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盗聴器と監視カメラを取り付けてからは、いつにも増してバタバタした日々が流れた。
私は朝起きると、簡単なものだがいくらかお菓子や差し入れを作る。
そのあとは、皆さんにコーヒーや差し入れをしつつ、呼び出されたら監視に参加した。
適度に自分も休憩を入れつつ、捜査室には日付が変わる近くまでいた。
捜査員や竜崎は、夜間の監視もしているようで…
私はまだ、規則正しい生活を送らせてもらえてる方だ。
そして監視カメラには、怪しい人は未だに現れなかった。
それはよい情報でもあり、落胆する情報でもある。
夜神さんの家族にキラがいないことは嬉しいけれど、ここまで捜査して、キラがいなかったというのも正直悔しい。
揺らぐ気持ちがあった。
そして監視カメラを取り付けて5日後ーーー
竜崎は、それを取り外す決断を下した。
「カメラと盗聴器は外します」
そう言った時の、みんなの安堵した顔。
ほっと息をついた。
ただ、捜査が空振りだったことに対する悔しさも、やはり滲み出ていた。
山手線の映像にも、誰も映っていなかったようだ。
特に夜神さんは、一番穏やかな顔つきになった。
ここ5日で、なんだかちょっと痩せた気がする。
ピリピリしていた捜査室に、久々に穏やかな空気が流れたように思える。
しかし、そんな空気を竜崎はすぐに打ち消した。
「勘違いしないでください。映像を観ている限りでは怪しい者はいない…という意味です」
夜神さんが驚いて振り返る。
「あの中にキラがいたとしても、ボロは出しません。
いや何も出さずに今まで通り犯罪者を葬っているという事です」
まだ、疑いが完全に晴れたわけではない。竜崎はそう言った。
夜神さんの渋い顔…そして、ほかの捜査員もやりきれない表情をしている。
と言っても、他にキラと証明する方法は見当たらなかった。
家に監視カメラまで付けておいて、それすら欺かれたら、他にどうすると言うのか…
私は竜崎のためのシフォンケーキを作りながら、耳で聞いていた。
とりあえず、捜査員はできる仕事からやろうとバラバラに動き出す。
そこで、竜崎が夜神さんに聞いた。
「夜神さん。息子さんは受験生と言ってましたよね。どこを受けるんですか?」
突然の質問に、夜神さんもぽかんとしながら答えた。
「は…。東応大学ですが…」
「東応?凄いですね!月くん本当に頭いい!」
私はつい、横から口を出す。
東応とは、知らぬ人はいない日本のナンバーワン大学だ。優秀だと聞いていたけれど、本当に頭いいんだなぁ。私なんて逆立ちどころかバク転しても入れない。
そんな私をよそに、竜崎は親指をくわえてじっと考えている。
「…センター試験初日の日程はご存じですか」
「……1月17日…」
「……わかりました。ありがとうございます」
そういうと竜崎は電話を取り出し、どこかへ電話をかける。
「私も受けます」
「何!?」
はっとして、顔を上げる。見れば、相沢さんと模木さんが、私の顔を驚いたように見ていた。
あの予知は、こういうこと??まさか、センター試験!?
そういえば、この5日間バタバタしてて予知を竜崎に伝え忘れていた。
私の驚いた顔を見て竜崎が不思議そうに聞いた。
「…どうしましたゆづき」
「あ、すみません、そういえば見えてました…伝えるの忘れてて…」
「そうですか」
「でも竜崎、東応ですよ?センターまでもうすぐ…」
「大丈夫です。勉強なんかしなくても受かる自信があります」
言ってみたい。勉強しなくて、あの日本一の大学に受かる自信あるだなんて…
私は呆然としていたが、それより、相沢さんと模木さんがもっと呆然と私を見ていた。
…そうか、私の予知能力を目の当たりにしたのは、初めてだったか。
疑ってたわけではなくとも、現実に起これば人間は驚く。私はなんとなく気まずくて視線をそらした。
「私はどうしても腑に落ちません。直接行って夜神さんの息子さんと接触します」
「竜崎…まだ私の息子の事を…!」
「もちろん夜神さんの息子さんだけではありません。
後で詳しく、私の考えた新しい作戦を発表しますので」
直接接触する、とは…
一体竜崎は何を考えているのだろう。
彼は電話に相手が出たのか、どこかと話している。
こうなれば、もう誰も竜崎を止まらないし、竜崎が何を考えているのか理解できるものはいない。
みんな諦めたようにバラバラと持ち場に戻っていく。
私はそっと、竜崎の横顔を盗み見た。
同時に、あの好青年の顔が思い浮かぶ。竜崎が妙に気にする、キラ容疑者…
私は竜崎から視線を外し、手元を見つめ直した。
夜、私は捜査室に入った。
ようやく監視もなくなり、捜査員の方々は久々に早めに帰宅していた。やっとゆっくりできるのだろう、本当に頭が上がらない。
しかし竜崎は相変わらずソファに座って、いつものように考え事をしていた。彼には朝も夜も関係ない。
私は無言で、二人分のホットミルクを準備する。
5日ぶりだったけど、なんだかすごく久々な気がするなあ…
ちょっと疲れた5日だった。竜崎も、見えてはないけど疲れてるだろう。
私はホットミルクを持って、竜崎の隣に座った。
「どうぞ」
「ありがとうございます。久しぶりですね」
竜崎は早速一口口に入れる。
私はすぐに聴きたかったことを聞いた。
「…L、大学を受験してどうするつもりですか」
「とにかく月くんに接触したいんです。そして…私がLであると告げようかと思っています」
私はぎょっとして、横を見た。
「ほ、本気??」
「本気です」
「Lは月くんをキラじゃないかと疑っているんでしょう?なのに…」
「もし、近いうちに私が死ねば、月くんが疑われることになります。それをきっと月くんも分かっている。だから、私に迂闊に手が出せなくなります」
言い分は分かるが…もし、死ねばなんて…言わないで欲しい…
「でも…危険すぎますよ…」
「まだ月くんがキラと決まったわけではありません。もしかすると我々とキラを追う仲間になる可能性もある」
「……私にはわかりません」
きっと竜崎の頭の中を理解しようとしたら、おばあちゃんになってしまいそう。
私はふうと、ため息をついた。
「私は本格的な捜査も手伝えてないし、Lのような頭脳もない。そんな私がとやかく言える立場ではないですが…」
一呼吸、おく。
「私が言いたいのは一つだけ。
…L、死なないで」
わたしの願いは一つだけなのだ。Lに死んで欲しくない。
ゆっくり、彼がこちらを向いた。
優しい表情をしている。
「死にませんよ。死んだら、あなたに叱られます」
「叱るどころじゃないですよ。殴ります」
「女性が強いという事が、あなたと出会って分かりました」
ふ、とLが小さく笑う。
私も釣られて少しだけ笑った。
「あなたの予知は素晴らしいですが、私が死ぬという事に関してだけは何かの間違いだと思っています。」
「そう…ですね、そうだと嬉しい」
「光さん私は負けません.必ずキラに勝ちます」
言い切ってしまう自信家。私はLを見て、微笑む。
「信じてますよ、L…あなたを。でも、無理だけはしないで…」
「…よく覚えておきます」
彼の長い指が、目の前にある焼き菓子を掴んだ。その指がなんだか綺麗で、見慣れているはずなのに私は見惚れた。
「月くんのどこがそんなに気になるんですか」
「決定的に疑ってるわけではありません。ただ、ふに落ちない。それに尽きます」
監視カメラをつけているとき、確かに竜崎はふに落ちなさそうだった。
キラはその日報道されてすぐの、罪の軽い者を殺した。
そして月くんはすぐシロになった。
…そうか、上手く行き過ぎなんだ。
神が月くんの味方をしてるような、そんな流れ。
「光さんはどう思いますか。」
突然聞かれて面食らった。え、私に?推理?
「え、私に聞きますか?全然分かりませんよ、推理なんてしたことないんですから」
「推理でなくても構いません、勘でいいです」
か、勘でキラ容疑をかけたくないのだけれど…
私はううんと唸りながら腕を組んで考える。
「そうですね…本当にまるでわかりませんが、竜崎がふに落ちない、というのは理解できなくはないです。
そうだな、推理小説の犯人は必ずアリバイがあるでしょう?出来すぎたアリバイが。
そんな感じです。完璧なアリバイがある方がなぜか怪しく見える。」
「あなたの話はいつも面白いです」
竜崎が感心したように言った。ちょっと嬉しくて、私は微笑んだ。
「思い過ごしならそれでいい。…他に今、キラと疑える者がいないというのもありますが。徹底的に調べないと、気が済みません」
Lはそう言って、親指を強く噛んだのだった。