『きゃーーーー!!!ちゃん##NAME3##、本当?本当に?!』

エルが言った通り、ミサは甲高い声で叫んだ。

私は苦笑しながら答える。

「うん、今度こそは多分本当に」

パソコンの中のミサは以前と変わらぬ姿で笑っている。文明の発達とは素晴らしい。国境を越えて、こうして友達と顔を合わせて話せるのだから。

『ミサ仕事詰まってるけど、夜とかは全然大丈夫だから!あーあ、仕事入れてなきゃよかったー』

「急でごめんね」

『##NAME3##ちゃんに会えるだけで幸せ!竜崎さんは別にいいけど!』

相変わらず正直で素直だな。私は声を出して笑った。

『最近はどーう?仲良くやってる〜?』

ミサがニヤニヤしながら聞いてくる。

「あ、うん…相変わらずだよ」

私は普通通り答えたつもりだったが、ミサは画面にぐいっと顔を寄せた。

可愛らしい顔がアップになる。

『あ!なんかあったでしょ!』

「え!」

『ミサわかるもん!喧嘩でもした?』

エルに引き続き、読心術でも持ってるのかこの二人は。

それとも私はそんなに分かりやすいのか…?

私は困りつつ、声のボリュームを落とした。

「何がってわけじゃないけど…竜崎の仕事仲間が新しく入って…」

『ふん?』

「凄く美人で仕事も出来て…それで竜崎のこと凄く尊敬してるみたいで…ちょっと妬いちゃった」

『ええ?竜崎さんに尊敬?』

突っ込むとこそこか、ミサ。私は笑ってしまう。

仕方がないことだった。ミサは竜崎をLとは知らないのだ。

『それはおいといて、妬いてる##NAME3##ちゃん初めて!可愛い!』

「や、やめてくれる…」

『その人になんか言われたの?』

「…竜崎に、もっとふさわしい人いるんじゃないかって」

『はああああああああ!?????』

ミサの激しい怒号。私は慌ててパソコンのボリュームを下げた。

ミサは自分のことのように興奮し、息を荒くして怒る。

『##NAME3##ちゃんほど可愛くて優しい子いないじゃん!!てゆーかそれ竜崎さんに言いたいんだけど!』

「み、ミサ、落ち着いて」

『ミサだったら殴ってるね!その子殴っちゃう!』

相変わらず過激な性格は変わっていない。私のためにそこまで怒ってくれるミサに、思わず笑ってしまう。

「あはは…!ありがとう、ミサが怒ってくれたから嬉しい」

『##NAME3##ちゃんは優しすぎるから〜…もっと強くいけばいいんだよ!』

「私も十分気が強い方だと思うけど…」

『もっともっと!いい?あーんな猫背のクマつくったパンダ、ちゃんと好きでいてあげてるの凄いんだから!もっと自信持って!』

私はまた吹き出してしまう。もうだめだ、ミサはやっぱり面白い。

「聞いてもらえてスッキリしちゃった。頑張るね」

『まあ、何があっても竜崎さんは##NAME3##ちゃん一筋だと思うけどさ〜そこだけは認めてるよ』

「ありがとう」

『あ!もうそっちは遅いよね!また具体的に日程決まったらメールして!おやすみ〜』

ミサはそう言って手を振る。

私も手を振り、パソコンを切ろうと手を伸ばした。

彼女の背後には、いつもと変わらぬ月くんの写真がたくさん飾ってあるのが見えて、少し、切なくなった。






ジェシーが来て、6日が経った。

初日以外、私はジェシーと話すことはなかった。彼女はひたすらLに熱心に話しかけ、仕事を貰っては活きいきとこなしていた。

Lも様子を見ながら彼女に度々外の仕事を与えていたので、あまり長く共にいる時間がなかった。

私はいつも通りお菓子を作って、 Lの横で英語の勉強をする。

ジェシーの存在を完全に受け入れつつある頃、ワタリさんが帰国した。



「ただいま戻りました」

私は持っていた英語のテキストを驚いておき、立ち上がった。

「ワタリさん…!おかえりなさい!帰国は明日ではなかったんですか?」

「少しはやめれました」

心の底から笑顔で彼を迎えた。やっぱりワタリさんでなきゃ。寂しかった。

ジェシーもちょうど外から帰ってきたところで、ワタリさんに笑顔で話しかける。

「おかえりなさい!」

「ジェシー、どうでしたか」

「最高です! Lの補佐なんて…中々力になれなかったけど…とてもいい経験!」

Lは相変わらずソファの定位置に座りながら、顔だけこちらに振り返る。

「優秀な働き振りでした」

「L…!」

ジェシーは感激するように両手をぎゅっと胸の前で握り締めた。

彼女は明日、代役を終える。

(…結局、仲良くはなれなかったな)

仕方ない。彼女だって、仕事で来ているのだし。

ワタリさんは持っていた鞄から分厚い資料を取り出した。

「L。新たな依頼が入りました」

そう言って、Lに手渡す。

Lは無言でそれを受け取り、一枚一枚摘みながらペラペラめくった。

新しい依頼、とは。緊急だろうか。

またミサの罵倒が響き渡ることにならなきゃいいけど…

「非常に興味深い」

「Lならそういうと思いました」

「受けてくれ。今の仕事はもう終わりに差し掛かってる。すぐに飛び立とう」

私とジェシーは何かわからず、Lとワタリさんを眺めていた。

「##NAME3##、日本へ行くことがやはり確定です。2.3日後に飛び立ちます」

「え…!」

「日本からの依頼ですので」

なんと。日本からLへ依頼があったとは。凄いタイミングだ。

Lは資料をめくり続ける。

「今日本で起こってる連続殺人事件の調査依頼です。…これは非常に面白い」

「れ、連続殺人事件…?」

日本に住んでいた私はわかる。日本でそんな事件が起こることはまずない。キラ事件を除いて。

殺人事件自体は珍しいことではないが、連続とは。どこかの小説の間違いではないか。

「すでに4件の殺人が起こっているようです。パニックを防ぐため4件目の事件はマスコミに伏せてるようですが…」

「そ、そんな事件が起きてたなんて」

「ちょうど日本に行こうとしてたところです。行って解決させましょう」

Lは決まりだと言わんばかりに、資料をぽんっと机の上に置いた。

私の隣で黙って聞いていたジェシーが、突然Lに言った。

「L…!お願いします、私も連れて行ってください!」

ぎょっとしてジェシーを見た。彼女は真剣な眼差しでLとワタリさんを見ている。

Lは表情を変えることなく、即答した。

「だめです。あなたとの契約は終わりました」

「お願いします…!もっとちゃんとあなたの補佐をしたいんです。今回は簡単な仕事ばかり頂いてたの気づいてました。」

「補佐はワタリ一人で十分です」

「ワタリに付いて仕事をして、ちゃんと学びたい!お願いします、決して迷惑はかけませんから!」

ジェシーはがばっと頭を深く下げる。ワタリさんは困ったように彼女を見た。

私も隣で、立ちすくむ。

Lはそれでも首を縦に振らなかった。

「私以外の人にお願いしてください。今回もロジャーの頼みだから承知したまでなので」

ジェシーは顔をゆっくり上げる。泣き出しそうな顔をしていた。

…ジェシーのことは決して、好きだとは言えない。

彼女自身私に敵意を露わにしてたし、全然会話もなかった。

しかし、彼女がどれほど懸命に仕事をして、Lに気を遣っていたかは見てればわかる。

どれほどLに心酔してるのかも…

実際、彼女のおかげで事件が進展したこともあったのだ。

「…L、私からもお願いします。ジェシーを、一緒に日本へ」

きがつけばそう言っていた。ジェシーが驚いたようにこちらを見る。

Lも初めて、こっちを見た。

「ジェシーは…とても熱心に働いて、頑張ってました。期限を決めて、少しだけ延長してはどうですか。Lが褒めるくらいの仕事ぶりなのだし…」

彼女に対して劣等感を抱き、嫉妬すらしていたくせによく言ったもんだと、自分でも思う。

でも、素直に彼女の一生懸命さは見習いたかった。

私も英語頑張ろうと思えたのだし。

Lは考えるように親指を噛む。ワタリさんは優しい顔でこちらを見ていた。

「…あと1週間だけです」

はっとジェシーが顔を上げる。

「あと1週間したら、終わりにします」

「ありがとうございます、L…!」

「お礼をいう相手を間違えてませんか。」

Lはそれだけいうと、くるりと振り返りまた資料を眺め始めた。

ジェシーはぐっと言葉を飲み込むと、私の方を見る。

「…ありがとう」

「…どういたしまして」

微笑む。ジェシーは笑うことなく、すぐに私から視線を外した。

「そうと決まれば、あなたも日本にたつ準備をしてください」

「はい!」

ジェシーはそう元気に返事をすると、部屋から出て行ってしまったのだった。

「…ありがとうございます、##NAME1##さん」

ワタリさんが微笑んで言う。

「え。いや、私は何も…」

「彼女はちょっと気が強いでしょう。あなたとはあまり合わないかと心配でしたが…」

合ってはない。

「あなたの優しさに、彼女も気付くでしょう」

「い、いえ、私は何もしてませんから…」

ワタリさんにお礼を言われて恥ずかしくなったわたしは、顔を俯かせる。

「私も、日本に行く準備してきます!」

そう宣言するが、すぐにLの声にとめられた。

「なぜ彼女をかばったのです」

Lがソファから立ち上がり、こちらに歩み寄る。

「庇ったわけじゃ…」

「どう見てもあなたとジェシーは仲良くないと思いますが」

「仲はよくないね、うん」

「ではなぜですか」

「素直に尊敬しただけ。私より若いのにあれほど熱心に仕事して、Lのチカラになりたいって…その熱意に感動したの」

嘘はない。本当に、そう思ったから口から言葉が出ていた。

ふっと、Lが笑う。

「相変わらず…あなたは優しすぎる」

「そ、そんなことないです」

「あと日本に荷物を持っていく必要ないですよ。向こうで買えばいいんですから」

また金持ち理論を。

私は呆れてLを見る。

Lはダイニングテーブルまで歩いてくる。

「荷物が増えては移動が大変なので」

「そうだけど…」

「そんな準備より、私の隣に来てください、今度の事件について考えたいんです」

「ああ、日本の…」

Lはテーブルに置いてあるお菓子をいくつか手に取る。

立ったまま食べ始めた。

「##NAME1##さんも知ってると思いますが、日本で連続殺人など極めて珍しい。それも、警察がお手上げ状態で私に依頼が来るとは。」

「警察がお手上げ?」

Lはもぐもぐ食べながらまたソファに戻る。ちょいちょいと、手招きをされた。

私は呼ばれた通り、Lの横に座る。

「日本の警察は優秀です。検挙率が非常に高い。まあ犯罪率が他国に比べて低いというのもありますが」

「まあ、私もそう思ってたけど…」

「日本警察から私に捜査依頼は珍しいです。キラ事件も、はじめ私が勝手に首を突っ込んだのであって正式な依頼ではありませんでした」

確かに、Lのやり方を知っていれば、日本警察はLに助けは求めないだろう。特に日本は色々厳しいのだ。

Lはさっき放り出した資料を手に取る。

「切り裂きジャック。」

一言言う。

「え?」

「知っていますか?」

「あ、名前くらいは」

Lは冷めた紅茶をすすった。

「1888年にイギリスで実際起こった連続殺人です。結局迷宮入りし、犯人は分からなかった」

「それが…?」

「日本のメディアは面白がって、この連続殺人の犯人をこう呼んでるようです。
 『切り裂き男』」

ぐっと息を飲んだ。と、いうことは。

切り裂きジャックのような…手技をしてるのか。

「被害者は全て18〜21歳の女性、髪を染めたいわゆるギャルっぽい子らしいです」

「ギャルって言葉、どこで覚えてきたんですかL」

「どこでしょうね。」

Lの日本語は本当にどうでもいい単語も知っている。

「全ての被害者はまず誘拐され、監禁されたあと殺害され死体遺棄されている。殺し方はなんとも残酷で、どうやら痺れ薬で体の自由を奪ったあと生きたまま解剖されてます」

「……」

「写真もありますが…さすがのホラー好きの##NAME1##さんでも厳しいでしょう」

「はい、やめときます」

ホラーは作り物で十分だ。現実でそんなものは求めていない。

「でもそんな衝撃的な事件…なぜ犯人が捕まらないの?」

「この犯人は相当頭が回るか、神経質みたいです」

「というと…?」

「まず、誘拐された場面は監視カメラには必ず映らず、目撃者もなし。こう言えば人気のないところでの実行かと思われますが、意外と繁華街近くで誘拐されている。」

「人がそれなりにいるところで誘拐されるのに、証拠がないってこと…」

Lは考えるように親指をくわえて上を仰ぐ。

「遺棄された死体にも有力な証拠はなにも検出されず。…というより、出てきた証拠まみれらしいです」

「証拠まみれ??」

「故意に残したのでしょう。捜査を撹乱するために、あえてフェイクの証拠を撒き散らしたんです。そうなればその一つ一つを調べるのにまた時間がかかりますしね」

「へえ…まさに小説みたい」

最近ワタリさんが買ってきた小説に、そんなのがあった気がする。

「だとしても、4件もあった遺体から何も有力な証拠がないとは、かなり犯人が神経を遣い、頭を使って処理してるからですね。」

「…凄い」

聞いていたワタリさんが、何やら他にも資料をLに渡した。

Lは呟く。

「被害者の傷口を見るに、犯人は左利き。」

「左利き…」

「それに…これはだいぶこだわりが強いのか何か理由があるのか…必ず月曜日に誘拐、3日後に殺害している。その間は食事や水分も与えられている…」

「そこまで正確なのに捕まえられないんだ…」

「警察のメンツ丸潰れですね。まあだから私に捜査依頼が来たのでしょうが。」

確かに日本では考えられない。あの安全で平和ボケしてる日本が…

恐怖でパニックになりそうだ。

「まだまだ情報が欲しい。ワタリ、明日から早速捜査会議をつないでくれ。」

「分かりました、向こうにも伝えておきます」

「##NAME1##さん、被害者はみな関東で殺されています。またあのホテルに泊まることにしましょう」

「わ、それは楽しみ!」

「弥には連絡取れましたか」

「うん、夜会おうってことになってる!松田さんたちはメール返ってこないけど…」

「関東での連続殺人です。彼らの管轄ではないですか。荒く使われて忙しいのでしょう」

「あ、そっか!」

こんな殺人事件があるときじゃ家でパソコンのメールを見る暇なんてないだろう。キラ事件の時の彼らの働きぶりを知っている。

「弥と会うのは結構ですが、切り裂き男がいるやもしれないので女性二人ではやめてください。一部屋余分に部屋を取っておきましょう、弥と泊まればいいです」

「まあ…確かに年齢と外観、ミサは被害者たちに似てるね…」

「あなたがいない夜など寂しくて死にますがたまには弥に譲ります。」

「あなたはウサギですか」

「ウサギよりも寂しがり屋の自信あります」

「……」

そう話しつつ、私は日本へ行くことに心躍らせていた。

久々に見るあの街、人。

私の故郷。

お母さんのお墓参りも、行かなきゃ。

大好きな友人。

何より、好きな人と出会った街を好きな人と見れる。

そんな幸せなこと、他には無い。

私は踊る心をなんとか抑えながら、思いを巡らせていた。





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