5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そっと目を開けた。
痛みと少し息苦しさを感じる。
目だけを動かす。
白い壁、規則的なモニター音。
それと、
「…光さん?」
私をとんでもない顔で心配そうに覗き込む、あなた。
「エル…」
口から小さいけれど声が漏れた。少し掠れている。
顔を見るのがすごく久しぶりな気がする。
この三年間、一日たりともあなたと離れたことはなかったのに。
私が名を呼ぶと、彼ははあっと強く息を吐いた。エルが私の手を握っていたと気づく。
「あなたに何かあったら…私はどうしようかと」
小さな声。
私は手をそっと握り返した。
「心配…かけました」
「私があなたを救い出すのが遅かったせいです」
「ううん、来てくれたんだから…さすがエル
信じてたよ。」
私が言うと、エルはようやく小さく微笑んだ。
「また…クマ濃くなってる」
「あなたが隣にいないのに眠れません」
「もう…せっかく人間らしくなったのに」
「光さん…よかった。あなたを失うかもしれないと思った時、私は恐怖に溺れた。自覚していましたが…私は更に思い知らされました。私はあなた無しでは生きていけない」
まっすぐ目を見て言われた。
照れることすら出来ないほど、
あなたの目はブレない。
そんなあなたがとても好き。
胸を張って言える。
私はあなたを、心の底から愛しているんだと。
「私も…助かりたい、と思うより…あなたに会いたいと、思ってた」
あなたならきっと来てくれる。助けてくれる。
私があの状況で気が狂わなかったのは、紛れもなくあなたの存在のおかげ。
私こそ思い知らされた。どれほどあなたが好きで、
どれほど信頼しているかを。
「エル…助けてくれてありがとう。
あなたは世界一の私の恋人です」
エルは優しく微笑み、私の頭をそっと撫でた。
いつかぶりの、あなたの体温、あなたのぬくもり。
ああ、こんなにも私は幸せだ。
そばにいるだけで、幸せなんだ…
エルの黒い瞳を見て、私は少しだけ、泣いた。
少しして看護師が訪問し、医師も到着して状態を見られた。
血圧は安定、鼻から流れる酸素の濃度を下げるよう医者は看護師に指示していた。
そこで私は初めて、一時期生命が危うかったことを知らされた。
酷い脱水に肺炎を患った体に訳のわからない薬を投与されたのが一番の原因だと言う。
しかし点滴の投与などでそれなりに状態は落ち着いていたのだが、意識だけがなかなか戻らなかったらしい。
あの救出劇から、すでに3日経っていた。
その後再度レントゲンや採血などの検査が入り、Lは室外へ出された。
結果説明などをエルは医師から受けた。
そしてだいぶ経ってから再びLと二人になり、彼は事件の概要について教えてくれた。
「神谷たちは逮捕されました。切り裂き男が10歳の少女だと言うことに、日本中がひっくり返ってます」
Lは隣にある椅子にL座りで座ったまま話す。
私はほんの少しベッドの頭をギャッジアップしてもらい、Lの話を聞いていた。
まだ基本ベッド上安静の指示だった。しかしだいぶ落ち着いているため、明日から少しずつ動いてみようと先程説明を受けた。
「そりゃ思いもしないよね…私も油断してた。あのお茶飲んだの後悔してる」
「あなたの話を聞く限り油断しても仕方ない状況です。子供のわりに人間の心理をよく理解している。恐ろしいですね」
Lは苦い顔をして続けた。
「あなたを保護しに行く時、他の警察官2名で神谷を連行してるはずでした。しかし神谷は警察官2人に発砲して逃走、その足であの場所に来て、娘を助けるために更に発砲したようです。拳銃をずっと持ち歩いていたとは予想外でした」
「え…その警察官たちは?」
「重症ですが命に別状はありません。私も油断していました。もっと神谷に気を張ればあなたが撃たれることもなかったのに」
「でもかすったぐらいなんでしょう?全然平気。少し痛むくらい」
Lはふっと少し微笑む。
「あなたの予知能力については一部の警察官以外には漏れないようにしています。基本取り調べも夜神さんたちが行うとの事でした」
「まあ、もう能力ないんだけど…まさか10年以上も前から予知を利用する人たちがいるなんて、思いもよらなかった」
「お母様が危機を察知して何度も引っ越してなければ、あなた自身危うかったですね」
確かにそうだ。うまく母は逃れてくれていたのだと今更感心する。
本当に、感謝してもしきれない。
「しかし切り裂き男の共犯者が10年以上探してた女が私で…しかも日本に帰って少し本屋にいただけで見つけられなんて、私運悪すぎない?」
「最悪の偶然でしたね」
「おはらいしようかな…」
はーあと大きなため息をついた所で、病室のドアがノックされた。
「はい?」
「失礼します」
上品な声とともに入ってきたのは、ワタリさんだった。
「ワタリさん!」
私が嬉しくて声を上げると、彼はほっとしたように息を吐いて微笑んだ。
「意識を取り戻したと聞きまして…仕事も放り投げて来てしまいました。」
「ご心配おかけしました…」
ワタリさんはゆっくりベッドサイドに寄った。
「思った以上に顔色も良くて安心しました。酸素チューブも外れたんですか」
「はい、意識回復してしばらくしたら取れました。まだ色々繋がってますが…」
胸や指先には心電図モニター、腕には点滴。
まだまだ病人、って感じだな。
「でもとにかく安心しました…みんな心配してましたので、私から夜神さんたちには連絡を入れておきました。少ししたら来ると言ってましたが…」
「そういえばみんなが突入してきた時はびっくりしました!懐かしい顔があって…まさか夜神さんたちも私を探してくれてたなんて」
Lが隣で口を開いた。
「あなたを探し出す3日間ほとんど休まず自ら働いてくれました。あの方たちがいなければあなたにたどり着けませんでした」
…そうだったのか。
お礼を言わなければ…
2年ぶりの再会があんな形になってしまったのは悔やまれるけれど、みんなが私を探してくれていたのは素直に嬉しい。
一人ひとりの顔を思い浮かべて、胸が温かくなるのを感じた。
「とりあえずゆづきさんはまだまだ治療途中なのです。無理せずゆっくりするのが一番ですよ」
「はい、少しまだ咳も出ますしね」
「あまり長く話しすぎるのも…」
ワタリさんが言った時、いくつかの足音が廊下から響いた。
急いだようなノックの音が聞こえたかと思うと、こちらの返事も聞かないまま扉が開かれる。
一番に入ってきたのは、松田さんだった。
「ゆづきちゃ…!」
言い終わる前に、わたしと目が合う。
瞬間彼は目を見開き、その場でしゃがみこんだ。
「…よかったぁ〜…」
背後から相沢さん、夜神さん、模木さんも顔を覗かせる。
みんな私の顔を見た瞬間ほっと安堵感に包まれたような顔になった。
本当に、心配かけてたんだなぁ…
申し訳ないと思うと共に、私の心は温まった。こんなに心配してくれてることが、とても嬉しくてたまらない。
「ゆづきさん…!」
「よかった、目を覚まして…!」
口々にそう言いながら、皆さんが入ってくる。松田さんもよろよろと立ち上がってこちらへ歩いてくる。
「みなさん…ご心配をおかけしました…」
私が言うとみんなして首を振ってくれる。
「本当に無事でよかった。生きた心地がしなかった」
2年前から変わらない夜神さんが優しく微笑んでくれる。
隣で目を赤くした相沢さんが笑って言う。
「本当に。ゆづきさんが無事でなによりだ。本当によかった」
「Lから聞きましたが…私を探すのにほとんど休まず頑張ってくれてたって…みなさんがいないと見つけられなかったって。本当にありがとうございます」
私が言うと、みんな驚いたようにLを見た。当の本人は椅子に座って膝を抱えたまま何も言わない。
模木さんが首を振って言った。
「いや、結局は竜崎の推理に従ったまでだ。竜崎いなければ絶対に無理だった。警察が今まで手こずってた相手を3日で逮捕だからな」
「そうだよ〜竜崎なんてさ、3日間もちろん不眠でさらに角砂糖しか食べてなかったんだよ!血が出た親指ずっと噛んでて、不気味だったよ〜」
松田さんが言ったのを聞き、私ははっとLを見る。
彼はこちらを見ない。
「か、角砂糖だけ食べてたの??」
「あなたが作った物以外のもの食べたくありませんでした」
そういう Lの右手の親指には、確かに絆創膏が巻いてある。
「か、角砂糖だけって!監禁されてる私の食生活より酷いじゃない!」
「ちゃんとたくさん取って推理力には影響してません」
「推理力じゃなくて体を心配してるの!私が出て来れたあとはちゃんと食べてる?」
「ワタリが買ってきたシェコーベのケーキを…」
「またケーキばっかり!」
私と Lの掛け合いをぽかんとしながら見ていたみんなは、次の瞬間どっと笑い出した。
「わははは!あの竜崎もゆづきさんの前ではほんとタジタジだなあ!」
「いやー、仲いいですね、安心しました。懐かしいですよ、この掛け合い」
大口を開けて笑いながら言う夜神さんに模木さんを見て、私はつい赤くなる。
しまった、家の中にいるような感覚でいた…
しばらく笑い声が病室に響き渡った後、Lが思い出したように聞いた。
「神谷たちはどうですか」
その名前が出た途端、みんな険しい顔になる。
相沢さんが頭をかきながら言う。
「とんでもない親子としか言いようがないな。サイコパスの遺伝子だろうか。神谷はひたすら娘への愛情のためにやったんだと熱弁をふるっている。ゆづきさんの事はやはり会社の立て直しのために予知が欲しかったと…」
模木さんが続けた。
「ただ、神谷は神谷で歪んでるなりにまだ分かるというか…娘への異常な愛情、って感じで…
問題は神谷莉子の方だな」
その名を聞いて、ドキッとした。
天使のような美少女。その裏の悪魔の心。
夜神さんは腕を組んで首を傾げた。
「なんというか…会話にならない。受け答えとかは問題ないんだがな。その…」