神谷は切り裂き男ではない?

ただの誘拐犯?

なぜ監禁されてる場所にいかない?

昼間は仕事をしてるため、夜に必ず動くと踏んでいたのに…

もしや、すでに…



最悪の出来事を想像し、Lは強く唇を噛む。

何か見落としていないか。

この違和感はいつからあった?



…あの人がいなければ集中できないと、いつも言っていたのに…

隣にいてくれなければ、推理力が落ちると言ったのに…

何が世界の名探偵…愛する人一人も探し出せない。


どこに、いるんですか。




Lは親指を噛む。鉄の味がした。ふと見ると爪が割れていた。

いつから割れていたのか。気づかなかった。

血の滲む指先を見つめる。

そこへ熱い紅茶がLの前に置かれた。

ジェシーだった。

「L、紅茶です」

お礼を言う余裕もなかった。Lは紅茶に手を伸ばす事もなく、考えを巡らせていた。

「…L、あなたは全く眠らず、そして角砂糖しか口にせず…倒れてしまいますよ」

ジェシーが心配そうに顔を覗き込んだ。

そこにいたのは、いつも自信に満ちた世界のLではなく、不安と自己嫌悪に陥った不安定な一人の男だった。

「何か、食べてください…」

「…推理に必要な糖分はとってます」

またそう言い、Lは思い出したように砂糖を食べた。

困ったようにジェシーは眉を下げる。

こんなに落ち込まなくてもいいのに…

「神谷が切り裂き男だという推理も…夜##NAME3##の元へ行くという推理も…ことごとく交わされる…」

Lはボソリと呟く。

「彼女がいなければ私の推理力と集中力は落ちるんです。完全なる悪循環…」

抑揚のない声で言ったかと思うと、またLはパソコンを見ながら考え込む。

ジェシーはふと、エルの割れた爪を見る。

「L、血が…」

「…構いません」

その指をまた口に入れる。

それを見て、ジェシーはなんとも言えない気持ちになった。

なぜ、こんなにも弱って。

胸が苦しくなる。見たこともない弱った姿。

Lの隣にそっと座る。

白い肌した横顔を見つめる。

彼女は湧き上がる愛しさと切なさを抑えきれないことを感じていた。

この人に憧れて生きてきた。

どうにかして、私がこの人を癒してあげたい。

「…L。推理力と集中力を上げるには、糖分以外にも方法はありますよ」

Lがゆっくりジェシーを見た。

「私に協力させてください…彼女のためにもなります」

彼女は自身のブラウスのボタンを外していた。

白いブラウスから黒い下着が見えた。

「すぐに終わらせましょう。大丈夫、絶対に誰にも言いませんから…私を彼女だと思ってもらっていいです」

そっとLの肩に手を乗せた。

彼女は知っていた。男とは、窮地に追い込まれている時ほど人肌を求めるのを。

男とは、不安にさいなまれている時ほど押しに弱く、判断力が鈍る事を。

艶っぽく微笑む彼女はとても美しかった。

「試してみませんか、L。推理力が上がるかどうか。
 …女の私がここまでしてるのですよ。恥をかかせないでください」

Lは微動だにせず、ジェシーを眺めていた。

ジェシーは指先から血の出たLの手を大事そうに取った。

ずっと、憧れてた人。

ずっと見ていた人。

その瞳の中に映るのは、今は私一人。

今だけは、全て忘れてください。

「…そうですね、試してみましょうか」

Lの口から漏れる。

ジェシーはそっと微笑んだ。

Lの唇に自分の顔をよせる。





「と、言えば気が済みますか?」




Lの冷たい声。

ジェシーははっとした。

Lはなんの感情もない目でジェシーを見ていた。

「すぐに服を着てください」

「…L」

「私にそんな色仕掛け意味はありません」

それだけ言うと、Lはまたパソコンを眺め出した。

微動だもせず冷静なLに、ジェシーのプライドは壊された。

「…なぜですか」

ジェシーは震える声を上げる。

「…なぜ、あの子にそこまで執着するのですか…!」

ずっと抱いていた疑問だった。いつかぶつけたいと心にしまっていた疑問。

Lはジェシーを見る事なく言う。  

「あなたが##NAME3##に冷たくあたってる事はわかってました。でも、##NAME3##が頼むからここまで連れてきたのです。その優しさが分かりませんか?」

「L、あなたは彼女に命を救われていると知りました。恩を愛情と勘違いしてませんか…!」

拳を握りしめて震える。

Lはふうとため息をつく。

「この際だからハッキリ言っておきます。私は彼女以外の人間はどうでもいいと思っています。他の人類全てと彼女の命なら、私は迷わず人類の滅亡を選びます」

ジェシーは自分を見てもくれないLにわなわなと震えて縋り付いた。

「あなたも!ワタリも、捜査員たちも…!なぜそれまであの子を特別視するのですか!英語すら話せない、そこいらにいる普通の女性ではないですか…!平凡極まりない。あなたは世界のLです、どう考えても不釣り合いです…!」

ずっとジェシーは思っていた。どう考えても自分の方が美しく、有能。

でも周りは見向きもせず、彼女だけを見ていた。納得がいかなかった。

私はずっとLの力になれるよう努力してきたのに…!

「…もし、本当にそう思っているなら、あなたは愚かなほど人を見る目がない」

Lはパソコンを眺めながら言う。

「彼女は私の全て、私の命。それを侮辱するなら、あなたとて容赦しません」

そしてゆっくり、Lはジェシーを見た。




「ジェシカ・エドワード。目障りだ」




それは今まで見たこともない、冷たい目だった。




彼女ははっとし、唇を震わせた。

Lはまたパソコンに目を移した。

興味すら、もってくれていない。

ジェシーはばっと後ろを振り返り、そのまま部屋から出て行った。





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