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倒れ込んだゆづきの上に、Lが体をかぶせて庇う。
ワタリが瞬時に神谷の脚を打った。
命中し、神谷はその場に崩れ落ちた。
素早く相沢が神谷に突進し、模木もそれにつづいた。
「莉子から…離れろ!」
尚も神谷は拳銃を翳そうとし、その手を松田が打つ。
男たちに次々に押され、神谷は床に倒れ込む。
「…ゆづき!」
Lは倒れ込んだゆづきを抱き抱えて呼ぶ。その右肩からは赤い血が出、洋服をじわじわと染めた。
ジェシーは呆然としながらも、あわててゆづきの傷口を見た。
まず一番恐れるのは失血死だ。
「L、止血を!」
Lはジェシーがポケットから出したハンカチでしっかり傷口を抑えた。
ああ、私の腕の中にいたのに。
完全に油断していた。
傷口を抑えるLの手が震える。今まで感じたことのない恐怖が心を覆い尽くした。
「ゆづきさん!!!」
相沢たちの悲痛な声が響いた。
Lは震えつつも、抑えている傷口を観察した。
落ち着け、落ち着かねば。
Lは自分に言い聞かせる。
傷口をみて、まずLは一つ冷静になった。
「… 擦過射創です」
つまりは、銃がかすった状態だった。
一番最悪な状態は避けれているようだった。ジェシーがほっとしたのがわかる。
しかし、ゆづきは意識を手放したまま起きない。
ワタリが言った。
「竜崎!救急車が到着いたしました、すぐにゆづきさんを運びましょう」
Lは傷口を抑えつつゆづきを抱えた。一瞬、彼女の顔が苦痛で歪んだ。
「ゆづき、頑張ってください…!あと少しです」
真っ白なそのくちびるは、何も答えなかった。
到着した救急車にゆづきは運ばれた。
すぐさま発進し、車内で血圧測定や酸素飽和度が測定される。
その数値を見てLは息を飲み込んだ。
明らかに、低い。
彼女はLの呼びかけにも、救急隊員の呼びかけにも答えられなかった。
神谷と莉子はすぐ後に来た応援の警察官達に連れられ病院へ運ばれた。
莉子は一時的に意識を失っていただけですぐに回復した。
神谷は足と手を負傷したが、命に別状はなく意識もしっかりとあった。
そんな中唯一、ゆづきだけが意識を取り戻さなかった。
「えっ…なんですって?」
応援に来た他の警官と共に神谷たちを病院へ連れて行ったあと、松田はようやくゆづきの元へ訪ねた。
夜神たちは病院へ運び込まれた莉子たちの付き添いと、上司への報告を余儀なくされ、まだゆづきの元へ来れていなかった。
「ゆ、ゆづきさん… 擦過射創だったんでしょう?」
震える声で尋ねる。ワタリが神妙な面持ちで答えた。
後ろには、長椅子に膝を抱えて小さくなったLが座っていた。
いつもの白い服には、ゆづきの物である赤い血がこびりついていた。
「酷い脱水、それと寒い中放置されてた為肺炎もあり…そこへ神谷莉子が服用させた薬…。そして擦過射創といえども銃撃をうけて…」
「…危ない、ってことですか…?」
ワタリは答えなかった。しかしその沈黙は、何より大きな肯定を表していた。
「血圧も低下…酸素濃度も低く上がらず…」
「そ、んな…!」
松田は愕然とした。
Lを見た。Lは何も言わず、ただ膝を抱えて座っていた。ジェシーが心配そうにそれを見ている。
松田はかける言葉もなく、ただ拳を握りしめる。
「ぼ、僕…局長たちにも伝えてきます…!」
松田はそれだけいうと、足音を響かせながら走り去って行った。
遠ざかる足音を聞きながら、悲痛な沈黙は流れる。
「…あの子、私を庇った」
ジェシーがぽつりという。
「…なんで庇ったのかしら」
私は、あの子に酷く当たってきたのに。
ずっと口を開かなかったLが、小さな声で言った。
「彼女はそういう人です。目の前で命の危機にあってる者がいれば…何も考えず自分を差し出せる。そんな人です」
ジェシーはああっと空を仰いだ。
ワタリは何も言わずLを見ていた。
Lは膝を抱え、小声で言った。
「私のせいです。私がもっと早く助け出せていれば」
「あなたの推理がなければここまで来れていませんでした。自分を責めるのはやめてください」
ジェシーは必死に反論する。
Lは答えなかった。
「……ワタリ、ジェシー」
ぽつんと、彼は言う。
「もし彼女に何かあれば…私は、Lを退きます」
「…!」
ぎょっとし、ジェシーはLを見た。
「私の資産も、何一ついりません。寄付するなり後継者に譲るなり好きにしてください」
ワタリは何も言わなかった。
「L、あなた…!」
『彼女は私の全て、私の命』
そう言っていたLの言葉を、ジェシーは思い出していた。