Lの憂鬱
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「藍川さんを自室へお連れしました」
「そうか」
戻ってきたワタリが言う。私はパソコンを睨みながら返事をした。
「大丈夫か、部屋に凶器になりそうなものは」
「Lの指示通り、そういったものは何も置いておりません」
FBIが殺されたと知って涙を流し取り乱した彼女が、早まった真似をしないか心配だった。
彼女の調べはついている。元々自殺しようとしていた経緯も。
「まあ彼女はここで自殺するような真似はしないだろう。恐らく私やワタリへ迷惑がかかるなどと思うに違いない」
彼女の性格はもうよく分かっていた。
あの出会った日も、文句なく身の周辺を綺麗に片付けて死のうとしていた。
変なところで律儀で、人に気を使う。死ぬ時まで気遣いを見せるとは、変わった人だ。
「…藍川さんが心配なのですね」
ぽつんとワタリが言う。私はふっとパソコンから目を離して彼をみた。
「…どういう意味だ」
「あの方はきっと…あなたにとって、特別な人になると思います」
ワタリが微笑む。
私は言葉の意味がわからなかった。
彼女が本当に私の死の未来を変えるということか?
「…まだ、あなたにはお分かりにならないかもしれません」
ワタリは、そう言った。
夜、彼女が訪室した。
初めて隣でホットミルクを飲みながら、自分の人生をポツリポツリと話した。
実は全て知っていた。彼女の人生は簡単に調べがついた。
特に幼少期は、未来を当てる子としてそれなりに有名だったようだ。
単純にギャンブルに利用したい者、自分の企業を大きくしたい者、そのほかにも醜い大人に追われていた。
しかし不思議なことに、彼女の話にそういった周りの人間を責める言葉は一つもなかった。
責めるのは自分ばかり。
母を助けられなかった、FBIを助けられなかった。
私を救うことは、自分が救われたかったから。
まるで謝る必要のないことを謝りつづけた。
これほど人間の黒い部分を知っていながら、
この人は真っ白なままなのだと、私はとても驚いた。仕事上、薄汚れた人間たちしか見てこなかった私には到底理解できない。
恐らく死んだ母親は、本当に大きい愛情を持って育てたのだろう。
親というものを知らない私には、想像しきれなかった。
気付けば、彼女の頭に手を置いていた。
「優しいお母様だったんですね」
だから、あなたも優しいんですね。
心の中で呟いた。
涙をあふれさせて、目も鼻も真っ赤にしているこの人を、
とても綺麗だ、と感じた。
泣きじゃくり疲れて眠ってしまったのを、私は肩で支えていた。
気持ち良さそうな寝息を立てるその人を見て、不思議な感覚に襲われた。
今まで生きてきて感じたことのない感覚だった。
この人には幸せになってほしい。
自殺などしてほしくない。
笑っていてほしい。
正直なところ、人が幸せだろうが不幸せだろうが関係ないと思って生きてきた。難事件の解決も、誰かを救いたいなどと正義感あふれる心から行ってはいない。
だからこれは私にとって、生まれてはじめての感情なのだ。
出会って間もないのに、なぜこんな事を思うのだろうか。
そっと髪を触る。
涙の跡ができた頬を触る。
…なぜ、こんなにも、
触りたくなるのか。
私には、分からなかった。
