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United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
ヨーロッパ大陸の北西岸に位置し、グレートブリテン島・アイルランド島北東部・その他多くの島々から成る立憲君主制国家。
四季は美しく、人々は優しく礼儀に厳しい。
そんな国の高級マンションの最上階に、私達の住処はあった。
目覚ましの音が聞こえる。
夢の世界から現実と引き戻される。私はベッドから手を出し、その音を止める。
ふと目を開けて隣を見る。そこにはいつも通り誰もいなかった。
ゆっくり上半身を起こす。あくびをしながら体全体伸ばす。
時刻は7時。いつも私が起きる時刻だった。
私はベッドからすぐに降り、顔と歯を磨きに行く。
一旦寝室にまた戻り、座りなれたドレッサーで軽くスキンケアをした。
20から女の肌は曲がり角、とはよく言ったもんだ。その二十歳はとうのむかーしに通り過ぎた。
肌の悩みは…尽きない。
とりあえず丁寧に化粧を施して隠す。
家から一歩も出ない私に化粧は不要な気もするが、
そこは頑張って身嗜みを整えたい。会うのも限られた人だけど。
私は軽くため息をついたあと、ようやくリビングへと足を運んだ。
リビングへ続く扉を開けると、暖気がもれる。広々とした部屋、そこに置かれた巨大なソファ。座る人数はほんの少しだというのに贅沢なものだ。
そしてそのソファの上に、その人はいた。
「おはようございます」
「おはようございますエル」
膝を折り曲げて体育座りのような形。彼のいつもの姿勢だ。通称L座り。
彼の目の前にはパソコンと、散らばった様々な捜査資料が並んでいた。
それと空になったティーカップ。
私はすぐにそれを手に持ち、キッチンへ運んだ。
「朝は何飲む?」
「お任せします」
「うーん…アールグレイにしようか」
私はすぐにお湯を沸かして紅茶を入れる準備をする。同時に、パンや卵、昨晩作っておいたサラダを取り出す。
「何時から起きてたの?」
「3時頃でしょうか」
彼はほぼ毎晩、私と寝室でとこに着くのだが、そこから数時間寝たあと起きて仕事をしていた。もう決まりきった1日のはじまり。
それでも以前に比べれば随分睡眠時間は確保されている方。何日も寝ずに起きていた時期が長くあった。
私はパンをトースターに入れ、フライパンで卵とハムを焼いた。
ダイニングテーブルにそれぞれのフォークやグラスを用意する。
お湯が沸いたため、まず先に紅茶を入れる。角砂糖をいくらか入れてかき混ぜ、エルの元へと持っていく。
「アールグレイにしました」
「ありがとうございます」
私は到底飲めないだろう砂糖まみれのそれを、彼は美味しそうに啜る。
「ご飯できまーす」
パンの焼き上がる音が聞こえる。私はキッチンに戻りパンを取り出し、まだフライパンに乗っていた卵たちをお皿に移した。
自分の分のバターと、Lには苺のジャムを取り出して机に並べる。
エルはソファから立ち上がり、のそのそとこちらへ歩いてくる。いつもの白い服に、青いズボンだった。
彼はダイニングの椅子を引くと、またしても膝を抱えるようにして腰掛けた。
「はい、どうぞ」
私の量の半分ほど。彼の食事量。
それはこの後、私の焼くケーキを彼は結構な量を食べるからだった。
私はエルの正面に腰掛ける。
「いただきます」
「いただきます」
二人の声が重なる。Lは指先で器用にフォークを持ち、卵を食べた。
私はエルのパンにジャムを塗ってあげる。
「…ふふ」
「どうしました」
「だって…大分経つのに、なんかまだ変な感じ。エルが座ってご飯食べてる」
「ちゃんと続いてるの、褒めてほしいです」
「普通の人間の生活なんだけど…でも、そうだよね、すごいすごい」
私は笑ってパンを彼に手渡す。エルも、笑ってそれを受け取った。
日本で恐ろしい事件を解決し、イギリスへ渡り2年以上。
私とエルは二人、穏やかに過ごしていた。
キラ事件のように誰かを招いて捜査することはなかった。彼はほとんどパソコン越しに会話し、指示を出して解決へと導いた。
そう、彼こそ、最後の切り札…世界の名探偵L、である。
日本での事件をきっかけに恋人となった私たちは、その後も特に大きな変化もなく愛を育んでいた。
パンをもぐもぐと頬張りながら、エルは言う。
「先日の麻薬取引のマフィアの件、かたがつきました」
「え、もう?3日前くらい前にとりかかったやつ?」
「すでに逮捕されました」
「早かったんだね」
Lの他にも名前を持ち、様々な依頼を受けている彼は、次から次へとくる世界中の事件を解決していく。
正直私も把握しきれていない。
長いときは数ヶ月、解決にかかることもあるというが…
「光さんと暮らし始めてから、推理力が格段にいいです。解決も早い」
「え、エルの実力でしょう」
「愛の力です」
「また…」
サラリと言ってのける。この人は毎日そうだ。
「…キラ事件は、長かったんだね」
「私が取り扱った中でも最長でした」
「1年くらい、だったもんね」
彼を唯一苦しめ、窮地に追いやった事件。
その犯人は…もういない。
私は手元のパンを齧る。
「もうこっちにきて2年以上だもんね…早い。」
「もうそんなに経ちますか。私は時間の感覚に疎いので」
「私も大分狂ってる…毎日大したことしてないのに」
「あなたは私のお菓子をやいてそばに居る。それが一番の仕事ですよ?」
黒い瞳で私を見、微笑む。
…そうやって言ってくれるけど…
この2年、本当にそれしかしてないんだけどなあ…
私の生活費はもちろん全部出してくれてるのに…なんか心苦しいんだけど。
エルはジャムを塗りたくったパンをもぐもぐと食べ続ける。
「まず第一にあなたがいなければ私は生きていませんので。多大な恩があります」
「も、もうやめてください…私だって、エルと出会ってなければ死んでたからお互い様です」
言うと、エルはこちらを見て口角を上げた。その笑顔はいつ見ても可愛いな、と心で思う。
本当に2年経ったのかと問いただしたいくらい、エルの外見は変わらない。肌は白く悩みは無さそう。クマは少し薄くなったか。羨ましい人だ。
「ところで…今抱えてる強盗殺人の事件を解決したら、今度こそ日本へ行こうかと考えています」
「え!」
私は驚きで顔を上げる。
「以前も行こうとして、急な依頼で行けなくなってしまったので…今回こそは」
「わ!嬉しい!」
「あなたのお母様のお墓参りもずっと行けてませんしね。遅くなってしまいました」
「そんな…仕事だから仕方ないよ」
相変わらず、こう見えて優しい人だな。
「事件が解決して本決まりしたらまた言います。弥にはまだ言わないでください、万が一また中止になったら私が彼女に罵倒されます」
1年ほど前、日本に帰るつもりで友人のミサに連絡していた。
しかし緊急の依頼が入り帰れなくなってしまった。
電話でそれをミサに伝えると、家中響き渡るぐらいの音量でエルに不満を漏らしていたのが懐かしい。
「ふふ、エルって案外ミサに弱いよね」
「あなたの大事な友人だからです」
朝食を取りながらそんな話をしていると、ノックの音が響いた。
「おはようございます」
そこには上品な紳士が立っていた。
「ワタリさん!おはようございます!」
優しい表情で笑う。エルの右腕、ワタリさん。
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