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綺麗な人がエルに抱きついたこと、エルに好意を持ってること、私よりエルに相応しい能力を持ってること…
嫉妬と劣等感に、埋もれていたのか。
こんな仕事場で、私は何をしてるんだろう。
「…光さん」
「す、すみません…エルの仕事中に何を考えてるんだ私…」
顔を両手で覆う。
「わ、忘れてください」
「……」
「夕飯の支度するね!」
私が立ち上がったところを、エルはぱっと腕を掴んだ。
エルの顔を見る。
彼は私の腕を掴んだまま、俯いている。
「エル…?」
エルはゆっくりこちらを見上げる。その上目遣いに、私の心臓が鳴る。
「…彼女を呼んでよかったです」
「へ」
「あなたに…嫉妬してもらえる日が来るなど…私は今、感激で…動けない」
「忘れてって言ったでしょう!」
エルはぐっと私の手を引く。私は再び彼の隣に座らされた。
「いいえ一生忘れません、今日はあなたに嫉妬された記念日です」
「変な記念日作らないでもらえますか」
「変ではありません。私が震えるほど喜んだ日ですよ」
「私は恥ずかしくて堪らないからやめて」
軽く睨む私を、エルは強く抱きしめた。
「可愛いです光さん、あなたは可愛すぎる。その可愛さで世界は滅亡できる」
「ちょっと意味わからない」
「…はあ…もっと妬いてください、嫉妬してください。」
「……」
嫉妬とは普通醜く、迷惑な感情なのだと思っていたのに。
こんなに喜ぶなんて、やっぱりこの人は変人だ。
私はつい、ふふっと笑ってしまう。
「…エルと一緒にいたせいで、私まで独占欲強くなったみたい…」
「たまりませんどんどん強くなってください。私はあなただけの物。これからもずっと…あなた一人のものです」
そう笑ったエルは、ゆっくり私を押し倒すようにキスを落とした。
彼の温かいぬくもりが、安心感を与えてくれた。
私はこんな時やはり、再確認させられる。
こんなにもエルの事が好きなのだと。
翌朝早く、ジェシーはやってきた。
私とLは朝食をとっている時。
「おはようございますL!」
バン!と扉を派手に開ける。
両手には有名店のお菓子を持ってきた。
「おはようございます」
Lはパンを頬張りながら答える。
「おはようございますジェシー。朝食はもう取りましたか?」
私が尋ねると、彼女は頷いた。そして持っていた箱を並べる。
「昨日早く上がってやることなかったから、色んなお店に行ってきたの!さまざまな種類のお菓子があります、何が好みですか?」
ニコニコと笑いながら沢山のお菓子を取り出していく。
Lは相変わらずジャムを大量に塗ったパンを頬張りながら私に聞いた。
「ゆづき、今日あなたが焼くメニューは何ですか」
「あ、チョコレートタルトとシュークリームだけど…」
「ではチョコレート系統以外のお菓子をください。シュークリームも結構です」
ジェシーにそう言う。彼女は不服そうにLを見た。
「今から作るんでしょう?今日は作らなきゃいいわ」
「昨日言ったことを忘れましたか。彼女の作るものは私の命綱。ゆづきのお菓子がないなら私は働きません。」
まるで子供のような言い分のL。いつもなら呆れていたかもしれないけど、今日は私は嬉しかった。
ジェシーは呆れたように肩をすくめる。
「分かりました。あなた食べていいわよ」
「あ、ありがとうございます」
「ジェシー、早速ですがやって欲しいことがあります。」
「はい!」
また顔をキラキラと輝かせてLの話を聞く。本当に彼の力になれるのが嬉しくて仕方ないってかおで。
そこへ、パソコンに通信が入る。
Lは振り返る。
「予定していた時間とだいぶ違う…何かあったか」
パンを最後思い切り口に入れて頰をパンパンにしながら、Lはリビングのソファへと移動する。私は彼が食べた後のお皿を片付ける。
ジェシーもLの後に続いた。
Lは真剣な顔で相手と話している。速いし難しい単語が多くて私はいまいち聞き取れない。
ただどうやら何か緊急な事が起きたらしいことだけは分かる。
お皿を洗いながらちらりとLたちの方を見ると、Lは考え込むように天井を見上げている。
ジェシーはそんなLを心配そうに見つめながら腕を組んで考え込んでいる。
…昨日、彼女に嫉妬してたんだと自覚してから、冷静になるように努めた。
そして、彼女の言うことは最もだと思い、もう少し英語の能力をあげようと決心した。
私はいつだったかワタリさんにもらった英語のテキストを引っ張り出してきて、今日はLの横で勉強するつもりだった。
せめて、こういう通信が入った時、何が起こってるのか分かるくらいまで。
すると考え込んでいたジェシーが突然、思い出したように自分のパソコンを持ってきた。
そしてそれを開き何か操作するとLに見せる。
「Look!
This memento is the same, too」
昨日も時々あったのだが、ジェシーは興奮すると英語となってしまうことがあった。
それは仕方ないと思っていた。母国語が話しやすいのは誰だってそう。私のために難しい捜査内容まで日本語で話すのは申し訳ないくらいだ。
ただLは昨日もその度日本語で返していた。頑なに日本語を使っていたのだが…
ジェシーが差し出したパソコンを見ると、Lははっとしたようにそれを凝視し、ジェシーに早口の英語で何か返した。
ジェシーもまた、英語で話す。
(…うわ)
絵になるシーンだった。二人はしばらく英語でやりとりしたかと思うと、Lはパソコンの通信相手にもまた返す。
映画のワンシーンのようだった。
ジェシーは素早く何かを打ち込み、またLにみせる。
Lはそれを見てニヤリと笑った。ジェシーに笑いかけたLを見たのは初めてだった。
ジェシーも嬉しそうに笑う。
Lがパソコンにむきなおり、長々とまた通信を始める。
(…すごい、疎外感だ)
一人だけ観客席から映画を見てるよう。
二人はちゃんと捜査して、私は洗い物。
…いや、悪いのは自分だ。Lの恋人なんだ、英語くらい出来る様にならねば。
私は落ち込む気持ちを奮い立たせながら、洗い物の泡を流していく。
昨日のジェシーの言葉を思い出す。
私の仕事は家政婦がすること、だと。
「ありがとうございます、あなたのおかげでいち早く解決に向かえそうです」
通信を切ったLからようやく日本語が出てきた。ジェシーはとても嬉しそうに笑った。
「役に立てたなら…嬉しいです」
「元々在学中優秀だと聞いてはいましたがその通りでした」
褒めるLの言葉に、ジェシーはもじもじと恥ずかしがる。昨日私に見せた敵意のこもった表情とはまるで別人だ。
私はお皿を洗い終えると、Lとジェシーに紅茶を入れた。
ジェシーが買ってきてくれたお菓子もいくつか封を開けてお皿に並べ、紅茶と共にLの元へ持っていく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとう!さっきの捜査内容、分かった?」
ジェシーに聞かれ、私は苦笑して素直に答えた。
「すみません。分かりませんでした」
「ふうん」
なんとなく、それがジェシーは嬉しそうだった。Lと二人で共有してるのが嬉しいのかもしれない。
「あなたは捜査の事など気にしなくてよいのです。私の隣にいることが仕事なのですから」
毎日言われてる言葉。でも今はなぜか、少し寂しかった。
「ケーキ、焼いてくるね」
そう言って私はまたキッチンへと戻る。ジェシーはLの隣に座った。長い足を組んでLに話しかけている。
ジェシーが買ってきたたくさんのお菓子を見て、私はなんとなく複雑な気持ちになった。
シュークリームの生地を焼いている頃、Lはジェシーに何やら仕事を託し、彼女は生き生きとして出て行った。
私はうまく膨らんだ生地にホッするのと同時に、今日は彼女が1日この部屋にいるわけじゃないのだと安心した。
…いや、こんなことでホッとするのは失礼だ。
私は自分に叱咤し、生地を冷やしながらクリームを作っていた。
Lが突然、立ち上がってダイニングテーブルに移動して座る。
「…?ごめんね、シュークリームもう少しかかるの」
「いいえ、大丈夫です。あなたが作ってる様子を見てたかっただけなので」
「…毎日見てるでしょう」
「毎日見ても飽きません。一日中眺めていたい」
Lは膝を抱えて私をじっとみる。
「そんなに見られるとやりにくいです」
「光さん」
「はい?」
「今日も妬いてくれてますか」
ピタリと手を止めた。恨めしい目でLを見る。
「忘れてって言ってるのに…」
そう言って、私はふと思いつく。
「もしかして、私のことを考えて今日はジェシーに外の仕事を与えたの?」
Lは答えない。じっと膝の上に顔を乗せたまま私を見てる。
「そ、そんな…ジェシーに申し訳な」
「別に必要ない仕事を与えたわけではありません。ちゃんと彼女のためにもなる仕事です」
「…なら、いいけど…」
「あなたに嫉妬されるのは嬉しいですが、光さんが苦しむのはいやなので。…それに、私もあなたと二人きりでいたい。昨日はあまり二人になれず推理力が落ちてました」
「夜はずっと二人じゃない…」
「光さんはどうですか」
「え」
「私と、二人きりがいいですか」
こう言うことを、Lはいつも言わせたがる。
恥ずかしくて中々言えない私を面白がって。
私は手元を見つめて、生クリームを測りながら言った。
「誰かと一緒にいるのも好きですよ」
「…」
「え、エルと二人になった時、幸せが倍増するから」
エルはふっと笑う。
「…さすがです」
エルは優しい目で私を見ていた。そこに、愛情が感じられるほど…
「それにしてもさっきは、ジェシーが活躍してたみたいだね?」
「ええ、彼女の記憶力と洞察力は優れたものです。このまま事件は解決へ向かいそうです」
「え、ほんとに?」
「ワタリにも先ほど連絡を取りましたが、日本へ行くのがほぼ確定です」
「え!」
私は手を止めてエルを見る。
「仕事は一段落ついてます、急ぎの物もない。あまり長くはいられませんが、日本へ渡りましょう」
「う、嬉しい!」
ようやく、日本に帰れる!
会いたい人たちがいる国。
私は一気に踊りだす心を沈めながら生クリームを泡立てる。
ウキウキせずにはいられない。
「ワタリがドイツから帰ってきたら飛びましょう。」
「どうしよう、ドキドキしてたまんない」
私がニコニコしていると、エルも微笑んだ。
「あなたをあまり連れ出せてませんから。…申し訳ないですね」
「ううん、時々一緒にケーキ買いに行ったりドライブ行くの、とても楽しいよ」
「そんなのでいいんですか。無欲な人ですね」
「エルが生きてそばにいてくれるだけでいい」
「またあなたは…」
「日本に行く準備しなきゃな〜ミサにも、言っていい?」
「そうですね、余裕をもって伝えないと予定も合わせにくいでしょうし。構いませんよ」
「わー喜んでくれるかな」
「あの甲高い声であなたの名前を叫ぶのが目に浮かびます」
「あははは!」
エルと二人でいると、抱いていたモヤモヤは綺麗さっぱりなくなってしまう。
こういう些細な時間が、エルを好きだなあ、と実感できる。
幸せだなあ、と…。
嫉妬と劣等感に、埋もれていたのか。
こんな仕事場で、私は何をしてるんだろう。
「…光さん」
「す、すみません…エルの仕事中に何を考えてるんだ私…」
顔を両手で覆う。
「わ、忘れてください」
「……」
「夕飯の支度するね!」
私が立ち上がったところを、エルはぱっと腕を掴んだ。
エルの顔を見る。
彼は私の腕を掴んだまま、俯いている。
「エル…?」
エルはゆっくりこちらを見上げる。その上目遣いに、私の心臓が鳴る。
「…彼女を呼んでよかったです」
「へ」
「あなたに…嫉妬してもらえる日が来るなど…私は今、感激で…動けない」
「忘れてって言ったでしょう!」
エルはぐっと私の手を引く。私は再び彼の隣に座らされた。
「いいえ一生忘れません、今日はあなたに嫉妬された記念日です」
「変な記念日作らないでもらえますか」
「変ではありません。私が震えるほど喜んだ日ですよ」
「私は恥ずかしくて堪らないからやめて」
軽く睨む私を、エルは強く抱きしめた。
「可愛いです光さん、あなたは可愛すぎる。その可愛さで世界は滅亡できる」
「ちょっと意味わからない」
「…はあ…もっと妬いてください、嫉妬してください。」
「……」
嫉妬とは普通醜く、迷惑な感情なのだと思っていたのに。
こんなに喜ぶなんて、やっぱりこの人は変人だ。
私はつい、ふふっと笑ってしまう。
「…エルと一緒にいたせいで、私まで独占欲強くなったみたい…」
「たまりませんどんどん強くなってください。私はあなただけの物。これからもずっと…あなた一人のものです」
そう笑ったエルは、ゆっくり私を押し倒すようにキスを落とした。
彼の温かいぬくもりが、安心感を与えてくれた。
私はこんな時やはり、再確認させられる。
こんなにもエルの事が好きなのだと。
翌朝早く、ジェシーはやってきた。
私とLは朝食をとっている時。
「おはようございますL!」
バン!と扉を派手に開ける。
両手には有名店のお菓子を持ってきた。
「おはようございます」
Lはパンを頬張りながら答える。
「おはようございますジェシー。朝食はもう取りましたか?」
私が尋ねると、彼女は頷いた。そして持っていた箱を並べる。
「昨日早く上がってやることなかったから、色んなお店に行ってきたの!さまざまな種類のお菓子があります、何が好みですか?」
ニコニコと笑いながら沢山のお菓子を取り出していく。
Lは相変わらずジャムを大量に塗ったパンを頬張りながら私に聞いた。
「ゆづき、今日あなたが焼くメニューは何ですか」
「あ、チョコレートタルトとシュークリームだけど…」
「ではチョコレート系統以外のお菓子をください。シュークリームも結構です」
ジェシーにそう言う。彼女は不服そうにLを見た。
「今から作るんでしょう?今日は作らなきゃいいわ」
「昨日言ったことを忘れましたか。彼女の作るものは私の命綱。ゆづきのお菓子がないなら私は働きません。」
まるで子供のような言い分のL。いつもなら呆れていたかもしれないけど、今日は私は嬉しかった。
ジェシーは呆れたように肩をすくめる。
「分かりました。あなた食べていいわよ」
「あ、ありがとうございます」
「ジェシー、早速ですがやって欲しいことがあります。」
「はい!」
また顔をキラキラと輝かせてLの話を聞く。本当に彼の力になれるのが嬉しくて仕方ないってかおで。
そこへ、パソコンに通信が入る。
Lは振り返る。
「予定していた時間とだいぶ違う…何かあったか」
パンを最後思い切り口に入れて頰をパンパンにしながら、Lはリビングのソファへと移動する。私は彼が食べた後のお皿を片付ける。
ジェシーもLの後に続いた。
Lは真剣な顔で相手と話している。速いし難しい単語が多くて私はいまいち聞き取れない。
ただどうやら何か緊急な事が起きたらしいことだけは分かる。
お皿を洗いながらちらりとLたちの方を見ると、Lは考え込むように天井を見上げている。
ジェシーはそんなLを心配そうに見つめながら腕を組んで考え込んでいる。
…昨日、彼女に嫉妬してたんだと自覚してから、冷静になるように努めた。
そして、彼女の言うことは最もだと思い、もう少し英語の能力をあげようと決心した。
私はいつだったかワタリさんにもらった英語のテキストを引っ張り出してきて、今日はLの横で勉強するつもりだった。
せめて、こういう通信が入った時、何が起こってるのか分かるくらいまで。
すると考え込んでいたジェシーが突然、思い出したように自分のパソコンを持ってきた。
そしてそれを開き何か操作するとLに見せる。
「Look!
This memento is the same, too」
昨日も時々あったのだが、ジェシーは興奮すると英語となってしまうことがあった。
それは仕方ないと思っていた。母国語が話しやすいのは誰だってそう。私のために難しい捜査内容まで日本語で話すのは申し訳ないくらいだ。
ただLは昨日もその度日本語で返していた。頑なに日本語を使っていたのだが…
ジェシーが差し出したパソコンを見ると、Lははっとしたようにそれを凝視し、ジェシーに早口の英語で何か返した。
ジェシーもまた、英語で話す。
(…うわ)
絵になるシーンだった。二人はしばらく英語でやりとりしたかと思うと、Lはパソコンの通信相手にもまた返す。
映画のワンシーンのようだった。
ジェシーは素早く何かを打ち込み、またLにみせる。
Lはそれを見てニヤリと笑った。ジェシーに笑いかけたLを見たのは初めてだった。
ジェシーも嬉しそうに笑う。
Lがパソコンにむきなおり、長々とまた通信を始める。
(…すごい、疎外感だ)
一人だけ観客席から映画を見てるよう。
二人はちゃんと捜査して、私は洗い物。
…いや、悪いのは自分だ。Lの恋人なんだ、英語くらい出来る様にならねば。
私は落ち込む気持ちを奮い立たせながら、洗い物の泡を流していく。
昨日のジェシーの言葉を思い出す。
私の仕事は家政婦がすること、だと。
「ありがとうございます、あなたのおかげでいち早く解決に向かえそうです」
通信を切ったLからようやく日本語が出てきた。ジェシーはとても嬉しそうに笑った。
「役に立てたなら…嬉しいです」
「元々在学中優秀だと聞いてはいましたがその通りでした」
褒めるLの言葉に、ジェシーはもじもじと恥ずかしがる。昨日私に見せた敵意のこもった表情とはまるで別人だ。
私はお皿を洗い終えると、Lとジェシーに紅茶を入れた。
ジェシーが買ってきてくれたお菓子もいくつか封を開けてお皿に並べ、紅茶と共にLの元へ持っていく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとう!さっきの捜査内容、分かった?」
ジェシーに聞かれ、私は苦笑して素直に答えた。
「すみません。分かりませんでした」
「ふうん」
なんとなく、それがジェシーは嬉しそうだった。Lと二人で共有してるのが嬉しいのかもしれない。
「あなたは捜査の事など気にしなくてよいのです。私の隣にいることが仕事なのですから」
毎日言われてる言葉。でも今はなぜか、少し寂しかった。
「ケーキ、焼いてくるね」
そう言って私はまたキッチンへと戻る。ジェシーはLの隣に座った。長い足を組んでLに話しかけている。
ジェシーが買ってきたたくさんのお菓子を見て、私はなんとなく複雑な気持ちになった。
シュークリームの生地を焼いている頃、Lはジェシーに何やら仕事を託し、彼女は生き生きとして出て行った。
私はうまく膨らんだ生地にホッするのと同時に、今日は彼女が1日この部屋にいるわけじゃないのだと安心した。
…いや、こんなことでホッとするのは失礼だ。
私は自分に叱咤し、生地を冷やしながらクリームを作っていた。
Lが突然、立ち上がってダイニングテーブルに移動して座る。
「…?ごめんね、シュークリームもう少しかかるの」
「いいえ、大丈夫です。あなたが作ってる様子を見てたかっただけなので」
「…毎日見てるでしょう」
「毎日見ても飽きません。一日中眺めていたい」
Lは膝を抱えて私をじっとみる。
「そんなに見られるとやりにくいです」
「光さん」
「はい?」
「今日も妬いてくれてますか」
ピタリと手を止めた。恨めしい目でLを見る。
「忘れてって言ってるのに…」
そう言って、私はふと思いつく。
「もしかして、私のことを考えて今日はジェシーに外の仕事を与えたの?」
Lは答えない。じっと膝の上に顔を乗せたまま私を見てる。
「そ、そんな…ジェシーに申し訳な」
「別に必要ない仕事を与えたわけではありません。ちゃんと彼女のためにもなる仕事です」
「…なら、いいけど…」
「あなたに嫉妬されるのは嬉しいですが、光さんが苦しむのはいやなので。…それに、私もあなたと二人きりでいたい。昨日はあまり二人になれず推理力が落ちてました」
「夜はずっと二人じゃない…」
「光さんはどうですか」
「え」
「私と、二人きりがいいですか」
こう言うことを、Lはいつも言わせたがる。
恥ずかしくて中々言えない私を面白がって。
私は手元を見つめて、生クリームを測りながら言った。
「誰かと一緒にいるのも好きですよ」
「…」
「え、エルと二人になった時、幸せが倍増するから」
エルはふっと笑う。
「…さすがです」
エルは優しい目で私を見ていた。そこに、愛情が感じられるほど…
「それにしてもさっきは、ジェシーが活躍してたみたいだね?」
「ええ、彼女の記憶力と洞察力は優れたものです。このまま事件は解決へ向かいそうです」
「え、ほんとに?」
「ワタリにも先ほど連絡を取りましたが、日本へ行くのがほぼ確定です」
「え!」
私は手を止めてエルを見る。
「仕事は一段落ついてます、急ぎの物もない。あまり長くはいられませんが、日本へ渡りましょう」
「う、嬉しい!」
ようやく、日本に帰れる!
会いたい人たちがいる国。
私は一気に踊りだす心を沈めながら生クリームを泡立てる。
ウキウキせずにはいられない。
「ワタリがドイツから帰ってきたら飛びましょう。」
「どうしよう、ドキドキしてたまんない」
私がニコニコしていると、エルも微笑んだ。
「あなたをあまり連れ出せてませんから。…申し訳ないですね」
「ううん、時々一緒にケーキ買いに行ったりドライブ行くの、とても楽しいよ」
「そんなのでいいんですか。無欲な人ですね」
「エルが生きてそばにいてくれるだけでいい」
「またあなたは…」
「日本に行く準備しなきゃな〜ミサにも、言っていい?」
「そうですね、余裕をもって伝えないと予定も合わせにくいでしょうし。構いませんよ」
「わー喜んでくれるかな」
「あの甲高い声であなたの名前を叫ぶのが目に浮かびます」
「あははは!」
エルと二人でいると、抱いていたモヤモヤは綺麗さっぱりなくなってしまう。
こういう些細な時間が、エルを好きだなあ、と実感できる。
幸せだなあ、と…。