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そっと目を開けた。

柔らかいソファで寝ていたようだ。

私は両手を伸ばし、うーんと伸びをする。

窓から入る暖かい空気に、光。

再び目を閉じそうになる。

「おはよう。起きた?」

そう声を掛けられ目をしっかり開けると、お母さんが笑いながら覗き込んでいた。

「うん、気持ちよくて寝ちゃった」

「ケーキ焼いたよ」

「わーい、起きよっと」

私は上半身を起き上がらせる。お母さんは目の前のテーブルにチョコレートのタルトを置いた。

「やった!頂きまーす!」

私は手を合わせてそう言うと早速フォークを手にとり一口かじる。

程よい甘みとコクのある美味しさが広がった。

「うーんおいし!」

「よかった」

お母さんも隣に腰掛けて、同じようにケーキを頬張る。

「同じように作っても、やっぱり全然違うんだよなぁ〜なんでだろ」

「あのね、お母さんこれでもプロだから。そう簡単に真似されちゃ終わりよ」

「それもそうか!」

笑いながらまた一口食べる。

「いつか完全再現したいな〜何かが違うんだよな〜」

「お母さんの一番得意だからね。自信作。そんな簡単に再現させませーん」

「でも私のケーキを、一流パティシエより美味しいって言ってくれる人もいるんだから!」

「ええ?誰が?」

「えーと…誰だっけ」

あれ?誰が言ってくれたんだっけ?

「忘れちゃった。誰だっけ、このケーキお気に入りなの…」

「お父さんと一緒ね」

「ん?」

「お母さんがお父さんに初めて作ったケーキ、これなの。」

「えー!そうなのー?」

お母さんは笑って言う。

「しかも…大失敗で!いやーあれホールで完食したお父さんはさすがだったわ」

「初めて聞いたー」

ケーキホール完食って、凄すぎる!

私は笑いながらお母さんに聞いた。

「お母さんはさ、お父さんのどこが好きだったの?」

「ええ〜…?どこかなあ?」

「首捻らなきゃ思い出せないの?」

呆れて見る。

「うそうそ、優しい人だったよ」

「ふーん?」

「ちょっと変わった人だったけどね」

「そうなの?」

「なんかこう…不器用っていうか。優しさを素直に周りに出さないの」

私は胸がちくっと、傷んだ。

あれ、なんだっけ、なんかあるんだけど。

「でも確かに優しい人だったよ。特にお母さんには」

「惚れた弱みってやつ?」

「そうそう、お母さんにベタ惚れでねー」

私はまたケーキを一口食べた。子供の頃から変わらない、懐かしい味。

なぜか涙が出そうになる。私、どうしたんだろう。

「お母さんはお父さんと結婚して正解だった??」

「大正解だったね。生まれ変わってもまた結婚したいね」

「うわー、ごちそうさまでーす」

「まだ残ってるわよ!」

「そういう意味じゃないよ!」

私が笑ってると、次に母は紅茶を入れてきてくれた。

湯気のたつそれが置かれる。鼻にうっとりとするくらいの香りがついた。

「やっぱケーキには紅茶でしょ」

「わ、うれしー、やっぱり紅茶だね!」

熱いのを息を吹きかけて冷ましながら、私は一口すする。

…あれ、なんか、懐かしい味?

なんだろう、心が温まる。それと同時に苦しくなる。

「いつもと茶葉違う?」

「よくわかったね」

「何か、懐かしい…?あれ、どこで飲んだんだろう」

高級感のあるこの香り。どこで嗅いだんだろう。

私は首を傾げながら、ふと自分が座るソファを見た。

「あれ、そういえばソファもこんな色だったっけ?」

「忘れたの?」

お母さんの、どこか試すような言い方。微笑みながらこちらを見ている。

「んーなんかやたら座り心地いいねー、こんな大きいの必要?って…」

座る人数もそんなに多くないくせに。

…誰が?

誰が、座るんだっけ?

私はモヤモヤしながらまたケーキを食べる。

ケーキに、紅茶、ソファ。

なんだろう、なんだかすごく懐かしい。

それに…

胸が、締め付けられる

何?なぜなの。

私は何を忘れてるの。

「##NAME1##は、お父さんみたいな人を好きになるのかな?」

隣で母が笑う。

私は首を傾げた。好きな人、か。

「どうかな?まあ優しい人がいいけど」

「周りからどう思われてもいいから、この人が好きだと胸を張れる人にしなさい。
 結局人間の中身と外見はまるで違うものよ。」

中身と外見か。

口の中に残るチョコレートの風味を楽しみながら思いを馳せる。

例えば、すごく変に見える人も、実際性格は優しかったり?

例えば、椅子の上でも膝抱えて座っちゃったり?

潔癖でもないくせに指先で物摘んだり?

靴下なんて絶対履かず、四六時中同じ服だったり?

例えば…

たと、えば…

「………」

「あとは?」

「……指の爪を噛むのが癖だったり、甘いものばっかり食べてたり…」

「そう、変な人ね」

「変な人だよね。でも…最高に優しくて、最高に愛情深い人なの」

そう言った瞬間、私ははっと母と向き直った。

お母さんは、優しく笑っていた。

「忘れてはだめよ、自分が命を懸けて好きになった人を」

「お母さん…」

「一度愛したなら責任もってずっと愛しなさい。そして愛されなさい。それが、幸せになる原則よ」

「…お母さんは、幸せだった?」

「当たり前なこと聞かないでくれる?馬鹿にしないで。お母さんは自分を不幸だなんて思いながら生きるような弱い人間じゃないの。ね、お父さん」

そう笑いかけた。はっと反対側を振り返ると、父が笑って座っていた。

目を細めてできる笑い皺。

懐かしい顔が、私の隣にいた。

「##NAME1##の気の強いところは、母さんに似たな」

「ふふ…そうかも。好きになる人のタイプも。」

私はそう笑って、涙をこぼした。

私の好きな人も、不器用だけど優しい人だよ。

ケーキをホールで食べれちゃう人だよ。

胸を張って…好きだと言える人だよ。

「エル……」

お母さんとお父さんが、私を挟むようにして抱きしめた。

温かい、家族のぬくもり。





あなたがいつものように座るあの隣に


私は戻りたい






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