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捜査員が加わると、思った以上に慌ただしく忙しくなった。
今までは竜崎の分のお菓子を作って時々お茶を入れるくらいで、空いた時間は座って私もお茶タイムをしていたんだけれど…
そんな時間はあまりなくなった。
基本的に竜崎のスイーツは最優先。そこは揺らいではならないと思う。司令塔なのだし。彼の推理には甘いものが必要(らしい)し。
かと言って、竜崎にのみ差し入れをするには他の方々に申し訳ない。
となると、今までの倍はお菓子を作り、みなさんに配る。
お茶も、一人分と6人分では大分手間が変わる。洗い物も増えるし。
資料やなんやと物も一気に増え、部屋も汚れていく。
私は目まぐるしく雑務をこなし、オーブンは稼働しっぱなしだった。
ただ、自分の食事は作らないようになった。というのも、ワタリさんが沢山のケータリングを用意してくれるので、私もそれにあやかり食事にしたのだ。
捜査では、FBIの最期が映された防犯カメラなどを徹底的に見ることとなった。キラと接触した可能性があるからだ。
とりあえず集めるのに外へ走り回る捜査員の方たち…
捜査室にはテレビがワタリさんによって運び込まれた。
ただし竜崎はいつものように座ってお菓子を食べていることがほとんどだったけれども。
まあ、彼の頭の中がどう動いてるのか分からないし、彼にしか出来ない仕事だから仕方ない。
私はただひたすら、キッチンで立ち続けた。
そんな1日だが、竜崎は今まで通り18時にもなるとあなたは休んでください、と言った。
正直、他の方々はまだまだ働いていく様子の中で上がるのは申し訳ない。
しかしそこは頑固たる Lの上がってください、に圧倒された。
そしてみなさんも笑顔で送ってくれるので、私はお言葉に甘える事にしたのだ。私は一般人だと竜崎が言ったのを覚えくれてるんだろう。
「ではお先に失礼します。御休みなさい。」
私が頭を下げると、みんなもこちらを見てお疲れさま、と言ってくれる。少々罪悪感があるものの仕方ない。また早朝から頑張ることにしよう。
私は捜査室を後にした。
扉を閉め、自分の部屋へ向かう。今日はずいぶん疲れた。お風呂に入ってゆっくりしよう。
ふうと長いため息をつく。今日は予知もなかった。
そう思った矢先、レシピ本をキッチンに忘れてきた事を思い出した。
…明日作るお菓子を決めるのに、レシピ本はかなり必須。
私はすぐに踵を返し、忘れ物を取りに戻る。
扉を開けようと手をかけたところで、松田さんの声が聞こえた。
「いやーでも料理も美味しいし気がきくし、やっぱり女性がいると雰囲気変わりますね〜!」
明るく話す。自分の話題と気づき、つい手を止めた。入りにくくなる。
朝のように夜神さんが注意するかと思いきや、意外にも松田さんの話題に乗ったようだ。
「確かにとても気を遣ってくれてるな。ありがたい事だ」
まさか褒められるとは思ってなかった。どこかむず痒い気がして、私はちょっと微笑む。
でも、盗み聞きはよくないな、あとでまた来ようか。そう思い振り返った時、
「では本人に伝えてあげてください、きっと喜びます。彼女はあなた方と会うのにひどく緊張していたので」
竜崎の声が響いた。私はつい足を止める。
捜査室から漏れる声が続く。
「緊張…?」
「彼女は予知能力のため人間関係に悩んだ人生だったようです。幼い頃は利用しようとする大人たちから逃げまわる。成長した後は、階段から落ちるクラスメイトに善意から警告したところ、突き落とした犯人だと噂を立てられたそうです」
「そ、そんな…」
しんとした静かさが流れる。
宇生田さんがしみじみという。
「きっと俺たち凡人には想像できない苦悩があるんだ…」
「ですので、自分の能力を自ら打ち明けるこの機会をとても緊張してたようです。皆さんに秘密にする案もありましたが、隠し事は信頼関係形成によくないと彼女自ら志願してくれました。」
「そうだったんですね…。予知能力があろうとなかろうと、僕たちの仲間に違いありませんもんね、ね、竜崎!」
「松田さん手が止まってますちゃんと仕事してください」
そこまで聞いた私は、今度こそゆっくりと足を踏み出し、音を立てないようにその場から離れた。
忍足で廊下を少し進み自分の部屋に入る。
そしてそのまま、電気もつかずに自分のベッドに倒れ込んだ。
私の頬を、一粒涙が流れた。
悲しくてじゃない。
私は、とても、嬉しかった。
みなさんが褒めてくれたことが。
私を気遣ってくれたことが。
仲間と呼んでくれたことが。
そして何より、
竜崎が私を理解してくれてることが…
緊張してる私を見て、そんな小心者とは意外だなんて憎まれ口を叩いていたのに、あの人はちゃんとわかってくれていたんだ。
私が人間関係に臆病なこと。能力を打ち明けることに葛藤があったこと…
分かった上で、こうして私がいないときにフォローしてくれている。
…優しい、人だ。
ありがとう竜崎。ありがとうL。あんな無表情でぶっきらぼうのくせに、あなたは優しすぎるよ。
私が命を救いたいと思ってる人が、貴方でよかった。
私は暗い部屋のベッドの中で一人、何度も何度も竜崎にお礼を言った。
返事の返ってくることのないその言葉は、暗闇に溶けて消えていった。
ふと気がつくと、あたりは更に真っ暗だった。
どうやらあのまま、寝てしまったらしい。泣き疲れたら寝る癖があるらしい、自分自身初めて知った。まだお風呂にも入っていないのだけれど…
私は時計を見上げた。ちょうど日付が変わる頃だ。
とりあえず起き上がり、部屋の電気をつけて風呂に入る準備をする。
ふと…
また竜崎と、ホットミルクでも飲もうかなとおもいつく。
いつでも来ていいって言ってた。さすがにもう捜査員はいないだろう。
私はそう考えると、いそいそとまずは風呂場へ移動したのだった。
風呂上りのほてる体をあおぐ。
髪を乾かし、肌の手入れをすると時間は1時近かった。
私は自室を出て捜査室を見ると、ドアから光が漏れている。まだ誰かいる証拠だ。
私はゆっくり近づくと、ドアノブに手をかけた。
ちらりと顔を入れて覗かせると、やはり、竜崎が一人ソファに座って資料を見ていた。
「こ、こんばんは」
やや裏返った声であいさつをすると、竜崎は顔をあげないまま答えた。
「眠れないんですか」
「逆です、早く寝過ぎて目が覚めてしまいました」
「そうですか」
私は部屋に入り、扉を閉める。閉まる音がいつもより大きく聞こえた。
「竜崎、ホットミルクいかがですか」
「お願いします」
私はキッチンへ向かい、冷蔵庫からミルクを取り出す。
カップに入れてレンジにかける。
レンジが稼働する音だけが響いていた。
…相変わらず会話ないな。
でも、以前程気まずくは感じない。そうだ、最初はこの沈黙が気まずくてならなかったんだ。
なぜかそんなことが懐かしくなってしまった私は、ふふっと一人笑う。
出来上がったホットミルクに竜崎の分だけ蜂蜜を入れて、彼のもとへ渡す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
私は自分の分もおき、竜崎の隣へ腰掛ける。
入れたはいいものの、風呂上りでとても暑い。ホットよりアイスがよかったな、なんて、今更思う。
竜崎は資料片手にホットミルクを啜る。
私はテーブルに置いたまま、ぼうっと正面を向いていた。
「飲まないんですか」
「え、ああ…実は今風呂上りなんです。暑くて堪らないので冷ましてます」
「ではなぜホットミルクを作ったんですか」
「竜崎とホットミルク飲みたい気分だったんですよ!」
私は笑う。竜崎は特に何も答えずホットミルクを啜った。相変わらず愛想もない人だ。
「FBIのカメラに、何か映ってますかね…」
私はふと思い出して尋ねてみる。
「キラと接触した可能性はありますが、監視カメラに姿を映させることはキラはしないでしょう。」
「そうですよね、そんなマヌケじゃないですよねキラも…」
ふうとため息をつく。
「しかし何か手がかりはあるかもしれません。しばらくは集められた監視カメラの映像をひたすら見る1日になりそうです。あなたも見て何か気になることがあれば言って頂いて構いません」
「き、気づけることがあれば良いですがね…」
多分素人は呆然と見るだけで精一杯になるだろう。多分何も気付けない。
「…最近、あまり予知も見れなくてすみません」
「謝ることはありません。あなたの能力や特徴については十分に分かっています。あなたは何でも謝りすぎです。謝るの趣味ですか」
「しゅ、趣味って…」
「予知がなくとも十分な働きをしてくれてます。気にすることはありません」
持ってる資料から視線は外さず、竜崎は淡々と諭す。私は微笑みながら、何も答えずにホットミルクをようやく一口飲んだ。
まだ冷め切っておらず、だいぶ熱いけどまあいい。額から汗が出てる気がするけどまあいい。
私はいま、竜崎と並んでホットミルクを飲みたいのだ。
こんなに心穏やかな時間は、母がまだ元気だった時以来な気がした。あの小さなアパートで夕飯を食べてた時の感覚に似ている。
闘病生活や亡くなった後のことは、なんだか遠い昔のようだった。
…さっきのお礼を言おうか。
ふとそう考えたけれど、盗み聞きがバレてしまうのでやめた。きっとお礼を言っても、別にお礼を言われることではありません、とか言われそう。
心の中で言っておくからいいよね。
「竜崎は…なんだか、お母さんに似てる…」
ついぽつんと呟くと、珍しく竜崎は目を丸くしてこちらを見た。
「…似てますか?」
「顔は似てません。性格も似てません。」
「似てないじゃないですか」
「空気感ですよ。なんか…居心地いいです」
竜崎はまだ目を丸くしてこちらを見ている。
「…変わった人ですね。私は基本人から居心地いいと思われる人間ではないことは自覚してるのですが」
「そうなんですか?」
「はい。頑固だし負けず嫌いだし偏食家です。こだわりも強いです」
「あはは、分かってるんですね!」
「これが私のやり方ですので変われません。」
「まあ、それでLとしてたくさん事件を解決してきたわけですしね。普通の人とは違いますよ。」
天才と変人は紙一重、とはよく言うものの、竜崎の場合は全く混同している。天才が変人だ。
笑いながら話して、竜崎をLと呼んでしまった事に気づく。
「あ、ごめんなさい、今Lと…」
「二人の時はLと呼んでいただいて構いませんよ、光さん」
それを聞き、なんとく綻ぶ顔を隠すために私はまたホットミルクを飲んだ。
顔が熱いのは、ホットミルクのせいだよね。お風呂上がりにホットミルクなんか飲んだからだ。そうに違いない。
「まあ、最初は怒ってるのかなー?なんてビクビクしてたことは否定しません」
「そうでしょうね。まあ、出会って間もないあなたをすぐ軟禁状態にしたのです、いい印象を持たなくて当然です」
「そういえばそうでしたね。私って結局まだ外出禁止なんですか?」
「光さんを疑ってることはしてませんが…キラに存在を隠したい為にもなるべく控えて頂きたいですね。どうしても行きたいところがあれば許可しますが、必ずワタリに車を出してもらって付き添いを頼んでください」
…あの忙しいワタリさんにそんなこと頼めない…
私の外出は当分先になりそうだ。
「出たいですか?外」
「まあ特に行きたいところもあるわけじゃないですけど…気分転換に散歩くらいは」
「…あなたを外に出すと、いなくなってしまいそうで心配です」
Lが、じっと私を見る。
私はそれをしっかり見返した。
「今はもう、変なこと考えてませんよ…Lを救うと言う使命ができましたから。」
「…そうですか」
Lは視線を逸らし、近くにあったチョコレートをつまむ。
ではキラ事件が終わったら、どうするんですか。
ーーーそう、聞いてくるかもと思った。
そしたら、私はなんて答えるんだろう。
また死に場所を求めるだろうか。
今は、分からない。
「でも、嬉しいです。Lに心配してもらえるなんて」
「…自分でも不思議ですが。あなたには珍しく執着してると感じます」
どきっと、胸が鳴った。
執着、してる…?
Lは考えるように天井を見上げる。
「あなたのぜんざいとチョコレートタルトが食べれないと思うと、不安です」
…それってお菓子要員ってこと!!?
私はがっくりと首を項垂れる。
いや、Lからしたら重要かもしれない。これも光栄なことなのかも。
でもなんか言い方が、愛の告白でもされそうな始まりだったから…
勝手に顔を赤くして、私は更に暑くなった。誤魔化す為にまたホットミルクを飲む。
「お菓子気に入ってもらえてるみたいで、よかったです!」
ややヤケクソ気味に言う。Lは気付いてないのか、私を見て口角を上げた。
「とても気に入ってます。なんだか懐かしい味がします」
その笑顔を見て、私の毒気も抜けた。心から楽しみにしてくれてるのがわかる、子供のようで純粋な顔だったから。
ちょっと可愛いな、とも思う。本当に甘いものが好きなんだな。私は眉を下げる。
「本当は他の捜査員に分けるのも悔しいくらい気に入ってます」
「りょ、量は今までより作ってますから…分けさせてください…Lにだけ作るのは気まずいです…」
そう自分で言った後、笑いがこみ上げてきて、私はついあははっと声を上げて笑った。突然の私の笑いにLは眉を潜めた。
「…なんですか」
「だって、お菓子分けたくないなんて…せ、世界のLが…まるで子供…!あはは!」
拗ねたようにLはホットミルクを飲んだ。私の笑いは収まらない。
「あはははっ…嬉しいですけどね!そんなに…Lのお母さんの味に似てるのかな?」
「私には親というものがいません。捨てられたのを、ワタリに拾われました」
ピタリと、笑みが止まった。
今、なんて…?
「孤児院で育ったんです。ワタリはそこの責任者でした。」
「そう、だったんですか…すみません、無神経なこと…」
Lが孤児院育ちだなんて、全然想像つかなかった。
そうか、ワタリさんとはそういう関係だったのか…
私は辛い時、いつでもお母さんがいてくれた。それで乗り越えられた。
でもLは…いなかったんだ。
「ワタリは親がわりであるので信頼してます。あなたとお母様のように。」
「…そうですか。心の支えがあるのは、いいことですね」
ワタリさんがいてよかった。私は心から思う。
親がいないのは、子供にとって想像以上に大きな穴を作る。それ埋めるのも、とても大変なのだ。
私は大人になってから母を亡くしたけど、子供の頃だったらきっと今以上に辛いはず。
「ワタリさんがいて…よかったですね。」
あまり長い時間会ったことないけど分かる、あの優しい笑顔。きっとLもずっと、あれに救われてきたはず。
「でも私…ちょっと今嬉しいです」
「何がですか」
「Lが、自分のこと話してくれて。私のこと信頼してくるてるのかなーって」
「もうあなたを疑ってないと言ったじゃないですか」
「疑ってないと、信頼してる、は別ですよ?」
私がいうと、Lは納得したのか、また微笑んだ。
私もつられて微笑む。
初めの頃より、Lはよく笑うようになったと思った。
そして二人同時に、少し冷めてしまったホットミルクを口に含んだのだ。
その日から、私が夜捜査室でLとホットミルクを飲むのは習慣になっていった。
捜査員の方が帰ったのを見計らって、ほんの30分、1時間。
その時間が私にはとてつもなく、幸せに感じていた。