7
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「じゃあ、みなさん警察に戻られるんですか?」
私は飲もうとした紅茶を置き、聞いた。
模木さんが頷く。
「竜崎の計らいでな。路頭に迷わずに済んだ」
「なんだかんだ色々やってくれるんですから〜」
松田さんがちらっと竜崎をみる。
聞こえているだろうに、彼は少し離れたところで知らんぷりでケーキを食べている。
私はそっと微笑む。
私、松田さん、模木さん、相沢さんは、みんなで座ってお茶を飲んでいた。
事件の様々な報告などで忙しく散っていたみんなだが、それも全て終えた。今、夜神さんが警察庁に最後の報告に行っている。
それが戻れば、全てが終わる。
今日、この捜査本部は、
解散するのだ。
私は朝から、普段より心を込めて沢山のお菓子を焼いた。
最後にみんなでお茶会を、と言って、テーブルを囲んだのだった。
「それにしても、最後のゆづきちゃんの予知聞いた時は驚いたな〜」
松田さんがチョコレートタルトを口にしながら言う。
「私自身もびっくりでした。あんなに詳細に、長く、しかも同じ空間にいない人のまで予知出来たのは初めてだったので」
「それから予知は?」
相沢さんが聞いてくる。
「まだ無いです。また時々出るのか、無くなったのか分かりませんけど…」
「愛の力、だね!」
松田さんがにこっと笑って言う。なんだか恥ずかしくて、私は俯いた。
「い、いやなんていうか…」
「そんだけ愛されて竜崎は幸せ者ですよ〜」
「普段松田の言うことはアホらしいと思ってるが、これだけは同感だな」
「あ、アホらしいってなんですか相沢さん〜!」
いつものような掛け合い。私は笑って、それを見ていた。
出会う時は、凄く緊張してた。
初めはお互い探り合いだった。
でもいつの間にか、家族のような存在になっていた。
私の、帰る家だった。
「はあ〜ゆづきちゃんのお菓子食べられなくなるのが辛いよ〜」
「松田はやっぱりゆづきさんのお菓子を食べに来てたんだな」
「こんなものでよければ、時々差し入れに伺いますよ」
「え、ほんと!?ほんとに!?うわー嬉しいっ!」
キラキラした目で見てくる松田さんにまた笑った時、ノックの音が響いた。
振り返ると、ワタリさんが入ってくる。
「お話中申し訳ありません。ゆづきさん、少しよろしいですか」
「あ、はい!」
私は椅子を引いて立ち上がる。ワタリさんが廊下に出たのを見て、そのまま付いて行った。
部屋のドアを閉めて、ワタリさんを見る。
「楽しそうなところをすみませんでした。私はこれから別件で少し離れなくてはならないので…」
もう別件とは。Lに、新たな依頼が来たのだろうか。
「全然大丈夫ですよ!それにしてもワタリさん大忙しですねえ…体気をつけてください」
私の言葉に頷いたかと思うと、彼は元々伸びている背筋をさらにしゃんと伸ばした。
そしてゆっくり丁寧に、私に頭を下げた。
「まだお礼を申し上げておりませんでしたので…
Lを助けて頂いて、ありがとうございました」
彼の深々としたお辞儀に慌てる。
「か、顔上げてください!そんな…」
「Lから聞きました。本当は私も、あの日死んでいたはずだと」
L!
言わないでって言ったのに!
ワタリさんがそっと頭をあげる。
「Lだけでなく、私の命も救って頂いた。…感謝してもしきれません」
「やめてください…!Lとワタリさんには、沢山のことをして頂いて…まだまだ、返し切れてないくらいですよ」
ワタリさんは、目が無くなるくらい細めて笑顔を見せた。
「…あなたがLを選び、Lを愛した。
Lはあなたを選び、あなたを愛した。
私はこの奇跡を、本当に嬉しく思います」
「ワタリさん…」
「世界中の言葉を使っても、伝え切れないほどの感謝です」
「ワタリさん…私こそ本当にワタリさんに感謝してます。まだLを苦手だった頃、唯一の癒しはワタリさんだったんですから!」
ワタリさんは声を上げて笑う。
「これからも、Lをよろしくお願いします」
「こちらこそ…」
ワタリさんは持っていた帽子を深く被る。
「それを伝えたかったのです。私は少し仕事をしてきます。詳細はLに聞いてください」
「え…」
「それでは。」
「あ、お気をつけて!」
ワタリさんは上品な振る舞いで踵をかえし、長い廊下を歩いていく。
…詳細、か。
これからLはどうするんだろう。せっかくこんないいビルを建てたし、ここを拠点にするのだろうと思うけど…
私はこのまま一室、借りててもいいのかなぁ。
事件解決後、ミサやレムのことでバタバタしていて、あまりLと話せていない。LはLで後処理が忙しそうだったし。
ゆっくり、話さなきゃ。
私は決心するとまた捜査室の扉を開けた。
そこでは、松田さんと相沢さんがじゃれながら笑っていて、模木さんがたしなめていた。
よく見た、光景。ずっと隣で起きてた光景。
もう彼らと、共に生活をすることはない。
私はまた席へと戻る。
「あ、ゆづきちゃん、ワタリなんだって?」
「仕事ででるそうで、挨拶してくれました」
「もう次の仕事か。世界の名探偵は忙しいなぁ…」
その世界の名探偵は変わらず黙々とケーキを食べていた。
「ワタリって何者なんですかね?」
「竜崎も凄いけど、実はワタリも恐ろしいくらいの人物だよな」
「火口が拳銃で自殺しようとした時、ライフルで打って阻止したしね」
「え、そうなんですか!?」
「そっかゆづきちゃん知らないんだ。いや〜ライフルまで使いこなすとか、超人だねあれは」
尽きることのない話題。私たちは明るい話題を続けた。
最後くらい、笑顔でいたい。きっとみんな暗黙の気持ちだったのだろう。
涙が出るほど、私たちは笑った。
少しして、捜査室の扉が開かれた。
夜神さんだった。
月くんを亡くしたというのに、自ら望んで事後処理をしていたらしかった。
どう見ても、やつれている。
私達は自然と、席を立った。
「夜神さん…!お疲れ様です!」
私がいうと、彼は力なく微笑んでくれた。
そのままLのところへ近づき、夜神さんは言った。
「竜崎。警視庁への報告も全て済んだ。」
「お疲れ様でした」
竜崎はいつもと変わらないテンションで短く言う。
夜神さんはゆっくり、竜崎を含め私たちの顔を見渡した。
…これで、終わりだ。
このキラ捜査本部は、終止符を打つ。
「なんというかみんな…………すまん」
響く夜神さんの声。私達は何も言わなかった。
何に対しての謝罪なのか、謝る必要なんてない、そう色々言いたいのに言葉が出ない。
答えたのはLだった。
「謝らなくてはならないのは私の方です。多くの犠牲を出し…月くんも救えずに」
その名前が出たのは、久々な気がする。
みんな無意識に…呼ぶのを躊躇っていた。
夜神さんはLに向き直る。
「竜崎…君と戦えたことを、誇りに思う」
Lは顔を上げ、夜神さんを見た。
「…私は親というものを知りません。ですが夜神さん、あなたは立派な父親だと感じました。ありがとうございました。」
ゆっくり微笑む。夜神さんは何も言わず、少しだけ口角を上げた。