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しばらく声が枯れるほど泣き続けた私たちは、ようやく自然と離れた。
ミサの様子を見て、きっと何も飲まず食わずなんだろうなと予測する。
何か適当な差し入れを、買ってくればよかった。
そう反省しつつ、私はミサに許可を得ると家の中を簡単に見た。
冷蔵庫はいくらか食料が入っていたけど、ミサはどう暴れたのかコンセントが抜けていた。
私は冷蔵庫の中身を諦め、周囲を見渡すと、カップラーメンが落ちているのに気がついた。
ミサがこういうの食べるの意外だな、と思いつつ、私はとりあえずそれを拾い上げ、お湯を沸かして2つ作った。
無言でミサの前に置く。テーブルはないから床にそのままだ。私は正面に座った。
「食欲ないと思うけど…ちょっと、食べよう?」
私がいうと、ミサは素直にうなづいて、それを少しずつすすった。
私もそれを見届け、箸を手に取る。
熱い湯気の立つそれを、ゆっくり食べた。
無言で、二人で麺を啜る。
食べるとは、生きることだ。
食べねば生物は生きられない。
食べることで、私たちは嫌でも『生きてる』ことを痛感させられる。
「…ミサね…」
食べながら、ミサは呟く。
「家族殺されたあとも…こうやって暴れて、一人で泣いてたの。なんでミサがこんな目に遭うんだろうって…自暴自棄になって…
その時は、裁いてくれたキラに救われたけど。
でも今日、月が死んで…死にたいくらい辛いけど…
一緒に泣いてくれる人がいたの、嬉しい…」
ようやく止まった涙がまた出そうだった。
私はぐっと、それを堪える。
「…ミサ。私はこれだけは、伝えたい」
持っていた箸を置いて、私はミサを見る。
「月くんは…私達が生きるこの世界を。ミサが生きてるこの世界を。いい物にしようって、その強い思いでやってきた…。それだけは、忘れないで」
嘘じゃない。
彼は、犯罪に苦しむ人々を救いたかった。
その根本は、ずっと胸にあったはず。
「それからね…ミサは、一人じゃない。今はきっと孤独で、世界で一人ぼっちみたいな感覚に襲われてると思うけど、一人じゃないんだよ。
あなたを愛し、心配してる人が…いる」
私ももちろんそうだけど…
今、玄関にきてる、
あなたの目には見えないあのひとも。
ミサは顔を上げた。その目には、また涙が溢れている。
「ありがとう…ゆづきちゃん…」
ミサはそっと箸を置く。
「これからのことは分かんない…ミサ…やっぱり月がいないの耐えられないし死んじゃいたい…
でも、モデルの仕事は楽しかった。また、いつか出来たらいいなと思う。
ゆづきちゃんといるのも楽しい。ゆづきちゃんに会えなくなるのは嫌だ。
今日、ゆづきちゃんに会えてよかった…」
「その言葉だけで十分だよミサ…」
人はそんなにすぐ立ち直れないことは、私はよく知っている。
「私はいつでもミサの味方だよ。ミサは私の、親友なんだから」
ミサが初めて、少しだけ微笑んだ。
半分以上残ってるラーメンが伸びていた。
二人で散らかった部屋を少し片付けて、私はそこを後にした。
玄関で待ってたはずのレムはいつのまにかいなくなっていた。
ここへ来たときとは違い、一人で街中を歩き、捜査ビルへと帰る。
捜査室に顔を出すと、泣き出しそうな松田さんがいた。
事件が終わったあとも、様々な報告などで忙しいらしく、みんな捜査室にいないことがほとんどだった。
「ゆづきちゃん!ミサミサちゃんと生きてた!?」
凄い形相で聞いてくる彼の背後では、こんなときでも変わらない竜崎が座ってパソコンを見ていた。
「いきてましたよ、大分荒れてましたが…」
「だよねぇ〜…はぁ〜…でも生きててよかったぁ〜…」
松田さんは安堵からか天を見上げる。
「いずれ、ミサにはどこからか伝わってましたよ。…これからどうなるかは分かりません。でも、いつかまたモデルの仕事が出来たらいいなとは言ってました。本当に復帰できるかはまるで分かりませんけど…」
「そっか…いや、今のミサミサからその言葉を出せただけで凄いことだよ。ゆづきちゃんの言葉には不思議な力あるもんね」
「そ、そんなことはないと思いますが…」
「まあ、ひとまず安心かな…」
私はちらりと竜崎を見る。
「…竜崎、今日はお菓子作れてなくてすみません」
「もう捜査は終わったため自由にしてくださいと言ったのは私です。あなたのやりたいことをしてください」
「…はい。すこし、自分の部屋に戻ってきます」
そう言って、私は竜崎の姿をじっと見つめた。
部屋にはきっと、レムが待ってる。なんとなく、そう確信してる。
もう竜崎に会えるのは、最後かもしれない。
レムがいなくなって、それ以降彼女の行方を竜崎は知らない。今日、私の部屋に来たことも知らないはずだった。
「ゆづき」
「はい」
「今夜、私は2冊のデスノートを焼却します」
「…え」
「様々な機関に報告も大体済みました。どこも理解しがたいようですが…この世にあんな悪魔の兵器を残しておくわけにはいきませんので」
「…分かりました。」
それがいい。考えたくはないけど、もしかしたらあのノートを手元に置くことで人格が壊れる可能性だってある。
…月くんのように。
「では、私は少し休んできます」
「ゆづきちゃん、本当にありがとうね!」
「いいえ、とんでもない」
私はいつも通りの笑顔を見せると、捜査室から出た。
一度その場でゆっくり深呼吸をして、しゃんと背筋伸ばす。
意を決して、長い廊下をしっかりとした足取りで歩き、自分の部屋の前に着く。
ルームキーで鍵を開けると、私は見慣れた自分の部屋に入った。
その瞬間、白い背中がいるのが目に入る。
…やはり、来てたか。
私は彼女がいるところへ足を進める。
「お待たせ、レム。帰ろうとしたらあなたがいなくなっててびっくりしちゃった。先帰ってたのね」
カバンを適当にベッドに放り投げる。
レムはじっと私を見ていた。
「…待っててくれてありがとう。もう、私はやり残したことはない。あなたの自由にして」
正面に立ち、レムを真っ直ぐ見つめた。
約束を破った、ペナルティは、
受けなければ。
しかしレムは、ゆっくり首を傾げた。
「私がいつ、お前の寿命をもらうと言った」
「………へ」
まぬけな声が、出てしまった。
「だって…私は月くんを助けるって約束守れなかったし…」
「私が何故、お前の話を聞いたか分かるか」
「…え」
「なぜ、お前を信じたか分かるか」
確かに、敵側であったであろう私の話を…その上、未来が見えるなどという信じがたい話をなぜ信じたのか。
あの時は必死で疑問に感じる余裕すらなかったけど、なんでなんだろ?
「…私が、お前を知っていたからだ、ゆづき」
「私を…?」
死神の知り合いなんて、いないはずだけど…
「ミサがヨツバに面接に来た時…私はミサに、ノートの切れ端を触らせた」
「え…じゃあ、ミサはもう記憶を…!?」
「いや、切れ端では記憶は戻らない。私が見えるようになるだけだ」
まさか、レムがミサと接触していたとは…
「私はそこで…ミサに教えた。今記憶を失っているが、夜神月がキラであること、ミサが第二のキラだったこと。デスノートの存在…」
「…ミサに、話したの…」
記憶を読み返す。確かにあの日帰宅したミサはなんだか元気が無かった。そして私に聞いた。自分の記憶の他で、もし自分がキラだったら、幻滅するか?と…
「私はミサが喜ぶと思ったんだ。あれほど心酔していたキラが、愛してる夜神月だと分かれば。きっとミサは喜ぶだろうと…
だが実際は、ミサは困惑した。」
『どうしたミサ、嬉しくないのか』
『…一瞬喜んだよ。でも…でも…
ミサは月を愛してる。苦しいくらい。月が望むことはなんでもしてあげたいし協力したい。でも今ミサには、もう一人大事な人がいるの!』
『大事な人?』
『ゆづきちゃん!ミサが辛い時励ましてくれて、話聞いてくれて、凄く優しいの。ミサがキラ信者でもいいんだよって笑ってくれた…!でもゆづきちゃんはね、キラを追ってるの。ミサゆづきちゃんに嫌われたくない!』
『……』
『ミサ今凄く楽しい。月がいて、ゆづきちゃんがいて、ついでに竜崎さんがいて。竜崎さんがいるとゆづきちゃんが幸せそうだから。ずっとこのままでいたいって思ってた』
『ミサ…』
『今月はキラだって覚えてないんでしょ?』
『ああ、記憶を失っている』
『…ミサに出来ることは変わらない。ヨツバにいるキラを捕まえる。キラ捕まえたら、事件は解決ってなるかもしれない』
『しかしミサ…』
『ミサ頭悪いからそれしか分かんない!お願い死神さん、キラを捕まえるの手伝って!』
「それから火口がキラだと伝え…ミサはノートの情報を火口にほのめかすことで第二のキラだと信じ込ませ、自白させた」
「あの自白、確かにどうやったんだろうって疑問に思ってた。あなたが協力してくれてたのね。ミサは知ってたんだ…第二のキラだったって」
「もしかすると、今となっては私の事など信じていないかもしれないが」
「だから今日、ミサの家に入らなかったんだ。ミサに姿が見えるかもしれないから…」
「だが、話は聞こえていた。ミサがお前を友達だと言っていたのが本当だと分かった」
レムは真っ直ぐに私を見つめた。大きな死神を、私は必死に見上げて見つめ返す。
「お前を殺せばミサが悲しむ。
Lを殺せばお前が死ぬ。だから私はお前たちの名前は書かない」
なぜこの死神がこれほどミサを大事に思っているのか、私は知らないけれど、
それが本物だと言うことは間違いなかった。
レムは心からミサを思い、己の身をていして守ろうとしている。
「Lはノートを処分するだろう。処分すれば、もう私の姿はお前たちに見えない。ミサを、頼む」
「…レムは、あの黒いクズとは違って、優しい死神なんだね…」
「散々な言い草だな」
「言い足りないくらいだけど」
私は一度大きく深呼吸をして、再びレムの目をしっかりと見た。
「ありがとう、レム。私はこれからも、一人の友達としてミサを見守る。
あなただって、姿は見えなくなっても、ミサを見守り続けるでしょう?」
私がそういうと、表情の見えない彼女が、初めて微笑んだように見えた。
その夜、Lにレムのことを告げた。
彼は予告通り、ノートを燃やした。
それから死神が私たちの前に現れることはなかった。