7
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キラ事件は全て終わった。
2冊の恐ろしい殺人ノートを、私たちは手に入れた。
Lは死ななかった。死なずにすんだ。
でも私たちは、両手を上げて喜ぶわけにはいかなかった。
多くの犠牲が出た。FBIも、宇生田さんも、沢山の警察も、…月くんも。
特に夜神さんは、ほとんど言葉を発さず、月くんの遺体を極秘で運び出した。
…私の予知を、捜査員の方々に伝えたとき。
夜神さんは言っていた。
『ゆづき…君の力は本物だし、君が嘘をついてるとは思っていない。
だが、この予知だけは、何かの間違いだと思っている。』
彼は、最後まで息子を信じていた。
それでも中立の立場で私達の作戦に乗ってくれ、協力してくれた。
…そんな彼に、私たちはかける言葉などなかった。
それから月くんは家族のみで密葬された。
月くんはキラに殺された、という事にする方向らしかった。
Lも私も、そこは何も言わず受け入れた。
鏡の前で曲がった襟を整える。
いつだか美容室で切った髪は、また大分伸びていた。
あの頃はまだ月くんにもミサにも出会ってなかった。
遥か遠い過去みたい。
ふと背後に気配を感じる。
1年ほど前までただの素人だった私が、ここに来て随分勘が鋭くなったと自負する。
そこには、白い死神が立っていた。
「…来ると思ってよ、レム」
あの日月くんが亡くなった後姿を消した彼女は、そのあと誰からも目撃されていなかった。
でも、あのままいなくなるはずがないと分かっていた。
…私の名を、書きに来たのだろうか。
「…私は、約束を破った」
レムは守ってくれたのに。
「Lはああ言ってたけど、この作戦の提案者は私。責任は、私がとるのが筋だと思う。」
レムは元々、ミサもしくは月くんを助けるためにLを殺すはずだった。
自分の命を犠牲にして…
何があったかは知らないが、それほど彼女にとって大切な存在だったのには間違いない。
その人を、私は救えなかった。
私一人殺すだけでは収まらない怒りだろう。
「…お前は死ぬのが怖くないのか」
「…怖くないと言えば嘘になる。でもそれは、大切なものがあるから。」
母を亡くした後は、死ぬのを恐れていなかった。
今は、Lがいる。ワタリさんや捜査員のみんながいる。だから正直、怖い。
「怖いけど…Lを救えたら、私はそれだけでいい。」
死神は何も言わない。ただ私をじっと眺めている。
「でも、レム。わがままばかりで申し訳ないけど、あと1日…いや半日待ってくれる?…ミサが、月くんが亡くなったことを知ってしまったみたいなの」
つい先ほど。
泣きそうな顔をして、松田さんが尋ねてきた。ちょっとした行き違いで、ミサに月くんの死が伝わってしまったのだと言う。
様子を見てきてくれと懇願された。
「私が行く立場じゃないと思うけど、でも友達として、ミサに会いたい。このままでは、ミサはきっと死んでしまう。助けられるかどうか分からないけど、私はミサに生きていてほしいから」
私が言うと、レムは小さくうなづいた。
「わかった。」
「あなたも行く?」
私の問いかけにレムは答えなかったが、部屋を一緒に出て、少し後ろから付いてきた。人生色々あるとは思うけど、まさか死神と出かける日が来るとは夢にも思わなかった。
ワタリさんが車を出してくれるという好意を断り、私は自分の足でミサの家へと向かった。
街へ出るのは、あの日以来だった。Lと出会った日。
あの時はふらふらと拙い足取りで、死に場所を求めていた。
歩いてる感覚すら掴めず、世界から自分だけが取り残されているような気がしていた。
でも今は、私はしっかり前を向いて歩いている。
ミサと会った後、レムに殺されたとしても、私に悔いは何もない。死にたくないともがくつもりはなかった。
だって私はとっくに死んでたはずだから。
ただ最後に残された、友人を救うという使命だけが私を動かしていた。
あるマンションに着き、私はインターホンを押した。
やはり、ミサは出なかった。
再び鳴らすも、出ない。幾度かしつこく鳴らすが、出ない。
…まさか、もう手遅れであるとは考えたくないのだが…
この手は使いたくなったが、仕方ない。
私は持っていた鞄から鍵を取り出した。
隣で様子を見ていたレムが初めて口を開く。
「なぜミサの家の鍵を持っている」
「コネです。あの甘党探偵の。」
こうなることを予測していた私は、Lに頼んで手配してもらった。Lに出来ないことって何もないんだなと痛感した。
犯罪だけど…今はしょうがない。
私は鍵を開けて、そっと扉を開く。
「ミサ?入るよ?」
玄関は荒れていた。普段飾っているであろう花や写真などがなぎおとされている。
私が足を踏み入れるとレムは言った。
「私は、ここで待っている」
「え」
もしかして、プライバシーを考えたのか?だとしたら不法侵入してる私よりよっぽど人間らしい。
レムって意外と常識人なのかも。…人じゃないけど。
私は頷くと、レムを置いて家へ入っていった。
「ミサ?私だよ、ゆづきだよ」
声をかけるが返事はない。
廊下はことごとく荒れている。
最悪の事態が頭をよぎり、私は冷や汗をかいた。
リビングへ続く扉を開ける。中はカーテンがしまっているせいで暗かった。
そしてそこもまた、様々なものが投げ飛ばされたように散乱している。
そんななかで、部屋の隅に座る人影が見えた。
毛布を頭からかぶってるようだ。
「…ミサ」
私が声をかけると、それはびくっと揺れた。それにひとまず安心する。
足の踏み場のない部屋を歩き進め、私はミサの元へと近づく。
「ミサ…」
声を掛けると、ようやくミサが振り返る。
いつも綺麗に纏まってる髪は乱れ、泣きはらした目は腫れ、鼻も真っ赤になっていた。
その痛々しい姿に、眉を潜めた。
「ゆ…!ゆづきちゃん…!!」
ミサは私を認識すると、わあーと泣きながら私に抱きついてきた。
「ゆづきちゃんっ…!どうしよう、月がっ…ライトがああああ…」
それはもう泣き声というより、叫びだった。
私はミサの細い体を強く抱きしめた。
「知ってる。知ってるよ…」
「ミサ、もう、何のために生きてけばいいのっ…もうやだ、何でミサばっかりこんな目に遭うの?わあああ」
ミサの叫びを聞いて、私は抑えていた涙が溢れた。
私は、泣く立場じゃない。月くんを救えなかったのに。
彼女がどれだけ月くんを愛し、幸せだったか、側で見てきた。
知っていたのに…!
「ミサ…ごめんね。月くんを…助けれなくて…」
涙がミサの髪に落ちる。
「ミサがどれほど月くんを好きだったか…知ってるよ…」
涙声の私に気づいたのか、ミサが顔を上げる。
「ゆづきちゃん…泣いてるの…?」
「月くんは、私にとっても凄く大事な人だったよ。とてもいい友達だった」
ミサの重いまぶたが痛々しい。唇は乾き、顔色も悪い。
「私ね、ミサ…今日、ミサに死なないでって言いに来たつもりだった。月くんがいなくなって、ミサが早まるかもって…
でも、大事な人を亡くして、死にたくなる気持ち、私は知ってる。
ミサがどれほど月くんを好きだったか知ってる。
…だから、言えないよ…そんな簡単に、死なないでなんて、言えないよ…!」
Lが死んだら私も死のうと思ってた。誰が止めても、その気持ちは変わらないだろうと思ってた。
だから痛いほど分かる。
愛する人を亡くすとは、生きる希望をなくす事。
「そっか…ゆづきちゃんは一度…」
「死のうとしてたの。だから、ミサに偉そうなこと言えないよ…」
私はまたミサをぎゅっと抱きしめた。再び、ミサは大声で泣き始める。
私も声を上げて、涙をこぼした。
二人抱き合い、まるで子供のように、私たちは泣き続けた。