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Lはジェシーが用意したこの周辺の地図を広げた。

ワタリが携帯が捨ててあったというゴミ捨て場に丸をうつ。

それはここからすぐ近くの場所だった。

##NAME3##は恐らく、そんな遠くへは出かけていないはずだ。徒歩で行ける範囲だと確信している。

タクシー会社に連絡して聞いてもよかったが、その必要はないとLは踏んでいた。

普段からLに気を遣ってクリーニングすら遠慮する人だ。タクシーなど使うわけない。

駅も徒歩ではかなりある。

地図を睨みながら、Lは考える。

「L、お菓子買ってきましょうか」

ジェシーの声が響く。推理には糖分が一番だ。が、今は買い出しに行くほど余裕はない。

「角砂糖でも置いておいてください」

「そんな…」

「今は##NAME3##が作ったもの以外口に入れる気になりません」

いつも笑いながらキッチンに立っていた人の姿を思い出す。

ジェシーは不満そうにLを見つめた。

Lは時計を眺める。ワタリが警視庁へ向かってもうしばらく経つ。時刻は19時近くになっていた。警察長官には、Lからとっくに通信で伝えていた。『依頼を受けた切り裂き男の捜査に、かつてキラ事件に携わった優秀な方々の力を借りたい』と。

「L、今から来る人は誰なんですか?」

「キラ事件を共に追った人々です。彼らは私の事は勿論、一緒に捜査していた##NAME3##の事も知っている。私たちの関係も」

「なるほど…」

ジェシーがそう呟いた時、ちょうど廊下からバタバタと足音が鳴り響いた。思ったより早かったな、とLは思った。

扉を開けて一番に飛び込んできたのは、松田だった。

「竜崎ぃぃぃ!!!##NAME3##ちゃんがいなくなったって、ほんとですかあああ!!」

半分泣いている。その後ろに相沢、模木、そして夜神も足早に入ってきた。

Lはソファの上で座ったまま、顔をあげる。

心配そうな顔が並んでいた。

最後にワタリも入ってくる。

ジェシーは颯爽とみんなの前に立ち、自己紹介をした。

「はじめまして、ジェシカです。Lの補佐をしてます。よろしく」

Lのすぐ横に経つ美人な外人に松田たちは一瞬驚いたが、すぐにLに視線を戻した。

「よ、よろしく!それより、誘拐なんですか!?」

自分の自己紹介がずいぶんおざなりにされたことに、ジェシーは不満そうだった。大概、彼女を初めて見る男性はジェシーに熱い視線を送ることが多かったからだ。

Lは地図に視線を下ろした。2年ぶりの再会の言葉は誰からも出てこない。

「十中八九誘拐と見てます」

「詳細は先ほどワタリに聞いたが…」

「まさか、切り裂き男なのか?」

夜神と相沢が尋ねる。

「正直分かりません。切り裂き男にしては今までの被害者とあまりにタイプも違うし、曜日も違う」

「確かに…被害者は20歳前後の派手な子だ。##NAME3##さんは年齢も少し上だし、清楚系だ」

模木が考えるように言う。

「じゃあ、完全に別事件の誘拐?」

「…今はなんとも言えません。彼女は散歩すると言って出て行った。##NAME3##の性格上、タクシーなど使わず徒歩でこの辺を歩き回っていたはずです。とにかくまずは彼女の足取りを辿りたい。周辺の店の防犯カメラの映像を集めてください」

「わ、分かりました!##NAME3##さんの事情は話さずに、手が空いてる同僚にも協力してもらえるよう連絡してみます!」

松田は焦りながら携帯電話を取り出す。

「これは今日彼女が着ていた洋服の特徴です」

Lはすでにまとめていたゆづきの特徴を書いた紙を配る。

夜神が一歩進んで聞いた。

「この周辺一軒一軒映像を集めるには時間がかかる…あまり時間をかけるのは賢明ではいない。竜崎、彼女が行きそうなところに心当たりは」

じっと地図を眺めるLの横で、ジェシーが小声でワタリに聞いた。

「ワタリ、竜崎、とは?」

「彼のもう一つの名前です」

「…なるほど」

地図を見ながらLは考えを巡らせた。この周辺の施設に目を落としていく。

(…本屋は昨日行っている…時間的に食事もありえない…映画、を見るには時間が足りない…)

いつも人を気遣い、人のために動いていた人。こんな時、彼女ならどうするか。

無欲なあの人は彼女のためより、誰かのために動く…ともすれば。

Lは目を開いて持っていたペンで3箇所、丸をつけた。

相沢が覗き込む。

「どこだここは」

「ケーキ屋です。彼女なら…私のために甘いものを買おうとした可能性は高い」

「…確かに、##NAME3##さんらしい」

「一軒はあるホテルの一階にあるカフェ、一軒はテイクアウト専門の小さなケーキ屋、もう一軒も同じ。どれも私が好きだと彼女が知っている店です」

「ありえますね!!その3つにまず行って、当たればここまでのルートを追いましょう!」

松田がまた携帯を取り出してどこかへ電話した。協力を仰ぐのだろう。2年前は彼の頼りなさに困ったこともあったが、今日はとても力強く思える。

「よし我々もすぐ行こう」

夜神の声でみんなが一同に頷き、颯爽と部屋から出て行った。

嵐が過ぎ去ったかのような静かさ。ジェシーが口を開いた。

「ずいぶんみんな懸命に動いてくれるんですね」

「##NAME3##さんはみんなに愛されてましたから」

ワタリがそう言うと、ジェシーはそれ以上は何も言わなかった。

それから1時間もたたないところで、興奮した松田からの電話がワタリにかかってきた。

『竜崎!ビンゴ!ビンゴです!ホテルのカフェに##NAME3##さん、きてました!』

「すぐにジェシーを向かわせます、映像を渡してください。松田さんはそのホテルからここまでの道のりにある防犯カメラを集めてください。他の人も向かわせます」

まず彼女が行った場所が比較的早く見つかったことに、Lは少し息を吐いた。







ゆっくりと目を開ける。一番に感じたのは、冷たい床に寝そべっているため冷え切った体と、痛みだった。

節々に痛みを感じながら、頭を上げる。

見知らぬ場所だった。

広さは20畳ほどのコンクリート製の壁に、タイルの床。物はほぼなく、誰も住んでいないようで、所々埃や蜘蛛の巣が見える。窓はひとつもない。

家と言うより、倉庫。

…どこ。ここ。あれ、私どうしたんだっけ?

腕に力を入れて体を起こす。それと同時に、重い金属が擦れる音が聞こえた。

音が聞こえた方に目を下ろすと、それは自分の足だった。

両足に、足枷がついている。所々錆びて鉄の匂いがした。長い鎖が伸びている。こんな時だと言うのに、昔Lと月くんが繋がってた光景を思い出した。

鎖がどこへつながっているか目線を追うと、そこに誰かの足が見えた。

茶色の磨き抜かれた高そうな革靴。
 
ゆっくりと下から、その足の主の顔を見た。

「目が覚めましたか。」

にっこりと上品に笑うその人は、あのケーキ屋で迷子を探していた人だった。

あまりに無害そうな笑顔のため、戸惑う。

「あ、の、私…?」

言葉がうまく出てこないほどに混乱していた。何を聞けばよいのか、何から尋ねればよいのか分からない。

その人は優しい笑顔でこちらを見下げながら、被っていた帽子をゆっくり脱いだ。

「身体の不調はありませんか」

「…えっと、あの」

「冷たい床ですみませんでした。」

「す、すみません、何が起こってるんですか」

総括した疑問だった。両足に繋げられた鎖。見知らぬ場所。気を失った自分。

男は私の質問には答えず、持っていたペットボトルを差し出した。

「冷めてしまいましたが…」

どこにでもあるお茶だった。この状況でそれを飲むほど私の感覚もイカれてはいない。

かと言ってそれをこの人の前で放り投げる勇気もなかった。

私は何も言わずそれを受け取った。温かかったのか、まだ生温い。

「あなたを昨日本屋で見かけた時、心が震えました」

男は背筋をしゃんと伸ばし、手を後ろで組んで言った。

はっとする。昨日本屋で感じた視線はこの人だったのか。

「あなたが…私をさらったんですか」

尋ねると、男の目がすうっと細くなる。たったそれだけなのに、私の体は恐怖に震える。

「…そうです。」

「あなたは誰?切り裂き男?」

Lが調査してる切り裂き男。私は被害には遭わないだろうと油断していたが…彼が、その犯人なのだろうか。

男は答えなかった。細めた目で微笑みながら私を見下ろしていた。

あまりに不気味。あまりに恐ろしい。

両手で震える自分を懸命に抑えた。

するとその時、背後から物音が聞こえた。私は振り返る。

気づかなかったが、後ろにひとつだけ扉があった。

そこから見覚えのある姿が見えた。

小さな背のその子は、俯きながら恐る恐る近づいてくる。

ピンク色のセーター、黒いスカート。長い髪。

白い肌に大きな瞳。天使のような顔立ちの可愛い女の子。

そうだ、私はこの子を保護しようとしてたんだった。

「お姉さんが目が覚めたみたいだよ、莉子」

莉子と呼ばれたその子は、震える手で私にあるものを差し出した。毛布だった。

唖然としてその子を見る。

私と目を合わせず、泣きそうな顔をしている。

「お姉さん…寒いかなって…思って…」

その顔を見た時、私は悟った。瞬間振り返り、その男に怒鳴りつけた。

「あなた…子供に何やらせてるのよ!!」

さっきまでの恐怖心は失せ、怒りだけが残った。子供をダシに使って私をおびき寄せたのだ。

そしてこの子は、分かっている。自分が誘拐の共犯にされていることを。

男は飄々とした様子で答える。

「彼女は莉子、私の娘です。よろしくお願いします」

「で?娘を使ってまで私をここに連れてきたのはなぜなの?切り裂き男なの?」

「あなたにずっと会いたかった」

「…は」

私に?

男はそっとしゃがみ込み、私と目線を合わせる。

「ずっと探してた…でも見つからなかった」

「…あなたは、誰」

「君は知らないかもしれない。でも、私は君を忘れたことはなかった」

記憶を巡らせてもこの男の存在は頭に無い。

この場にはそぐわぬ満面の笑みで、男は聞いた。



「まだ未来は見えますか、##NAME2####NAME1##さん」



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