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夢小説設定
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ある昼下がり。
天気は良く雲一つない快晴。
眩しい日に当たられ私はつい目を閉じた。
冷たい風は肌を刺すけれど、なぜか寒さは気にならなかった。
ワタリさんの運転する車に二人乗り込み、出かけた。
目的地につくと、ワタリさんはここで待っています、と微笑んだ。
私とエルは懐かしい場所へ足を踏み入れた。
磨かれた墓石前に花を添える。
線香に火をつけ、独特の香りが鼻についた。
「2年ぶりだね…ただ今」
私は呟いた。
お父さん、お母さん。
久しぶり。
エルは隣でいつものようにポケットに手を入れて立っていた。
「遅くなってしまいました」
「ううん、きっと二人も分かっててくれてるはず」
私は手に持っていた箱をそっと墓石の前に供えた。
チョコレートタルトだった。
あの夢で食べた味には敵わないけど、私も結構上達したんだよ。毎日食べてくれる人がいるからね。
たまには娘の作ったケーキの味見もしてみてよ。
私はそっと微笑む。
あの時見た不思議な夢のことを、エルに伝えてはいなかった。
別に隠したいわけじゃないけれど、
私の心の中にしまっておきたい気分だったから。
あの日見た二人の顔が思い浮かぶ。
「私…前死のうとしたことが、恥ずかしい」
エルがゆっくりこちらを見る。
「お父さんもお母さんも、全力で私を守ってくれて育ててくれて…だから今私があるのに、そんな事ちっとも考えなかった」
「お母様の死が、それほど大きな出来事だったのですよ」
「うん…あの時は、世界で一人ぼっちだと思ってたから」
私は冷たい空気を肺いっぱい吸い込んだ。
ゆっくり鼻から吐き出す。
「全然違うのに。生きてれば、絶対大切な人に出会えるのに。夜神さんたちも、ミサも、エルも…こんなに心配してくれる人たちがたくさんいる」
私を心配して会いにきてくれることの喜び。
一度は自ら命を捨てようとしたくせに、死にたくないと願った。
なんて単純な生き物なんだろう、人間とは。
「私ね、エルと出会った時…あれきっとお母さんたちが引き合わせたと思うんだよね。もし出会ってなかったら、今どうなってるんだろう」
「すべての結末が違ってたでしょうね。私でさえも」
「こうなることを分かって、エルと出会わせてくれたんじゃないかな」
線香の煙が空へと上がっていくのを、私はぼんやりと見上げた。
白い煙はいつのまにか青に消え入る。その先に、誰がいるのだろうか。
「私は神に祈ったことはありませんが…今回ばかりは、あなたのご両親に心で祈りました」
エルはじっと墓石に彫られた名前を見る。
「あなたが無事でいられるように、と」
祈りは届いていたかもしれない。
二人は私に、エルを思い出させてくれたから。
私はまた肺いっぱいに空気を吸い込む。
ありがとう。
「エル、付き合ってくれてありがとう。あと2箇所行くところがあるの」
「2箇所とは?」
「宇生田さんと…月くんのお墓参り。」
私はエルに微笑みかけた。彼も少し微笑む。
「この前夜神さんと相沢さんに場所聞いておいたの」
「さすがですね」
「あ、火は消しておかなきゃね…火事になったら大変。食べ物も回収回収。」
私は墓にしゃがみこむ。
火の元になりそうなものを片付ける。
「…光さん」
背後からエルの声が聞こえる。
「はい?」
「一つ提案なのですが」
「はい」
「イギリスに帰ったら」
「うん」
「ローライトの名に、なってくれませんか」