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『どうしてこんな事したの?』

『人を解剖してみたかったからだよ。』

『どうして解剖したかったの?』

『うーん何でだろ。興味あるから。』

『殺された人たちはどんな気持ちだったか考えないの?』

『痛かったかなーって。』

『そうじゃなくて…もし君が殺される側だったらどう思う?』

『え?なんでそんな話になるの?だって莉子殺される側じゃないでしょ』

『例えばだよ。もし君がそういうめにあったら…』

『もしって何?どう思うって何?莉子は切る方で切られる側じゃない。わかんないよ、そんなの』

『…痛いのは、君も嫌でしょ?自分にされて嫌な事を人にして何とも思わないの?』

『莉子と他の人は別人でしょ?なんで一緒にするの?痛くしてごめんねーとは思うけど』

『ご、ごめんね、か…』

『でも仕方ないよね?だって莉子やりたかったんだもん。お父さんも莉子がやりたいことは全部叶えてあげるって言ってたもん。みんなそうでしょう?』






ぞくりと背筋が冷えるのが分かった。

そんな人間とは思えない人間と、私は二人きりで時間を共にしたのか。

最初に見たおどおどした様子も、全て演技だなんて…

模木さんが眉を潜める。

「解剖だけでなくあえて3日ほど使って信頼関係を築きながらそれを打ち砕くのを楽しんでいる。…こういうことは言いたくないけど、あれは更生は無理だな」

私は両手をぎゅっと握りしめた。今更ながら恐怖が襲う。

「まるで10歳とは思えない。精神鑑定にも掛けるが…どこでどうなったらあんな風になるのか…」

フォローのしようもないほどの、異常。

今改めて、そこから生きながらえた事に感謝している。

「人として大切なものが欠落している…それはあまりに哀れな姿だ」

相沢さんの言葉が重く響く。世の中には…どうやっても理解し合えない人間がいるものだ。

その時、ノックの音が響いた。

「失礼しまーす、抗生剤流しまーす」

看護師さんが入ってくる。みんなが顔を見合わせて言った。

「長々とすまんかった。まだ全快じゃないんだ、ゆっくりしなさい。退院したらまたゆっくり話そう」

「夜神さん。ありがとうございます」

「またお見舞いくるからね、##NAME3##ちゃんお大事に!」

「みなさん…本当にありがとうございます」

私が小さく手を振ると、夜神さんたちとワタリさんも仕事に戻るとの事で去っていく。

Lのみが椅子に座っていた。

「点滴かえま…」

看護師さんが言おうとして、Lを見て一瞬固まった。が、さすが医療者。すぐに目線を逸らして作業を開始する。

まあね。このクマにこの体制じゃね。なんだって思いますよね。

「熱測りますね」

「あ、はい」

「えっと…ご家族の方?」

Lを見て恐る恐る聞く。Lはキッパリ言った。

「恋人です」

今度こそ看護師は固まった。苦笑する。

体温を測り終えた音が響く。さっと何事もなかったように彼女は笑った。

「下がってますね、微熱はありますけど。息苦しさないですか」

「大丈夫です」

「体拭きましょうか」

「あ、はい、えっと竜崎…」

「私がやります」

Lは高らかに宣言した。

…いや、やめて。
 
「エ…竜崎。点滴もあるし看護師さんにやってもらうから」

「私がやります。大丈夫です」

「いや、ちょっと部屋から出てて」

「手伝います。」

「いや、恥ずかし…」

「今更恥ずかしいなんてありますか、私たちは恋人同士。それに同じ女性と言ってもあなたの肌を他人に見」

「で て い っ て !!!!」

私の低い声が響く。Lは目を丸くしたあと拗ねたように口を尖らせ、しぶしぶ立ち上がる。

「5分で戻ります」

看護師さんに鍵かけてもらおう、うん。

私は呆れつつ、Lを見送る。

こんな状況でLに体なんて拭いて欲しくない。絶対嫌だ。

Lが部屋から出て行ったあと、さすがというか看護師さんはすぐに鍵を掛けてくれた。

「はい、じゃあやりましょうか」

「す、すみません、お騒がせして…」

「いいえー」

慣れた手つきで洋服を脱がせてくれる。今までの人生で入院なんてしてこなかった私はどうも緊張する。恥ずかしい。

髪の毛をお団子にしてあげてる看護師さんは、同じくらいか少し年上だろうか。

手を動かしながら、ふふふっと突然笑った。

「ごめんなさい、面白い彼氏さんですね」

「は、ははは…変わってますよね…日本人じゃなくて…」

いや、日本人じゃなくてもあれは変人だけど。クマもL座りも言い訳になってないか。

「はじめ見た時驚きましたけど。でも、ずっと寝ずに付き添ってるってステーションで話題になってましたよ」

「…え」

「夜も寝ずに手を握って。それにこちらの説明もすごく理解が早いというか…医療関係者の方ですか?」

「いや、全然」

「じゃあ知識が豊富なんですね。とにかくナース間で話題でしたよ。愛されてるんですね」

そう言われて誇らしげになる私は単純だろうか。

この人はあのLです、なんて声高らかに言えないけど…

滲み出る非凡さが、ちょっと鼻高い。

「もう大分状態も落ち着いてるから寝るように言ってあげてください。あんなクマ見たら心配です」

「そ、そうですよね」

あのクマ、以前からずっとあるんですけどね…

「でも色白くてたしかに日本人離れしてますね。顔立ちもよくよく見れば綺麗だし」

「そう…ですかね?」

「ふふ、幸せそうで羨ましい」

そう笑われて、私はつい釣られて笑った。

そうなんです。すっごく変な人だけど、

私は最高に幸せものなんです。







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