エイプリルフール
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窓から日差しが入ってくる。
時計を見ればすでに朝。自分の時間感覚はだいぶ狂ってることは前からだったから驚かない。
さて、そろそろあの人はやってくるか。また甘い匂いが立ち込めるのがすでに待ち遠しい。
私は目の前のパソコンに目を落とした。止まっていた考えを再開させて事件の考察を続ける。
すると丁度、リビングの扉が開いたのが分かった。
「おはようございます竜崎」
「おはようございます」
部屋に久しぶりに人の声が響いた。その声だけでどこか安心感に包まれる。
彼女は部屋の中に入る。普段はそのまますぐ私のためにお菓子を焼くのにキッチンに入る。
が、今日は違った。キッチンを通り過ぎて私に近づいてきたのが足音でわかった。
普段と違う行動に、私は顔をあげた。
少し困ったような愛しい人の顔が目に入った。
彼女は少し俯き加減で言う。
「あの、竜崎」
「どうしました」
「ずっと隠してたことがあります」
「はい」
突然の行動に驚きながらも先を促す。
しかし正直、私は彼女のことを知り尽くしている自信がある。
初対面の頃はその身辺を細かくワタリに調べさせたし、その後も常に近くで見守ってきた。
となれば。予知。
私に話していない予知があるのか。
彼女の真剣な瞳をじっとみた。
「私、本当は男なんです!」
彼女は爆弾を投下した。
自分の体の力が瞬時に抜け、キラに殺されたのかと勘違いした。
気がつけば体に冷たく固い床の感触が伝わる。
男。
性染色体としてXとYを1つずつ持つ。Y染色体上には未分化の生殖腺を精巣に変化させるコードを持った遺伝子がある。
つまりは、
つまり、
…なんだ?
彼女は男性だった。なぜ気付かなかった、ワタリは初め調べたときそんなことは言っていなかった。
この私がこんなに長く気付かなかったなど。恋は盲目だからか、私以外は気づいていたのか?捜査員は?いや松田の馬鹿は気づいていない。
ああ、だから頑なにも私が迫るのを拒否していたのか。
しかし彼女は背も低く肩幅も狭い、男性特有の喉仏や声も何も違和感ないのに…。
それどころか体は丸みを帯び女性らしい。ということはすでにホルモン剤投与までしているということか。それはそれで大変な過程を歩んでいる。言い出せなかったのだろう、きっと今彼女は勇気を振り絞って恋人である私に告げたのだ。
そうだ、染色体など考えてもしょうがない。隠し事をやめようと思ってくれた彼女に敬意を。
「あの、竜崎…」
頭上で可愛らしい声が響いた。ああこの声が男性のものなど思えない。こんなに可愛らしく愛らしく小鳥の囀りのような優しい声。
「…そう、ですか…」
私は声を振り絞る。体に力を入れてなんとか起き上がった。
「正直に言ってくれて…ありがとうございます…」
きっとこの人は悩んでいたに違いない。私に打ち明けるべきかどうか。
「勇気がいることだったでしょう…」
それを勇気を振り絞って言ってくれたのだ。私はゴタゴタ悩んでる暇はない。
「だから私の誘いをずっと断っていたのですね…」
そうか、納得がいった。その考えは至らなかった。世界のLの推理力もまだまだだった。
「手術は全てお済みなんですか?」
もしまだで彼女が(彼?)望むなら最大の援助をしてあげたい。
手術にはリスクがつきもの。命に関わるといっても過言ではない。
ワタリに言って世界一の医者にせねば。そうだ、私にできることはそれだ。
今は戸籍の変更も出来る。彼女(彼)は女性に生まれ変われる。
「もし望むなら世界中の病院を探して一番良いところを紹介します。腕がよくて安全な病院にしましょう。だだ、大丈夫です、私は受け入れています」
戸惑ってしまったが。驚いてしまったが。いと、愛しい人が実は男性だった……なん、て…
そうだ。私は性別などという枠を超えて見せる。私は世界のL。紛れもなく愛した人。彼女が男だろうが幽霊だろうが関係はない。
「そう…私は、あなたの性別などで幻滅したりしません。あなたがその気がないなら手術も受けなくて結構です、愛する気持ちに変わりはありません」
彼女の美しい瞳をしっかりみて伝える。断固たる決意。ただあとでワタリに用意させて少しだけケーキのやけ食いをしよう。
この人の姿形だけを愛したのではない。優しさや心遣い、真っ直ぐなところを愛したのだ。
彼女(彼)は目を丸くして私を見た。別れを告げられると思っていたのかもしれない。
静寂。
時間を刻む時計の音。
流れる沈黙。青い空。
「………竜崎……」
小さく彼女は呟いた。もしかして、泣くのかもしれないと思った。
「……エイプリルフール、です……」
彼女は小さく呟いた。
私は自分の思考が停止したのが分かった。生まれてこの方私の頭の中を停止できるのはこのひとのみだ。
エイプリルフール。
そうか、4月1日か。
エイプリルフール。嘘をついても許される日…
嘘…
エイプリルフール…
「…冗談、です…」
「………」
「私は、女です…」
「……」
「……」
「……」
そうか、エイプリルフールか。
嘘、か。
嘘。
ではこの人の声も細い首元も柔らかな体も全て本物。
…本物。
手術もホルモン治療も必要ない、この人は染色体がXX。そして私はXY。
体がどっと脱力したのが分かった。彼女のイタズラだったということだ。
今まで人に騙されたことはなかった。疑り深くて人を信じない私が、こんなイタズラ心に翻弄される。もし彼女が私の敵に回ってしまったら終わりだと思った。
私は少しだけ恨めしい気持ちを持って、彼女を強く抱き寄せた。
「騙したんですね私を」
「す、すみません!ほんのジョークだったんです!」
「私の愛を試したんですね」
「本当にそんなつもりなかったんです!!何言ってるんだって呆れられて終わりだと思ってたんです!」
「はあ…光さん」
「ご、ごめんなさい」
彼女の申し訳なさそうな声。どうやら本当に私が信じるなどと思っていなかったようだ。
柔らかなこの膨らみは本物。彼女は正真正銘女性だった。足の間にも何も…いやこれ以上の想像はいけない。彼女に失礼だ、また夜にしよう。
「この胸の感触が本物で安心しています」
「竜崎!」
少しばかり嫌がる彼女を今日は無視した。
「あなたに拒否する権利はありません」
「わ、悪かったですけど!でも…」
「この私を騙すとは」
「普通信じないでしょ…」
「しかしこれで私の愛があなたに伝わったかと思います」
「そ、そうですね…ありがとうございます…」
可愛らしい彼女の小さなイタズラがここまで大事になってしまった。本来なら笑って済むだろうイタズラ。
彼女も悪気はなかったのは分かっている。今になって思えば確かに馬鹿馬鹿しい嘘だ。
しかし。
一回は一回、だ。
「しかし驚きました…私自身の好みが、ワタリからあなたに伝わったのかと」
「…え?」
彼女を離して顔を見つめる。
「私は元々男性しか愛せませんので。」
「…え」
「今まで黙ってたのですが。夜神月くんは結構タイプなので東応の入学式は少し楽しみでもあるんです」
くだらない嘘には、くだらない嘘を。
馬鹿らしい嘘には馬鹿らしい嘘を。
竜崎、この流れで流石に無理がありますよ…困った顔をしながらそう言う彼女が思い浮かんだ。
が。
今度は彼女が停止する番だった。
「……」
「…光さん?」
「そ、うだったんですね…」
「……」
「し、らなかった、です…」
なぜ信じる。
先ほど言っていた『普通信じないでしょ…』という言葉をそっくりそのまま返したい。
彼女は目を見開いたまま硬直し、しかしすぐに意を決したように言った。
「わ、私…!さすがに手術まではできませんけどっ…格好とかなら、竜崎の好きなようにしますよ…!」
「……」
「か、髪を切りましょうか、月くんヘアーに…!服とかも…。」
「光さん」
「あ、言葉遣いとかも…!?」
懸命に言う彼女をみて脱力。
同時に愛しさに溺れる。
私は自分の口からふっと笑みが溢れるのがわかった。
なんと馬鹿馬鹿しい二人だろう。
4月1日。
騙すのも騙されるのも、この程度なら悪くないかもしれない。
くだらない嘘すら信じて愛する。
似たもの同士のカップル。
「私が一番いいと思うのは相沢さんです」
「ええええええ!!」
1回に2回返してしまった。
あなたの驚く顔が可愛すぎる。
これはハマりそうだ。
