休日
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ある日のこと。私は相変わらずキッチンで竜崎のためのお菓子を焼いていた。
竜崎は言った。
「ゆづき、明日は休みをとってください」
唐突に。
きょとん、としてしまう。
竜崎は私の焼いたお菓子を食べながら言う。
「ここ最近仕事は落ち着いてますし…思えばあなたはここに来てから毎日私に付き添ってお菓子を焼いてくれている。たまには休んでください」
捜査員のみんながこちらを向いた。
たまには休みなよ、と口々にいってくれる。
しかし私は仕事という仕事をしてるわけでもなく、一般的な家事をしてるだけなのだが…
ちらりと竜崎を見る。彼はもう決定です、と言わんばかりに知らんぷりでケーキを食べている。
確かにここ最近は穏やかな日々だ。相変わらずキラは動いてはいるが、いわば捜査が行き詰まっている。キラの裁く犯罪者のデータ化を日々行なっているだけのようだ。
…正直、自分の部屋にいてもやることがないのだけれど、朝ゆっくり寝坊出来るのはありがたいこと。
私はお言葉に甘えることにした。
「では竜崎、頂くことにします」
こうして私は初めて、休みを貰った。
朝10時過ぎ。
久しぶりにかなりゆっくりの目覚めだった。
こんなに寝たのいつぶりだろう。ここに来てからは早起きの毎日だった。
「ん〜たまには休みもいいかも!」
私は身体中で伸びをする。沢山の睡眠をとって頭もスッキリしている。
と…言ったものの、何をしよう。
ここにはなんの娯楽もない。ワタリさんに小説の一冊でも用意してもらえばよかったかな…
まあ、とりあえず身支度を整えよう。
そう考えているところに、ノックの音が響いた。
私は寝巻きのまま部屋を開けると、ワタリさんが部屋を訪ねてきてくれた。
「おはようございます」
「ワタリさん、おはようございます!」
相変わらず優しいワタリさんの笑顔に癒されたと同時に、彼の後ろにあるものに気がついた。
ワタリさんの背後には、テレビがあった。
「あの、それは…」
「もう竜崎はあなたをキラ共犯と疑っておりませんので、外の情報を入れれるようテレビの設置を命じられました」
「わ、テレビですか!」
「ええ、あと…」
差し出される、結構な大きさのダンボール。
私は受け取って中身をこっそり覗いた。
そこには。
「わわー!竜崎からですか!?」
目を輝かさずにはいられない。
私の大好きな映画が並んでいた。
「そうです、本日お休みとのことで…ゆっくりできるようにと」
竜崎、ありがとうございます!なんてグッドチョイス!
私はうきうきしながら、ワタリさんにテレビを設置してもらった。
夕方。
外はそれなりに暗くなってきた。
捜査員はそろそろ帰路に着こうかと片付けを始めていた。
「ゆづきちゃんいないと華がないですねぇ〜…」
「松田は朝からずっとそれだな…」
相沢が言う。
「だって本当のことじゃないですかー。どうもむさ苦しいしお菓子ないし、それに…」
松田がチラリと見た先には。
普段より極めて機嫌の悪い、竜崎だった。
彼は目を座らせたままひたすら角砂糖を積んでいる。
「…竜崎の機嫌が悪くて敵いません」
小声でいう。
「松田さん聞こえてますよ」
「ひいっ、地獄耳!」
松田はあわてて口を閉じる。だって本当の事じゃないか!八つ当たりみたいに僕に仕事を押し付けまくってたくせに。市販のお菓子を見てつまらなそうにため息ついてたくせに。
竜崎はパソコンを見ながら、いつもより強めに爪を噛んでいた。
その時だった。
離れた部屋から、女性の悲鳴が聞こえた。
「!!?」
一斉にみんな立ち上がる。
しかし現役警察よりも反応が早いのは竜崎だった。
竜崎はひらりとソファから軽々飛び降りると風のようにその場から離れた。
「ゆづき…!?」
みなが揃って部屋から飛び出す。
何が、まさかキラが?いやそんなはずはない、キラに彼女をどうこうするメリットはない。
では今の悲鳴は…?
竜崎はすぐに目当ての部屋にたどり着くと、ノックもせずにマスターキーで部屋を開けた。
「ゆづき…!」
そこには。
大きなテレビでホラーDVDを鑑賞してる姿があった。
「あ…」
「…」
「あ、すみません、聞こえちゃいましたか!?イヤホンで音聞いてたんですけど、ちょうどいいところで外れちゃって、音漏れましたよね?」
あわててゆづきは頭を下げる。入り口に立つ捜査員たちは一気に脱力した。
どうやら先ほどの悲鳴は、映画に出てくる登場人物の悲鳴らしかった。よほど大音量で見ていたらしい。確かに、冷静に考えればゆづきの声ではなかった、と竜崎は己の早とちりに呆れる。
それよりも捜査員みな、唖然としていた。
なぜなら、その部屋には数々のホラーDVDが部屋中に転がっており、その中央に普段と違う部屋着のゆづきがいたからだった。
いつもはシンプルだが上品なワンピースを着ていることがほとんどだが、やはり休日だからか。
彼女は化粧もせず、ラフな部屋着を着て、髪も前髪をピンで留めておでこが出ていた。
血塗れのパッケージのDVDに囲まれた無防備な姿。なんともアンバランスな姿だった。
「ゆづきさん…何見てたんだ…?」
相沢が恐る恐る聞く。
目を輝かせて、ゆづきは言う。そばにあった一枚のパッケージを持ってかざした。
「これ!見たかったんですよ〜結構怖くていいです!あ、竜崎、素敵な贈り物ありがとうございます!」
「というか…ゆづきちゃんのすっぴん部屋着、可愛いなぁ…」
ぽつんと呟く松田。初めて見たプライベートな格好は普段より力が抜けているような感じがして、つい頬が緩んだ。
それを聞いた竜崎は、突然くるりと捜査員に振り向くと、みなをずいっと両手で押し出した。
「り、竜崎?」
「とくに問題はなかったようですみなさんありがとうございます。これ以上ゆづきの可愛いプライベート姿を見ないで貰えますか」
「は、はあ。」
捜査員は素直に引き下がり、部屋の外へと追いやられる。そして無情にもバタンと扉を閉められた。
部屋に残る二人。
ゆづきは恐る恐る竜崎の背中に問いかけた。
「あの…すみません、うるさかったですか?」
「ゆづき、私は今猛烈に自己嫌悪に陥っています」
「え?」
「あなたの普段着や素顔を他の男に見せるなど。特に口説いてきてた松田に…」
「いや、松田さんは口説いてないですってば…」
「あなたはなんともないんですか、そんな姿を晒して」
「え、いや…捜査員の方達は家族みたいな感覚で…別に部屋着とすっぴんくらい…」
竜崎はくるりと踵を返す。そしてゆづきに近寄った。
そのままぽかんとするゆづきを、勢いよく抱きしめた。
「…り、竜崎…?」
「だめですこの姿をみれるのは私のみです、二度と他の男には見せないと約束してください」
な、なぜすっぴん部屋着をそんなに…?裸でもあるまいし…
ゆづきはそう思ったが、こういう時は素直に竜崎に従っておこうと学習している。
「わかりました…なるべく見せないようにします」
「よかったです。」
竜崎はようやくゆづきを離す。今回は予想外の事で見せてしまった。今、少し自分を殴りたい。
「ところで、映画は楽しめましたか」
「ええ!もう、それは勿論!みたことないやつ沢山あって面白かったですよ!」
ニコニコ笑う彼女をみて、竜崎は複雑そうな顔をした。
「怖かったですか」
「怖かったですよ」
「夜大丈夫ですか」
「何がですか」
「お風呂とか、寝るのとかです」
彼女はきょとんとした。
「大丈夫ですよ?子供じゃあるまいし。」
竜崎は無言でため息をついた。
そんな竜崎を、ゆづきはポカンとして見る。
こんなはずではなかった。
『ホラーが好きで見たはいいものの、夜になると怖くなってしまって、竜崎に甘えてくる』
そんな淡い期待を抱いて彼女に贈り物をしたなどと口が裂けても言えないな。せめて一緒に寝るくらい求めてくるかとおもったのだが。さすが、一筋縄ではいかない。
竜崎の計画を見事に打ち破ったゆづきだった。
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