失敗すらも愛しくて
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たまに竜崎と夜にお茶をすることにしている私は、その日も捜査室へ向かっていた。中へ入ってみると、ソファで寝息を立てている月くんと、パソコンを見ている竜崎の姿がある。ホットミルクを二つ作り、私は竜崎の隣に腰掛ける。
「こんばんは」
「こんばんは。ありがとうございます」
二人きり……というわけではないけれど、ゆっくり二人で話せる唯一の時間だ。私は熱々のホットミルクを啜る。
「昼間は本当に珍しい物が見れました」
竜崎が突然そんなことを言ったので、飲み物を吹き出しそうになる。
「昼間のことですか? まだ言ってるんですか」
「いえ、本当に感心していたんです。ちょっと何かに失敗したことで、愛おしさが増すなんて人間の心は面白いな、と」
彼は確かに感心するように頷きながらそう言った。私が肉じゃがを焦がすことが、そんなに珍しいだろうか? 首を傾げる。
「私、そんなに完璧人間ってキャラじゃないですよ。竜崎や月くんじゃあるまいし」
「私からすれば完璧な女性なんですがね」
料理を焦がしたりデコレーションを失敗することに、なぜそんなにもこだわっているのかわからなかったけれど、そういえば竜崎の失敗するところなんて見たことがないな、とぼんやり思う。
「竜崎は失敗しませんよねえ……」
「いえ、捜査で目論見が外れることはあります」
「それはまた違いますよね。弱みってないんですか?」
「あなたが弱みです」
「そ、そうじゃなくて……これが苦手だとか、どうしてもうまくできない、とか」
「基本的にないですね」
言ってみたい、そんなセリフ。
でも私はすぐに笑った。
「って、思えば竜崎は甘いもの以外は苦手だし、靴下履けないし、その服以外も嫌いだし、ありまくりじゃないですか!」
「そういえば日常生活全般苦手でした」
「あはは」
笑いながら、ふと過去のことを思い出す。
「そういえば、いつも室内で膝を抱えている竜崎がテニスが上手って、びっくりしましたよ私!」
「そうなんですか?」
「あれはギャップですよね。プレイしているところは見れなかったから、いつか見てみたいと思っています。かっこいいだろうなあ、絶対惚れ直しちゃ」
そこまで言ってハッとし、口を閉じる。恥ずかしいことを口走ってしまった、と思ったからだ。
恐る恐る隣を見てみると、竜崎が真ん丸の目をしてこちらを見ていたので気まずく思い、顔を背ける。
「……そんな風に思ってたんですか?」
「……あの、まあ……キラ捜査が終わったら、と……」
「……あなたにかっこいいなんて思われるなら、一日中でもやります」
「やりすぎです!」
つい吹き出して笑ってしまった。竜崎は優しく口角を上げて私を見つめている。
「本心です。そんな風に思っていたんですね。テニスなんて簡単なことであなたに惚れ直してもらえるんですか」
「それを言ったら、私なんて料理の失敗なんてことでしたし。
あの、ギャップだとかさんざん話してしまいましたが、別に意外性があるとかじゃなくて、もう知り尽くしたと思っていた相手の見たことない面を見ることが、喜びになってるんだと思うんです」
私は目を細めて彼を見る。
「付き合いが長くなっていけばお互い分かることが増えてきて、それはそれでとても嬉しい事ですよね。でも、一人の人間を完全に知るなんて不可能じゃないですか。ああそうか、竜崎にはまだ私の知らないこんな面があったんだ、とか、こんなことしてる竜崎を初めて見た、だとか、そういうのが全て楽しいんだと思います。あなたと出会う前の……二十何年分の竜崎を、少しずつ知れている感じがするから」
私は彼について知らないことだらけ。付き合いだって浅いのだから当たり前だ。ぼんやりと竜崎がどんな人生を送ってきたのか知っているけれど、わからないことの方が多い。
そんなあなたをまた一つ知れた……そう思えるから、楽しいのだ。
彼もそうだろう。料理を焦がすだなんて、私はこの人生で何度もやらかしたことはあるけれど、竜崎の前では初めてだった。小さなことだけれど、新鮮で面白かったに違いない。
彼は私の話を聞いて一つ頷いた。
「あなたの話は相変わらず面白いです。そういうことですね。私は今日、初めてあなたが料理を失敗する場面を見れた――些細なことですがあなたの新しい面なので、それが嬉しかったんですね」
「そういうことです」
「では、お互い年を取ったらさすがにこういうことはなくなるんでしょうか。例えば二人とも百を超えた頃など」
「ふふ、竜崎、百歳まで生きるつもりなんですか」
「別に寿命なんて気にしたことないですし、長生きしたいと思っていたわけではないですが、あなたが一緒に生きてくれるなら長く生きたいと思うのは当然のことです」
彼がそんなことを言ったので、私の動きは一瞬止まってしまった。
命を懸けてキラという相手に臨んでいるあなたが、
そんなことを言うなんて。
でも、そう思ったことを口には出さなかった。
竜崎はこの事件で負けるつもりがない。早くキラ事件を解決させて、私と百歳まで生きるつもりでいてくれる。
私は彼に優しく微笑みかけた。
「そうですね。百歳にもなれば、もうお互い知らない面だとかそういうのはなくなるかもしれませんね」
「ああ、でも年を取ることにより、『初めて』が出てくるんでしょう。初めて老眼鏡を掛けるシーンなど」
「それ嬉しいんでしょうか?」
「私はきっと嬉しいですよ。そう思うと、老いるのも怖くないですね」
「そういうプラス思考、私結構好きです」
「二人で行う初めてもたくさんあるでしょう。街中をデートなんてしたことないですし、外食だとか旅行だとか」
「……いつか行きましょう」
「はい、いつか」
いつか必ず、行きましょう。
全てが片付いた後、一緒に過ごしたい。
その時はきっとまだまだ知らない顔を見せてくれるはず。
