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監視カメラの荒い映像に瞬きを忘れるほどに見入る。
モニターの中で彼女は、ショーケースを指差して何かを注文している。
上からのアングルのため、表情はあまり見えない。
カバンから財布を取り出して会計をする。
店員から箱の中身の確認を促され小さく頷いたのが分かる。
ケーキの箱を持ってそのまま店を出る。
もう一つのモニターはホテルの正面前の映像だった。箱を持ったまま空を少し見上げ、どこか足を早めて去っていく。
ゆづきが映っているのは、そのシーンのみだった。時刻は16時過ぎ。
ケーキ屋の中でも、ホテル正面でも、不審な人物は見当たらなかった。
ケーキ屋では単にお茶を楽しむ客と、何か店員と話し込んでる客。ゆづきを気にかけてる者は誰もいない。
正面玄関でも同様。例えば彼女を尾行してるような影はない。と言っても、この二つの映像だけではなんとも言えなかった。
Lはモニターから目を離すことなく、テーブルの上に置かれた角砂糖を口に入れた。これほど甘味を感じない状況は生まれて初めてだった。
外は雨が降っている。雨の規則的な音だけが響いていた。
L以外誰もいなくなった部屋に、物音が響く。外で走り回っていた夜神だった。髪はどこか乱れ、顔は寒さからか白かった。
「竜崎、カフェすぐにあるブティックと、少しこっち寄りにある飲食店に監視カメラがあった」
「ありがとうございます」
Lは素早くそれを手にするとすぐに再生する。
「だが…時間も時間で、店が閉店し始めている。まず空いてる店から回ってるが、閉まった店は店主に連絡してカメラのことを聞かねばならない。少し時間がかかってしまいそうだ」
Lは強く親指を噛んだ。時計はもう20時半を回っていた。
監視カメラの映像を見る。まずはブティックの映像。店内入り口を主に写してるもののため、外は遠く鮮明さがない。
それでもLは、一瞬そこを横切るゆづきをすぐに認識した。映っていたのはそれだけだった。
地図を見る。この店の前まで、彼女は無事だったことがわかる。
もう一つ飲食店のカメラを再生する。地図を見ると、その飲食店はブティックより数十メートル離れたところだった。
カフェからこのホテルまで約1.5キロ。
「この帰り道に拐われたのに間違いないんだな」
「ケーキという生物は帰り道に普通買うものです。」
きっとこの帰り道に何かがあったに違いなかった。
「…しかし、それなりに人通りはある道だ。どうさらったのか。」
「…彼女は警戒心が強い方なんですが」
「人通りのある道近くでの人攫いとなると、やり方はまるで…」
切り裂き男。
夜神はそう言おうとして口をつぐめた。
「……ほかの店をあたって来る」
「お願いします」
彼は再び早足で部屋を出ていく。
モニターに映る監視カメラ映像を見る。早送りし、彼女が通ったであろう時刻まで送る。
じっと見つめると、そこにも彼女は映っていた。ケーキの入った袋を揺らさぬよう大事そうに歩く姿が、 Lの感情を高ぶらせた。
「…あなたに…何かあったら…」
いつも隣で笑う愛しい人の笑顔が、胸を締め付けた。
その後少しずつ防犯カメラの映像が Lの元へ届いた。聞き込みも同時にしてくれているようだが、そちらは収穫が今のところなかった。
カメラを確認していくと、次第に彼女の足取りがわかった。ホテル近くの映像になると、彼女の姿は見られなかった。
どのあたりでさらわれたかが、少しずつ判明して来る。だがさらわれた場面が映ってるものはなかった。
それから0時近くになったところで、捜査員はみんなホテルに一旦戻ってきた。
表情は晴れず、疲労というより悔しさを滲ませていた。
「だめだ…ある一角の店がことごとく連絡もとれない」
模木が悔しそうに言った。
「家を調べて家まで行ったが…居留守なのかいないのか、誰も出ない」
Lはじっと地図を見ていた。
相沢は上着を乱暴に脱ぎながらLに近づく。
「竜崎、どうだ」
「だいぶ絞れてきました」
Lは地図を指差す。
「まだすべての店への聞き込みと映像回収は終わってませんが…最後にゆづきが確認された映像はこの宝石屋の監視カメラでした」
「中間地点…よりはカフェ寄りか」
「そこから300m先のカメラには映ってません」
「じゃあ、この300mの中で何かあったんですね!?」
松田は息荒くして身を乗り出した。しかしその隣で、Lは深刻そうな顔をして爪を噛んだ。
「…この300m間の店には、監視カメラはひとつもないかもしれない」
「え?そんな、この時代に…これだけ店があればひとつくらい…」
横で聞いてた相沢が渋い顔で口を開く。
「実は…俺も模木もそうかもしれないと思ってた」
ぎょっと松田が目を丸くする。Lは続けた。
「ここの一連の店は軒並み古い店舗ばかりです。和菓子屋、呉服店、文房具、布団屋…高齢者が経営してるであろうものばかり。そのせいで閉店も早く、連絡も付きにくいのかと」
「た、たしかに古い店ばかりで防犯カメラもありそうにありませんが…そんな偶然ありますか!?これだけの道で、監視カメラが丁度ない場所で誘拐って…」
自分で言って、松田ははっとする。
Lはボソリと呟く。
「…偶然ではなく、予め犯人は調べ上げて…あえてここで誘拐した」
皆の顔が青ざめた。
相沢が恐る恐る言う。
「…それほどの用意周到さは、やはり…」
「非常に似ています。切り裂き男のやり方に。」
「…しかし」
「こういった犯人は自分のこだわりを覆すことを非常に嫌がります。しかし、日本中でこれだけ騒がれれば月曜日に派手な女性が街から姿を消すことは十分考えられる。次のターゲットが見つからないため、やむを得ず条件を変えたのかもしれない」
みんなが押し黙る。ずっと黙って聞いていたジェシーが口を開いた。
「怨恨の可能性は?ここは彼女の母国だし…たまたま帰国した彼女を見かけてさらった可能性は」
すぐ否定が入った。
「ゆづきさんに限って、恨まれることなど」
「ありえない」
相沢と夜神が口を揃えて言う。しかしすぐ、夜神ははっとした顔になった。
「いや、…竜崎……まさか」
「その可能性は私も考えています」
目の前に山積みにされた角砂糖を口に入れた。
「でも、彼女はずっと能力を隠してたんだろう?」
「大人になってからです。子供の頃はうまく隠せずバレる度引っ越しして逃げていました」
ジェシーが首を傾げる。
「能力、って何のことですか」
周りの視線がジェシーを見る。しばらく沈黙が流れた後、夜神が口を開いた。
「ジェシーは知らないのか」
「あえて言う必要もなかったので…」
夜神がLに視線を送ると、彼は特に止めるそぶりを見せなかった。それを確認し、夜神はジェシーに言った。
「彼女は…予知能力がある」
「…は」
ぽかん、と口を開ける。彼は続けた。
「その実力は竜崎のお墨付きだ。その予知能力で…竜崎は命を救われている」
驚きでLを見た。彼は何も言わず角砂糖を眺めていた。
松田が言う。
「でも…!もしゆづきさんの能力が欲しくて誘拐したとしたら、こんな言い方はあれですけどまだいいですよ!だって、殺されないでしょ?」
「…た、たしかに」
「切り裂き男だとしたら…3日が期限ですけど…ああ、切り裂き男であってほしくない…!」
Lは角砂糖に手を伸ばし、それを口に入れた。ガリっと、強く噛む。
「もし…ゆづきの能力を求めて彼女を誘拐したとしたら…それもまた、苦難」
「……え?」
Lは一点だけを見つめ、言った。
「彼女はもう予知能力を失っています」
「……なん…だと」
冷たい空気が流れる。
「私を救うために見たあの予知が最後です。それ以降一つも見ていない。…犯人が、ゆづきに予知能力がないと知れば…」
Lはそれ以上、続きを言えなかった。
捜査員も誰も、言えなかった。