髪
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暑い。
私は心の中で呟いた。
ホテル最上階スイートルームは温度調整されていて普段は心地よい気温だ。
が、今私の背後はオーブン稼働中、前のガスコンロはスープを煮るため火をつけている。
それに料理は意外と腕を動かしたりして体も使う。
キッチンだけは、暑い。
ふうとため息をつきながら周りを見るが、捜査してるみなさんは暑そうにしていない。そうだよなあ、みなさんは頭を使ってお仕事されてるわけだし。
エアコンの気温を下げるのは気後する。
(髪を上げよう…)
普段はヘアゴムで軽く束ねるだけだが、長く伸びてきた髪を上げるだけで首筋は違うはず。
私は自分部屋からピンを持ってきて、髪をアップにした。首筋に風邪か通り少し気分が晴れる。
やはり、これだけで少し違う。
私は満足し、調理を続けた。
焼き終えたお菓子を持って竜崎の元へ行く。今日はロールケーキに初めてチャレンジしてみた。ちょっと歪な形になってしまったが仕方ない。
彼は考え事をしながら紅茶を手を伸ばしていた。
私は竜崎の前にそっとお菓子を置いた。
「竜崎、どうぞ」
「ありがとうござ…」
言いかけて、竜崎は私を見て停止した。持ち上げたティーカップをそのまま落下させ、机の上に派手な音を立てて着地した。
当然中身がこぼれる。
「わ!大丈夫ですか!」
私は慌ててキッチンから布巾を持ってくる。
しかし竜崎は紅茶を持っていた手のまま動かない。一時停止のボタンを押したように止まっている。
茶色の液体は机をつたい床にまで落ちゆく。高級な!カーペットが!濡れる!!
私は手早く拭いた。
「竜崎、濡れてませんか?」
聞くも、何も答えない。不審に思った私が彼を見上げると、竜崎は目をまん丸にしていた。
「竜崎?」
「…ゆづき、あなた…」
「はい?」
「そんな…うなじなど…!」
…何を言ってるんだ、この人は…?
私は無視して掃除に戻る。よかった、ティーカップ割れてなくて。絶対高級品だものね。
「髪をあげるだけでこれほど印象が変わるとは…!女性とは恐ろしい…」
「竜崎、濡れてませんか?」
「そしてうなじがこれほど男心を掻き立てる威力があるとは…!もはや兵器です、あなたは歩く兵器です」
「濡れてないか!どうか!聞いてるの!」
「ゆづき…そんなに可愛さを振りまかないで下さい…私は心配でどうにかなりそうです」
私は頭を抱えた。髪を上げただけでなぜこんなことにならなくてはいけないのか。
この人はなんでいつもこんなに大袈裟なの…
呆れたように背後で仕事をしていた相沢さんが口を出した。
「竜崎、落ち着け。少し束ねただけだろう」
「これが落ち着いていられますか。ちょっと相沢さんこっち見ないでもらえますか、ゆづきが可愛いので」
「……」
共に命をかけてキラを追う捜査員にこっちを見るなとは何事か!
だめだ、捜査員の方たちにまで被害が。
私は呆れ返りながら無言で髪を解いた。
「!」
「これでいいですね」
「待ってください、あと30秒…いや、よくない…今は我慢です…夜、夜必ず髪を上げてきてください。それで私の推理力は格段に上がります」
「いやです。もう二度とあげません。竜崎がうるさいので」
「私の推理力が上がりますから」
「竜崎それ言えば何とかなると思ってませんか。前から思ってましたが竜崎は全てにおいて大袈裟です!私は恥ずかしいんです!」
こんな平凡極まりない女をそこまで持ち上げると残るのは侘しさだけ。
褒めて伸ばすのはいいことだけど竜崎は加減を知らなすぎる。
「大袈裟?とんでもない、私の素直な気持ちです。あなたが可愛すぎるのが悪いんです」
「わ、私のせいにするんですか!」
「そうですあなたのせいです。あなたはその可愛さで私をどうするつもりですか殺すんですか新たな殺人方法ですか」
「縁起悪すぎる言い方やめてもらえますか」
「しかしあなたに殺されるなら本望と言うものです」
「だから!殺されるなんて言い方しないでください!」
「この世にこんな可愛らしい存在がいたなんて…はっ!もしや、うなじという色仕掛けでしたか。気づかなくてすみません、今夜部屋に行」
竜崎の頭を無音ではたく。
それでも彼は目を爛々とさせて黙らない。
「そういえば先ほどから私の服が濡れたかどうかしきりに聞いてましたね、ええ濡れてしまいましたこのままでは仕事になりません。あなたの部屋で着替えさせ」
さっきより強い力で叩いてみた。ようやく竜崎は押し黙る。
てゆうかちゃんと聞こえてたのかい!
「ゆづき…夜髪をアップにし」
「ませんよ。竜崎がうるさいから」
「では何も言いませんので。私は黙ってあなたの背後からうなじを見」
「怖い怖い!もう絶対髪はあげません決めました!!」
竜崎はつまらない、とばかりに目を座らせた。
ちょっとピンを使って髪を上げただけでなぜこうなる。呆れたように見てくる捜査員の方々の視線が痛い。もう竜崎の前で気軽に髪型を変えてはいけないなと強く思った。
(…髪、切りたい………)
