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夜、尾行している男2人は特に怪しい動きは見られなかった。
夜はきっと監禁者であるゆづきの元へ訪れるだろうとLは踏んでいたため、苛立ちを隠せなかった。
早朝、Lは未だ角砂糖だけを口に入れながら神谷について考え、カミヤグループについて自身も調べていた。
時刻は7時。ゆづきが誘拐されて38時間が経過していた。
ワタリの準備が整った所で田中の家へ侵入しようとしたところ、幸運にも田中は朝早くから出掛けた。
行き先はゆづきが監禁されている建物ーなどではなく、パチンコだった。朝から店舗前で並んでいたのだ。
尾行は夜神から模木へ交代していた。夜神は戻ったホテルでLの作戦を聞いたが、驚いたものの止めはしなかった。
やり方は違法で無茶苦茶だが、彼女を助けるためならと目を瞑った。
こうしてワタリが用意した催眠ガスを使用することなく、田中の家へ入ることに成功した。
ワタリが身につけている小型カメラから家の中の様子がわかる。
玄関からすでにわかる不潔さ。物が乱雑に置かれている。
夜神と相沢は共に映像を見ていた。
田中の家は1DKのアパートだった。比較的新しい建物だ。
「…いますかね、ゆづきさん…」
ワタリが足を進める。ワタリが扉を開けると、やはりそこは荒れた男の部屋だった。
見渡すも、ゆづきらしき人はいない。
ワタリはすぐにバスルームへ向かった。ピンク色のカビがあらゆる所に生えたバスルームにはやはり、ゆづきはいなかった。
トイレ、いない。
クローゼット、いない。
「…いないな」
夜神が呟く。
しかしLにとっては想定内だった。田中が切り裂き男だとしても、自宅での監禁はないだろうと踏んでいた。
「ワタリ、何かゆづきあるいは今までの被害者の所有物らしきものがないか探してくれ」
『はい』
ワタリは部屋を散策し出す。
Lは上を向いて考える。
「やはり家ではなく、どこか違う場所に監禁しているのでは?」
相沢がいう。最もな意見だった。
「だとすれば、このまま尾行を続けていれば必ず突き止められる!」
嬉しそうにいう相沢を横目に、Lは浮かない表情をした。
そしてパソコンを操作し、現在神谷を尾行する松田にコンタクトを取った。
「松田さん、神谷はどうですか」
『もうすでに会社に出かけました。社内までは入れませんが…』
「神谷に発信器は取り付けられましたか」
『ええ、会社の前でわざとぶつかってなんとかできました』
「ありがとうございます」
横で聞いていた相沢が聞く。
「発信器?」
「神谷に取り付けました。これで神谷の足取りがわかります。」
Lのパソコンに簡易的な地図と、赤い光が点滅して表示された。
「田中の家を調べた後、ワタリには神谷の家に侵入してもらいます」
「…またか」
「彼は会社にいますし、娘は小学生なので学校へ行くでしょう。睡眠ガスを使用せずに済みそうです」
夜神は渋い顔をしたが、何も言わなかった。
「もし神谷が犯人なら、切り裂き男とは無関係ということになるだろう?神谷は右利きなんだ」
「……」
Lは答えなかった。
そこへ、ジェシーが颯爽と扉から入ってきた。
「L、調べてきました」
やり遂げた達成感を隠すことなく彼女は気持ち良さそうな顔でLの元へくる。
持っていた紙の束をLの前に置いた。
「神谷の細かい情報です」
Lはばっとそれを手に取りめくる。瞬きすらせずにそれを読む。
そんなLを眺めながら、夜神と相沢は尋ねる。
「なぜ神谷なんだ?田中じゃなく…」
「田中は左利きだし、犯人像にあてはまるが」
Lは答えず資料を読む。
次の瞬間、はっと彼は目を見開いた。
「…これは」
「どうした、竜崎」
Lは頭を巡らせる。それは3年も前に得た情報。
ゆづきの正体が不明だったとき、彼女を調べ上げた。
その時の項目を頭の引き出しから出してくる。
彼女は幼少期引っ越しを繰り返した。それは予知の力がバレるたびに。
その回数は12回。中学まで引っ越しは続いた。
関東から、近畿、中国地方まで。
そう…そうだった。
「L?」
ジェシーが心配そうに尋ねる。
Lは目を見開いたまま固まっている。
「おい竜崎?」
Lは何も言わず、角砂糖をいくつか思い切り口に入れた。
「神谷は…ゆづきを知っていた」
ボソリという言葉に、周りが食いつく。
「ど、どういうことだ?」
Lは持っていた紙を夜神たちに見せる。それは、神谷が今まで引っ越した経歴が載っていた。
「ん?随分昔の…引っ越しか?」
「だいぶ回数があるようだが…」
「その引っ越しが全て、ゆづきがいた土地です」
はっとみんなが顔をあげる。
「私は覚えてます、彼女がいくつのときにどこへ引っ越したかを。神谷はゆづきを追うように引っ越しを繰り返している。タイミングこそずれてますが、恐らくゆづきの行方を探しながら追っていたのでしょう」
「まさか、そんな…」
「しかし途中で彼は引っ越しをピタリとやめている。彼女も能力を隠すようになって、後を追えなくなったのだと思います。」
「じゃあ、今回たまたまゆづきさんを見つけてしまったということか!?」
「神谷の経営はよろしくない。誘拐してまでもゆづきの予知が欲しかったのかもしれません」
以前、Lが話した内容が蘇る。
彼女はもう予知能力を失っている。
それが犯人にバレればー…
「じ、じゃあ、切り裂き男とは無関係だったのか!?」
相沢の言葉に、Lは爪を噛んだ。
Lにはそれがどうしても腑に落ちなかった。
これほどの計画性、精密さ。どう考えても切り裂き男の手口。
それに神谷はLが抱く切り裂き男のイメージとぴったりだった。頭が良くいくつもの会社経営するほど切れ者。
神谷が切り裂き男だと、Lは睨んでいたのだが。
「…とにかく、今は切り裂き男でもどっちでもいい。ゆづきを探し出します。ワタリ、そっちはどうだ」
『L、特にめぼしいものは何一つありません』
「やはりな。回収してくれ。そして…神谷邸へ」
家に監禁してるか、それとも別場所か。
ゆづきと神谷の繋がりがわかったところで、一気に神谷の疑いが上がる。
「…竜崎。俺も、ワタリと一緒にいく」
相沢が言った。
「神谷の家はかなり大きかったろ。ワタリ一人より人手があったほうが調べやすい」
Lは彼を見上げる。
ジェシーが驚いて言う。
「不法侵入よ。警察がやったとなれば…」
「いやいいんだ。ゆづきさんが助かるなら、俺は警察をもしクビになっても構わない」
覚悟を決めた相沢の肩に、夜神がぽんと手を置いた。
「相沢。お前はまだ小さな子供もいる。…私に任せてなさい」
相沢が驚いて夜神を見た。強く頷く。
「私は本来、あの事件が解決した時に辞職していたはずなんだ。」
「……」
「こうしてゆづきの捜索に携われたことで、まだ辞職してなくてよかったと思っている。」
その様子を黙って見ていたLが力強く言った。
「夜神さん、ありがとうございます」
ジェシーは眉間にシワを寄せてその光景を見ていた。
田中はそれからずっとパチンコ店に入り浸っているとのことだった。
神谷は会社から出てきた様子はない。発信器もそれを示している。
ワタリは田中のアパートから撤収し、すぐさま神谷邸へ向かった。
娘が小学校へ行ったのを確認して、ワタリと夜神は神谷邸へ足を踏み入れた。
神谷邸は少し人里離れたところに立った大きな家だった。
真っ白な壁が眩しい。車は2台止まっていた。
「さすがカミヤグループの社長だな…立派な家だ」
唸るように相沢が言った。
「父娘二人でこの家は広すぎると思うが…家政婦などはいないのか?神谷は遅くまで働いているのだし」
「それは特に雇っていないのを確認しています。娘は10歳、一人で留守番もできる年でししょうから…」
そう言いつつ、たしかに金がある家庭で家政婦の一人もいないのをLは不自然に思った。
「もしくは…第三者を入れたくない理由がある」
ぐっと息をのんだ。
「…確かに、これほど大きな家なら…人の監禁もしやすい」
食い入るように画面を見る。ワタリは玄関で作業し、その扉が開かれた。隣には子供用の自転車がある。
重く立派な玄関の扉が開かれてまず見えたのは、掃除の行き届いた広い玄関だった。
目の前には幅の広い階段が見える。壁には娘であろう写真がいくつも飾ってあった。
造花の花が色とりどり置いてある。
まず、ワタリと夜神は1階へ足を踏み入れた。廊下を渡り広々としたリビングを開く。そこもやはり整理整頓された場所だった。
「人が監禁されてる家とはまるで思えない家だ…」
相沢がつぶやく。Lは何も言わず爪を噛んだ。
ワタリと夜神はそれぞれクローゼットやパントリー、トイレなども細かく見ていく。
しかしどこも人の気配すら見当たらない。
『私は2階へ行きます』
ワタリの声が入る。夜神をのこし、ワタリは階段を上る。
2階も広々としていた。親子2人暮らしだというのに、部屋数はざっと見ても5部屋はある。
ワタリは手前の部屋に入る。どうやら書斎だった。
一面本が飾られている。内容は経済学の本から哲学、子育て、推理小説、はたまた流行りの恋愛小説まであった。
本の品揃えを見るだけで、神谷がやはりとても優秀な男だとLは再確認した。
ワタリは細心の注意を払いながら神谷の机の中まで調べていく。
Lはじっとそれを見ている。
しかしそこにも怪しいものは何もない。
机の上にはノートパソコンが置かれていた。
ワタリはそれを開く。
Lはぐっと画面に近寄って見た。
パスワードの入力画面になり、ワタリは何やら機械を繋げて入ろうと試みる。
「パソコンの中に何かあるか…?」
「例えば、ゆづきを監禁してる場所に監視カメラを置いて遠隔から観察できるようにしてる可能性は大いにあります。」
「そうか、そうすれば自分で足を運ばなくてもゆづきさんの様子が分かる…!」
ごくりと唾を飲みながらワタリの様子を見つめる。
彼は素早い動作で作業し、少し続けた後早くも開くのに成功した。
「ワタリ、中身のデータを移して送ってくれ」
この場で全て調べるには時間がかかりすぎる。ワタリはすぐさま作業にうつった。
しばらくしてLの元へファイルが届く。すぐにそれをLは開いて見ていく。
ワタリはパソコンを元の状態に戻し、不審な点がないか確認し離れる。
ワタリは次の部屋へ入る。神谷の寝室のようだった。
ベッド以外何も物がない部屋だった。グレーのシーツの上には朝脱いだのかパジャマが乱雑に置いてあり、この家に入ってようやく生活感のある様子だった。
ワタリはベッドの下からクローゼットまで細かく見ていく。
そこにも、ゆづきの姿やいた痕跡もない。
Lは苛立つように爪を噛み続ける。同時にパソコンのデータを眺めていくが、中は会社の経理状況のファイルや名簿、そして娘の写真など、誘拐に関わりそうなものは何もなかった。
ワタリが次に入ったのは子供部屋だった。子供が使うには十分すぎる広さだった。
「娘は…10歳でしたね」
「ああ、小学4年生だ」
部屋はピンク色のシーツにカーテンで、女の子らしい可愛さがある。勉強机の上は、何か工作をしていたのか色鉛筆やハサミなどがあった。それが小学生らしさを感じさせる。
ワタリは机の中も覗き込む。よくあるお菓子のオマケやヘアゴムなどが入っている。
クローゼットの中もピンク色の服が多く並んでいる。やはり気になる物は何もない。どこにでもある、一般的な子供部屋だった。
ワタリはまた廊下を進む。また一つの部屋の扉を開けた。
「…空き部屋だ」
何もなかった。カーテンすら引いてない。
もう一つも、全く同じだった。
「…カーテンすらない。ここに監禁されてたわけはなさそうだ」
夜神が下から上がってきたようで、足音が聞こえる。
『ワタリ、風呂なども見たがゆづきはいない』
相沢はちらりとLを見る。彼は少し考え込むようにしてマイクを取った。
「とりあえず、何か不審な物がないか更に細かく見ていってくれ」
『はい』
「神谷の性格や特徴から言って、何か証拠になるような物をやすやす残しておくとは考えられませんが…」
家の中を見て尚思った。大分神経質だ。
…そう、切り裂き男のイメージと同じように。
「竜崎、やはり監禁は別の場所なんじゃないか。」
「…その可能性は高いです」
「となるとやはりこのまま神谷を泳がせて、監禁場所まで尾行するしか方法はない。」
Lはパソコンを眺める。神谷につけた発信器は、未だ会社から動く気配はない。
「…何だか、この家に、違和感があるんです」
「何?」
「何かが…引っかかる」
Lは黙りこんで爪を噛んだ。
噛みすぎた爪は割れていた。
結局その家からは、ゆづきがいた痕跡や誘拐したと思われる証拠は何一つ出てこなかった。
ワタリと夜神は撤収し、神谷と田中を泳がせて尾行するという方針で固まった。
Lは神谷のパソコンの中身をくまなく探した。
しかしそこからも怪しいもは何もなく、何度見てもゆづきに繋がりそうなものはなかった。
待つだけの状況に、Lは苛立ちを隠せなかった。