「ねえ、お姉さん、何者?」

そう言った彼女の声は冷たく、低く、まるで感情がこもっていないようだった。

私はぞくりと背筋に寒気をかんじる。

莉子ちゃんは真顔のまま私を見つめている。

「…え?」

「ただの予知力ある人じゃないでしょ。何者?」

口調がまるで違う。おどおどした、子供らしさがない。

「…どういう意味?」

「昨日ね、うちに男の人が入ってきたんだよ」

どきっとする。

まさか、

L…!?

莉子ちゃんは無表情のまま続ける。

「うちってね。すごーく広い家なの。莉子の部屋のエアコンの中に小型のカメラ付けてるの、さすがに気付かれなかったみたい。でさ、おかしくない?」

「…え」

「どう見てもお姉さん探してたの。けど、警察だとしても、逮捕もしてない人の家にコッソリ上がって調べるなんてさ。普通じゃないでしょ。」

「……」

間違いない、Lだ。

Lは、もうそこまできてたんだ。

嬉しさと同時に、この異様な空気に私の心は震え上がる。

莉子ちゃんは私の顔を覗き込む。

「ね?お姉さん、何者?まず第一に、莉子のとこまで来れるって凄いしさ。あのお父さんが必死に考えたルート追ってくるなんて」

「…莉子ちゃん、あなたこそ…」

喉から掠れた声が出る。

普通じゃない。

これは、

誰?

「あなたこそ、何者なの?」

私が尋ねると、その少女はにっこり笑った。




「莉子はね、『切り裂き男』だよ。」



そう言って、左手で髪をかき上げた。





『りゅ、竜崎!動きました』

模木から通信が入った。

午前4時。まだ辺りは日も登らず薄暗い。

Lはガタリと体を起こした。

『この早くに…ランドセルを背負って出て行った』

「決まりです。そのまま尾行を続けてください。自転車の発信器はきちんと作動しています」

パソコンの中の地図に、神谷のもの以外にもう一つ赤く点滅する光があった。ゆっくりと、動いている。

Lは捜査員皆にマイクでつげた。

「動きました。その先に##NAME3##がいるとみて間違いありません。発信器のデータをそれぞれ送ります、みんな向かってください。相手は子供といえど確保に細心の注意を払ってください」

『ま、まさか、本当に…?』

戸惑う夜神の声が聞こえる。

そう思うのは無理もない。だがこれは、確定だ。

『竜崎、父親の神谷はどうする』

「警察庁長官にすでに連絡してあります。令状は後付けでもいいから彼を連行するよう。もうすぐそこに応援の警察官が来るはずです、来たら張り込みを代わって夜神さんはこちらに来てください。』

神谷も頭の回る男だから要注意だが、

何より武器を持ってるであろうあの少女から##NAME3##を救出することの方が人手は必要だ。

「私も、行きます。」

そういうとLはマイクのスイッチを切った。

そしてゆらりと、ソファから立ち上がる。

ようやくここまで来れた。この私が、こんなに時間がかかってしまうとは。なんという不覚。

そばで聞いていたジェシーは驚く。キッチリジャケットを着ていた。Lと気まずくありながらもちゃんと仕事場に戻って来たのは、彼女の責任感の強さを表していた。

「L、あなたは総指揮です、ここにいて下さい」

「いいえ。##NAME3##を迎えにいきます。ワタリ、車を」

そう言って最後に角砂糖を口いっぱい頬張ると歩き出す。

ジェシーはLの前に立ち彼を見上げた。

「L!確保は彼らに任せておきましょう、心配なら私とワタリも行きます!あなたは…」

「##NAME3##の救出です。待ってなどいられません」

「分かってくださいL!…あなたは世界のLなのですよ。危険な事はしないでください…!あなたに、もしもの事があったら…!」

ジェシーは必死にそうLに訴えた。だが、Lはまるで意志を揺らさなかった。

黒い瞳でジェシーを見つめ、冷静な声で言った。

「私はLです。しかしその前に、一人の人間です」

なお引き止めようとするジェシーの肩に、ワタリが手を置いた。

「ジェシー。無駄です」

「でもワタリ…!」

「私は止めません。初めにお話ししたはずです。Lにとって##NAME3##さんという存在の大きさを」

ぐっとジェシーは押し黙る。Lは構わずスタスタと部屋から出て行こうと歩く。

「…分かりました、この身をかけて、Lを守ります」

そう彼女は固く、誓った。





 
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