「そう。」

短くジェシーは答えて握手を解いた。

背後でワタリさんが声を上げる。

「ジェシー、感動の再会もいいですが自分の役割を忘れないでください」

「はいワタリ!」

ジェシーはニコニコと答える。

「L、これからよろしくお願いします。私…あなたの力になれるよう頑張ります!」

Lに向き直り笑顔でそう言った。

「まずは家の案内をします。こちらへ」

ワタリさんに言われてジェシーは素直について行った。

………

な、なんて言うか…

色々、突っ込みたいところが…

嵐が去ったような静かさの中、私は呆然としていた。

Lが振り返る。

「彼女は生粋のイギリス人なので。スキンシップは挨拶代わりです」

「…あ、そうだよね」

胸を撫で下ろす。そう、文化の違いか。日本では考えられないけど、こっちではこれが普通。

私が慣れていないだけだ。…よね?

「な、なんか随分、Lとの再会嬉しそうだったね…?」

「彼女とはほとんど話したこともないはずですが…」

そうなると、彼女が一方的な憧れ、とかかな?

「まあ、ワタリの帰ってくる1週間です。大した仕事もさせるつもりはありませんので」

「う、うん…」

Lは普段と何も変わらない様子でパソコンを見始めた。

私は料理の続きをするために、キッチンへ戻る。

…なんか、

なんだろう。

胸がざわざわするな。

先ほどの気合はどこへ行ったのか、集中し切れないままケーキにフルーツを並べる。

綺麗で、頭もいいのか…あのLが優秀だと言うくらいだからよほど。

天は二物を与えず、とは一体…

廊下からはジェシーの楽しそうな声が聞こえる.

この家は私とLの寝室などプライベートな部屋以外にもいくらか部屋がある。

それは主に捜査に必要な資料などが保管されている。

さらに、実はこの階の下のフロアも、Lのものだったりする。

私は入ったことが無いのだが、仕事に必要な物が保管されているのと、ワタリさんが寝泊りしているらしかった。

恐らくジェシーも下の階の部屋で泊まるのだろう。

廊下の声が近づいてきたかと思うと、ジェシーとワタリさんが再び入ってきた。

「ありがとうございましたワタリ!」

「ほかに何か質問はありますか」

「ううん、今のところ平気です」

ワタリさんは腕時計を見る。

「では、私はそろそろドイツへ出発します」

私はそれを聞いて、えっとワタリさんを見た。

「ワタリさんもう行かれるんですか?」

「はい、1週間よろしくお願いします」

急にこの3人になるの、すごく不安なんですけど…

仕事なら仕方ない。

私は心の中でワタリさんを名残惜しく呼びながら、笑顔を作った。

「気をつけてください」

「何かあればすぐ連絡をください。Lも」

「分かった」

Lはこちらもみず短くて答える。ワタリさんは帽子をふかく被ると、そのまま部屋から出て行ってしまった。



流れる沈黙。

私はそれに耐えられず慌てて声を掛けた。

「ジェシー、紅茶はどうですか」

彼女は意外にもこちらをみてにこっと笑う。

「ありがとう!頂くわ」

「あと、ケーキもあるけど…」

ジェシーは私の手元を見る。

「わ、それあなたが作ったの?美味しそうね、仕事中なのにいいかしら」

Lを気にしながら言うと、Lはパソコンから目を離さず言った。

「どうぞ。」

ほっとして、私はLの分とジェシーの分を切る。お湯を沸かして紅茶も入れる。

ジェシーはそれをよそにスタスタとLの元に行き、何の躊躇いもなくLの隣に腰掛けた。

私はつい、一瞬手を止める。

ジェシーは笑顔でLに話しかける。

「Lの補佐ができるなんて夢みたいです。何でも言ってくださいね」

「はい」

私はモヤモヤした気持ちを抱きながら、ケーキと紅茶を二人の元へ運ぶ。

ジェシーはわっと嬉しそうに声を上げると、早速ケーキを一口頬張った。

私はとりあえず、Lの正面のソファに座る。

「うん、美味しい!」

「あ…よかった」

ほっと胸を撫で下ろす。ジェシーはパクパクと食べながら言う。

「お菓子作り、得意なのね。美味しいわ」

「ありがとう」

「うん、甘さも丁度いい」

「気に入っていただけたなら…」

「でも、わざわざ作る必要ある?」

ピタリと、自分自身停止する。

ジェシーは本当に素直に疑問に思っているようで、無邪気な顔で質問する。

「だって手間じゃない?買った方が早い」

「あ、好きでやってるし…」

「美味しいけど、プロには敵わないんだし」

ぐさり、と刺さる。

それを言われたら、私は終わりだ…

確かに、素人の割にはうまく出来ているとは思うけれど、プロのお菓子には到底かなうことはない。

ただ、私の唯一と言っていいほどの仕事なのだけれど…

すると黙っていたLが、パソコンから顔を上げる。

「ジェシー。このお菓子は私の命綱だと思ってください」

「…え」

ジェシーは驚いたようにLを見る。

「彼女の作るものはどこの一流パティシエも敵いません。少なくとも私には。これがなくては私は仕事が出来ない」

Lはそう言うと、置かれたケーキをパクリと食べる。

ジェシーはやや不満そうに口を尖らせた。

「…それと」

Lは紅茶を一口飲む。

「##NAME3##。あなたの席はそこではありません。私の隣です。すぐに来てください」

真っ直ぐ見られて。恐縮した。

…えっと…私とジェシーでLを囲む形に…?

戸惑っていると、痺れを切らしたようにLは無言で立ち上がる。

そしてのそのそと歩き、私側へと回って来て、私の隣に飛び乗った。

パソコンをずりずりと手前に引き寄せる。

「##NAME3##の隣でないと推理力が40%減ですので。ジェシーも覚えておいてください」

そう言うとLはまたパソコンに目を落とした。

腑に落ちなそうなジェシーの目が、印象的だった。



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