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「演技ってどうやるの?全然想像つかない」

腕を組んで考えるも、多分一生演じるなんてことはないだろうから分からない。

「うーん。もうね、堂々とする!これが一番だよ!」

びしっとミサは私を指差す。

「とにかく堂々と。私は間違ってないぞ!って感じでやるの。絶対視線を逸らさない。自信ないと中々視線って定まらないけど、そうすると演技だとバレやすいからね!
あと手先とかもフラフラしちゃいそうになるけどダメ!」

「へぇー…勉強になるー」

「##NAME3##ちゃん向いてそうだけどねぇ?」

「ないない、絶対無理だよ。」

「まあ##NAME3##ちゃんが女優なんてなったら竜崎さん心配で死んじゃうね」

「前から思ってたけどミサよく竜崎の特徴分かってるよね」

彼女はケラケラと大声で笑う。

しかしそこでふと、私の手元を見た。

瞳がぐんっと開かれる。

凄い勢いで顔を寄せて、私の薬指を指さした。

「あ、あれれれ!!?気づかなかった!ミサ馬鹿!!」

「え?あ、これ…」

「え?えええ?ま、まさか??##NAME3##ちゃん?」

目をまさに白黒させて聞いてくるミサに、どう説明しようか迷った。

半年前エルにプロポーズをされて指輪を贈られたけれど、実はそれは形だけのことだ。

エルはLだ。秘密に包まれている名探偵。

その名前ももちろん秘密にしていて、私と戸籍を共にするのはどうなのかと話し合い未だ答えが出ずにいる。

私と彼は未だ他人であるのだ。

「あーと…いや、まだ…」

「まだって何!?その予定があるわけ!?」

そうだよね、そう聞きますよね。

苦笑して迷う。結婚したんだよ、と一言で済ませれば簡単だけど、それは一般的に見れば嘘だ。

これからどうなるのかも未だ分からない。ただ、エルも私も気持ち的にはそのつもり、…だけど。

複雑なのだ。

「そうだね、これから、かな」

「ぎょうてーーーーん!!!」

ミサは真後ろに倒れていった。

どさりと音を立てて倒れた彼女のリアクションは面白すぎる。ミサってバラエティでもいけそう。私はつい笑ってしまう。

「い、言ってよ〜##NAME3##ちゃん…」

倒れ込んだまま小さく呟く。

「あの。ごめんね。まだ具体的にそうじゃないっていうか、うんと、複雑で。」

「何それ?結婚に複雑も何もあるの?」

ゆっくり起き上がりながらミサは首を傾げる。

「あーうん。まあ、私もよくわかんない」

「結婚式は!?ミサ呼んでくれる!?」

「やらないよそんなの」

「##NAME3##ちゃんクール!クールすぎぃ!」

ミサは顔をぶんぶんと振って混乱の頂点にいるのがよくわかる。

確かにミサに早く報告すべきだったのだけど、それもどう言っていいか分からなかったからなぁ…

ミサはふうとまたクッション抱き直して息をつく。

「まあ##NAME3##ちゃんが幸せならなんでもいいんだけどさっ。おめでと!」

「ありがとう」

「あれ、そうなったら、##NAME3##ちゃん竜崎になるの?そいえば苗字なんだっけ?」

「……」

首を傾げて考えるミサ。

…ごめん。ミサ。

タイミングがなかっただけなんだよ。

「…ミサ」

「ん?」

「##NAME3##は、偽名なの…」

「…ん?」

「キラ対策の。中々言うタイミングなくてごめん…本名は##NAME1##っていうの」

「……」

ミサが停止した。

「…もう慣れちゃってたからさ…今更かなって…」

「…ぎょ、ぎょう、てん…」

今度は小さく呟いて、ミサはまた後ろに倒れていった。

私は慌てて倒れたミサを覗き込んだ。

「ほんとにね!隠してたわけじゃないの!タイミングわからなくて!今更名前なんてどうでもいいかなって…」

ミサは目を瞑ったまま、すぐによろよろと上半身を起こした。

「ううん、分かってる、大丈夫…##NAME3##ちゃんがイギリスに行く頃ミサ不安定だったし、言うタイミングなかったよね…びっくりしただけ…」

「ごめんね驚かせて。」

「大丈夫だよ。…もう慣れちゃったから##NAME3##ちゃんでもいい??」

「全然いいよ!ミサが呼びやすいように呼んでほしい!」

ミサはようやくへらっと笑った。

「##NAME1##ちゃんだったんだ。そっかそっか!」

「まあ、名前なんてどっちでもいいけど…」

「竜崎##NAME1##?かなー」

竜崎に関してはさすがに本当のことは言えない。私は笑って流した。

「あ!じゃあベイビーは!?」

ずいっと顔を寄せてくる。私はついのけ反った。

「え…」

「え。結婚したら考えない?そりゃ一生二人ラブラブでもいいけどさーあ」

「うん、まあそんな話題もなくはないけど…」

私がいうとミサはきゃーっと顔を手で覆う。

「あ、で、でも!まだ全然!考えてる途中!」

「え?そうなのー?…まあ竜崎さんがパパなのって想像できないけどー」

まあ、たしかにそれはあります。私はついうなずいた。

生活力かけらもなかった人だし。

「でも##NAME3##ちゃんにあんだけ溺愛だから!ベイビー生まれても溺愛だろうね!生まれたら抱っこさせてね!」

ミサは屈託のない笑顔でそう告げる。

…ふと、彼女の明るさが染みた。

ミサ自身は好きな人を亡くしていて絶望を味わっているのに、こうして私の幸せを心から喜んでくれている。

この子が第二のキラだったなんて信じられないと思う。あのノートを持った人は狂気と化すって考え、あながち間違いではない気もする。

…今更だ。ノートがなくなった今、検証も何もできない。

「ミサはいつでも私を応援してくれてさ…優しいよね」

ぽつんと呟くと、彼女は驚いたように目を丸くした。

「え!優しいなんて、##NAME3##ちゃんこそじゃん!ミサどれだけ##NAME3##ちゃんに救われてると思ってるの!」

「私何もしてないよ?」

「してるよ!言っておくけど、ミサが応援するの##NAME3##ちゃんだけだよ。他の人なんかどうでもいいもん。不幸になれとも思うよ」

「きょ、極端だね…」

「でも##NAME3##ちゃんは幸せであってほしい!ほんとそう思ってるよ」

キラキラした目でそう言って、彼女は私の手をぎゅっと握った。

ああ、ミサも。

ミサもどうか。幸せであってほしい。

きっと簡単には忘れられない愛しい人を胸に抱きながらも、ミサなりの幸せがあればいい。

私は心の底から、そう願った。











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