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夜になり、なんとなく今日は捜査室へ行くのが気まずかった。
でも、なぜ気まずいのか分からなかった。なにを気まずく思う必要があるのか?
自分でも不思議だったから、私は自分を奮い立たせ、いつも通り竜崎の元へと向かった。
「竜崎。こんばんは。何飲みます?」
「こんばんは。私はホットチョコレートをください」
私はいつも通り彼にリクエストを聞いて、いつも通り明るく振る舞う。
自分のために入れた温かい緑茶とホットチョコレートを作り、竜崎の元へ向かった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
竜崎はソファ座ってぼんやりと天井を見ていた。考えごとをしている、よくみる風景だ。
私は熱い緑茶をすする。
竜崎は珍しく飲み物に手をつけない。じっと親指をくわえている。
キラについて推理してるんだろうか。邪魔しないようにしなきゃ。私は無言でお茶を飲み続ける。
「光さん」
突然呼ばれて、竜崎を見る。彼は未だぼんやりと天井を見ながら告げた。
「朝、松田さんと楽しそうな会話してましたね」
「!!」
予想外の台詞に慌てふためく。
「き、聞こえてたんですか!?」
「丸聞こえです」
まさか、聞こえていたなんて。
なぜかかあっと顔が熱くなった。
「はは、松田さん、面白いですよねぇ〜はは…」
とりあえず松田さんに責任転嫁する。すると竜崎は淡々と述べた。
「私は少しショックでしたよ」
ピタリと自分が停止したのが分かった。急に頭の中がぐるぐると回る。
…え
それ、どういう意味?
私が、竜崎と付き合ってないって否定したこと?
ショックって、じゃあ…肯定して欲しかったってこと??嘘だって、付き合おうとか、そんな話したことないのに…?
私の心臓が急に太鼓を鳴らすようにどんどんと震えた。
うるさいくらい高鳴る。顔が熱くなるのを自覚した。
すると竜崎がゆっくり、こっちを向いた。彼の黒い瞳とぶつかり更に心臓がうるさくなる。
「私と恋人に見られることが凄く嫌そうだったので」
………!!!
熱くなった顔が一気に冷えた気がした。
私は慌ててフォローする。
「え、L、嫌なわけじゃないですよ!恐れ多いと思ったんです、本当ですよ!?」
そうか、それか。
思えば、付き合ってるの?に対して、あり得ない!なんて、確かに失礼極まりない。
まるで私が竜崎を拒絶してるみたいだ。
彼がショックといった理由がようやく分かった。
「ごめんなさい、本当に驚いただけで、その…世界のLが、こんな凡人と付き合うなんてありえないって、そう言う意味だったんです」
さっきの自分の勘違いも、なんだか思い上がりも甚だしい。
もしかして、Lが私と付き合ってると肯定して欲しかったの?なんて。
は、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。さっきの自分を殴りたい。
「…そうですか」
Lは特にそれ以上何も言わずに、またぼんやり上を見ている。
…そういえば、Lって…
「あの、Lって、恋人とかいるんですか…?」
恐る恐る聞いてみる。今まで疑問に思わなかったわけじゃないが、聞くタイミングがなかった。ここで聞いておかなければきっともう聞けないだろう。
彼は変な人だけど本当は優しいし、恋人の一人や二人…いや二人はいてはいけない。恋人くらいいてもおかしくない。
「特にいません」
竜崎の答えを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
そっか、そうなんだ…って、なんで安心してるんだろう?
綻びそうになる自分の顔を慌てて引き締めた。
「そ、うなんですか、なんだか意外…」
「私は人を好きになりませんし、恋人を作る気もありません」
竜崎が言った。
私はピタリと停止した。
頬が引きつるのがわかる。
「え…な。なんで…?」
「私は命をかけている仕事です。今はとくに…恋人を作ってる暇はありませんね」
そういうと竜崎は、ホットチョコレートを持ってようやく飲んだ。
…頭が、一瞬真っ白になった。
いや、…うん、ごもっとも。
そりゃそうだよ。だって寝る間もないくらい忙しいL。人を好きになってる暇なんかないだろう。凄い事だよ、Lらしいと言えばLらしいではないか。
…のに、心にポッカリと穴が空いたような感覚はなんだろう。
泣きそうなのは、なんでなんだろう。
なんで、
私
「そっか、そうですよね!さすがです。Lにそんな時間ないですよね」
私は笑顔で言った。
Lは何も答えず、ホットチョコレートを飲んでいる。
「えっと、とりあえず、朝はほんとすみませんでした!変な言い方しちゃって…本当は光栄ですよ?」
精一杯の笑顔で、Lに笑いかける。Lはこちらを見なかった。
私は彼から視線を外して目を擦る。
「…あー。なんか今日凄く眠いです。私、今日は寝ますねL。おやすみなさい!」
まだ8割残っている緑茶もそのままに、私は立ち上がる。Lは特にこちらをみることもなく、おやすみなさい、とだけ言った。
私は足早に、捜査室を出た。
走り出したい気持ちを抑えて、なんとか自分の部屋にたどり着くと、扉を開けて中に飛び込む。
閉めた戸に、もたれかかった。
暗い部屋が、冷静さを取り戻させてくれる。
私は人を好きになりませんし、
恋人を作る気もありません
Lの声が蘇る
ついに、私の目から涙が落ちた。ぽろぽろと、頬を流れる。
そこまでになって、私はようやく気がついた。
いや、気がつかないわけがなかった。
私は、Lのことを好きだったんだ。
いつのまにか、私は彼に恋心を抱いていた。
自分でも気づかない間に。
それを今日ようやく自覚できた。彼が恋愛をする気がないと知って、ショックだったから。
「…恋して、それに気付いた途端、失恋かぁ…」
小さく呟いて、つい笑った。史上最短の失恋だ。
相手は世界のL。普通の相手じゃない。
恋なんてしないと宣言してる相手。きっとこれから先も、私にチャンスはない。あまりに相手が悪すぎた。
キラ事件が終わったら彼との接点はなくなるだろう。私達は、それだけの関係なのだ。きっと二度と会えない。
なんで…気付いちゃったんだろう。
気づかなければよかった。彼への想い。
このまま仲間として、ずっと過ごしていければよかった。
お菓子を作って、共にキラを追っているだけでよかったんだ。
死のうと思ってた日に出会った人。
ぶっきらぼうで、冷たく見えて、最初は近寄り難かった。
けれど私の予知能力の話をちゃんと聞いてくれた。
本物だとわかっても、きみ悪がらず接してくれた。
FBIが殺された日。私の話を黙って聞いて、頭を撫でてくれた。
捜査員に会う日も、私のいないところでフォローしてくれた。
そう彼は、実は誰よりも優しいんだ。
ずっと一人だった私を。ずっと孤独だった私を。
理解して、そばにいてくれたんだ
思い出せば出すほど、彼の優しさが溢れる。
むしろ、今まで気づかなかった自分が鈍すぎるんだな。
諦めよう。この恋を。
捨ててしまおう。この気持ち。
恋でなくても、Lは私にとって大事な人に変わりはない。
これからも一緒に働いて、私はLの命を助ける。それは揺るぎない。
彼を好きな気持ちにはーー蓋をしよう。
今だけ泣いたら、明日からまた新しい日にしよう。
そっと涙を手のひらで拭いた。
Lとのお茶タイムは、今日で最後にするんだ。
これ以上、好きな気持ちが大きくならないように。
毎日彼とあの時間を共有したら、私はきっと諦められなくなる。あの笑顔を見ては、この恋が加速してしまうだけだから。
暗闇の中で、私は一人声を押し殺して泣いた。