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次の日。
再び、キラは刑務所内の犯罪者を1時間おきに殺した。
マイクから流れる警察たちは昨日に続いて狼狽えていた。
「キラは学生じゃないんじゃないか?」
そんな声が流れてくると、
「そうじゃない!!」
珍しく、Lが声を大きくしてそう言ったのだ。
驚いて、私が料理する腕を止めたほど。
Lはこの日、考え事をする時間が特に長かった。
ーーLは、この日確信していた。
キラは死の時刻が操れる。
そして、警察の情報がリークされていることをーーー
それからしばらくたった。
世間はお正月に向けて慌ただしくしてる頃。
私のいる場所は、そんなこと微塵も関係なかった。
Lはひたすらお菓子を食べるか資料を見てるか、考え事をしてるかで…
私はそこから離れて、お菓子作りに没頭する毎日を送っていた。
外部との接触を禁じられてる私に、正月なんて関係ない。
てゆーか、Lは多分日本人じゃないしな…尚更関係ないか。
相変わらず、彼と目が合うことはほとんどない。
そして最近、予知をあまり見なかった。
見たのは、Lが紅茶をこぼす、なんてどうでもいい予知でー
キラ事件に関することは見えてない。
それがまた、もどかしくて。
でもLは一度も、予知をみたか、などと尋ねてくることはなかった。
私…ここにいる意味あるのかな。
Lを助けたいとか大きなこと言っといて、まるで役に立ってないけれど…
そう自室で頭を抱えている夜、ノックが聞こえた。
コンコン
「あ、はい」
私の部屋を訪ねてくるのは、一人しかいない。
立ち上がって、扉をあけた。
「夜分遅くすみません、藍川さん」
「ワタリさん!今日もお疲れ様です!」
そこには、優しい笑みを浮かべた老人が立っていた。私もぱっと笑顔になる。
ぶっきらぼうで無表情のLとほとんどを過ごしている私は、この優しくて上品な紳士にほっと心休まされる毎日を送っていた。ワタリさんは本当にいつでも優しく私を気遣ってくれる紳士なのだ。
とゆうか、唯一の癒し…
「頼まれていた材料を冷蔵庫に入れておきましたので…」
「わ。すみません!言って頂ければ自分で処理したのに…」
「いえいえ。あなたの作るお菓子を、相当Lも気に入ってるようです。」
「そ、そうなんですかね…」
そりゃ、感想だけはちゃんと言ってくれるけど…
「間違い無いですよ。私が用意したものより、藍川さんが作られたお菓子の方が食べています。私は用意する種類も減らせれたし、掃除やお茶汲みなどたくさんやって頂けて、本当に助かっていますよ。」
ワタリさんの優しい言葉。
私はつい俯く。
「そうならいいんですが…役に立てる予知もあまりみれてないし、何のためにここにいるのか…」
「…藍川さん。Lをどうおもいますか?」
唐突に言われ、私は目を丸くする。
「え、ええと…正直、何を考えてるのかよく分かりません…まあ、私に理解できる頭じゃないと思うのですが…」
私が素直にそういうと、ワタリさんは小さく笑った。
「そうですね。確かにLは分かりにくいところが多いと思います。ですがね、私は長い付き合いなので分かります。Lは、あなたを気に入っていますよ」
「え…そ、そんな風にはまるで見えませんが。」
毎日会話もほぼなく、目も合う事すら数えるくらい。
彼にとって私は、空気になっている。
「いいえ。現に私は、あなたが不自由なく過ごせるよう気を使えと申しつけられています。キラとの共犯を疑ってる事も知ってますが、恐らくLの中ではその可能性は大分低くなってると思いますよ。あなたはー決断力があり、勇敢な女性です。Lが気に入らない人をずっとそばに置くことは考えられませんよ。嫌なら、どんな手を使ってもあなたを追い出すし、私たちは違うホテルにでも移ればいいんですから。」
…そう、なの?
私の事、少しは信頼してくれてる、のかな…
「…ありがとうございます。もっと信頼してもらえるように、頑張ります」
「私が伝えたことは、Lには内緒ですよ?」
ワタリさんは人差し指を立てて、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「ふふ、了解です。」
私もつられて、人差し指を立てたのだった。
それからまた数日。
ワタリさんが言うように、Lが私をそれなりに気に入ってるーーというのはまるでまだ信じられないほど相変わらずの毎日を送った。
ただ、たまにキラについて捜査内容を少し話してくれることもあった。
聞いたところで、素人の私には気の利いたことも言えないのだけれど…
それでも、少しLとの会話がふえたことは、私にとって嬉しいことだった。私がキラの共犯などではないと分かってくれてる証拠のようにも思えたから。
彼はいつでもあの座り方で、あの持ち方でフォークを摘んでケーキを食す。慣れたその光景は、いつのまにか私にとっても当たり前の形になっていた。
その日、ワタリさんに用意してもらった食材で、私はぜんざいを作った。
Lの舌に和菓子が合うのか分からなかったけど、試してみなければわからない。
Lに出すお菓子はさすがにもうレパートリーは尽きて、何度か同じものも提供していた。
今度は和菓子にチャレンジしてみよう、とワタリさんに本を買ってきてもらったのだ。
私は温かいそれを器に入れると、Lのもとへ運ぶ。
その日はワタリさんもずっとホテルにいて、Lと難しそうな言葉で何かやりとりしていた。
「L、熱いので気をつけてください」
私が言うと、Lはちらりと見て、珍しいものだと言うように目を丸くした。
「ぜんざいです、日本では有名ですよ、食べたことありますか?」
「知ってはいましたが、実際食べるのは初めてです。」
Lに箸もどうかと思ったので、フォークを備えておいた。
「おもち、喉に詰まらせないでくださいね。日本では毎年正月に老人が亡くなるニュースが流れます」
「私はまだ若いので大丈夫です」
Lはそう言って、そっとおわんを持ち、フォークですくって口へ運んだ。
「…これは…」
目が、さらに丸くなる。
「どうでしょう?口に合わなければ正直に…」
「美味しいです、初めて食べました。明日もこれをお願いします。」
「え…」
連日のリクエストがくるとは。
「そんなに…美味しかったですか」
「今まで食べたことのない味です。驚きました。」
そう言って懸命にフォークですくって食べる姿は、
…なんか、可愛いぞ。
私はつい、ふふっと笑ってしまった。
「なんです」
「いいえ、なんでもありません。ですが、L。前から言おうと思ってましたけど栄養の偏り凄いですよ、ちゃんと食事もしてください」
私がここへきて、Lが甘いもの以外を口にしてるのを見たことがないのだ。
…なのになぜこんな細い??
「頭を働かすには糖分が一番です。ちゃんと脳を使ってれば太りません」
「世界のLともあろうものが栄養バランスの重要性を知らないわけないですよね?」
「時間があれば健康状態もチェックしてます。何も異常なしです」
「それはあなたが若いからです。あと5年後10年後が悲惨ですよ」
Lは返す言葉がなかったのか、黙る。
「………気が向いたらたべます」
これ、「行けたらいくって言うやつ絶対来ない説」のLバージョンですね。
…いつか、絶対食べさせてやる。
背後で、ワタリさんが笑っている。
私は慌てて振り返った。
「ワタリさんの分も作ったんです、いかがですか?」
「では、少し頂いてもよろしいですか」
「はい、いますぐ…」
そうキッチンへ戻ろうとしたときだった。
(…あ)
映像が、見えた。
(…けど、なんだ?この映像は…)
Lの他に、見知らぬ男性が5人、このホテルにいる。
そして真剣な表情で、Lと話をしている。
…誰だろう?ここに入ってこれる人なんて…
「藍川さん、どうしました」
私の様子を見て、Lが尋ねる。
「あ、予知が見えたんですが…このホテルに、男の人が5人入ってきてLと話してて…スーツ着て、年齢層もバラバラなんですけど…」
私が言うや否や、Lははっとした表情になる。
「ワタリ、FBI長官に連絡を…」
Lが言いかけたとき、ちょうど大きな音が鳴り響いた。
ワタリさんが電話を取り出し、一言二言交わしたと思うと、Lに言う。
「L。FBI長官からです。」
Lは素早くイヤホンをし、パソコンを付けると話し出す。
…あれ、この光景。
そうだ、いつかの予知でみた、あの光景と重なる。
今日だったんだ…!
「ファイルを送ったという捜査官は誰ですか?!」
Lが声を大きくさせて言った。
しかし、すぐに悔しそうな表情になる。
そのあとぽつりぽつりと会話をしたかと思うと、そのまま通信を切った。
「…日本にキラ捜査で潜入していたFBIが、12人全員キラに殺されました」
Lは淡々とそう述べた。
「……な、に…?」
頭が、真っ白になる。
殺され、た…?
FBIが??
12人も…??
「予知もあったため本名は絶対に告げないことを強く言っていたのですが…キラの方が上手でした」
Lは悔しそうに、親指の爪を噛む。
「FBIはキラ捜査から手を引くようです…」
ポツンと言ったLの言葉に、私は立ち尽くしていた。
…キラ、は…
犯罪者どころか、今までその犯罪者を捕らえてきた正義の人たちも、簡単にころしてしまうの??
私は…それを、止められなかったの…?
「ごめ…なさい…L」
私の方から、声が漏れる。Lは私をみて目を見開いた。
「…なぜあなたが謝るのです」
「私が…もっとしっかり、予知を見れてれば…こ、殺されずに、すんだかも…」
『あなたは…悪くないのよ…』
ここ最近忙しくて忘れかけてた母の手。
私は、また、
助けられなかった
「あなたのせいではありません。FBIに何か起こることが分かっていながら捜査を進めた私の失態です。」
「でも…私がもっと、ちゃんと見えてれば…こんな力ある癖に、なんの役にも立たない…!」
拳を握りしめた。爪が、食い込む。
こんな力。
こんな力。
ーーーーなんのためにあるのか。
「…藍川さん、あなたが気に病むことはないです。…顔色が悪いです。ワタリ。」
ワタリさんがそっと、私の体を支える。
「もういい時間です、お休みになりましょう。 Lの言う通り、あなたにはなんの落ち度もありません。」
Lの言葉も、ワタリさんの言葉も、今の私には何も響かなかった。
ただ、FBI長官の話す内容が予知には見えず、結果12人の人が死んでしまったーーこの事実だけが、私に残る。
見えていれば。
私にもっと未来が見えていれば。
助けられた12の命。
「さあ、こちらへ…」
ワタリさんがそっと、私を促した。
放心状態の私は、されるがまま歩く。
Lがどんな顔をしてるのか、見えなかった。
「…真っ青ですよ。もう寝てください」
ワタリさんは、私を部屋に案内しながら言う。
「…ワタリさん…」
「これからのことは、Lが考えてくれます。あなたは、色々なものを一人で詰め込みすぎですよ。」
彼の優しい声に歩調を合わせ、私は支えられながら部屋に連れられる。
「寝ておしまいなさい。いつも早くから起きてるでしょう。さあ…」
部屋の扉を開け、中へと促される。
「いいですか。Lも言ってましたが、あなたが責任を感じることは何もないんですよ。Lはその場しのぎの慰めはしません。ショックだったでしょう、おやすみなさい」
「…はい、ありがとうございます」
ワタリさんは微笑みながら、そっと、扉を閉めた。
『あなたは…悪くないのよ…』
消えない。頭から。あの声が。
私を付き纏う、あの優しい声が。
「おかあ、さん…」
私は顔を手で覆って、そっと涙をこぼした。
私ね、お母さん。
また救えなかったの。
愚かにもまた…同じ歴史を繰り返したの。