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「…何を、言ってるの…?」
ようやく絞り出せた言葉がそれ。自分の言葉の単語の少なさを嘆いた。
莉子ちゃんはまるで表情を変えずに私を見ている。
「莉子ね、ずっと前から、人を解剖したかったの。」
抑揚のない声。私が知ってる莉子ちゃんはそこにはいない。
「犬とか猫で我慢できなくなって…お父さんにお願いしたの。お父さんはね、凄く頭良くて優しいの!莉子のために、用意してくれたの。人間。」
「…はあ…?」
「さらうのと捨てるのはお父さん。莉子は解剖する役目。そうやって今までやってきた。お父さんが切り裂き男ともし疑われても安心。利き手も違うし、解剖する日は必ずお父さんが出張の日だから。」
「…それが、今回はたまたま…私になった?」
「今回は特別だよ。お父さんがお姉さんを見て、予知力欲しいからってさらってきたの。でももしお姉さんに力が無かったら、莉子にくれるって言ってた。」
心臓がドキドキと高鳴る。
回らない頭を必死に回転させた。
莉子ちゃんが、切り裂き男。そのサポートが、神谷だった。
「予知、見えたの。あのね…」
「もう遅いよ、お姉さん」
トゲのある低い声。
私は息を飲んだ。
「だってもう…家に入られるくらい疑われてるんだよ。お姉さん飼うなんて無理だよ。」
絶望の言葉。目の前が真っ暗になった気がした。
「それだけ疑われたら、莉子ももうこれ以上は解剖出来ないや。お姉さんで最後だって」
喉から空気だけが漏れた。
寒さからか、手足の感覚がなくなっていく。私は力を入れるために、ぐっと両手を握りしめる。
その様子を見て、莉子ちゃんは笑った。
「あ。効いてきた?」
…え?
はっと、ほとんど空になったペットボトルを見た。
ま、さか…
「お姉さん油断したね。最初は莉子の差し入れもちゃんと確認してたのに。何も疑わず飲んだでしょう?」
卒倒するのを何とか堪えた。
確かに油断した。何も考えずに与えられたものを口にした。
そのために、これだけ長時間放置してたの?
「その薬凄いんだよ。これもお父さんがくれたんだけど、体動かなくなってもしばらく意識あるみたいなの。莉子に切られるのを怯えた目で見てくるのがわかる」
「…狂ってる」
「そう、莉子はおかしい。あのね、寒くて時間も分かんない所に閉じ込められてると、凄い怖かったでしょ?そんな時莉子が来るとみんなすごく喜んで信頼してくれるの。
そんな莉子が切り裂き男だと分かって切られるの、凄い顔で悲しむ。その顔がね、莉子堪らなく好きなの!」
目眩に襲われる。それは盛られた薬の効果か、この少女の恐ろしい正体に対する自分の反応なのか、私にはわからなかった。
莉子ちゃんはランドセルを床に置いて開く。そこには教材など何も入っていなかった。
数多くの、凶器。
「これ以上罪を重ねないで。きっとあなた自身が切り裂き男だとすぐにバレる!」
「えーバレるかなぁ?だって誰もこんな子供が切り裂き男だなんて思わなくない?現に、今疑われてるのお父さんみたい。」
「…思う人がいる、必ずあなたの正体なら気づく人を、知っている」
Lなら、
きっと真相に気づくはず。
「だとしてもいいや。莉子、どーしてもお姉さんの『中身』見たいから。」
その小さな手には不釣り合いの、大きな刃を取り出した。
可愛らしく細い腕と武器はあまりにアンバランスで違和感がある。
手足が痺れてる。足枷の痛みも感じなくなってきていた。
「怖い?お姉さん」
「……」
「怖いよね。みんな凄い泣き喚いてた」
「…あなたに一つ教えてあげる」
ぐっと力を込めて、何とか座位を保持する。
「本当の恐怖ってね…自分を失うことじゃない。
自分の大切な人を失うことなのよ」
彼女をしっかり見つめた。
怖くないわけない。
泣き喚きたい。
でも、私はこの恐怖に屈さない。
何もできないこの状況で、あなたの望むようなシチュエーションを展開させてあげない。
それが私にできる唯一の抵抗。
……Lのことを思ってればきっと、こんな恐怖心飛ばされる。
Lを失うかもしれないと思ったあの日に比べたら、私は今笑う余裕がある。
「やっぱりお姉さんおもしろーい。変わってるね」
そう、彼女は嬉しそうに笑った。
とうとう手足は感覚が無くなった。かろうじて倒れるのだけは堪えれた。
「ごめんね、お姉さん」
全く謝罪感などない言葉を、その小さな唇は告げた。
その時、背後の扉が開かれるのが分かった。
莉子ちゃんもそれに瞬時に気づき、私の背後に回って首に刃を当てた。
はっとし目で音の正体を追った。
まさか、と思った。
入ってきたのは、懐かしい相沢さんの顔だった。
その次に夜神さん、松田さんが次々入り込む。
彼らは私を見た瞬間目を見開いて驚愕した。
そして持っていた拳銃をこちらを向けた。
「その人を離しなさい!」
なぜ、この人たちがここに。
そう心の中で呟いた瞬間、扉からはワタリさんが入ってきた。
そして、
鋭い目でこちらを睨みながら立つLがーーー
「…え…る…」
小さく呟いた。彼は私の姿を目に入れた瞬間、はっと目を見開き、しかしすぐまた厳しい顔になった。
ゆっくりと部屋に入る。
「近寄らないで。このお姉さん、もう薬飲んじゃってるから、あんまり動けないよ。莉子がこの包丁サクってやったらおしまいだよ」
私は改めて自分が警戒心なくお茶を飲んだことを悔やんだ。
体さえ自由に動けば、10歳相手の子ならなんとか出来たかもしれないのに。
捜査員たちはじりじりとゆっくり、扉から壁伝いに私達の正面へ回り込む。莉子ちゃんもそれをしっかり目で追う。決して手を緩めない。
「武器を捨てなさい、神谷莉子」
Lの低い声が響いた。
「もう逃げられません」
Lが言うと、莉子ちゃんは心外だと言うように目を丸くした。
「莉子逃げるつもりなんてないよ?だって、もうバレてるんでしょ?」
Lはゆっくり親指を噛んだ。
「メディアが作った切り裂き男というピッタリなネーミングに踊らされた自分が恨めしいです。若い女性がターゲットというだけで植え付けられたイメージ…まさか切り裂き男が、男ではなく…さらに大人でもないとは。」
「やっぱりバレてたー」
あっけらかんと、彼女は言った。