にいるものは指示に従って移動しろ。
客室にいるものはそこから一切動かず部屋で待機しろ。同志がそれぞれの階に銃を構えている。部屋から出た瞬間発砲する。
出れても出入り口は爆弾で破壊した。窓から飛び降りたいなら好きにしろ、それも気づいた時から射殺する。
警察にある条件を提示する。警察が呑まなければお前たち諸共消し飛ぶ爆弾を作動させる。
爆弾が脅しでないのは先ほどの衝動で分かってるはずだ、大人しく警察に祈ってろ』
押さえていた悲鳴が小さく漏れる。男たちが銃をこちらを向け、すぐにそれは治った。
…爆発だったのだ。さっきの音と衝撃は。
出入り口を塞ぐために作動させたのか。
震える足で列を乱さないよう歩いていく。少し歩いたところにある大きな会場に入った。
場違いな美しい会場だった。キラキラ輝くシャンデリアが恨めしい。本当なら盛大なパーティーか、もしくは結婚式の披露宴に使われるかもしれなかった。
会場にはすでに沢山の人たちが震えながら床に座らされていた。客はもちろん、ホテルのスタッフや清掃員、料理人たちもいた。
私は松井さんが座った隣にしゃがむ。すぐに遠藤さんがピタリと体をつけるように座った。
会場には更に男たちが立っていた。各階にもいるといっていたし、なかなかの大人数の組織らしかった。服装はみな同じ目出し帽と銃を構えていた。
「どうなるの…私たち…」
ぽつんと小声で遠藤さんがつぶやく。私たちはまた手をぎゅっと握った。
「大丈夫だよ…警察が…助けてくれる」
言葉でそういいつつも、私は頭の中では違うことを考えていた。
エル、が。
エルがきっと助けてくれる。
左手の小さな時計を見つめて、そう呟いた。
