失敗すらも愛しくて
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基本的に、私の捜査本部での働きは決まっていて、竜崎へのお菓子を作ることとみなさんへの差し入れを作ること、それからその辺を掃除したりするぐらいのものだ。予知が見えなくなったので、それぐらいしかすることがない。
でもたまに、捜査の手伝いをすることもある。まあ、非常に簡単なもので『これを時系列に並べてほしい』だとか『このファイルを整理してほしい』だとか、そういった指示を受けてこなすだけで、難易度は雑用と変わりないのだが。
それでも、重要な書類を扱うのだとわかるとこちらも気合が入る。本来なら一般人の私なんて触ってはいけない代物ばかりだ。まあ、月くんも触ってるけど、彼は竜崎ほど頭がいいのだし特別カウントをしてよいだろう。
時々捜査員の方に頼まれる仕事は、料理よりずっと集中力を使う。
……というのが、私の言い訳だ。
「ゆづきちゃん、なんか焦げた匂いしない?」
松田さんがそう言ってきたのを聞いて、ハッと顔を持ち上げた。手元のファイルに集中していた私は、完全に忘れていた存在を思い出し青ざめた。
「しまった!」
慌ててキッチンへ駆け込み、コンロの火を消す。おいてあった鍋の蓋を取って中身を確認したら、一気に脱力してしまった。
「こ、焦がしちゃった……肉じゃが……」
そう。今日のみなさんの昼食になるはずだったメイン料理を、すっかり焦がしてしまったのである。
肉じゃがを仕込んで、あとは煮込むだけ。そんな時、松田さんに頼まれごとをされ、快く受け入れた。肉じゃがは少し目を離しても大丈夫。時々のぞけばいいから。――そう油断していたのがすべての原因だ。
手元のことに集中しすぎて、松田さんに言われるまですっかり肉じゃがの存在を忘れており、蓋を開ければ底の方が煮詰まって焦げてしまっていたのだ。
わらわらと捜査員の方たちが、珍しい物を見るように鍋の周辺に集まってくる。
「ゆづきさんが失敗するのはレアだな」
と、感心したような相沢さん。
「ご、ごめんね、僕が料理の途中なのに頼みごとをしたから……」
と、謝る松田さん。
「上の方なら食べられるんじゃないか?」
と、模木さん(多分無理です)。
私ははあとため息をついて蓋を戻した。
「いいえ、油断していた私のせいです、松田さんは何も悪くないです……集中しすぎたんですね。これ、メインだったのに……すみません、すぐに他の何かを作るので、昼食は少し遅れます」
項垂れてそう言うと、離れた場所にいた夜神さんが笑いながら言った。
「気にすることはない。君も失敗するんだなあと親近感を持ったくらいだ。他にも作ってくれているんだろう? それだけで十分だ」
「で、でも味噌汁と副菜ぐらいですし」
「普段から豪勢な料理を作ってくれてるから、今日はそれぐらいでも全然かまわない」
優しく言ってくれる夜神さんに、周りの人たちが頷く。優しいなあ、なんて思っていると、ジャラジャラと手錠の鎖の音を立てながら竜崎と月くんがこちらに近づいてきた。
「あなたが失敗したんですか?」
人差し指を口元に当てながら、竜崎が目を丸くさせて私の手元を覗き込んでいる。月くんはただ彼に引きずられるような形でついてきているだけだ。
「あ、はい、焦がしてしまって……」
「珍しいですね。ショートケーキの飾りつけ以外で失敗だなんて」
「あれを失敗だと思ってたんですね竜崎」
「……それは置いといて、いつも完璧なあなたが失敗するだなんて、あなたも人間だったんですね」
ショート―ケーキのことは完全に流された。まあ、いいけど。
私は呆れたように言う。
「人間離れしているのは竜崎の方です。月くんもだけど……私は凡人ですよ」
「凡人? あなたが? 凡人にこんなに可愛い人間がいますか?」
「びっっくりするくらい凡人ですよ!! 勝手に持ち上げないでください!!」
いつでも可愛いだの天使だのなんだの言って、私を人外扱いする竜崎に非難する。だが彼は反省する様子もなく、じいっと私の方を見ながら隣に立つ月くんに言う。
「不思議ですね月くん……ゆづきが失敗する姿を見ると、こう……熱い物がわきでてきます」
「ギャップだろ。普段きりっとしてるから、たまにドジをしてる姿が新鮮なんだ。もういいか? さっき言ってたキラの動向の話だけど……」
「ギャップ! そうですね確かにそれです。失敗することで私の心をなお惹きつけるなんて世界中を探してもあなただけですね」
「竜崎、ちょっと黙って月くんと捜査しててください」
私は冷たい声でそう言うが、彼には何も響いていない。くわっと目を見開き、私に詰め寄る。
「ゆづき、せっかく作ったので私は食べますよ。そんなに落ち込まないでください。あなたの失敗作など珍しいので食べておきたいです」
「えっ。駄目です、体に悪いですよ」
「あなたが作った物なら何でも食べて見せます」
するとなぜか、黙って聞いていた松田さんも勢いよく挙手した。
「僕もいいですよ! 食べます! 僕のせいで失敗したんですし!」
「……あなたは呼んでません松田さん。ゆづきにいいところを見せようとしないでください」
「い、いいところを見せようとしてるわけじゃ……」
「私一人で十分です。それを食べて……」
竜崎が言いかけたところで、私は苛立ちが募りずいっと彼に顔を寄せて目を据わらせた。一体、どの口が言うんだ。私は普段よりやや低い声を出す。
「私はそんな事より、普段から普通の食事をしてくれる方がずっとありがたいです竜崎」
「……」
「焦げた肉じゃがじゃなくて、ちゃんと作った肉じゃがと味噌汁を飲んでくださいよ、毎日たくさん」
「……」
目を逸らしたな。
まったく、どうして普段の食事はあまり食べないくせに、焦げた肉じゃがを意気揚々と食べたがるのだ。竜崎はズレすぎている。
結局肉じゃがの代わりに適当にお肉を炒めて簡単な昼食にした。
その後、私は食材に謝りながら肉じゃがは破棄し、夜を迎える。
