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「ハルくんがね、エルまた会いたいって」

別れの言葉を告げて電話を切ったあと、私はエルに告げた。最後の不可解な謎はもう掘り返すのをやめた。

「私、ですか」

「懐かれてたね。正直意外だったかも」

「私自身意外ですよ」

「あはは!」

私は笑いながらエルに携帯を返す。

「思ったよりは元気そうだった。外出禁止の刑らしいけど」

「それは辛いですね。私が##NAME1##さんに触るの禁止されるようなものでしょうか」

「ど、どうだろうね…」

エルはポケットに携帯をしまい、アップルパイの最後の一口を頬張った。

「でも声聞けてよかった。ありがとうエル」

「いえ」

「吉沢くんも、エルのこと凄く気に入ってたよ」

「そうですか」

エルは興味なさげに呟く。

空になったお皿を見て、私は手に取る。

「おかわり食べるよね?あ、マカロンにする?」

立ち上がろうとしたとき、エルが言った。

「##NAME1##さん」

「はい?」

「同窓会、行ってきていいですよ」

突如言われた意外すぎる一言に、私は停止する。

え、急にどうしたの?

この前は絶対嫌だと言っていたのに?

キョトンとしてる私にエルは続ける。

「思えばあなたは学生時代、予知能力のせいであまり人と関わらなかったでしょう。今は力もないのだから、思う存分楽しめます」

「エル…」

「他の男と話すのは癪ですが。友達を作り直すいいチャンスなのではないですか」

「……」

エルは知っている。私が学生時代にいい思い出がないことを。

そしてそれを後悔していることを。

だから…こんな風に、あんなに独占欲強いくせに提案してくれたんだ。

こころが温かい。

「吉沢さんとメールくらいならいいですよ。同窓会の連絡も取るのに必要でしょう」

「エルはいいの?」

「正直言うと全然よくないですけど。それでもあなたには笑っていて欲しいんです。幽霊屋敷の探索でも同窓会でも、##NAME1##さんの笑顔が見えるなら。」

こちらを優しく微笑んで見つめるエルの黒い瞳が、とてつもなく綺麗だった。

なんだか堪らなくなって、私はついエルの胸に飛び込んだ。

彼の慣れた白い服をぎゆっと握りしめる。

「…エルは、笑顔無くしたりしませんか」

「あなたが笑顔なら私も笑顔です。ちょっと嫉妬するくらいです」

「ちょっと?」

「実を言うと死ぬほどです」

「あはは!」

私はそっと顔を上げてエルを見上げる。

「私はエル以外愛せませんよ。嫉妬なんて必要ないのに。」

「…………」

私はゆっくり彼から離れる。

「今回はね、エルの新しい顔を見れてまた惚れ直しました」

「新しい顔?」

「ハルくんと接するエルが、優しくて。子供相手にも丁寧な敬語で、優しい物腰で。エルが小さな子と絡むの珍しかったから」

ハルくんと並んだ図を思い出す。

二人で白い服着て、膝を抱えて座ってた。小さなLみたいで、可愛かった。

ついふふふっと笑ってしまう。

「ハルくんにも懐かれてて。意外性すごかった」

「………」

「楽しかった。私のために依頼も受けてくれたんだし。ありがとう」

最高の幸せ者だなと痛感した。

エルは毎日沢山の愛情を注いでくれて、私を思ってくれてる。

こんな幸せな日々が来るだなんて、想像もしてなかったのに。

左手の薬指を、そっと撫でた。

彼を見る。

どこか驚いたような顔で私を見ていた。

恥ずかしくなって、顔を背けて少し笑う。

「同窓会のことは考えておくね。さ、おかわり持ってこようかな」

私は再び空のお皿を手に取る。

「…##NAME1##さん」

「うん?」

「今に思ったことではないのですが」

「うん」

「二人の子供が欲しいと思いませんか」

言われた瞬間、私の心臓は止まった気がした。

ぎょっとしてエルを見る。

彼は至って真剣そうな目で私を見つめていた。

「………」

「どうしました。あまりその気はありませんか」

「……いや……」

真っ白になった頭をなんとか回転させる。

…正直、プロポーズの時より驚いたかもしれない。

「エルが、そんなこと言うの、意外すぎて…」

子供、だなんて。

なんだかエルにそんな概念すらないかと思っていた。

彼は紅茶を手に取り少し飲む。

「正直、子供が好きかと聞かれればよく分かりません」

「う、うん」

「というか、数少ない苦手な部類に入るかもしれません」

「ええ?」

「…しかし」

ゆっくりこちらを見る。

優しく微笑んだ、柔らかな顔。

「あなたとなら…そんな日々も素敵かと」

「……」

「私は親というものを知りませんし、いい親になれるかどうか自信はありませんが。きっと##NAME1##さんを愛するのと同じくらいの愛情を持つことだけは約束できます」

強い語尾で断言する彼を見つめながら、ふ、と微笑んだ。




十分だよ。エル。

人がいい親になるかどうかなんて。

深い愛情さえ持てれば合格点なんだよ。





「もしそうなったら私今みたいにお菓子焼けないよ」

「我慢します」

「ずっとエルの隣には座ってられないかも」

「私があなたの隣に移動します」

「教育に悪いからお菓子ばかりそんなに食べれないよ?」

「隠れて食べます」

ぶはっと笑ってしまう。

お腹を抱えて笑う。なかなか止まらない。

エルはそんな私を微笑んで見ていた。

そうね、そうかも。

そんな日々も、最高かも。

愛するあなたとの結晶なら、きっととんでもなく可愛くて愛しいに決まってる。

目からこぼれた涙を拭いて、エルを正面から見つめた。

「…楽しそうですね、そんな日々」

「では」

「でも、ちょっと考えておきます」

私がいうと、エルは拗ねたように口を尖らせた。

それはそれは、大きな子供みたいに。

私はまた、笑った。







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