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夜。
すっかり暗くなった外を見て、私はぼんやりとしていた。
夜景が綺麗に見える。高い階のここは、都会を一望出来た。
一つ一つの輝きは美しく、それでいて今はなぜか切ない。
夜神さんの検査結果は、また後日だった。
母の時のようなことにならないことだけを、私は祈っていた。
白い壁、白いシーツ。
『あなたは…悪くないのよ…』
細くなった母の手。
甘い匂いのしなくなった母の手。
未だ、思い出してしまう。
頬に流れた涙をそっとふいたとき、背後からノックの音が聞こえた。
私の部屋を訪ねてくる人は一人しかいない。服や消耗品などを定期的に届けてくれるワタリさんだ。
私は振り返って言う。
「ワタリさん、どうぞ」
しかし扉の向こうから聞こえてきたのは、ワタリさんではない声だった。
「光さん、私です」
…L!!?
私は慌てて髪型を手で整えた。今まで、Lが私の部屋を訪ねてきたことはなかったのだ。一体突然どうしたというのだろうか。
小走りで入り口に近寄り、その扉を開ける。
Lがいつもの猫背で、そこに立っていた。
「え、L、どうしたんですか。」
「ちょっと失礼します」
Lはそれだけ言うと、スタスタと私の部屋に入ってくる。
「え、L!?急になんですか!?」
戸惑って声を掛けるが、彼は俄然無視。
私のドレッサーの椅子を引くと、くるりとそれをひっくり返し、背もたれ部分を前面にして、L座りをした。
…なにがなんだか。
私は呆然としている。
「あなたに聞きたいことがあります」
「は、はあ…なんですか」
「最近、なぜ夜こちらに来ないのですか」
どきん、と胸が鳴った。
まさか、Lから今更、そんなことを聞かれるとは予想していなかったのだ。
「ま、前も言ったじゃないですか、最近夜すぐ眠くなってしまって…」
「起きてるじゃないですか。今もう23時ですよ」
…瞬殺で論破された。
私は気まずくなって俯く。
言えるわけないじゃないですか、L。
あなたのことが好きで、それを諦めるために避けてます、なんて…
言えるわけ、ないじゃないですか
「光さん、どうしてですか」
「…あの…なんていうか…」
うまい言い訳が思いつかない。私は口をモゴモゴとさせる。
竜崎はじっと私を見つめていた。その真っ直ぐな黒い瞳が居心地悪い。
「…光さん。何か、辛い予知でも見たのではないですか」
「…え」
予想外の言葉が耳に入り、私は顔を上げた。
Lは背もたれ部分を抱きしめるような形で座りながら私を見上げる。
「光さん、嫌になったのなら言ってください。あなたを縛り付けるつもりはありません」
「……」
「もし怖くなったから捜査を抜けたい、と言っても誰もあなたを責めませんよ。あなたにはずいぶん助けられました。無理をしなくていいのです。」
Lはどうやら…私が捜査を嫌になったのだと思っているんだ。それを、一人で抱え込んでいると。
「今日、夜神さんが病院にいる予知をみた時、あなたはお母様を思い出したのではないですか。辛いのならそう言ってください。無理して笑ってることはないです。ここずっとあなたの元気はカラ回ってるように見えます」
「…え、る…」
気づいていたんだ。私が必死に笑顔を作っていたこと。
夜神さんの予知と、お母さんを重ねてしまったこと。
あなたは…なんでもお見通しだったのですか。
「あなたから言ってくるまで待ってようと思ってましたが…今日のことがあって待つのはやめました。あなたの気持ちを聞かせてください。
普通の生活に戻りたくなりましたか?ここまで協力して頂いたのです、元の生活に戻れるよう援助させてもらいます。ただし…早まった真似だけはしないと約束してくれるのならば。」
彼は真剣な瞳で私を見つめていた。
ずっと黙って話を聞いていた私の心が、ふわりと温かくなるのを感じた。心臓が高鳴っていくのを自覚する。
…L。
あなたは世界一の名探偵です。
私の態度の変化にも気づいて、今日、母の事を思い出して辛かったのにも気づいた。そして私を心配してくれてる。
…優しい人。
でも、あなたはこんなに凄い名探偵なのに、私の恋心を推理することはないのですね。
そんな不器用なあなたが…やっぱり好きです。
そう、あなたが好きなんです。
あなたを諦めたくて、距離を置いた。
恋心を捨てて、信頼できる仲間になろうと。
恋じゃなくても、あなたを助けたい気持ちに変わらなかったから。
だから私は、あなたから離れたというのにー
ああ。こんな優しさを見せられては、
私はいつまでもあなたを諦められない。
あなたの優しさを感じるたび、私はあなたを好きになってしまう。
好きの気持ちが膨らんでしまう。
…L、あなたは最高に罪深い人です。
私はふふっと笑った。
Lが訝しげに私を見る。
「どうしました?」
「…いいえ」
叶わぬ恋。
消えぬ恋。
でも、いいかもしれない。
死ぬまで片思いも、いいかも知れない。
私は俯いてた視線をあげる。
Lの黒い瞳を見つめた。
そっと微笑む。
ゆっくりと、言った。
「あなたが好きです」
Lの目が驚きで見開き、丸くなる。
時が一瞬止まった。周りの空気すら張り詰めたように静寂が流れた。
そして彼の体がゆらりと揺れたかと思うと…
危ない、と私が叫ぶ間もなく、
Lは体ごと後ろに倒れ込み、
椅子から落ちて尻餅をついた。
「…っ…はは…!」
Lは床に尻餅をついたまま、呆然と私を見つめている。
あのLを、こんなに驚かせられた。
私はその光景がなんだか可笑しくて、つい笑い出してしまう。
「あはははっ、は、初めてそんな顔見ました…!!あははは!!」
お腹を抱えて笑う。
こんなに驚いた様子を見れたってだけで、言って良かったと私は思った。
初めてあのLを出し抜いた、そんな感覚に陥ったのだ。
それでもLはひたすら呆然と私を見上げていた。どうやら本当に彼の推理にこの展開はなかったようだ。
笑ったため目から出た涙を拭きながら、私は言う。
「驚かせてごめんなさい。言うつもりなかったんですけど…言っちゃいました」
ふうと一度深呼吸する。未だ目をまん丸にしてるLをしっかり見た。
「L、珍しくあなたの推理は外れです。私は捜査が嫌になったわけじゃありません。
あなたが好きなんです。
でも、Lは人を好きにならないって知ったので、諦めなくちゃと思って避けてたんです。
でも無駄でした。夜のお茶を無くすくらいじゃ、あなたを好きな気持ちは無くならない。
あなたが私をそんな風に見てない事は知っています。だからどうこうしたいわけじゃないです。ただ、このまま好きでいたいだけです」
私は真っ直ぐ彼を見つめて言った。
恥ずかしいとか思わなかった。
ただ、L に素直な気持ちを知って欲しかった。
それだけなんだ。
Lはしばらく停止していたが、ようやく私から視線をはずして俯いたかと思うと、はぁーと長いため息をついた。
「あ、困らせたならごめんなさい、Lは気にせずこれからもいつも通りにしてくれればいいんです…」
私は慌てて言うが、Lは黙っている。
そしてボソッと小さな声で言う。
「困りました…」
そこまできて、しまったやはり言うべきじゃなかったかと後悔する。
言われた方は、これまで通りとは行かないか…
Lを、困らせてしまった。
「あの、これが原因で私を追い出したりしないでください…その、迷惑なら時間かけて諦めるよう努力しますから…」
そこまで言うと、Lがすこし顔を上げる。パチリと、彼と目があった。それだけの事なのに私の心がまた高鳴る。
Lはそのままゆっくり立ち上がった。
2.3歩、私に歩み寄る。
私をしっかりと見ていた。
「L…?」
私が名前を呼んだその刹那。
Lは私を両手に抱きしめた。
「…困っているのはあなたの気持ちではありません。抑えきれない自分の気持ちです」
耳元で、そう呟く。
私は頭が真っ白になり、完全にパニックに陥る。
Lの温かい腕が。広い胸が。
私を…抱きしめている。
「えええ、え、L…!?あの…!?」
「あなたは本当に突拍子もなさすぎです。私の推理力でも追いつけません。」
「あ、あの…!?」
「…気づかないフリしてたんです。」
Lはそっと、私を離す。
至近距離で、Lの顔が見える。
こんな近くで見た事ない。私は顔が熱くなるのを感じた。
「…先日言ったことは嘘ではありません。私は恋をしている時間などない。でも…そんな理屈でねじ伏せれないほど、あなたが好きです」
「………」
なんて、言ったの、今?
「あなたのことが好きです。でも自分でその気持ちを押し殺してました。どこかで気づかないようにセーブしていた。」
「L…」
「松田と仲良さそうに話しながら、私と恋人だなんてありえないと言ったあなたに怒りを感じた。嫉妬してたんです。」
Lは再び、私をそっと抱きしめる。
「あの、L…」
「はい」
「え、Lも…私を好きなんですか?」
「そう言ってるじゃないですか」
呆れたようなLの声が耳元で響く。
私は呆然としたまま、Lに抱きしめられている。
ちょっと待ってほしい、完全に私の頭は置いてけぼりだ。処理が追いつかない。
「いやだって…信じられなくて…」
「あなたは行動力も勇気も驚くほどある強い女性なのに、時々急に抜けますね」
ふっと、 Lの笑い声が聞こえた。
「…あなたは明るくてみんなに愛されている。そんなあなたが、私をそんな風に想っていてくれたなど…全く思ってませんでした。私の推理力もまだまだです」
「ゆ、夢みたいです…夢ですか?」
私が未だ混乱してるように言うと、Lがそっと体を離す。
「夢ではありません。…証明しましょうか」
そう言って、Lはそっと私にキスを落とした。
甘い匂いがする。
頭がクラクラしそうだった。
Lはゆっくり唇を離すと、すぐにもう一度キスをした。
Lの髪が、私の顔に触れる。
離れた後、そのまままた抱きしめられる。
「あなたが好きです、光さん…私の事を諦めるなんてしないでください。」
「…あなたが好きです、L…」
あなたが私をそんな風に思ってくれてたなんて、夢にも思わなかったよ。
ああ、夢じゃないんだ。これは現実なんですね。
あなたも私なんかのことを想ってくれていたなんて。
「私、あなたを好きでいていいんですね」
「むしろ私以外好きにならないで下さい」
「あなた以外の人を好きになるなんて…無理です。
あなたは優しい人です…分かりにくいけど
あなたに何度も救われました…」
「私の事を優しいなんて言ったのは光さんが初めてです」
Lは体を離す。熱く感じていた体温がなくなり、なんだか私は名残惜しくなってしまう。
Lはどこか戸惑ったような瞳で告げた。
「思えば会った時からあなたは私の中で特別でした。
思い切りが良くて、行動力もあって、なのに辛い事を抱え込んでいる。ひどくアンバランスなんです。それが気になって仕方なかった…」
そっとLが私の頬を触る。
いつもみていた、あの綺麗な指が私に触れているかと思うと、恥ずかしくてしょうがない。
「お菓子も、単純に光さんが作ったからあんなに執着したのかもしれません。元々美味しいのに間違い無いですが…」
Lが微笑む。
再びLの顔が私に落ちてきたと思ったが、それをLは改めた。
「…もう遅いです。休んでください。今日はここまでです。これ以上ここにいては私も歯止めが効かなくなる」
Lはそういうとくるりと背を向けた。そして出入り口に向かう。
「あの、L…!」
つい、呼び止める。Lが振り返った。
「あの…すみません…もう一度だけ…ぎゅってしてもらえますか」
夢じゃないと自覚したい。あなたに触れたい。
私が言うと、Lは一瞬目を丸くした後、またため息を長くついた。
「…なぜあなたはそうも、私の心を揺さぶるんですか」
そう言って、こちらに歩み寄り、私をぎゅっと抱きしめた。
さっきより強い力で。苦しいほどの力で。
その中で私は、この上ない幸せを噛み締めていた。
あなたが好きです、L。
あなたのことが、大好きです。
「…あなたが好きです、L」
「それ以上言わないでください。私は自分を抑えるのに必死です」
Lはそういうと、更に力をこめて私を抱きしめた。
私も力の限り、彼を抱きしめ返した。
ああ、愛した人に愛されるとは、これほど幸せなのか。目に浮かんだ涙で視界がぼやける。
いつまでもいつまでも、私たちは抱きしめあっていた。この幸せが、逃げてしまわぬように。