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「洗濯してる時間があったら私にキスをしてください」
「え、エル…」
「掃除してる時間があったら私を押し倒して襲」
「ちょっとうるさいです」
「相変わらず恥ずかしがり屋ですね…」
笑うエルに、そっぽをむく私。
「そろそろ捜査報告がある時間でしょ?行くよ」
私が言うとようやくエルは腕を離す。そしてポケットに手を入れる。
裾を引きずりながらのそのそとリビングへ向かうエルの背中を、私も追う。
部屋に入ると、私は冷蔵庫から冷やしておいたケーキを取り出し、生クリームを添えた。
自分の分のお茶も用意し、リビングへ向かう。
「さあ、あなたの席は私の隣です」
エルにそう言われ、私は彼の隣のソファに腰掛ける。
「今日はガトーショコラですか」
「はい、たくさんあるのでどうぞ」
ケーキを焼き終え、掃除や洗濯も済んでしまうと私にやる事はない。
「新しい小説をワタリが買ってきてくれました。どうぞ」
言うエルの隣には、箱の中に並べられた小説がある。全て私が好きそうなジャンルのものだ。
エルが仕事をしている時、手持ち無沙汰の私は本を読んだり、英語の勉強をしたりするのがおもだ。
しかし…隣で難事件を解決する仕事をしてるエルの横で、かなり申し訳ない気持ちがある。
でも離れると先ほどのように私を探しにきては隣に来てください、と連れ戻される。
結局また座らさられるのだ。
「わあ、また面白そうなのばっかり。さすがワタリさん」
「あなたの好みはわかりやすいのでね。」
「しかし世界のLの隣で読書とは…贅沢すぎるなあー…」
「あなたなら隣にさえいてくれれば何をしてても良いのです。別にテレビをつけて見てても構いませんよ。ゲームでも用意しましょうか」
「…さ、さすがにね…」
私は早速面白そうなのを一冊取り出す。
「光さん」
「うん?」
「怖くなったらしがみついていいですよ」
「子供じゃあるまいし大丈夫」
「…残念です」
エルはそういうとパソコンへ視線を移す。
私はそんなエルの横顔を盗み見た。
エルとこっちへきて2年。
相変わらず全力で愛してくれているこの人は、私にとって一番大事な人。
しかしいつも籠の中で守られている私。エルの仕事をワタリさんのように手伝えるわけもなく、
料理するぐらいしかできる事はない。
もっと彼の役に立てたなら…と思わずにはいられない。
でも心配性をこじらせてるエルは私ひとりの外出さえ快くしないし…
家にこもりきりで体が鈍るから散歩に、と言ったら次の日には広い1部屋がトレーニングルームになっていた。
…甘い。
この人は、私に甘すぎるのだ。
「光さん。そんなに見られたら照れます」
「あ、バレてた」
「見惚れてましたか」
「悔しすぎるほど綺麗な肌に嫉妬してました」
「そこは、見惚れてたぞハート、と言うところです」
「ハートは何…?」
「文末に付けてください。恋人感が増します」
「どこでそんなの覚えてくるの…」
漫画や映画など見る時間などないはずのエルだけれど、なぜか意外と色んなどうでもいいこと知ってるんだよなぁ…
エルはこちらを見る。
「それと…また一人でマイナスな思考にならないで下さい。」
「…」
エル、読心術でも手に入れたのだろうか。
私はふっと笑う。
「すごいねエル、さすが世界の名探偵」
「それはLは関係ありません。私はあなたを愛してやまないひとりの男として見抜いたまでです」
微笑み、私の髪をそっと撫でた。
「愛してます、光さん」
「…知ってます」
そっとエルの顔が近づいたところで、エルのパソコンが鳴り響く。
英語でコンタクトが届いた。捜査報告がされるらしい。
エルはすっと表情を固めた。仕事の顔だ、エルからLへと。
私はそれを邪魔にならないように見ていた。
…いや
(見惚れてる、かな)
好きな人のそばで、ずっと彼を見て生活する。
大切な人が生きて、自分を愛してくれている。
この上ない幸せ。
そんな幸せが崩れる日が来ようとはー
この時は思いもよらなかった。
ある日、私は相変わらずエルの隣に座りレシピ本を読んでいた時のこと。ワタリさんが訪室した。
「失礼します」
「ワタリさん、お疲れ様です」
私は顔を上げて彼に言った。
いつもと変わらぬ紳士な彼は丁寧にお辞儀してくれる。
「L、先日のドヌーヴの依頼の件ですが」
「どのくらい行くことになる」
「1週間ほど必要かと」
「そうか」
エルは変わらずソファに座り考え事をしていた。親指の爪をかじりながらワタリさんと会話する。
私は主旨が掴めずただ二人の会話を眺めていた。
ワタリさんが気づいたのか、私に説明してくれる。
「私は仕事で今度はドイツへ飛ぶことになりまして」
「あ。そういうことなんですね。1週間ですか」
「ええ、それくらいかと」
Lの橋渡し役であるワタリさんは、仕事で時々海外へ何日か飛ぶことがあった。本当にこの人はすごいと思う。
今までも何度かそういったことはあった。ただ、必要なものは予め余分に用意してくれてるし、1週間ほどなら特に困ったことはなかったのだが…
「少々、Lと光さんにご相談があります」
「え?」
エルもワタリさんを見る。
「私がいない間、Lの右腕の役割をぜひ請け負ってみたいという者がおりまして…」
「…え、ワタリさんの代役ってことですか?」
「そうです。」
ワタリさんが言うと、エルは即座に言った。
「必要ない」
…言うだろうなと思ったけど。
ワタリさんはエルの親代わりで絶大な信頼を得ている。その代わりなんてなれる人、いないよなあ。
「しかし、ロジャーの頼みです」
「ああ、ロジャーさん」
ロジャーさんとは、エルが育った孤児院の現在の責任者だった。
私も一度だけ、エルに連れて行ってもらったことがある、ワイミーズハウス。将来有望な子供たちがいる孤児院。
「私のような補佐役を育てているようです。L以外にも、ワイミーズには将来有望な者がおりますので、いずれはLのような存在が出るやもしれません」
「すごーい」
「ワイミーズハウスの卒業生で、優秀な方です。L、知っていますよ」
「…誰だ」
「ジェシカです」
「…なるほど」
エルは天井を見上げる。考え事をする時の彼の癖だ。
ワタリさんは続けた。
「私がいない1週間のみ、体験ぐらいの感覚でしょう。そこまで大きな仕事はさせません。」
「……」
「Lも知ってる者なのでまだいいかと思ったのですが…」
Lの知り合い。ワイミーズハウスの卒業生。
私は俄然どんな人か気になってしまう。
エルは何も言わずじっと考えていた。しかししばらく経ち、ワタリさんの方を見る。
「1週間だけだ。データ処理や情報収集を主にさせるのみとする」
「わかりました、ロジャーに伝えておきます。」
エルは私の方を向き直る。
「よいですか、光さん」
「あ、私は全然…エルの仕事のことだし…」
エルの知り合い、興味あるし。
「では引き継ぎをしてまた連れて参ります。」
ワタリさんはそう言うと、また仕事があるらしくそのまま部屋から出て行った。
「…ワタリさんの代役なんて、初めて」
「代役というほどのこともさせません」
「どういう人なの?」
エルは目の前にあった紅茶を飲み、ケーキを一口頬張った。
「私の後輩ですね。ほとんど話したことはないけれども顔ぐらい知ってます。非常に優秀な者だという事も」
「エルが優秀って言うほどならよっぽどだね…!」
「年は光さんより2.3下だったと思います。あなたにとってもいいかもしれません、年の近い女性の話し相手がいれば」
「…あ、女の子!?」
そうか、ジェシカって言ってたか。
ワタリさんが男性だから、勝手に男の人を想像していた。
まさか年下の女の子が来るとは…
「ワイミーズの卒業生で今も訓練されてる者ですので、私や光さんの情報の守秘もよっぽど大丈夫でしょう」
「わあ…仲良くなれるといいなぁ…」
なんてったって、イギリスへ来てから話す相手はエルとワタリさんのみ。時々友達のミサと電話するだけ。
元々友達いないのが悪いんだけど。
年の近い女の子と話せるの、ちょっと嬉しい。
「光さんはいつもどおり、私の隣にいてくれればいいので。そこは断固変わりません」
「は、はい…」
「ケーキ、おかわりください」
いつのまにか空っぽになっていたエルのお皿を見て微笑む。今日も気に入ってくれたみたいでよかった。
私はキッチンへ立ち、ケーキを切るとまた生クリームを添える。
「エルの昔の話とか、聞けちゃったりしないかなぁ…」
「私の昔、ですか?」
エルは何やら分厚い資料をめくりながら答える。
「ワタリさんにも聞いたことあるけど…同じ出身の人からは聞いたことないから」
「私は変わりませんよ、昔から」
「ふふ、想像つくけど。人から見てどうだったのかなーとか」
「そんなこと聞いてどうするんです」
私は盛り付け終えたケーキを持ち再びエルの座るソファへ近づいた。
「だって、私の知らない昔のエル…知りたいから。好きな人の事、なんでも知りたい」
エルにお皿を差し出した。
彼はこちらを見上げる。
丸い黒目。
「…あなたは」
「はい、おかわ…」
エルはケーキの乗ったお皿をさっと取ると、それとは反対の手で私の腕を引っ張った。
「わ…!」
突然腕を引かれた私はエルの元へと倒れ込む。
彼は器用にも片方の腕はケーキを崩さないよう持ち上げたままキープし、もう片方で私を抱きしめる。
「ちょっとエル…」
「あなたはいつになったら私の心を揺さぶるのをやめてくれるんですか」
「え」
「とんでもないです。末恐ろしい」
そう言って、彼は口角を上げて私を見た。エルの顔が近い。
何となく私は恥ずかしくなって顔を熱くさせるが、ここで引いたら負け。
「そんなつもりはないけど…」
「無意識にやるんですね。なお恐ろしい。あなたは昔からそうです」
「じゃあ…揺さぶらない方がいいですか?」
私がたずねると、エルは困ったように笑った。
「…いいえ。心地よい揺さぶりです」
そう言って、ゆっくりキスを落とした。
ガトーショコラの味がする、温かなキスだった。
「え、エル…」
「掃除してる時間があったら私を押し倒して襲」
「ちょっとうるさいです」
「相変わらず恥ずかしがり屋ですね…」
笑うエルに、そっぽをむく私。
「そろそろ捜査報告がある時間でしょ?行くよ」
私が言うとようやくエルは腕を離す。そしてポケットに手を入れる。
裾を引きずりながらのそのそとリビングへ向かうエルの背中を、私も追う。
部屋に入ると、私は冷蔵庫から冷やしておいたケーキを取り出し、生クリームを添えた。
自分の分のお茶も用意し、リビングへ向かう。
「さあ、あなたの席は私の隣です」
エルにそう言われ、私は彼の隣のソファに腰掛ける。
「今日はガトーショコラですか」
「はい、たくさんあるのでどうぞ」
ケーキを焼き終え、掃除や洗濯も済んでしまうと私にやる事はない。
「新しい小説をワタリが買ってきてくれました。どうぞ」
言うエルの隣には、箱の中に並べられた小説がある。全て私が好きそうなジャンルのものだ。
エルが仕事をしている時、手持ち無沙汰の私は本を読んだり、英語の勉強をしたりするのがおもだ。
しかし…隣で難事件を解決する仕事をしてるエルの横で、かなり申し訳ない気持ちがある。
でも離れると先ほどのように私を探しにきては隣に来てください、と連れ戻される。
結局また座らさられるのだ。
「わあ、また面白そうなのばっかり。さすがワタリさん」
「あなたの好みはわかりやすいのでね。」
「しかし世界のLの隣で読書とは…贅沢すぎるなあー…」
「あなたなら隣にさえいてくれれば何をしてても良いのです。別にテレビをつけて見てても構いませんよ。ゲームでも用意しましょうか」
「…さ、さすがにね…」
私は早速面白そうなのを一冊取り出す。
「光さん」
「うん?」
「怖くなったらしがみついていいですよ」
「子供じゃあるまいし大丈夫」
「…残念です」
エルはそういうとパソコンへ視線を移す。
私はそんなエルの横顔を盗み見た。
エルとこっちへきて2年。
相変わらず全力で愛してくれているこの人は、私にとって一番大事な人。
しかしいつも籠の中で守られている私。エルの仕事をワタリさんのように手伝えるわけもなく、
料理するぐらいしかできる事はない。
もっと彼の役に立てたなら…と思わずにはいられない。
でも心配性をこじらせてるエルは私ひとりの外出さえ快くしないし…
家にこもりきりで体が鈍るから散歩に、と言ったら次の日には広い1部屋がトレーニングルームになっていた。
…甘い。
この人は、私に甘すぎるのだ。
「光さん。そんなに見られたら照れます」
「あ、バレてた」
「見惚れてましたか」
「悔しすぎるほど綺麗な肌に嫉妬してました」
「そこは、見惚れてたぞハート、と言うところです」
「ハートは何…?」
「文末に付けてください。恋人感が増します」
「どこでそんなの覚えてくるの…」
漫画や映画など見る時間などないはずのエルだけれど、なぜか意外と色んなどうでもいいこと知ってるんだよなぁ…
エルはこちらを見る。
「それと…また一人でマイナスな思考にならないで下さい。」
「…」
エル、読心術でも手に入れたのだろうか。
私はふっと笑う。
「すごいねエル、さすが世界の名探偵」
「それはLは関係ありません。私はあなたを愛してやまないひとりの男として見抜いたまでです」
微笑み、私の髪をそっと撫でた。
「愛してます、光さん」
「…知ってます」
そっとエルの顔が近づいたところで、エルのパソコンが鳴り響く。
英語でコンタクトが届いた。捜査報告がされるらしい。
エルはすっと表情を固めた。仕事の顔だ、エルからLへと。
私はそれを邪魔にならないように見ていた。
…いや
(見惚れてる、かな)
好きな人のそばで、ずっと彼を見て生活する。
大切な人が生きて、自分を愛してくれている。
この上ない幸せ。
そんな幸せが崩れる日が来ようとはー
この時は思いもよらなかった。
ある日、私は相変わらずエルの隣に座りレシピ本を読んでいた時のこと。ワタリさんが訪室した。
「失礼します」
「ワタリさん、お疲れ様です」
私は顔を上げて彼に言った。
いつもと変わらぬ紳士な彼は丁寧にお辞儀してくれる。
「L、先日のドヌーヴの依頼の件ですが」
「どのくらい行くことになる」
「1週間ほど必要かと」
「そうか」
エルは変わらずソファに座り考え事をしていた。親指の爪をかじりながらワタリさんと会話する。
私は主旨が掴めずただ二人の会話を眺めていた。
ワタリさんが気づいたのか、私に説明してくれる。
「私は仕事で今度はドイツへ飛ぶことになりまして」
「あ。そういうことなんですね。1週間ですか」
「ええ、それくらいかと」
Lの橋渡し役であるワタリさんは、仕事で時々海外へ何日か飛ぶことがあった。本当にこの人はすごいと思う。
今までも何度かそういったことはあった。ただ、必要なものは予め余分に用意してくれてるし、1週間ほどなら特に困ったことはなかったのだが…
「少々、Lと光さんにご相談があります」
「え?」
エルもワタリさんを見る。
「私がいない間、Lの右腕の役割をぜひ請け負ってみたいという者がおりまして…」
「…え、ワタリさんの代役ってことですか?」
「そうです。」
ワタリさんが言うと、エルは即座に言った。
「必要ない」
…言うだろうなと思ったけど。
ワタリさんはエルの親代わりで絶大な信頼を得ている。その代わりなんてなれる人、いないよなあ。
「しかし、ロジャーの頼みです」
「ああ、ロジャーさん」
ロジャーさんとは、エルが育った孤児院の現在の責任者だった。
私も一度だけ、エルに連れて行ってもらったことがある、ワイミーズハウス。将来有望な子供たちがいる孤児院。
「私のような補佐役を育てているようです。L以外にも、ワイミーズには将来有望な者がおりますので、いずれはLのような存在が出るやもしれません」
「すごーい」
「ワイミーズハウスの卒業生で、優秀な方です。L、知っていますよ」
「…誰だ」
「ジェシカです」
「…なるほど」
エルは天井を見上げる。考え事をする時の彼の癖だ。
ワタリさんは続けた。
「私がいない1週間のみ、体験ぐらいの感覚でしょう。そこまで大きな仕事はさせません。」
「……」
「Lも知ってる者なのでまだいいかと思ったのですが…」
Lの知り合い。ワイミーズハウスの卒業生。
私は俄然どんな人か気になってしまう。
エルは何も言わずじっと考えていた。しかししばらく経ち、ワタリさんの方を見る。
「1週間だけだ。データ処理や情報収集を主にさせるのみとする」
「わかりました、ロジャーに伝えておきます。」
エルは私の方を向き直る。
「よいですか、光さん」
「あ、私は全然…エルの仕事のことだし…」
エルの知り合い、興味あるし。
「では引き継ぎをしてまた連れて参ります。」
ワタリさんはそう言うと、また仕事があるらしくそのまま部屋から出て行った。
「…ワタリさんの代役なんて、初めて」
「代役というほどのこともさせません」
「どういう人なの?」
エルは目の前にあった紅茶を飲み、ケーキを一口頬張った。
「私の後輩ですね。ほとんど話したことはないけれども顔ぐらい知ってます。非常に優秀な者だという事も」
「エルが優秀って言うほどならよっぽどだね…!」
「年は光さんより2.3下だったと思います。あなたにとってもいいかもしれません、年の近い女性の話し相手がいれば」
「…あ、女の子!?」
そうか、ジェシカって言ってたか。
ワタリさんが男性だから、勝手に男の人を想像していた。
まさか年下の女の子が来るとは…
「ワイミーズの卒業生で今も訓練されてる者ですので、私や光さんの情報の守秘もよっぽど大丈夫でしょう」
「わあ…仲良くなれるといいなぁ…」
なんてったって、イギリスへ来てから話す相手はエルとワタリさんのみ。時々友達のミサと電話するだけ。
元々友達いないのが悪いんだけど。
年の近い女の子と話せるの、ちょっと嬉しい。
「光さんはいつもどおり、私の隣にいてくれればいいので。そこは断固変わりません」
「は、はい…」
「ケーキ、おかわりください」
いつのまにか空っぽになっていたエルのお皿を見て微笑む。今日も気に入ってくれたみたいでよかった。
私はキッチンへ立ち、ケーキを切るとまた生クリームを添える。
「エルの昔の話とか、聞けちゃったりしないかなぁ…」
「私の昔、ですか?」
エルは何やら分厚い資料をめくりながら答える。
「ワタリさんにも聞いたことあるけど…同じ出身の人からは聞いたことないから」
「私は変わりませんよ、昔から」
「ふふ、想像つくけど。人から見てどうだったのかなーとか」
「そんなこと聞いてどうするんです」
私は盛り付け終えたケーキを持ち再びエルの座るソファへ近づいた。
「だって、私の知らない昔のエル…知りたいから。好きな人の事、なんでも知りたい」
エルにお皿を差し出した。
彼はこちらを見上げる。
丸い黒目。
「…あなたは」
「はい、おかわ…」
エルはケーキの乗ったお皿をさっと取ると、それとは反対の手で私の腕を引っ張った。
「わ…!」
突然腕を引かれた私はエルの元へと倒れ込む。
彼は器用にも片方の腕はケーキを崩さないよう持ち上げたままキープし、もう片方で私を抱きしめる。
「ちょっとエル…」
「あなたはいつになったら私の心を揺さぶるのをやめてくれるんですか」
「え」
「とんでもないです。末恐ろしい」
そう言って、彼は口角を上げて私を見た。エルの顔が近い。
何となく私は恥ずかしくなって顔を熱くさせるが、ここで引いたら負け。
「そんなつもりはないけど…」
「無意識にやるんですね。なお恐ろしい。あなたは昔からそうです」
「じゃあ…揺さぶらない方がいいですか?」
私がたずねると、エルは困ったように笑った。
「…いいえ。心地よい揺さぶりです」
そう言って、ゆっくりキスを落とした。
ガトーショコラの味がする、温かなキスだった。