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一人部屋に取り残されたLは、神谷の家に侵入したときの映像を見ていた。
違和感、なにか違和感を感じていた。
それを辿る糸を彼はずっと探していた。
角砂糖を手にとり口に入れる。
神谷の動きはない。就寝したのか。
爪を噛もうとして、また血のついた指先が目に入った。
今までさまざまな事件を解決してきたが、…爪を無意識に噛み砕いたのは初めてだ。
いつも楽しそうに料理する彼女を思い出す。
なめらかな手先で作られる甘い食べ物。
その小さな手で包まれる調理器具が羨ましいほど、あなたの手が好きだった。
キッチンに立ち、いつも笑いながら作っていた。
もう一度、その画を見たい。
血の出た右手の親指をじっと見つめていた時、ふっとLは冷静になった。
頭が冷えたような気がした。
……もしや。
素早い動作でパソコンを操作し、気になる部分を見た。
その瞬間、Lの頭に雷が落ちような感覚に陥った。
全ての糸がつながる。
バラバラだったピースがつながり一つの絵を生み出す。
なぜ神谷のやり方は切り裂き男のやり方と酷似してるのか。
なぜ神谷は利き手も違い、完璧なアリバイがあるのか。
なぜ神谷は監禁したゆづきの元へ訪れようとしないのか。
私ともあろうものが、こんな単純なことに気づかなかったとは。
どれほど冷静さを見失っていたか…。
はあ、と彼は大きく息を吐いた。
そしてすぐに、マイクを手に取る。捜査員全てにその声が響いた。
「尾行対象を変えます」
もう座位を保持することさえ出来なくなった私は、冷たい床に横になっていた。
手先も、足先も、冷たい。
その反対に頭は熱い。熱があるのかもしれなかった。
ぼんやりとした視界は、変わらず誰もいない空間を映していた。
あれ以降、莉子ちゃんは来なかった。
どれほど時間が経ったのか分からない。でも、今までの中で一番長い時間なのは間違いなかった。
彼女がくれたカイロは8時間持ちと書いてあった。多少誤差があるだろうが、すでに3個分使い終わり固く冷え切っていた。
なぜ、来なくなったんだろう。
乾いた喉が痛い。唇も乾燥して割れてしまっている。
ここに監禁されてから、彼女が差し入れてくれた小さなペットボトルしか口に出来ていない私は極限状態だった。
覚える絶望。
思い浮かぶはあの人。
一枚の毛布にくるまりながら、私はただ体力を使わないように過ごしていた。
莉子ちゃん。あの子に、聞きたい事がある。
今はいつの何時なんだろう。3日の期限はいつなのだろうか。
そうだ、予知…嘘の予知は…
回らない頭で考えていると、背後の扉が開く音に気がついた。
私ははっとする。
小さな顔が、こちらを見ていた。
どっと安堵感に包まれる。私はだるい体をなんとか持ち上げた。
「莉子ちゃん…!」
莉子ちゃんは恐る恐る私に近寄る。また手にはコンビニの袋があった。
「きて、くれたの…」
掠れた声を何とか出した。口の中も乾き、唾液は粘りついていた。
「ごめんね、お姉さん…お父さんから来るなって言われてて…」
彼女は袋を差し出す。私はなんとか受け取る。
中に入っていた温かいお茶が、まるで砂漠のオアシスのように見えた。
お腹の減りはとうに極限を超えていた。食べたいという気持ちは湧かなくなっていた。
とにかく、水分。水分が欲しい。
私はお茶の封を開けると、一気にそれを流し込む。
乾ききった体に満ちる、水。
まさに生き返ったような感覚に陥った。
莉子ちゃんは心配そうにこちらを見ている。
私はふうと息をつき、彼女をみた。
「ありがとう…凄く、助かった…」
莉子ちゃんはニコリと笑う。私も釣られて笑った。
袋の中を見ると、やはりまたおにぎりとパンが入っていた。
それもありがたいが、…やはり水分。
私はまたもっていたお茶を飲んだ。ペットボトルの8割ほどが私の胃袋へ流れる。
またはあと息をついた。
「喉乾いてたの…莉子ちゃんが来てくれなかったら、大変だったかも」
そう言いつつ彼女をよく見ると、ランドセルを背負っていた。
色はピンク色。今から行くのか、帰りなのか。
完全に時間軸が分からなくなった私には想像もつかなかった。
「学校今からいくの?」
答えてはもらえないだろうと思いつつ聞いてみると、彼女はうんとうなずいた。
「…あ、れ、そうなの…」
突然のことに驚く。今まで教えてくれなかったのに、なぜ?
ともかく、今は早朝ということらしい。
「莉子ね、お姉さんに聞きたいことがあったの」
「私もだよ、聞きたいことあるの」
お茶を飲んで幾分が温まり、少し体が楽になった私は、しっかり座って彼女をみた。
「ねえ、私以外にも監禁されてた人がいたの?」
莉子ちゃんはじっと私をみている。二重の大きな瞳に、私が写り込んでいる。
「その人たちはどうなったの…?あなたのお父さんは、やっぱり切り裂き男なの…!?」
お願い、教えて。
しばらく沈黙が流れる。私は彼女が口を開くのを、じっと待った。
そして、莉子ちゃんは言った。