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その日すぐにエルの依頼で警察はあの屋敷に行き中を徹底的に調べ上げた。
とくに怪奇現象も何もなく進み、やはりエルが指摘した箪笥の裏には扉が隠されていた。
そこには、死後しばらくたった服部さんの遺体。
それから白骨化した子供の遺体があった。
服部さんの遺体からは祖父の指紋や皮脂などが検出された。
すぐに依頼人の祖父は逮捕。が、なんと子供の事件については、犯人は祖父ではなくその息子…つまりは依頼人の父だった。
小さな子にいたずら目的で声をかけた後殺害、何とかそれを隠したのが祖父だったという。
日本で有名な3代にわたる政治家のとんでもない過去が明るみになり、日本中はひっくり返った。
祖父は自分が高齢になり屋敷の管理が不安になったため孫に譲ったとのことだった。
まさか孫が言いつけを破ってあれを取り壊すなんて予想だにしていなかったらしかった。
服部さんの捜索願も、出す必要がないと祖父が強く反発して出されなかったらしい。そこでこっそりコイルに依頼をかけた孫は中々の行動力だと思う。
あの屋敷の捜索を行う警察たちは特に何も変わったことはなく、超常現象は何も起こらず、やはり祖父が流した根拠のない噂のようだった。
「服部さんは勿論だけど、依頼人も不憫だなぁ…」
「父親も祖父も犯罪者。自らも勿論政治家を続けられず辞職ですからね」
エルは隣で私が焼いたアップルパイを食べながら言った。
テレビも新聞もあの事件で埋め尽くされている。
なんだかスッキリしないな。
服部さんだって、完全にとばったりだったし…
そこまで考えて、またあの日3人で見た屋敷に遺体があったのだと思い出し身震いする。
「エル。遺体があるかもってわかってたなら教えといてよ…」
「せっかくの幽霊屋敷を楽しめなくなると思いまして」
「そりゃそうだよ…幽霊より人の死体の方がずっと嫌です」
当分、幽霊屋敷の小説は読めないかもしれない。
いい機会だから、甘い恋愛小説でも手を出してみようかな。
「私も依頼を受けたときはまさかこんな展開になるとは思ってませんでした。貞子でも出てきてくれれば盛り上がるな、程度で」
「よく知ってるねエル、貞子なんて。でも貞子はテレビの中からしか出てこないよ」
「そうなんですか。存在しか知りませんでした。」
「知らないの!?あの名作!今度一緒に観ましょう!」
「やはりホラー好きは健在なのですね…」
呆れたように言いながらエルは紅茶を飲んだ。私は少し笑う。
エルから視線を離すと、じっとテーブルの上のシュガーポットを眺めた。
実は、エルに少しお願いしたいことがある。
彼は嫌がるかもしれない。
ただ気になって仕方ないことなのだ。
どう切り出そうか悩んでいるところに、突然エルの声が響く。
「いいですよ、電話しても」
言われてはっと顔を上げる。
アップルパイをフォークで頬張るエルがこちらを見ていた。
「吉沢さんに。電話したいのでしょう」
「エル」
「正しくはあのハルという少年ですか。今まで秘密基地と思っていた場所にずっと遺体があったなど、ショックを受けてるだろうと心配なのでしょう」
「……」
お見通しだった。
テレビでもネットでもひっきりなしにやっているし、あの屋敷の周りはマスコミや警察で溢れかえっている。
近所に住むというハルくんが知らないはずがない。
私は心配だったのだ。あの少年が。
ハルくんとコンタクトを取るとすれば、吉沢くんの携帯にかけるしかない。あと3日ほどはあそこに滞在すると言っていた。
でもエルは嫌がるかと思ったのに。
不思議そうにエルを見ていると、彼はそんな私を見つめ返した。
「嫉妬深い私ですが、さすがにこんな状況でそれを優先させるほど落ちぶれてません」
つい笑みが溢れた。
エルの優しさが染みる。
いざというときは決めるんだよなぁ、この人は。
彼はポケットから携帯を取り出す。
「勿論こちらの番号は通知させませんが。どうぞ。」
「…ありがとう」
「言っておきますがあの少年のためです。吉沢さんの事は下心ないと分かりましたが他の男と長々話されては狂います」
「わ、分かりました…」
私はポケットに入れておいた、以前吉沢くんから貰った連絡先を取り出した。
使うことはないかと思っていたのだけど。
携帯にその番号を入力する。
通話ボタンを押し、耳に当てればコール音が響いた。非通知だけど。出てくれるかな、吉沢くん。
しばらく鳴った後、聞き覚えのある声が響いた。
『もしもし?』
「あ。吉沢くん?」
『あ、藍川?やっぱりね。そうかもって思った』
相変わらず人懐こい声でそう電話相手は笑った。つられて私も笑う。
「えっと、先日はありがとう」
『こちらこそ!楽しかったよ』
「その、色々変なことも言っててごめんね」
『え?変なこと?』
隣でこちらを見ているエルを眺めて苦笑する。
「竜崎がさ」
私が言うと、吉沢くんは驚いたように声を上げた。
『え?全然だよー?!俺めちゃツボだもん竜崎さん。藍川の結婚相手どんな人かと思ってたけどあんなタイプだったとは』
「は、ははは…」
『安心したよ。だって、めっっちゃ藍川のこと大好き!って感じじゃん。幸せだね』
からかわれるように言われてつい言葉に詰まった。恥ずかしくて顔が熱い。
あんな短時間しか会ってない吉沢くんにすら言われるなんて。
「あ。ありがとう…」
『あ。もしかして卒アルのこと?まだ帰ってなくて』
「あ。違うの。その…ニュース見たよね?」
尋ねると、吉沢くんはああ…と、小さく呟いた。
『見たよ。見てなくても、こっち大騒ぎだから。田舎だしね』
「あの、ハルくん…大丈夫かな?」
『子供だしイマイチよく分かってはないと思うけど、なんかヤバイってことは分かったみたい。あと、流石に姉さんと兄さんに屋敷の侵入がバレて叱られて落ち込んでる』
「そっかあ…」
『変わろうか。全然話せるよ』
「いいの?」
電話の向こうで吉沢くんがハルくんの名前を呼ぶのが聞こえた。バタバタと騒がしい音が響いて、ゴソゴソと物音が聞こえたあと、少し高い少年の声がした。
『もしもし?』
声を聞く限り元気そうだ、と思った。胸を撫で下す。
「ハルくん?えっと、カフェで会った、吉沢くんのクラスメイトだった藍川です」
『怒りんぼのお姉さん!』
つい隣のエルを睨んだ。エルのせいで変なイメージになってる!
「えっと、うんそう。それでいいや。元気にしてる?」
『まあまあだよ。パパとママに凄く叱られて、5日間お出かけ禁止されちゃったけど…』
「あら…辛いね」
『言いつけ守ってなかったの僕だから…仕方ない。なんかあそこ、死んだ人がいたんだって。秘密基地かと思ってたのに、ショック…』
やはり、子供でも死んだ人がいたとなれば衝撃を受けるだろう。
それに今後、ことの重大さが分かるようになってからまたおぞましくなるかもしれない。
「ショックだったね…」
『でも大丈夫!悪い人捕まったって言ってたし!』
「うん、そうだね。もう怖くないよ」
『お姉さん、外人のお姉さんとクマのお兄さん、また会いたいな!楽しかったー!』
無邪気な声につい頬が緩んだ。かわいい。かわいすぎる。
「また会えるといいね!」
『クマのお兄さんの言ってたみたいに膝上げて宿題ししたらよく進んだの!』
「あはは、本当?」
『あのお兄さん凄いね!面白いしまた会いたい!』
まさかエルがこんなに子供に好かれるだなんて。
失礼かもしれないけど少し意外だった。
でも彼は子供相手にも敬語を崩さず、いい意味で子供に子供扱いしていない。
そういう大人の方が、子供にとっては好かれるのかなぁ。
「またみんなでお茶しようね。」
『うん絶対だよ!!!』
「うん、約束ね。」
そこまで話して電話を終えようかと思った瞬間、わたしはあっと思い出す。
「ねえハルくん?私たちと会った日も、夜幽霊屋敷行ったでしょう?あんな遅くにだめだよ。ママたち心配しちゃうよ?」
窓から覗き込む小さな顔を思い出す。
行かないと約束したのに。
電話口のハルくんが、困ったように言った。
『えっ、僕行ってないよ??』
「………へ?」
つい間抜けな声が出る。
「夜の10時くらい…中には入ってないけど、外から覗かなかった?」
『そんな遅くもう寝てるよ!それにお姉さんたちと約束したもん。行ってないよ!いつも行くのは昼だったし!』
焦っていう彼の言葉が嘘とは思えなかった。
すでに外出禁止の刑を浴びてる彼が、電話口の私に対して嘘をいう必要はない。
いや、そうだよね。普通に考えればそうだ。
7歳の子が10時に家から出れるわけない。
…待って、じゃあ
………誰が覗いてたの??
私は思わずエルの顔を見た。彼はどうしました、と言わんばかりにぽかんとしている。
そういえばガラスはひびまみれで顔ははっきり見えなかったのに、髪型と子供というだけでハルくんだと決め付けていた…
…あれかな。近所の他の子かな。
あんな夜遅くに?一人で?あんな暗いところを?
…………
私は背筋に冷たいものを感じつつ、エルには何も言わずに黙っていた。
きっと近所の子だ。うん、そう。
そうに違いない。…ってことにしておこう、
やはり現実は小説より奇なり、だ。