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「これで今までに見つかった12月27日の日本で亡くなったFBI捜査官を偶然監視カメラが捕らえていた映像は全てです」
数日経ち、捜査員の方々が集めてきた監視カメラ映像が出そろった。
私は朝焼いたマフィンを大量に並べた大皿を、竜崎の前に置く。
捜査室には3台、テレビがワタリさんによって運び込まれている。これで全ての映像をチェックしていくという、気の遠くなる作業だ。
相沢さんはビデオの電源を入れる。テレビに監視カメラの映像が流れる。
「心臓麻痺の瞬間を捕らえていたのは、
銀座のデパートに居たニック=スターク
山手線のホームに居たレイ=ペンバー
池袋の繁華街に居た二コラ=ナスバーグ
の三人。残りの者は滞在していたホテルから出るくらいが限界です」
竜崎は珍しくお菓子にも手をつけず、指を加えて食い入るようにテレビを見続けている。
私もなんとなく気になって、遠くから映像を見ていた。
捜査員もみな、眉を潜めて映像を見ていた。
「レイ=ペンバーの改札のシーン、乗車のシーン、そして死のシーンだけをもう一度三つ並べてみせてください。」
竜崎が言う。言われた通りその映像が流された。
「15時11分、新宿西口の改札から入ってます。
イオカードの履歴とも一致します。わかりにくいですが
詳しく分析するまでもなくレイ=ペンバーです。
15時13分、山手線に乗車…誰かを尾行してたとしても
この不鮮明な映像からはそれを割り出すのは困難だと思われます。そして死ぬ直前…」
竜崎は考え込むようにして言う。
「やはり変ですね…。15時13分乗車、16時42分に下車した所で死亡。一周一時間の山手線に一時間半乗っていた…。遺留品に切符もなく、イオカードの履歴からも途中下車し、もう一度乗ったとは考えにくい。
そしてレイ=ペンバーが日本に入ったFBI捜査官の名前と顔の入ったファイルをパソコンで受け取ったのが15時21分、つまり乗車した8分後です。
ペンバーはファイルを持ちながら一時間半電車に乗り続けた…」
竜崎の説明に、私も想像を馳せて考える。
確かに、不審な動きだ。なんでそんなことをしていたのだろうか。
竜崎がじっと映像を見つめる、と次の瞬間、身を乗り出し目を丸くして声を大きくした。
「封筒はどこへいった!?」
その声に驚きつつ、みんな映像を食い入るように見る。
「あっ!確かに持ってます持ってます!
…こっちも確かに持ってる、よくこんなのに気付けますね竜崎。」
「遺留品リストに封筒に見える様な物はない…」
「電車の中という事になる」
夜神局長は考えたように呟く。
「もしや…その封筒に日本に入ったFBI捜査官のファイルが入っていて…」
「キラは電車の中でそれを受け取りペンバーだけ降ろし殺した。」
夜神局長に続いて、松田さんがやや興奮気味に言った。しかしそれを、竜崎はすぐ否定する。
「それはない。ペンバーがファイルを得たのは
15時21分電車の中です。乗る前にファイルを持っていたはずがありません」
「あっそうか…」
「一応27日の山手線と各駅に関するビデオは全て押さえておいてください」
「あっはい…」
「それと…このペンバーの最後のビデオ…。私には…
必死に電車の中を見ようとしている様に観えるんですが…」
竜崎が言う。
…確かに、そう見えなくはない…
やはり、接触していたのだろうか?
「キラだったら面白いじゃないですか」
「ま…まさか…」
夜神さんが、信じられない、というように呟く。
「私もまさかだと思います。遠隔で死を操れるキラがわざわざ現場に居るはずがない…。
しかしそう考えるであろう事を逆手に取り、大胆な行動に出たかもしれません」
「…………」
「まあ仮にキラがこの電車に乗っていたとしても
監視カメラに封筒を持って映るような事はしないでしょう…。こういう場所なら前もってカメラの位置を確認し、死角があればそこへなければ人を壁にします。
しかしもし映っていれば重要参考人にはなる」
ごくりと、生唾を飲み込むのが自分でも分かった。
こんな緊迫した雰囲気、今まで感じたことがない…一般人の私には、少し荷が重い。
私はそこから立ち去り、キッチンへと向かう。と同時に、部屋にコール音が鳴り響いた。
ワタリさんが電話に出るのを横目に、私は先ほどから仕込んでいたポトフをかき混ぜ様子を見る。捜査員への差し入れメニューだった。
今は立て込んでるから、もう少し後に配ろうか…
そう考えたいるところに、竜崎の大きな声が響いた。
「レイ=ペンバーの婚約者!?」
びくりと、体が反応する。私だけでなく、捜査員みんなが竜崎を見つめている。
先程まで監視カメラで見ていた、FBI捜査官の…婚約者?
私は電話で何を話しているのか気にはなったが、殺伐としている捜査室では邪魔になりそうな気がしたので、素直にそのままキッチンにいた。
スープは置いて、コーヒーを入れよう。喉が乾く頃だ。
私はコーヒーの準備をしながら耳だけ傾けた。
話を要約すると、どうやらレイの婚約者が一緒に入国したのだが、彼が死んだ翌日から姿を消してしまった…とのこと。
…なんて不可解な…これが偶然とは考えられない。キラ、だろうか?
その婚約者はみそらなおみ、と言うらしい。
竜崎は電話を切ると、考えるように言った。
「キラが刑務所内の犯罪者で実験を行った12月9日までに、ペンバーが調べていた者に限って捜査しましょう。」
竜崎はしっかりとした声で言う。
「ペンバーは二人の警察関係者とその家族や周辺の人間を、疑う余地なしと報告していますが…その関係者に、
盗聴器と監視カメラを仕掛けます。」
空気が一瞬で固まった。
「ば…馬鹿な!!ここは日本ですよ!そんな事は許されない!バレたら首じゃすみませんよ!」
捜査員の方々が一斉に反対する。
完全に違法。許されるわけのない方法だ。
それでも竜崎は平然とした顔で、己を曲げない。
「首ではなく命をかけて捜査していたはずです」
焦るようにまだ止め続けるみなさん。
夜神さんが、戸惑いのある声で竜崎に尋ねる。
「ペンバーが調べていた二人とは誰なんです?」
竜崎は何かの資料を手に持ち、パラパラとまくる。
じっとみつめたあとのはっきりと言った。
「レイ=ペンバーが19日まで調べていたのは…北村次長とその家族。
夜神局長とその家族です。」
ピタリ、と私の手が止まる。
…なんて言ったの、今?
監視カメラと盗聴器。そこまではまだ私の脳は理解出来た。いや凄い単語だけども。
…夜神さん、って言った…?
捜査室は、まるで氷点下まで温度が落ちた気がした。
夜神さんを見ると、小さく震えているように見える。
「ば、バレたら本当にこの本部も破滅ですよ!!」
相沢さんたちはなおも必死に竜崎に対抗した。
それでも竜崎はキッパリと言う。
「絶対バレないように取り付けます」
…そういう問題でもないのだが…
松田さんが言う。
「北村次長と局長の家ですよ…!いくらなんでも…!ゆづきさんも、何か言ってください!」
突然話を振られ、私はギョッとした。
みんなの視線が一斉に集まる。竜崎も、こちらを見ていた。
松田さんの祈るような視線が痛い。きっと、竜崎を止めて欲しいのだろう。
私も、夜神さんの家に盗聴器を仕掛けるなんてしたくないし、相手が他の人だとしても同じだ。あんまりすぎる。
けれど…
私は一点を見つめ、じっくり考える。
そして言葉を選びながら、ゆっくりと言葉を発する。
「確かに竜崎のやり方は容認できるものではありません」
「ほら…!」
「しかし、他に方法があるのでしょうか?」
続く私の言葉に、一瞬笑顔を見せた松田さんが固まる。
「相手は手を下さずに時間と行動を操りながら人を殺す犯人です。普通の捜査では敵わない。普通の捜査をして、優秀なFBI12人は殺されたのです。…竜崎はもう、仲間を殺されたくないのですよ」
私の言葉を聞き、うつむく松田さん。
捜査室に、また沈黙が流れた。
心の中の葛藤があるのだろう、みな難しい顔をしている。
だがしばらくして、夜神さんが言った。
「私も自分の家族を疑われていたのでは憤慨だ。いいでしょう。付けてください!」
「な…!」
「そのかわり…、付けるなら家の隅々、バスルームからトイレまで見落としのない様にだ!!」
「ありがとうございます。そのつもりです」
松田さんと相沢さんが驚愕したように止めに入る。
「き…局長!何を言ってるんですか!?」
「そうですよ!自分の言っている意味がわかってるんですか!?」
「局長には奥さんや娘さんもいるんですよ!?」
夜神さんはもう心を決めているのか、それとも半ばヤケクソなのか、強く言い放った。
「わかっていて言ってるんだ!やるなら徹底的にやらなければ意味がない事も!
もう黙っていてくれ!!」
そう言われた捜査員の人々は黙るしかなかった。
どう見ても、みんな納得はしていない。
…それもそうだ。ここにいる人たちは誰より正義感が強い人。
正義感が強いからこそ…こんなやり方、耐えられるわけない。
私は胸が押しつぶされそうになり、ぐっと俯いた。
「…竜崎、せめて、女性の入浴やトイレは、なるべく私が見ると言うのはだめでしょうか。」
男性に見られるより、まだ幾分かましなはずだ。
私は捜査員ではないので捜査は出来ないが、何か怪しい動きをしてるかどうかの判断くらいはつく。入浴などの短時間くらい、大丈夫かなと思うのだが…
「…いいでしょう。しかし全てをあなた一人ではなく、何度かは捜査員の監視も入れます。
それとせめてもの配慮として、夜神家の監視は私と夜神さんのみで行い―
残りはローテーションで一人が警察丁。
一人がレイ=ペンバーの山手線関連のビデオに、北村家夜神家の者が映ってないかチェック。残りの二人が北村家の監視にまわる、というやり方でこれからの捜査を進めていきます」
淡々と言う竜崎に、まだ何か言いたそうにしているが誰も何も言い返さなかった。
「カメラの設置は七日間。状況により早く撤去する事も延長する事もある。その場合は必ず真実を言い、こっそりと盗聴器を残す様な事は絶対しません。これでいいですね」
いい、とは言わないが、だめ、とも言わなかった。
夜神さんの悲痛そうな表情かいたたまれない。
「ワタリ、盗聴器、カメラ、モニターの準備にどれくらいかかる?」
「明日以降であれば、両家の不在時間がわかればいつでも取り付けられます」
そのやりとりをみんなただ見守る。
「では、また違うホテルに最低ふたつのモニタールームを作り、盗聴器、カメラの設置ができ次第我々もそちらのホテルに移ります。」
その言葉を合図に、捜査員はバラバラと仕事に取り掛かる。
明らかに、納得はしてない顔で。
…私は、余計な事を言ってしまったのだろうか…
俯き、手元を見つめる。
竜崎のやり方は強引だ。みんなが反感を持つ理由は十分にわかる。どう考えても普通じゃない。
でも、みなさんをFBIの二の舞にはさせたくない。
ああしかし誰かの生活を覗くなんて、やはり非人道的だ。これでよかったのだろうか…
自分の中でも、何が正しいのか分からず葛藤が続く。二人の自分が口論を始める。
その時、誰かがそばに来て、小さな声で言った。
「先程は…ありがとう」
はっと声の方を見ると、夜神さんだった。暗く疲れた表情だが、はっきりと私にお礼を言ったのは間違いなかった。
予想外の人に、私はたじろいだ。
「えっ…あ、入浴の話ですか?そんな、全然ー」
「それもだが。…竜崎のやり方は許される物ではないが、君の話を聞いて…少しだけ、理解は出来るような気がした。おかげで私も思い切れた」
「そ、そんな…!余計な事を言ってしまったかと…」
焦ってそう言うが、夜神さんはゆっくり首を振った。
「あの場で自分の意見を言うことは勇気のいることだったと思う。礼を言う」
ぐっと、言葉に詰まった。
なんて…出来た人なんだろう。
家族を疑われて、監視されることになって、今一番辛いのは夜神さんだ。それでも冷静に状況を見て、親子ほど年が離れてる私にもお礼を言ってくれる。
…夜神さんがみんなから信頼されている理由が、よく分かる。
「…夜神さんは、優しくて…とても正義感が強い。そんな人の家族にキラがいるわけないって…気休めじゃなく、思います」
私がそう言うと、夜神さんは力なく微笑んでくれた。
そう。早く、潔白が証明されて欲しい。
こんなに素敵な人がこれ以上、苦しむことのないようにーーー