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そして彼は、ツカツカと歩き、私の前に止まる。
「…ゆづき、君の気遣いと優しさに…心から感謝している」
「夜神さん…」
目の前が潤む。
正義感に溢れた、責任感の強い人。こうして親子ほど年の離れた私にお礼を言ってくれる。
その頼もしい背中をいつしか、父と重ねていた。
そこにいるだけで絶対的な自信がつく。そんな存在感のある、最高の上司。
「夜神さん…月くんは…途中から死神に心を奪われてしまったけれど…
心は犯罪を憎み、弱きものを守ろうとした正義感から始まったこと…
それだけは、忘れないであげてください」
そう彼は、犯罪のない世界がいいな、なんていう誰しもが思った事のある夢を持ってただけ。
…あのノートにさえであわなければ、私達と共に捜査してたはずの人。
途中から狂気に埋もれてしまったけど、父親である夜神さんには覚えておいてほしい。
夜神さんは小さく頷いた。
「君の言葉に…何度も救われた。ありがとう」
「私こそ…夜神さんに何度も救われた…
夜神さん。私の本当の名前は、藍川 光と言います」
「そうか。いい名前だ。君らしい。…いつまでも、君らしくいてくれ。」
夜神さんはそう微笑むと、ゆっくり出入り口に向かう。
そして、私たちを振り返り、丁寧に敬礼した。
私とL以外が、それに答える。
そして彼は、部屋から出て行った。
少しして、模木さんがLに歩み寄る。
「竜崎についてきてよかった。ありがとう」
「真面目な仕事ぶりがありがたい存在でした。ありがとうございました」
模木さんは、私の方に歩み寄る。
「…俺は口下手だから、あまり上手く話せないけど…とにかく、君と竜崎の二人が好きだった。ありがとう」
寡黙な人。真面目な人。
でも確かに、優しさに溢れてる人。
「夜神さんが倒れた時…心配する私のそばにいてくれて、お茶を入れてくれたこと…今でも覚えてます。優しい、味だった」
あなたのように。
模木さんが右手を差し出す。それを両手でしっかり握った。
「ありがとう、光さん」
「ありがとうございました…!」
名残惜しく離れた手を強く握りしめ、彼は歩き出す。
そして模木さんは出入り口に立ち、夜神さんのように敬礼し、部屋から出て行った。
相沢さんがため息をつきながら、Lから少し離れた所で彼に言う。
「……竜崎、悪かった」
一言だけ。でもきっと、竜崎を嫌いだと言ったあの日のことだと、私は分かった。
「謝ることではありません。」
「…結局、竜崎のおかげで宇生田に報告ができた。ありがとう」
「…こちらこそ、ありがとうございました」
相沢さんは私に向き直る。
「ゆづきさん、いや光さん。本当に、本当に…捜査本部は君の存在で成り立っていた。
俺の娘も、君みたいな優しい人になってほしいと思う」
ついに零れた涙を、私はすぐに拭いた。
熱くて、仲間思いで、眩しい人。
Lと衝突したこともあったけど、それはあなたが真っ直ぐなゆえ。
「相沢さんがいつも気にかけて、励まして、引っ張ってくれた…いなくなったときは寂しかったけど、戻ってきてくれたとき、本当に嬉しかったです…」
相沢さんが差し出した手を強くとった。
「ありがとう…またいつか、どこかで」
目を細めて、優しく笑顔で私を見た。その笑顔は、眩しい。
彼は一つ大きく深呼吸をすると歩み出す。
そして夜神さんや模木さんのように出入り口でしっかり敬礼をし、去って行った。
最後になった松田さんをみると、なんと私以上に涙を流していて、私は驚きつつちょっと笑ってしまった。
松田さんはLの元へ行き、がしっと力強くLの両手を握った。それをブンブン上下に振る。
「りゅ、竜崎…!僕叱られてばっかりで…竜崎にちょっとムカついてたけどっ…やっぱり竜崎は凄いです!
僕もっともっと頼れる男になります!いつかまた一緒に仕事する時には役に立てるように!」
Lはされるがまま手を振られている。
少し嫌そうにし、ぱっとそれを離した。
「確かにあなたは馬鹿ですが、その真っ直ぐさは途中から培えるものではありませんので。頑張ってください」
ドサクサに紛れてまた馬鹿呼ばわりしてるけど、松田さんは感激して泣いた。
松田さんは私に歩み寄る。私が握手をするため手を差し出した時、彼は両腕を広げて私に思い切り抱きついた。
「わっ…」
「ゆづきちゃん!本当にありがとう!竜崎を救ってくれて、本当にありがとう!」
「そ、そんな…」
「それから…多分気付いてないと思うけど、僕ゆづきちゃんのこと本気で好きだったから」
「………えっ!!?」
な。なに!?なんて言ったの!?
松田さんが私を離す。
「やっぱり気付いてなかったんだね…」
「えっ、えええ…」
「でもゆづき、いや光ちゃんと竜崎のコンビ好きだから!どうこうなんてまるで考えてないから!…本当に、ありがとうってこと」
まるで気付いてなかった。
もしかして彼を、傷つけていたのかもしれない。
私は熱くなった顔をなんとか冷静にし、言った。
「松田さん…私こそ…本当にありがとうございます。私が力を無くした時、よかったねって笑ってくれたの、本当に本当に嬉しかった」
ちょっとドジだけど、明るくて、いるだけで空気が和む人。
その人柄は、みんなに愛される。
あなたにどれほど救われただろう。
「光ちゃ…ぐえっ」
気づけばLが、松田さんの襟を引っ張って持ち上げている。
「私の前でゆづきを抱きしめるとはいい度胸です」
「わ、別れのハグですよ!」
松田さんは慌てて竜崎の腕から逃げる。
そして出口の前に立つと、敬礼した。
「竜崎…ゆづきちゃんのこと、泣かしたら許さないですよ!」
「大きなお世話です」
最後まで変わらない竜崎の声に松田さんはちょっとだけ笑うと、そのまま出て行ったのだった。
…みんな、いなくなってしまった。
しんとした静けさが私たちを包む。その静寂がまた私の涙を誘った。
私の能力を知りながら、仲間に入れてくれた人たち。
辛い時、悲しい時、励ましてくれた人たち。
色々あった。楽しい時も、苦しい時も、
いつも一緒にいた私の家族。
またポロリと落ちた涙を、私は拭く。
感謝しても仕切れない。みんなのことが、大好きだった。
いつか、また笑って会える日まで。
…それぞれの道を。