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夢小説設定
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「なんか元々は有名な金持ちの人が別荘にしてて?けどその人は死んじゃって、あまりに気に入ってる屋敷だから今も住み着いてる、とかなんとか」
吉沢くんが言う。うーん、これまたよくあるパターン。
「ま、全部噂だけどね。そんなもんだよね。怪談って」
「それもそうだね」
私たちの話を、エルはじっと親指の爪を噛んで聞いていた。今回は解決も早いだろうって言ってたけど、彼の頭の中では今どういう展開なんだろう。
ふとハルくんがエルに言った。
「ねーお兄さん。なんで足曲げてるの?御行儀悪いよ?」
ストレートな物言いに、私はつい吹き出した。
最もだ。最もすぎる疑問だ。
しかしエルはとくに表情も変えずいつものように話した。
「この座り方だと頭の回転が速くなります。」
「え!あたまよくなるってこと?」
「よくなる、は語弊がありますね。持っている力を出しやすい、です」
ハルくんは突然目を輝かせた。席からぴょんと降りたかと思うと、エルの隣の空いた椅子に移動しそこに登る。
そして靴を脱ぐと、エルと同じように座った。
「これでいいの?」
「はい。しかしあなたが先ほど言ったように行儀は悪いです。食事中はよくありません、考え事をする時がベストです」
「お兄さんは行儀悪くていいの?」
「よくないですよ。そこにいるお姉さんによく叱られてます」
「大人なのに叱られるの?」
「ええそれはもう。悪いことをしたら大人でも叱られるんですよ。子供だけではないです」
「あはは!お兄さん面白い」
子供相手にも敬語を崩さないエルがとてつもなく可愛く見えた。隣にL座りをしてるハルくんは偶然にも白いTシャツを着ていて、ここから見ると二人はお揃いみたいだ。
大きなエルと小さなエルが座ってるみたい。
私は声を出してわらう。
「靴は脱ぐんだね?」
「当然です。椅子を汚しては他の方に迷惑でしょう」
「爪噛むのは?」
「ただの癖です。真似する必要はありません」
「今僕頭の回転はやいかな?」
「どうでしょう。家に帰って宿題でもしてみてはどうですか」
始めはエルにやや怯えていたハルくんは、もう物怖じせずエルに笑顔で話しかけている。
相手をするエルはとくに普段と変わらないけれど、どことなく表情が柔らかい気がするのはきっと気のせいじゃないはず。
レアだ。エルと小さい子の絡み。
「甘いものは頭良くなる?」
「これまた語弊があります。よくなる、ではありません。頭を動かすのに甘いものが必要なのです」
「じゃあ僕も甘いものたくさん食べよ!」
「言っておきますが小学生の宿題レベルならチョコレートひとかけらで十分です。私ほど頭を使うとなるとこれくらい必要ですが」
「え!ずるいんだ!」
「ズルくないです。それに体の大きさも脳の大きさも違いますから。あなたは先ほど食べたパフェ半分で十分ですよ」
「じゃあ僕もおっきくなって頭使うようになったら食べれる?」
「あなたが名探偵にでもなればいいのではないですか」
「え、コ○ンくんみたいなこと?でもコ○ンくんそんなに甘いもの食べてないよ?」
「食べてる様子が描かれてないだけです。きっと彼も裏では食べてますよ」
「へぇ〜!知らなかったぁ!名探偵は甘いもの沢山食べるのかぁ!でもコ○ンくん子供なのに甘いもの沢山食べてるのかなぁ」
「彼は見た目は子供ですが中身は大人に近いでしょう。消化機能などは大人だから大丈夫です」
また適当なことを。コ○ンファンに怒られるぞ。私は苦笑する。
…というか、エルどこであの名作アニメを?
ハルくんはまだ不思議そうにエルを見上げている。
「目の下なんで黒いの?」
「ちょっと寝不足なんです」
「何で?」
「お仕事に夢中でした。」
「寝なくて大丈夫なの?」
「大丈夫ではありません。あのお姉さんによく叱られてます」
「お姉さん意外と怒りんぼなんだね?」
「ちょ、ちょっと!」
私が慌てて止める。
そんな私が小姑みたいな言い方を!エルの生活が酷すぎるだけなのに!
隣で聞いていた吉沢くんは大声で笑った。
「あはは!竜崎さんて面白いですね!」
「そうですか」
「いや俺ツボです。今まで出会った中で一番不思議な人かも。」
お腹を抱えて笑う吉沢くんに嫌味はなくて、本当に純粋に楽しんでるようだった。
まあ、そうだよね、世界一の変人ですからね。
彼は笑いながらコーヒーを飲む。
「いやほんといいなー、仲良さそうで。竜崎さんは藍川のどこが好きになったんです?」
恥ずかしげもなくそんなことをサラリと聞く吉沢くんに、エルはフォークを摘み上げて答えた。
「すべてです。全て。可愛くて綺麗ですし優しくて真っ直ぐで、正義感が強く心が強い。かと思えばどこか不安定で放っておけない繊細さ。料理も上手く彼女の作るものはどれも美味です。誰にも隔たりなく接してみんなから愛され、気遣いが出来て細かな事に気づきその場を和ませます。まさに女神。やや気が強いですがそれもまたたまらな」
「竜崎、もういいです黙ってください」
「まだ100分の1ほどですが」
「あははは!やばい竜崎さんほんとツボ!」
吉沢くんはさらにゲラゲラとわらう。エルは何が面白いのですか、と言わんばかりにキョトンとしている。
普通の人はドン引きだよ。笑ってくれた吉沢くんが救いだよ。ほんとにもう。
ひとしきり笑ったあと、吉沢くんはふと時計を見た。
「あ、しまった、ハル。そろそろ行かないと。今日姉さんと映画行くんだろ」
慌てて残りのパフェを食べる。ハルくんは口を尖らせて言った。
「えーお兄さんとお姉さんともうちょっと遊びたい!」
「約束してるんだろー」
「えー」
まだ遊びたい、とごねてくれるのが可愛くて嬉しかった。つい微笑んでしまう。
「映画、いいね。楽しんできて」
「お兄さんたちはまた遊べる?」
「うん、きっと。」
にこりと白い歯を出して笑顔になった。
「いやー楽しかったです、竜崎さん」
「こちらもです。光さんの学生時代の話など貴重でしたので。彼女の学生時代を知っている吉沢さんが羨ましいです」
「あはは、首ったけですねー」
「彼女は写真すら残してないので…」
「え?だって。卒アルは?」
吉沢くんが目を丸くして私を見た。苦笑して答える。
「ちょっと色々あって…無くしちゃって」
「ええ?そうなの?なんだ、言ってよ。俺のアルバムコピーする?」
彼がそう言った瞬間、エルの目がギラリと輝いた。ずいっと吉沢くんに顔を寄せる。
「いいんですか」
「え、もちろん。他にも、学祭の時とか、なんかしら写真持ってると思いますよ。見ます?」
「本当にあなたに出会えてよかった。いい人ですね」
「分かりやすくてむしろ清々しいですねー竜崎さん!」
吉沢くんが笑う。エルは親指の爪を噛んで言った。
「少々事情がありまして世界各国を動きますので、こちらの住所は教えられないため、あなたが都合の良い時に使いのものを出します。家まで取りに伺います」
「が、ガチですね…」
「よろしくお願いします。住所教えてください。いつ戻られますか」
「ああ、3日くらいはここにいます」
恥ずかしくて手で顔を覆った。ああ、もう。ほんとにやめて。そんなに目を輝かさないで…
ジェシーがぷっ、と小さく笑った。笑い事じゃないよ、ジェシー。
吉沢くんに住所など聞き、私たちはハルくんとも別れを告げたあと、二人は笑顔で手を繋いで店から出て行った。
紅茶のおかわりを頼んだあと、エルはどこか嬉しそうに言った。
「あなたの学生時代を見る機会がくるなど。こんな嬉しい誤算はありません」
「ほんとに勘弁して。吉沢くんびっくりしてたよ」
「なんと言いますか、あなたの言っていたクラスの中心、という言い方に納得しました。非常に人との距離を縮めるのがうまいです」
「普通なら竜崎とこんなに初対面で話せる人いないからね」
「どこか松田さんと似ています」
ふとエルを見た。同じことを考えていたなんて。
エルは人差し指を口元で遊ばせながらいう。
「松田さんに空気を読む能力とリーダーシップと聡明さと気を配れる能力を足した感じです」
「………」
「さて、紅茶を飲んだら今日の目的地に参りましょう」
エルは悪びれもなく言った。