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「…知ってて、それが欲しくてさらったんですね」
私はなんとか喉から声を絞り出した。
私の未来を見る力。それを知っているんだ、この男は。
彼はにっこり微笑む。
「そうです。ずっとずっと、探してました」
「……」
寒さからか恐怖からか。体の震えが止まらない。
「でももう諦めてました。ここ10年ほどは…あなたも能力を隠して暮らしてましたね?全然情報がなかった。子供の頃はそれなりに噂になっていたので」
「……」
「だから…昨日あなたを見て…本当に震えた。ひと目見て分かりましたよ、面影がある。子供の頃から全然変わっていない。」
男は立ち上がる。私を笑顔で見下ろす。
「あなたが本屋すぐ前のホテルに泊まってる事が分かって…嬉しそうにずっと見ていた雑誌のケーキ屋にいつか足を運ぶのではないかと。一晩かけて作戦を練って、ここへお連れしました。しかし…我ながらこんなに早くうまくいくとは。神は私の味方のようです」
「何を見たいの?自分の娘を使ってまでして、あなたは何が知りたいの?」
私が言うと、彼は胸ポケットから名刺を取り出した。
そこには、カミヤグループ 取締役と書かれていた。それと、神谷順という名前も。
カミヤグループは聞いたことがあった。かなり大きな企業だった。
「私が経営してる会社です。全国にも支店があります。しかし恥ずかしながら…最近経営が芳しくない」
「それで…私に?」
彼は名刺をまたしまう。
「会社の経営とは大変なのですよ。何千という社員の生活が掛かっている。私は今ここで負けるわけにはいかない。」
「…私のこと、いつから知ってるの」
「ずっとずっと昔から。父がこの会社を立ち上げましたが、元々は父があなたに執着していた。私は会社を継ぐ前から、あなたを探し出すよう父に命じられていた…」
眩暈が起きそうだった。まさか、そんな昔から自分の予知能力を利用しようと諦めないやつらがいたなんて。
母が私を連れて逃げ回っていた意味がようやく、分かった気がした。親子二代で、追ってくるとは。
神谷はピンと人差し指を立てた。
「ここで問題なのは一つ。」
ニコニコとした笑顔を無くさないまま、彼は続けた。
「私のさきほどの質問に答えてください。
あなたは、まだ未来が見えますか?」
心臓が、ぎゅっと苦しくなった。
何とか平然を保とうとする。
私は…もう、予知能力を持っていない。
Lを助ける時にみたあれが最後なのだ。
しかし、いくら頭の回らない私でも、今ここで予知能力がないとこの男にバレることがどれほど危険か分かっていた。
用済みだとばれれば、…私の命は。
「…時々、あります」
神谷は聞いて、にっこり笑う。
「そうですか…」
その場しのぎでも、こうしておかなければ。
時間を稼がねば。
「なーんて、私は簡単に納得しませんよ?」
神谷はまるで冗談を言うかのようなトーンで言った。
「証明してください。3日以内に。3日だけ待ちましょう」
「…私の予知は見る頻度がランダムですよ、1週間ほど見えないこともあります。知りませんでしたか?」
ここで怯えてはだめだ。相手に悟られる。
私は堂々と神谷にいってのけた。
彼は再びしゃがみ込んで私の顔を見た。
「1週間なんて猶予、与えられません。」
「なん、で…」
「あなたを監禁していることの危険性があるんですよ。証拠は残してないつもりですが、いつ警察にバレるか分かりませんから」
「…3日以内に予知ができたら?」
「あなたを一生飼って差し上げます。予知が見れるなら、私は警察に捕まるくらいのリスクは受けて立つ」
「じゃあ、見れなかったら?」
私が聞くと、今まで笑顔だった神谷の顔はすっと真顔になった。
「さようなら、だね」
「………」
言葉は出なかった。
すぐに神谷はニコッと笑う。
「大丈夫、3日以内に見れればいいんです。それまではここにいてもらいます。ここは私の私有地内に立つ建物。防音になってる上、ここは地下室です。叫ぼうが何しようが人は来ませんよ」
私は自分の足につけられた足枷と鎖を見た。長さはあまりない。鎖の先は地面に埋め込まれている銀色のポールに繋がっていた。
気づけば隣には簡易トイレまで用意してある。
「私は仕事があるので行きます。時々様子を見に来ます、あなたは頑張って予知を見てください」
神谷はそう言うと、莉子という子に何か耳元で呟いてから扉から出て行ってしまった。
私と、残された子供。
…なぜ、子供を置いていく?
彼女は震える手で、私に毛布を再び差し出した。
「あ…ありがとう」
私はそれを素直に受け取る。
怯えているのか、こちらを見ない。
「莉子ちゃん、だっけ。あの、ここはどこなの?」
「……」
「なんでもいいから、教えてくれない?」
「……」
「あの…出来れば、他の大人に話したり…」
莉子ちゃんはびくとも動かない。誘拐された被害者と、犯人の娘、そんな意外すぎる組み合わせに私も戸惑っていた。
「…莉子、お姉さんとは話すなって言われてるから」
それだけ言うと、莉子ちゃんは扉に向かって走り出す。
「あ、待って!」
私は慌てて声をかける。莉子ちゃんは一度だけこっちを向いた。
「…ごめんなさい、お姉さん」
涙を溜めた目でそれだけ言うと、扉を開き、出て行ってしまった。
ガタンと扉の閉まる音が無情にも響いた。
……残された、私。
誰もいなくなったことで、頭は冷静になり恐怖心が襲う。
震え出した両腕を押さえながら、もらった毛布を被った。この部屋は、ずいぶん寒い。
ふと、自分の着ていた洋服が汚れまみれなのに気付く。
泥と、あと…落としたケーキの上に倒れたのか。
甘党なあの人の顔が浮かぶ。
3日以内に予知をー
…私はもう予知を見れない。あの男は、それを知らない。
3日後までに予知が出来なかったら、私はきっと無事ではいられない。
ぎゅっと、手を握る。
でも大丈夫、絶対大丈夫。
私には、最高に心強い味方がいる。
「…そう」
L。
あなたを、信じてる。