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同窓会がある前日、エルの言葉通り私たちは荷物を少し持ってホテルのスイートルームに泊まった。
私のために移動して泊まるだなんて申し訳なかったけど、ワタリさんもジェシーも何も言わず笑ってくれていた。
そして翌日。私は同窓会のために支度を整えた。
「綺麗です光さん、今日だけはあなたの美しさが恨めしいです」
未だブツブツ言うエルは、私の全身を見て爪を噛んだ。
「随分めかしこみましたね」
「ははは、そうかなー…」
自覚していた。
それは決して男性からの視線を気にしているわけではない。久々の再会をするクラスメイトに、少しでも綺麗だと思ってもらいたい女心だ。
同性からだってそう思われたい。
普段あまり外出もしないから、なおさら気合いが入ってしまったことは否めない。
…だが、しかし。
私は一つ息を吐いた。
緊張するなぁ。
思えばあの人なつこい吉沢くんに誘われ参加の返事をしてしまった。でも私はクラス会などに行くタイプではないのだ。
彼も言っていたが、あまり人を寄せ付けないよう過ごしていた。
友達と呼べる子だっていない。連絡先を知ってる子も誰もいない。
そんな中の同窓会に、実は少し緊張している。
馴染めるのかなぁ、と。
今は予知もないし素直に楽しめばいいですよ、とエルは言ったが、果たしてそうなれるのだろうか。
「なんかドキドキする」
「なぜですか」
「友達もいなかったから、クラス会なんて…馴染めなかったら悲しい」
「おそらくですが吉沢さんはうまくフォローしてくれるのでは」
短時間しか会ったことがないエルにこんなことを言われる吉沢くんの凄さ。確かにそうだけど。
「吉沢くんにもそんな気を使わせたくないよ。」
「…大丈夫ですよ。キラ捜査の時、あれほどみんなから愛されていたのを忘れましたか。」
エルはそっと私の頬を撫でる。
「怖がることないです。いい人たちが多かったのでしょう」
「うん、それは」
「あなたらしくいれば必ずみんな受け入れてくれます。昔のあなたとは違うんですよ」
そう微笑んだエルの顔をみて、なんだか泣きそうになった。
…せっかくあのエルも許可して応援してくれてるんだ。楽しまなきゃ損だよね。
「ありがとう。エル」
「忘れ物はありませんか」
「うん、財布もったしハンカチ持った」
「そんなもの。携帯と、時計はしてますか」
エルは眉を潜めて言った。私は苦笑する。
「ほら、携帯と…時計!」
左腕につけた華奢でお洒落な時計を見せた。
エルは安心したように微笑む。
半年前、ある異常者に狙われて誘拐されてしまったことがあった。エルは監禁された私を必死で見つけてくれて命は助けられた。
その後彼の心配性は加速し、さまざまな防犯グッズを贈られた。
そのうちの一つが、この腕時計だった。
ぱっと見別段変わったものではなく、お洒落なレディースの時計なのだが、中身はただの時計ではない。
時刻を表すその隣に在する小さなリューズを押せば、緊急事態としてワタリさんに連絡がいく仕組みになっている。
さらにはその緊急ボタンが押されたあとは、時計の中の高性能なマイクが作動し、こちらの声が向こうに届くと言う仕組みだ。
…この小さな時計にそんな装置が埋め込まれているなんて、なんて匠が成した技だろう。
「使うことはないと思うけどね。でも一度使ってみたいかも。こんな特注品、どこで頼めば作ってくれるの?」
「言いませんでしたか。ワタリです」
「…え゛っ!!」
「彼はこういう発明が得意なのですよ」
スーパー超人ワタリさん!!まだ知らない面があったなんて!!
唖然として時計を見た。ワタリさんって今更ながら何者なの。
「いいですか、変な男に近寄られたら使ってください。すぐに駆けつけます」
「ほんとエルって同窓会をなんだと思ってるの…」
呆れてまた時計を見た時、もういい時刻なのに気がつく。
「いけない、遅刻しちゃう」
「気をつけるんですよ光さん」
「オーケーOK!エルありがとうね!」
鞄を手に持って手を振る。どこか心配そうな眼差しで、エルはこちらを向いていた。
エレベーターで降りてカフェレストランを目指す。
ザワザワと賑やかな声色が聞こえる。心臓はドキドキしてて、こんなに緊張したのいつぶりだろうと思う。
楽しみだけど、怖い。
複雑な気持ちで足を進めていく。
ぼんやり昔のことを思い出していた。
文化祭や校外学習。日々の生活。
完全孤立だけは何とか避けれていた学生生活だった。同じ教室にいれば、何人もの未来が見えた。
時には教えてしまいたいものもあった。それでも言えるわけもなく、ただ唇を噛んで黙っていた。
時々遊びに誘ってくれる優しい子もいた。それも、理由をつけて断っていた。今思えばなんて申し訳ない。
あんな生活の中で私を邪険に扱わなかったクラスメイトは神か何かだと思う。
ガラスのお洒落なドアが目に入る。ここだ、と呟く。
少しだけ深呼吸をして、そこへ近づいた。
どうやら店の半分はこのクラス会で埋め尽くされているみたいだった。騒がしい声が響く。
受付にいる店員に趣旨を伝え、案内されるがままに足を踏み入れていく。
そして会場につくと、見慣れた顔が並んでいるのがわかった。
(…わあ、懐かしい)
つい顔を綻ばせた。
立食らしく、みんな立ったまま各々楽しげに話している。大人になったがもちろん面影はそのままだった。
変わらない。みんな、変わらない。
これだけ人数いたら少しぐらい、奇抜なファッションにしてたとか、とんでもなく太っちゃったとかあってもよさそうなのに。
笑うその顔は昔のまんまだった。
一気に気持ちは高揚するも、さてこれからどのように入っていこうか。盛り上がってるところに水をさすのもなあ?
足を踏み入れたもののどう話しかけていいのか分からず、少し気まずく感じながらオロオロと立ち竦んでいた。
「あれー?藍川さん?」
背後から声が聞こえた。
振り返れば、小柄のロングヘアの女性が顔を覗き込んでいた。
「やっぱり!久しぶり!」
ぱあっと明るい笑顔で笑うその人をみて私も笑顔が出た。
「遠藤さん!久しぶり!」
「あれ〜なんか雰囲気変わったね!?綺麗になったあー!」
「遠藤さんは昔から綺麗だね、いい意味で全然変わらないよ!」
「えっ?…え、そうかなぁー」
ちょっと面食らったように言う彼女は、緩いウェーブのかかった長い髪を揺らして笑った。
遠藤美樹。色白で色素の薄い大きな瞳が印象的な、人形みたいな美少女だった。
学年でも有名な美少女の彼女だが、よくある少女漫画のパターンとは違ってとてもいい子だった。
明るい表情で色んな子と仲良くできて、私の前の席に座っていた時はこんな自分にもよく話しかけてくれた。
意外と勉強も運動もてんでダメな彼女は、それすらも笑いに変えるほどみんなから愛されている子だった。
吉沢くんの女子バージョン、かな。
私が感謝しても仕切れない人物の一人だ。
「卒業以来だね!藍川さんは相変わらず大人っぽーい!」
「は、ははは…老け顔なもんで」
「そういうことじゃないよー!もう!」
笑いながら私の腕をバシバシ叩いた。見かけより反応がオーバーリアクションなところは昔から変わらない。
「あれ?美樹ー!」
離れたところから声が聞こえる。何人か集まっている人達が、遠藤さんを見て手を振って呼んでいた。
「おー!久しぶり!」
遠藤さんが大きく手を振り返して足を出したところで、思い出したように私の腕を掴んだ。
「ほれ!藍川さんも行こーよ!」
眩しいほどの笑顔にため息が漏れる。
昔から変わらない。私にも声をかけて、輪の中に入れようとしてくれる。
微笑んで、彼女と人々の輪に入っていった。
「藍川さんか!一瞬分からなかったよー」
目の前ですでに飲み物を持って飲んでいる数人が私を見て目を丸くした。
ショートカットの松井さん、おっとりの木村さん、クラス委員の加藤さん。サッカー部だった山本くんと大野くんが立っていた。
遠藤さんについて恐る恐る近寄る。
「みんな久しぶり…」
「ねー!久しぶりだね!なんやかんやみんな変わってないよねぇー!」
笑いながら私にも話かけてくれる松井さんに微笑み返す。
「知ってた?大野と山本同じ職場なんだって。仲良すぎかよって」
言われた大野くんと山本くんが顔を見合わせた。身長が高くしっかりとした体つきの彼らは、サッカー部だった頃を思い出させる。
「いやまじ偶然なんだって。」
「いやいやあんたたちBL疑惑あったから」
「勘弁してくれよ!彼女いるんだよ俺!」
「俺は本気だったぞ山本」
「やめろ!お前のそういう悪ふざけが噂になるんだよ!」
「だから俺は悪ふざけではなくて…」
「やめろー!」
仲良さそうにじゃれる人たちを見てつい声を出して笑う。昔のまんまだ。懐かしくて心が締め付けられるみたいに。
「藍川さんは今…ありゃっ!」
言いかけた遠藤さんが私の左手に気づく。
「ちょちょー!結婚してんの!?」
「あ、うん、そんな感じ…」
「まーじーー!?」
みんなが口々におめでとう、と言ってくれる。見れば加藤さんの薬指にも指輪があった。
すぐに遠藤さんがそれにも気づく。
「委員長も!」
「うん去年ね。もう大人なんだし何人かいるでしょ」
遠藤さんは大袈裟なくらいガックリと肩を落とした。
私は意外に思って聞く。
「遠藤さんなら相手いっぱいじゃない?」
「いや、今の彼氏3年付き合ってるんだけど、全然そういう話でないんだよ…」
「え、そうなんだ。長いんだね?」
「憧れるのにープロポーズ!!」
こんなに美少女で明るい遠藤さんと付き合えてるというだけで彼氏は大分勝ち組だろうに。
彼女は悔しそうに拳を握った。
その光景がなんだかおかしくて、私は笑ってしまう。
「ちょっと大野と山本、男心教えなさいよ」
「いやお前見かけと中身違いすぎるから、彼氏も男友達みたいに慣れちゃってるんだろ」
「ええ!嘘でしょ!?」
「お前ほど話したら残念なやつみたことないよ」
「どーゆう意味?!」
「いやほんと、入学式の俺たちの夢返してくれよ」
「きいー!」
遠藤さんはこぶしで大野くんたちを殴る。
そんな面白すぎる姿があまりにおかしくて、私はまた大声で笑ってしまった。
「あはは!」
「えっ、ちょっと藍川さん笑いすぎー」
「ごめんね。みんなほんとにほんとに昔のままで、嬉しくなっちゃったの。」
あの頃は傍観してただけだった。
それが、今こうして輪の中に入って笑えている。
一度諦めていた学生生活を少しだけやり直せてる気がして、心の底から嬉しかった。
「なんか、あの頃に戻った気がして。めちゃくちゃ楽しくなっちゃった。凄く嬉しい」
私が告げると、一瞬周りはぽかんとした。
「藍川さん、なんか、そんな可愛いキャラだっけ?」
「…えっ??」
呟いた木村さんのセリフに周りが同意した。
「いや藍川さんって言えばクールな一匹狼なイメージでさー」
「そうそう!口は動かさず手は動かすタイプのさ!」
わっとみんなが鼻息荒くして語る。
やはり。私の昔のイメージはいいものではないようだ。当然だけれど。
「理科の解剖の映像、女子がきゃーきゃー言ってる中で一人真顔でガン見しててさ!」
「ごめんそれは今でもそうかも」
「なんで!!」
みんなが笑う。
「で?そんな藍川さんを射止めた旦那さんどんな人よ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる遠藤さんは、確かに美少女なのにちょっと表情が雰囲気に合わない。
私が口を開こうとした時、背後から声が聞こえた。
「俺知ってるもんねー」
みんなが声の方に振り返れば、見覚えのある爽やかな笑顔が見えた。
「あ!吉沢ー!」
「巧元気だったー?」
わっと歓声が上がる。やはりクラスの人気者の力は凄い。懐かしむようにみんなが目を細める。
「やあやあ。幹事なのでちょっと打ち合わせに行ってました」
ひらひらと手を振った吉沢くんは、あれっと言うように私に聞く。
「竜崎さん連れて来なかったの?」
「こ、来ないよ!そんな恥ずかしい!」
「いやくるかと思ったわ。来そうじゃんあの人」
誘えば確かに絶対来てましたけどね。ちなみにこの最上階にいますけどね。
木村さんが吉沢くんに尋ねる。
「え、藍川さんの旦那さん知ってるの?」
「おーおーもう親友よ。」
「嘘くさー!」
「すっげー天才肌って感じの人で、藍川にベッッタ惚れ!!」
なぜか自慢げにいう吉沢くん。間違いじゃないけど、ちょっとやめて欲しい。
しかし。あの変人エルを冗談でも親友になった、なんて言える吉沢くんってほんと何者なんだろう。
「あ、そうそう竜崎さんにお礼言っといてな」
「へ?なんで?」
キョトンとして見る。何かエルしたっけ?
「いや、卒アルとか写真貸した時、なんかすげーもんたくさん貰ったから。やばい金持ちなの?」
「え、…そうだったの…?」
確かに少し前、「ようやく手に入りました」と言って私の学生時代の写真をやけに嬉しそうに眺めていた。1日机の上に置かれていて恥ずかしくて回収した覚えがある。
「なんか有名なチョコレートとか、食器とか、申し訳ないくらい貰っちゃったよ。たかが写真で」
私はうなだれる。まあ、そりゃ何かお礼くらいするべきだとは思うけど…あの人の金銭感覚は狂ってる。常識を逸脱している。
恥ずかしくなってきた…。
遠藤さんが興味津々の顔で覗いてくる。
「なになに、藍川さん玉の輿なの!?」
「えっ。そういうわけじゃ」
「いいなーー玉の輿ーー!!いいなー!!」
今日一番の大きな声で遠藤さんが叫ぶ。大野くんたちが呆れて言った。
「だから、遠藤そういうとこだよ」
「え、何がよ!女の夢じゃん!」
「心の中で思っとけよ。そりゃプロポーズ出来ないわ」
「えー!私思ったことすぐくちに出しちゃうタイプなんだもん!」
「ほんと俺たちの夢返して」
遠藤さんはまたきーっと怒りながら彼らを叩いている。結構強い力みたいで大野くんたちは本気で痛がっていた。
そんな光景を微笑みながら見ていると、隣にいた吉沢くんがしみじみ言う。
「ほんと藍川来れるとは思ってなかったわー。竜崎さん、反対しなかった?」
「最初は嫌がってたけど。でも、最後は勧めてくれたの。」
「へー!理解いいね」
「ほら私…学生の頃ちょっとやさぐれててさ、それを後悔してるの、竜崎は知ってるの。友達もっと作りたかったなあって。だから、今回はなんとか送り出してくれた」
吉沢くんが意外そうに私の顔を見る。
「だからね、同窓会開いてくれたことほんとに感謝してるし、誘ってくれたのもほんと嬉しい。吉沢くんありがとう。」
頭を下げた。
偶然街中で会ったのが始まりだったけど、そこから私を誘おうと思ってくれたその心遣いが本当に嬉しい。
少しだけ、過去を乗り越えれた気がする。
面食らったような吉沢くんが言った。
「いやほんとさ。藍川ってそういうキャラだったんだね」
「え?」
「学生の頃、俺ももっと話せばよかったよ。気づかなかった。」
「まあ、私のせいだから…」
「よしよし、そういう事なら今日はとにかくみんなと話そう!学生時代の呪縛を吹っ切るぞ!あ、おーい宇都宮!ほらほら、あっちにも行こ!」
吉沢くんは笑って私の背中を押した。前につんのめりながら、私は足を踏み出す。
ああ、来てよかったな、と思った。
来るまで不安だった。でもやっぱりあの頃優しかったクラスメイトは優しいままだった。
毎日悪夢のように繰り返される予知に辟易していて、人と関わるのが億劫だった。
自分の弱さだと自覚していても、私はそれしか生きる術を知らなかったんだ。
後悔しても仕切れない過去はやり直すことは出来ないけど、今日楽しい思い出を作れたら、少しはあの暗い日々に光が入る気がする。
未来を見ることのない一人の人間として、私はここに立っている。
(楽しいよ、エル)
私にやり直すチャンスをくれたあなたにも感謝したい。
きっと私はいま世界で一番幸せだよ。
束の間の楽しさで埋もれた。
騒ぎながら笑い合う私たちはまだ気付いていなかった。
背後に迫りくる恐怖に。
