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かちゃり、と扉を開ける。
静まり返っている部屋に、彼はあの姿勢で座っていた。
パソコンに、大量の紙類。
立派なソファもあるのに、Lは床に座り込んでいた。
「おはようございます」
言われる前に、Lからそう声をかけられて飛び上がる。
「お、おはようございます…!あの、すみません私寝過ぎてしまって…」
「別に構いません。疲れていたのでしょう」
こちらをチラリとも見ず、Lは淡々と述べた。
「それと、ワタリさんが色々なものを買ってきてくださって…あのL、お渡ししたカバンの中に財布があったと思います。現金はあまりないですがキャッシュカードにいくらか入ってます。暗証番号は…」
「藍川さん、そんなものは不要です。私はLです。あなた一人分の出費など、屁でもありません。」
「…」
絶対に、昨日の私の発言を面白がってるな…
「朝食をどうぞ。私は結構ですので。」
「ありがとうございます…もう少ししたら、頂きます」
私がそう返したあと、Lは返事もせずパソコンに夢中になっていた。
…目も合わせてくれない。
まあ私はキラ共犯容疑がある。警戒するのはもっともだった。
しんとした静かさの中に、機械の音が響くだけ。
私は当たりを見回した。
さすがに、Lのソファに座るには気が引ける。
私は出入り口に一番近い、ダイニングテーブルの一番端の椅子に腰掛ける。
微妙な距離が、なんとも気まずさを助長してる気がした。
ーーーーーー
ーーーー
ーーー
…ひまだ。
時計を見れば、まだこの部屋に来て15分だった。
人間、やることもなくただ座っているとこんなに時間が長いものか。
朝食を、頂こうか…
テーブルの上には、ルームサービスであろう立派な朝食があった。
Lはいらないと言っていたけれど…
私はそっと彼をみる。
昨日のように、Lはまたお菓子を頬張っていた。
…まさかと思うけどあれが朝食?本当に甘いものが好きなんだなぁ…
そう思ったとき、はたと閃いた。
「…L、キッチンを使ってもよいですか」
私の問いかけに、やはりLはこちらをちらりとも見ず、
「どうぞ。」
そう、短く答えた。
…会った時から思っていたけれど、表情もあまり変わらないし、なんかぶっきらぼうだなぁ。元からなのか、私相手だからなのか…
私はそんなLを横目で見ながら、キッチンへと立ち、失礼ながら冷蔵庫の中身や調理器具を除いた。
あ、バターに、砂糖、小麦粉もあるなー…
Lが料理をするとか考えにくいので、ワタリさんが使うのだろうか?
私は使えそうな材料をいくつか取り出した。
さすがに、型はないか。
でもこれだけあれば、簡単なものなら作れる。
私は腕まくりをすると、早速取りかかった。
作業する私を、Lがチラリと横目で見ていた。
それからしばらく経ち、無事オープンに放り込めた。
焼く間時間が出来たため、私はその間にワタリさんが用意してくれた朝食を食べる。
…明日からは自分で用意するって言おう…ああ、食材は買ってきてもらわなきゃだけど…
ルームサービスよりは安いし、ため買いしといてもらえばそう頻繁に手を煩わせまい。
私は食べながらぼうっとそんなことを考えていた。
Lを見ると、やはり変わらぬ体制で座っていた。疲れないのかしら…
今日はまだ予知は、ない。どんな些細な物でも、人って多く見たいと思うのに。
私は食べ終わった食器を洗い始める。朝食にしては豪華で重かった…このままでは、私は豚と化すに違いない。
キッチンの水を流す音だけが、部屋に響いている。
鼻にはオーブンから醸し出す、甘い匂いがつく。
私は食器を綺麗に拭き、音が立たないようにそっと重ねた。
さて、そろそろかな。
私はオーブンを覗き込み、その焼き色を見てうなづいた。
初めて使うオーブンは注意が必要だ。それぞれの機械によって焼く強さはバラバラだ、普段と同じように使っていては失敗することがある。
オーブンを止めて、ミトンがなかった為近くにあった手拭きのタオルで代用し、取り出す。
そっと隣に置く。
少し冷まそう。クッキーは、焼きたてすぐより覚ました方がサクサクして美味しくなる。
私が作ったのは、プレーンとココアパウダーの渦巻き型のクッキーだった。
…Lが、食べてくれるかどうかは分からない。
想像してみるが、そうだな…ありがとうございます、とか言いつつ手をつけない。
もしくは正直に言われるかも。藍川さん、私はまだあなたを疑ってるんですよ、容疑者の手作り料理など食べれません、とか。
…うんこれが一番ありそう。てゆうか余裕で脳内再生できた。我ながらLの特徴を掴んだ発言だと思う。
私は一人でふっと笑った。
「…いい匂いがします」
突然声が聞こえて振り返ると、いつの間にかLがこちらに近寄ってきて側に立っていた。
「あ、L…びっくりした」
「何を作ってたんですか?」
「あ、クッキーを…もしよければ、Lに、と思いまして…」
まだ温かいそれを、崩れないようにそっとお皿に移していく。
「料理、されるんですね。意外です」
「正直ですね。」
私は盛り付け終わったクッキーを、ダイニングテーブルの上に置いた。
「綺麗な形です、見た目はプロ並みです」
「抵抗があれば自分で食べますので…じっとしてるのがどうしてもひまだったから…」
私が言い終えるかどうかという早さで、Lはお皿のクッキーを一つ手に取った。
…あれ、うそ、食べてくれる??
予想と違って驚いた私は慌てた。
「あ、もうちょっと冷ました方がサクサクして美味しくなりますよ!」
そう言ったけど、Lは聞いてないのかそのまま口へ放り入れる。
…たべ、た。
茫然と見ている私の前で、Lはもぐもぐと口を動かし、ごくんと飲み込んだ。
「藍川さん。」
「あ、はい…」
「とても、美味しいです」
「え、本当ですか!?」
まさかLの口からお褒めの言葉が出てくるなんて、私は飛び上がりそうだった。
Lはすぐに次の一枚へ手を伸ばす。
「私は嘘はつきませんしお世辞もいいません。とても美味しいです」
「あ、よかったです…いつも並んでる高級菓子にはまるで叶わないと思いますが、焼きたてという大きなスパイスが効いてるんでしょうね…」
「確かに焼きたてはあまり食べる機会ありませんのでね」
Lは立ったまま、ボリボリと次々手を伸ばして食べていく。
「しかし、見栄えも素人には見えません。パティシエだったんですか?」
「いえ、ほんの趣味ですが………母が、パティシエだったもので…」
よく私に教えてくれた。
母の手からは、甘い匂いがした。
子供の頃、私はそんな匂いが大好きだった。
二人でキッチンに並んで、美味しいお菓子をよく作った。
…お母さん。
『あなたは…悪くないのよ…』
そう言って差し出された、細い腕ー
「でも、意外でした!私容疑者だし、食べて貰えないかと…!」
思い出した映像をかき消すために、私は気丈に振る舞って話した。
「あなたの身体検査は済んでます。あなたが昨夜死んだように寝てる最中、ワタリが再度調べてますので、毒物の混入はないかと。」
「…え、私調べられてたんですか?」
「あなたがキラの協力者だったら大変なのでね。」
呆れたのは、身体検査をされつつも起きなかった自分にだ…どれだけ爆睡してたの…
「藍川さん。あなたにちょっと聞きたいことがあります。こちらへきてください。」
Lはそう言って背を向け、スタスタとソファーへ向かう。
私はふと下を見た。
…げっ、もう全部なくなってる!!?
結構な量あったんですけど!
味見すら出来なかったのはちょっと残念だけど、でもどうやら本当に気に入ってくれたみたいだ。
ちょっと、嬉しい。
「こちらへどうぞ」
Lはまたあの体制でソファに座り、私を促した。
私は早足でそこへ向かい、Lの正面に腰掛ける。
Lは目の前にある紅茶をすすると、私をじっと見つめて言った。
「あなたは、キラの『犯罪者はみな死ぬべき』といった思想をどう思いますか。」
…突然、なに?
いっしゅん目が点になったと思う。
「正直に教えてください」
これは…なにか、試されているのだろうか?
キラの共犯であるかどうか?Lと同じ意見を持ってるかどうか?何かを、見極めようとしているのか。
私は少し戸惑ったけれど、Lは正直に、と言ったのだ。私が思うように述べるしか無い。
「…L。あなたの気を害するかもしれませんが、私はキラの思想が少し理解できます」
Lは表情を変えず、私を見ている。
「例えば殺人を犯した人間が、警察の手を免れていたりしてどこかでのうのうと生きているとしたら、裁きを受けてほしいと思う。
もし遺族だったら、キラを神と崇めても仕方ないと思います。ただし、キラを容認できない理由がいくつかあります。
まず、すべてにおいてキラの匙加減で裁かれること。たった一人の人間の判断で裁かれるのは独裁国家です。
次に、犯罪者を庇う気はありませんが、加害者にもなんらかの理由がある場合があります。代表的なのは正当防衛。本来なら裁判でそう言った詳しい内容が明かされるのに、キラはお構いなしに殺してしまいます。
そして何より、犯罪者では無いLを殺したこと。正しく影武者のリンドLテイラーですが…この時点でキラは、自分が裁いてる犯罪者と同じ、ただの殺人者です。
だから私は、キラの思想は理解できるけど、キラを容認することはできない、がキラへの印象です。」
私が話終えると、Lは紅茶を摘み上げ、ゆっくりと一口口に含んだ。
…気分を、害してなければいいのだけれど…
私は恐る恐る、彼の顔を覗かんだ。
「安心しました。」
「えっ」
突然出てきたLの言葉に驚く。
「あなたがキラについてしっかりと考えを持っている方で。適当に誤魔化すようだったら追い出してました。」
「…ためしたんですね」
「ためしたのではなく確認です。相手は遠隔操作で人を殺せる人間なので。」
中途半端なキラへの思いじゃ、認めないぞ、と言う事か…
「さて。本題に移りましょう」
本題じゃなかったんかい!
「あなたの力について、詳しく話していただきたい。まず、いつからこの力があったのですか?」
私の心のツッコミもLに聞こえるはずもなく、Lは淡々と話し続ける。
テーブルにあったパウンドケーキを素手で掴み、もぐもぐと食べている。先ほどあんな量のクッキー食べ尽くしたくせに、この人の体どうなってるの??
「えっと…5歳の春です」
「随分具体的ですね。」
「…父が…目の前で、車に轢かれたのを見て…この力が出たので」
一瞬、Lの動きが止まる。しかしすぐ、また話し出した。
「…なるほど。一昨日あなたは顔を見てないと予知できないと言ってましたが…」
「ああ…正しくは、同じ空間にいると予知できる、と言った方がいいかもしれないです。検証したことないので私も具体的に把握してませんが…自分の部屋に入ってしまうとLの予知は見れません。この部屋に一緒にいればずっと顔を見てなくても予知が入ってきます。外では、どれくらいの範囲が見えるのか検証したことはありません」
「未来はその人の人生の最後まで見えますか?」
「それが…実は遠い未来は見えないんです。体感的に…5年ほど先まで、でしょうかね…」
「見えるのは時系列ではなさそうですね?」
「そうです。1年後の未来が見えたり、1分後の未来が見えたりとバラバラです。ただ、基本的には近い未来が見えることが多いです」
Lは何かを考え込むように天井を見上げる。
今まであまり意識してなかったけれど、私の能力って限定的だな…
これで、Lを助けることなんて出来るのだろうか。
「…とても興味深いです。ありがとうございます」
「あ、いえ…」
Lは再び私を見据えて言った。
「では、何か未来が見えたらどんな些細なことでも私に教えてください。」
「…わかりました」
「それと、あなたに一つ頼みたい仕事があります」
「え、なんですか?」
Lはパウンドケーキをまたほおばり、言った。
「私のスイーツ作りです。」