「田中は尾行開始後から家にずっと篭っています」

「時間が時間ですしね」

「神谷は自身の会社でずっと仕事、21時に家に帰宅しています」

ジェシーがまとめた状況を聞きながらLは角砂糖を舐める。

「しかし夜ならば、監禁してる者の観察に行きやすい…動くと思うのですが」

田中を張り込んでる夜神、神谷を張り込んでる相沢以外の模木と松田は、ホテルで二人について調べた結果をLに報告にきていた。

松田が鼻息荒くまとめた紙をLの前に置く。

「竜崎!田中は1年前に退職してからずっと無職、パチンコと風俗に入り浸る生活です。近所の人々も不審に思ってます!そして何より…」

田中の顔写真を指差す。

「田中は、左利きです!」

Lはじっと田中の顔を見る。どこか辛気臭そうな、人生に疲れたような表情の男。

無精髭にセットされていない髪。

メモには彼の学歴、職歴、家族構成など書かれていた。
 
「竜崎、やっぱり田中ですね!」

Lは何も言わず親指を噛む。思ったよりLの反応が薄いことに、松田は拍子抜けした。

「神谷はどうですか」

突然振られて模木は慌ててメモを出す。

「神谷は10歳の娘と2人暮らしです。妻は昔に亡くしています。カミヤグループは日本にいくつも支店がありますが、最近経営が傾いてきてるようです。が、彼自身は非常に真面目な働きぶりと評価されてます」

模木が出した顔写真をLは見る。田中と違って、清潔感に溢れ知性が感じられる顔立ちだった。

学歴を見るとやはり、かなり優秀なことがわかる。

「竜崎、神谷は娘がいる…人を監禁するのは難しいんじゃないかと」

「監禁場所は家とは限りません」

「それはそうだが…」

Lは写真を机の上に放り投げた。

そしてモニターの映像を一つ再生し巻き戻す。  

それは##NAME3##がケーキを買っているシーンだった。

Lは唇を触りながら眺める。松田はなんだなんだとモニターを覗き込んだ。

「なんですか、竜崎」

「ケーキを買っている##NAME3##の隣で店員と話す男…」

じっと見つめる。防犯カメラは上からのアングル、男は帽子を被っていて顔は見えない。

松田はうーんと唸る。

「まあ神谷っぽいですけど…顔は見えませんし、##NAME3##さんと接触はしてないですよ?」

確かにそうだった。##NAME3##のことを見もしてないし、その後ホテル前の映像でも##NAME3##を追いかけるような様子は映っていない。

…切り裂き男ほど用意周到な男なら、そんな場面を残すわけがないが…。

考え込むLに、模木が声をかける。

「無職である事、左利きである事を考えたら田中が一番犯人像に近い」

模木は断言した。Lはそれでもじっと考える。

Lがなぜこんなにも考え込んでるのか、松田と模木には理解できなかった。

「もし今夜、何も動きがなかったら…明日、田中の家の中を捜索します。」

「…え、でも、こんな状況証拠じゃ令状は出ませんよ…?」

「田中が出掛けたタイミングで家に侵入します。家の中に監禁してる可能性もあるので。尾行は続けます」

また、とんでもないことを。と松田と模木は呆れた。完全なる不法侵入だが、そこは突っ込まなかった。

「でも、田中が出掛けなかったら?」

「睡眠ガスを家の中に入れて強制的に眠らせて調べます」

松田と模木はめまいがしそうなのを踏ん張った。二人とも空を仰ぐ。

「今ワタリが準備しています。明日実行します。私の独断です、あなた方は知らないふりをしててくれればいい」

Lはキッパリそう言った。二人はLを反対しなかった。

「それと…神谷について、もっと詳しく調べてください」

「え…神谷ですか!?」

「今までの人生、今の仕事内容などわかることは全て。」

「田中じゃなくて…?」

「お願いします」

有無言わさない竜崎に押されるも、模木は首を傾げる。

「しかし竜崎、神谷が切り裂き男はありえない」

模木はキッパリと言い放った。

「神谷は、右利きだ」



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