5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日。
まずは上半身を起こすところから、との事で私は少しずつ起き上がるようになった。
しかしたった数日監禁されて寝たきりになってただけなのに…
大分体力が落ちてるのか。
座っているだけでとにかく疲れる。
様子を見ながらゆっくり何度か座るので必死になっていた。
人間の体とはこんなに脆いのか…と落胆した。
昼過ぎ。
変わらず隣で座り込むLと過ごしていたところに、ノックの音が響く。
「はい?」
返事をすると、ゆっくり扉が開かれた。
そこに立っていたのは、長身の美女。
「ジェシー!」
「こんにちは。入ってもいい?」
「どうぞ。」
ジェシーは部屋に入ってくる。その手には、スーツケースを持っていた。
「お見舞いが遅くなってごめんなさい。」
「ジェシーには私がここにいるため出来ない後処理をワタリと共にやってもらってました」
Lが言う。
「ううん、全然。来てくれて嬉しい」
心の底から思った。私を一緒に探してくれて、救出の時も協力してくれてたのを知っている。
ジェシーはLに向かっていった。
「L、少し二人きりにしてくれませんか」
「…しかし」
「女性同士の話ですよ。あなたは外でこれでも食べててください。」
ジェシーは某ケーキ屋の袋を渡す。Lはそれを受け取ると、ゆっくり立ち上がる。
「10分ですよ、ジェシー」
「相変わらず心配性ですね…」
呆れたように言うジェシーを置いて、Lは素直に部屋から出て行った。
私はゆっくりベッドの上で座る。
「無理しないで」
「ううん、練習も兼ねてるの」
ジェシーは椅子に座る事なく、じっと立って私を見ていた。
「…なんで、私を庇ったの」
ポツリと言う。
「え?」
「神谷の銃撃のとき。私の名前を叫んでおいかぶさったでしょう。それであなたも怪我を負った。運が悪ければ怪我で済まなかったのよ」
そういえば、そうだった。
思いを巡らせる。
「そんなの…理由なんてない」
ジェシーは茶色の瞳で私を見つめている。それをしっかり見返した。
「人を助けるのに、理由っている?」
笑ってそう答えた。
ジェシーは目を丸くした後、ぷっと吹き出した。
「ふふ、 Lのいう通りね」
「え?」
「ありがとう。助けてくれて」
「…模木さんと突入したあと、私を支えて、すぐに上着をくれたでしょう?凍えそうだったから…嬉しかった」
覚えてる。私を支えてくれたあなたの温かい手。
ぬくもりが残った上着。
凄く嬉しかった。
ジェシーはそれくらいのこと、と困ったように言った。
そして私の目をしっかり見た。
「…悪かったわ。色々。あなたを、やっかんでた」
優しい声でジェシーは言う。いつもの気が強い彼女ではなく、眉の垂れ下がった可愛らしい女性がそこにいた。
「そんな、私…」
「私ね、3歳の頃両親に捨てられたの」
はっとする。そうか、この人もLと同じ施設の出身だった。
「無駄に記憶力がいいせいで、今でも親のこと覚えてるの。私に興味のない両親だった。幼いながらになんとか二人の気を引こうと必死になってたの、覚えてるわ」
自然と眉を潜める。
悲しい、過去。
「だから…今だに、誰かに認められたいって感情が強いの。Lにしろワタリにしろ、誰かに必要とされたかった。Lは特に、私の憧れだったからなおさらね。
だからこそあなたに嫉妬してたの。あなたはみんなから愛されてるから。あの捜査員たちだって…呆れるくらいあなたを想ってた」
ジェシーは窓の外を見る。遠くを見てるような目だった。
「ごめんね。きつく当たって。」
叱られた子供みたいに、彼女は俯いた。
それはいつも大人びててしっかりしてるジェシーの、本当の顔のように思えた。
「…ジェシー、私こそ、あなたに嫉妬してた」
ふっと、彼女が顔をあげる。
「だってジェシーは綺麗でスタイルよくて頭よくて仕事できて…凄い劣等感持ってたの。
でも、私分かった。嫉妬なんて、劣等感なんてくだらない感情だよ。
私は私で、あなたはあなた。別の人間だもの」
あなたみたいになれたらと思った。
そんな風に Lのサポートを出来たらって。
でもそうやって羨ましがっても何も変わらない。
「捜査員の人たちが私を思ってくれたのは、私があなたより優れてるからじゃない。それだけ培った時間があったからなの。ジェシーを同じように思う人は必ず、いる」
「…」
「あなたはあなた。私は私。それは何者でもない。そのままの自分を大切に思ってくれる人を大事にすればいいだけの話。全ての人から愛されるなんて、不可能なんだから」
私が言うと、彼女は優しく笑った。
「あなたがみんなから愛される意味が、改めて分かったわ」
「…そんなこと…」
「前言撤回させて。Lにふさわしいのはあなたしかいない。心からそう思う。自分がいかに愚かだったか、よく分かったわ」
真っ直ぐな茶色の瞳がくすぐったい。私はそっと微笑んだ。
ジェシーはあっと思い出したように続けた。
「あともう一つ謝らなきゃいけないわ。私、あなたが監禁されてる時Lに迫ったの」
…は?
迫った、とは?
ぽかんとしてる私を見て、ジェシーは恥ずかしげもなく続けた。
「服脱いで迫ったのよ。あんまりにもLが落ち込んで弱ってたからつけ込んだの」
「……えええ!!!??」
大きな声が出てしまう。ジェシーはうるさそうに顔を歪めて片耳を塞いだ。
頭がパンクしそうになった。グルグル言葉が回って出てこない。
「ちょ、え、ど…」
「安心して。なーんもないから」
「…へ」
ぽかん、と口が開いてしまう。
「ええ、なーんもなかったわ。L見向きもしなかった。私今まであんなにこっぴどくフラれたの初めてよ」
グラマラスボディはそう言ってため息をつく。
「信じられないわ。Lってちゃんと男性機能作動するの?」
「な…」
平然とこの人は何を言ってるんですか。
私は顔を熱くして口をパクパクとさせた。
そんな私の顔をみてジェシーはため息をつく。
「その様子じゃ作動するのね。自信なくすわ。私今までどんな状況だろうと迫って落とせなかった男いないのに。」
「凄い奔放なのね、ジェシー…」
「とゆうわけで。何も無かったから許して。彼はあなた以外何も考えてない。あなた以外の人間はどうでもいいんだって、宣言されちゃったんだから」
この美人が迫っても何も無かったことは、えっと、喜ぶところなんだよね。
複雑な思いがしながらも、私はちょっとだけ笑って見せた。
ジェシーもつられて笑う。
「さ、私はもうLとの契約期間が終わって今からイギリスへ帰るの」
「え…そうだったの!?」
なんか、寂しい。ようやく打ち解けたのに。
「あなたにお見舞いよ。」
そう言ってジェシーはスーツケースから何やら取り出す。
机の上にどん!と置かれた。
それは沢山の英語のテキストや本だった。
「私が見繕ったわ、分かりやすそうなの。あなたはそのままで十分だけど、やっぱり Lの彼女なんだから英語くらいマスターしなさい」
予想外のお見舞いに目をチカチカさせた。が、なんだか最後までジェシーらしい。
私はぷっと吹き出して笑った。
「ありがとう、ジェシー」
そんな私をみて、ジェシーも笑った。
笑い声が響いてる中、ノックの音が聞こえる。
Lがそっと扉を開ける。
「あ、L。私は別れの挨拶は済みました。」
「そうですか」
Lはのそのそと歩いてまた私の横の椅子に座った。
ジェシーは背筋をしゃんと伸ばす。
「とても勉強になりました。これからも精進して、 Lのような人のフォローが出来るよう頑張ります」
「非常に優秀でした。ありがとうございました。」
普段と変わらない様子のLをみてジェシーは笑いかけると、私に手を振った。
「じゃあね、ゆづき。早く元気になるのよ」
彼女が私の名前を呼んだのは、それが初めてだった。
私は笑って、手を振り返す。
ジェシーはさっと背を向けると風を切るように堂々と歩き、病室から出て行ったのだった。
「…彼女何か言ってましたか」
Lが尋ねる。
「謝ってくれました。やっかんでごめんねって」
「そうですか」
「あと、Lに迫ってごめんねって」
私がLを見てそういうと、彼は考えるように天井を見上げる。
「…そういえばそんなこともありましたね」
苦笑する。そんなひと事みたいな。
Lは私を見る。
「私が他の女性になびくとでも思いましたか?何があってもありえませんね」
「…それは、素直に嬉しい」
「安心してください。何があろうと私はあなた以外見えてませんから」
そう言って、口角を上げた。
「…ありがとう。エル」
Lはふと、机の上に大量に置かれた本を見る。
「なんですか、それは」
「お見舞い、だって」
「英語のテキストがですか?あなたはそんな無理に英語をマスターしようとしなくていいんですよ。日常会話で十分です」
「ううん、私もね。捜査報告の内容くらいわかるようになりたいの。」
私は一冊を手に取ってめくる。ぎっしり書かれた英文。
そこに一枚、メモが挟んであった。
『分からない所があったら私に聞きなさい。
Lやワタリは忙しいんだから!』
そこにはメールアドレスと電話番号。
私はつい、笑ってしまう。
「どうしました」
Lが不思議そうに笑う。
「友達が一人増えたみたい」
ちょっと気が強くて奔放だけど、自分に素直な証拠。
ありがとう、ジェシー。
夕方になって日が落ちる頃。
座る練習も兼ねてLと話していた。
そこへ慌ただしい足音が響く。
なんだと私が扉を見た瞬間、それは開かれた。
そこからは懐かしい顔が見えた。