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私の突拍子もない発言に、流石のLも驚いたように目を丸くした。
「…私の事が好きなんですか?」
「違います。」
キッパリと断言した。
「ではなぜそうなるんですか。」
なぜそうなるんだろう。私も自分で言ったことに疑問を抱いた。勢いって、怖い。
しかし私はもう、引き下がれなかった。ここで引き下がってたまるか!
「あなたのそばにいさせてと言ってるんです。あなたのそばに居ないと、私は予知を見れない。あなたを助けたい。あなたを…死なせたくない!」
Lはじっと、私の目を見ている。
「私を受け入れたくないなら、この場で手足を縛って放り出して。そうでもしないと、私はここを絶対動かない。放り出されても、このホテルの前であなたを待ち続けます。野垂れ死ぬまで!」
どうしても、どうしても。
私は、この人を救いたかった、
それがー私にできる、たった一つの、生きる意味のように思えたから。
しん…とした静かさが訪れた。
Lは食べかけのマドレーヌをまだ握っている。
私は決して視線を逸らさず、彼を見つめ続けた。
「…面白い人ですね。」
しばらく経って、Lが折れたように呟く。
「あなたのような突拍子もない人は、初めて会いました。」
そう言って、ほんの少し、口角を上げて笑った、…気がした。
「L…」
「分かっていますか。私はあなたの予知能力は信じましたが、あなたの素性についてはまだ信じていません。」
「…え?」
「今日の放送の最中、あなたは私の目の前にいたので、キラでない事はわかっています。しかし、あなたがキラの仲間である可能性を否定できますか?どこからか私が捜査に乗り出したのを知ったキラが、予知能力のあるあなたを一足早く私の元へ忍び込ませた可能性があると言っているんです。そして私の名前を調べさせる…もしくは、暗殺する」
「…今、それを否定する材料が、私にはありません」
Lの疑っている事はもっともだった。いやむしろ、その方が自然な流れとも思える。
急に現れた人間が、未来が見えます、あなたは死にます、私が助けましょうなんて…
どこかの怪しい宗教も真っ青な展開だ。
「あなたの言う事はめちゃくちゃです。しかし、キラの手先にしてはあまりにも計画性がなく、胡散臭すぎる。」
「う、うさんくさ…」
「あなたが私のそばいるというのならば、昨日のように外部との接触を一切禁じます。もちろん一歩たりともここから出られない。その覚悟はおありですか。」
「…それくらい、屁でもありません」
「屁ですか。」
Lは持っていたマドレーヌの残りを口に入れて頬張る。
「いいでしょう。見えた予知を私に話してくれる、という特殊情報提供として、私の協力者とします。」
「L…!」
「しかし同時にキラ共犯者の可能性もあるので、疑いが晴れるまで捜査に参加はさせません。何か怪しい動きをすればすぐに拘束いたします。これでよいですね?」
「わかりました…あなたの役に立てるよう、頑張りますから!」
私はがばっと、頭を下げた。
「そうと決まれば。藍川さん、一緒に来てください」
Lはそういうとソファから降り、ポケットに手を入れる。
「あなたの部屋にご案内します」
「え…私の部屋、ですか?」
「あなたは女性です。一日中ここで私の目の前にいるのはさすがに不憫でしょう。私も困ります。私も男なので。」
…世界のLにも、そういう意識があるのか。
「寝泊りするお部屋をお貸しします。ついてきてください。」
私はそう言われ、素直に立ち上がった。
Lは無言でスタスタと歩き出す。今はワタリさんがいないため、自ら案内してくれるのだろう。
広いリビングを出て、少し廊下を歩く。一つの部屋の前に立ち、Lはその扉のドアノブを摘むようにして開けた。
…昨日から思ってたけど、潔癖症なのかしら…
彼は基本何でも摘むようにして持つ。ティーカップすらそう持つので、中身が溢れないか私は心配でならなかった。
「どうぞ」
促され入り、圧倒された。そこは十分な広さがある、一室だった。広いベッド、ドレッサー、ローテーブル…私が今まで住んできた家より遥かに豪華で、綺麗だった。こんな一部屋を、居候に??
「こ、こんないい部屋使ってもいいんでしょうか…」
「余ってる部屋です。シャワールームもあります。自由に使ってください。ただしマスターキーは私が管理しますので、何か不審な動きをしたら即刻入ります。」
疑ってる容疑者扱いにしては、一部屋与えられたりと、どうも言動に一貫性がない気がするが…
着替えや風呂なども考えて、部屋を貸してもらえるのは確かにありがたい。素直に受け取っておこう。
「…すみません、ありがとうございます」
「いえ。とりあえず仮眠をとられたらどうですか?私は先ほどの部屋にいますので。」
それだけ言うと、Lはスタスタと来た道を歩き出す。
「…L」
私は小さな声で呟く。てっきり聞こえてないかと思ったが、Lはピタリと足を止めてこちらを振り返った。
「…ありがとうございます」
私の小さな声に、Lはなにも返事をする事なく、再び歩き出していった。
その後ろ姿を見送り、私はそっと扉を閉めた。
部屋に入り、ひとまずベッドに腰かける。
人生、なにが起こるかわからないな。
私は昨日死んでいたはずなのに、こうして生きている。
(いいよね…)
死ぬ事はいつでもできるが、Lを助けるのは生きてなきゃ出来ない。
(お母さん、しばらく、まってて…)
そう心の中で呼びかけて、とりあえずシャワーを浴びようと立ち上がろうとするが、頭がぐらんと揺れた。
ちょっと寝不足なだけで、ここまで眠気に襲われた事はない。
「う…わ…」
私はそのままベッドに上半身を沈めて、一瞬で深い眠りに落ちたのだった。
コンコン
コンコン
小さなノックが響いている。
でも、おかしい。お母さんがいないのに、
私の部屋を訪ねてくる人なんていない。
もしかして、お母さんの、お迎えなのかなー
コンコン
はっとする。
薄暗くなった部屋に、ノックの音が響いている。
寝起きの頭で、この豪華な部屋にいる理由を一瞬で思い出した。
完全に、熟睡してた…!
「は、はい!」
慌ててベッドから降りて、私はドアへと向かい、それを開いた。
「おはよございます。」
そこにいたのは、優しく微笑むワタリさんだった。
「あ、おはようございます…」
「すみません、こんな朝早くに。どうしても渡しておきたいものが。」
朝早く…?
私は言われて部屋を振り返り、時計を見る。
a.m 4時。
…え、朝??
わ、私、あのまま12時間ほども眠ってたの!??
「す、すみません!!寝過ぎました!!」
仮眠、とLは言っていたのに、完全に就寝だった。
「おつかれだったのでしょう。前の日は神経を張り詰めて、あまり寝てらっしゃらなかったから…」
「いや…そういえばLもほとんど寝てなかったと思いますが…」
「彼はあまり眠りませんのでね。藍川さん、こちらをどうぞ」
そう言ってワタリさんが差し出したのは、大量の紙袋だった。
見れば、足元にもまだある。
そのうえ、ブランドなどまるで興味のない私ですら知ってるロゴばかりの。
「なんですか?これは…」
「女性ですので好みもあるかと思うのですが…とりあえず、すぐに使えるものがないとなにかと不便かと思いまして。」
促されて中身を覗いてみれば、何枚か洋服が入っていた。
…そうか、私の…!
私はがばっと頭を下げる。
「気を使わせてしまってすみません…!ですがあのわ私の服なんてユニ●ロとかしま●らで十分ですから!!」
こんなブランドの服なんて、きたことない!
「それではLに叱られてしまいますよ。…あとは、失礼かと思いますがこれを。」
そう言ってワタリさんは一冊の本を差し出した。
手に取ってみると、何やらカタログのようだが…
「!!!」
それは、女性用の下着のカタログだった。
「不愉快な思いをさせたら申し訳ありません、そういった類はサイズの問題もあるので。必要なものに丸をつけて私に渡してくださいますか。私は決して中身を見ずに直接店へ手渡しますので…」
何と…紳士なのだろうか。
私はガクッと首をうなだれた。
「ご迷惑をおかけしてすみません…私のわがままでこちらに置いてもらうことになったのに…」
「わがままなんてとんでもないですよ。…しかし、正直驚きました。あの頑固で用心深いLがあなたをそばに置くと言い出したので…よほど、あなたを気に入ったのでしょう」
「いや、私はまだキラ共犯の容疑者ですよ…それに、頑固なLに力任せに押しただけです。多分鬱陶しがられてます」
私が言うと、ワタリさんは声を上げて笑った。
とても、優しそうな人だな。親子?ではなさそうか…
「他にも必要なものはなんなりとお申し付けください。朝食の準備がしてあります。お好きなときに温めてお召し上がりください。私はちょっと所用で出ますので」
「あ、はい…本当にありがとうございます!」
私は深くお辞儀をした。ワタリさんもそれに会釈を返してくれると、その場から離れていったのだった。
…さて。
とりあえずもらった荷物を出して整理したら、シャワーを浴びてLのもとへ行こう。そばに居ないと未来が見えない。ここに残った意味がない。
私はそう決意し大量の紙袋に手を伸ばしたが、その中身にメイク道具や基礎化粧品なども申し分ないほど入っていて、あまりのワタリさんの気遣いに感嘆したのだった。