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その次の日、日本警察のキラ捜査本部は事実上解体した。
そして、命をかけてでもキラを追いたいという正義を持った5人に絞られ、ワタリさんがその人たちを連れてホテルへ来ると連絡が入った。
ワタリさんが送ってくれたその5人のプロフィールを、Lは私にも見せてくれた。
そこには、あの予知でみた人たちがいる。…なんだか、勝手に懐かしく思えてくる。
私はなんとなく緊張して、ソワソワした。
あまり人と深く関わらないようにしてきた人生、しかも自分から能力を明かしたことは未だかつてない。
どんな反応をされるのか、と…
「今から捜査員が来ます。まずあなたは初め、私の世話役だとでも言って自己紹介してください。能力については後々言います」
「後々とは?」
「キラが紛れてる可能性があります。私は一人一人と話し、キラでないかどうか見極めたいと思います。5人全員キラでないと判明してから、改めてあなたの紹介をします」
なるほど、私の事を考え、より安全な方法をとってくれるのか…
Lは本当に私の為に色々対策してくれている。ありがたい。
「私が面談を始めたら、あなたは他に仕事があるとでも言って自室へ戻ってください。私が不在になってしまうので、もしキラがいたら接触しようとするかもしれません」
「わかりました」
この中に、キラがいなければいいのだが…
私は彼らのプロフィールをじっと眺める。
うーんいかん、緊張するなぁ。
私の様子が分かったのか、Lがこちらを見る。
「緊張してるんですか?」
「ええ少し…」
「あなたがそんな小心者とは意外です。初対面の私にプロポーズをするような女性なのに」
…そういえばそんなことあったな…
私は苦笑した。
「あれは勢いですよ!自分でも何を口走ったのか理解に苦しみます!」
「それだけの勢いをお持ちなら大丈夫です。気軽に構えてください」
励まされてるんだか、からかわれているのか?
どちらにせよ、こんな憎まれ口を叩くまでLとの距離が縮んだのは嬉しい事だった。
「…竜崎は、緊張とかしないんですか?」
「基本しません。」
「さすがですね…」
世界の探偵となれば、ハートも強いんだろうなぁ。
私はふうとため息をつく。
その時、入口からキーの開く音がする。私は慌てて資料を竜崎に返し、なんとなく髪を整えると、入り口の方へ向かい扉を開ける。
数人分の足音が、カーペットを歩く。
そして、5人の男性が私の顔をみた。
「あ、初めまして…」
目を丸くして、男性は立ち止まった。
ええと、夜神さん。だ。
「ま、まさかLが…女性だったとは…」
…え?
彼らが目をまるくしているのは、この私がLだと勘違いしているらしい。
私は慌てて否定した。
「ち、ちがいます!私はLではありません!世話係の、ゆづきと言います」
Lに言われた通り、とりあえず最初は世話係と名乗る。
皆さんはなんとなく不信感のある視線でキョロキョロ辺りを見回す。
「どうぞ中へ…」
私が促し、みなさんが再び足を進めると。
長いジーンズの裾を引きずりながら、あの猫背が歩いてきた。
Lは5人を見渡し、
「Lです」
と、短く言った。
私を見た時以上の、みなさんの驚いた顔。
うんうん、気持ちはわかる。私も初めは驚いた。
ほんとに?という無言の疑問を、ワタリさんに視線で投げかける。
ワタリさんが静かにうなづく。
私はみなさんのお茶を準備するために、そそくさとその気まずい場から離れ、キッチンへと向かった。
ええと、ワタリさんもいるし、7人分か…これから結構お茶入れるだけでも大変になりそう。
私がお湯を沸かしはじめた頃、背後で、捜査員の自己紹介をする声が聞こえる。
その直後。
「バーン」
突拍子もない声が聞こえて、私はつい振り返った。
見るとLは、手をまさにL字にし、夜神さんを撃ったような格好をしている。
唖然とする部屋。
「私がキラなら、みなさん死んでますよ?」
…どうやら、本名を名乗ったことに注意したいようだった。
殺伐とした部屋が、さらに冷え込んだ気がした。
…いずらい…
私は苦笑して、人数分のティーカップを取り出し、昨日大量に焼いたクッキーも取り出した。
信頼感、か。
Lは正直、あまり人付き合いが得意ではないと思う。私も初め、彼の無表情さに戸惑い、距離を置いていた。彼はどう見ても普通ではないし、愛想がいいわけでもない。
今から大変かもなぁ。
きっと今まで、ワタリさん以外と関わりをもたず、モニター越しで捜査を行なってきた毎日。
Lがこれから苦労しなければいいけれど…
私は人数分のお茶を用意し終えると、捜査員の方たちへ配っていく。
みなさんはテーブルに集まり、Lの捜査状況を聞いていた。
大皿に入れたクッキーをどんと置くと、Lのみがすぐに手を伸ばし、食べ始める。
…きっとL一人の胃袋に入ってしまうのだろうな…
Lの話を聞きながら、みんながチラチラと私を気にかける視線を投げる。
世話係、と簡単に説明したけれど、恐らく何者なんだと疑問を持ってるに違いなかった。
それもそうだ、今まで誰も素顔を見ることのなかったLのそばで、こんな普通極まりない若い女がいては不思議に思うだろう。
ワタリさんのような橋渡し役ならともかく…
その時Lが、ちらりと私に視線を送った。
はっと思い出し、私は皆さんに会釈をすると、そっと部屋から出て行った。
これからLは、一人一人と話し、中にキラがいないかどうか見極めると言っていた。その間私は自室にいるようにと。
どうやって見極めるつもりなのか聞いてみたかったけど、多分私が聞いても理解し切れないだろうからやめといた。
私は自室に戻り、ふうと一度長くため息をついた。
…今日はこれにておしまい。お風呂入ろう。みなさん働いてる中申し訳ないが今日ばかりは仕方ない。
明日からきっと忙しくなる。
私はそう思い、バスルームへ向かった。
翌早朝、目が覚めた。
部屋はまだ暗い。
もう流石に面談は終わっているだろう。
私は大きく伸びをして、身支度を整える。
あの中に、キラがいるかー
いや、もしいたらこんな静かなはずがないか。
これほど静けさがあるのなら、恐らくキラがいなかったに違いない。
私は着替えも済ませると、自室から出て捜査室へと移動する。
ゆっくり扉を開けてみれば、ぐったりとした様子の捜査員が見えた。
ソファに横になってる人、座ったまま寝てる人…
1234…あれ、一人足りない。
もしかして、まだ面談してるのだろうか?
リビングの椅子に座り、机に突っ伏していた松田さんがはっと顔をあげた。
「あ…おはようございます」
「すみません、起こしてしまいましたか」
「いえ…今最後の一人ですよ。もう出てくると思います」
ということは、これまでキラがいなかった可能性が高いよね。途中でキラがいれば何事もなく面談進めたりしないだろうし…
にしても、私はベッドで気持ちよく寝てしまっていたけど、みなさんは夜通し話して横になって眠りもせず…頭が上がらない。
何か朝食になるものを、と考えた。
でも気の利くワタリさんが何か用意しそうだよな。
そう思った私は、汁物を作ることにした。一つくらい、出来立てで温かい物があったらいいと思って。
冷蔵庫を見て、豚汁にしようと思い立つ。野菜もタンパク質も取れる万能な一皿だ。
私はあまり物音を立てないようそっと調理を始める。松田さんはまたつくえに突っ伏した。
凄い人たちだなあ…正義感だけで、ここまでストイックに働いて。
自分の命さえも掛けて戦うなんて、簡単には出来ない。
感嘆の意も込めて、私は気合を入れて調理を進める。
竜崎には最近お気に入りでリクエストされるぜんざいを作る。
そうだ、豚汁も少し食べてもらおう。あの人は栄養が偏りすぎる。たまには甘いもの以外を食べさせよう、多分こちらから働きかけねば絶対食べないだろうから。
心に決めると、なんだかさらに作るのに気合が入った。
しばらくして、竜崎が戻ってくる。
それに気がつきようやく仮眠していたであろう人たちも起き出した。
みんなぐったりしてる中、竜崎だけはいつもどおりの表情をしている。この人は本当に寝なくても大丈夫らしい。疲労感もまるで感じさせない。
竜崎はソファに飛び乗り、冷え切ってるであろう紅茶を一口飲んだ。
周りが固唾を飲んで竜崎を見ている。私も一旦手を止めてキッチンから竜崎を見つめる。
「一人一人尋問のようなことをして、すみませんでした。
この中にキラはいません」
竜崎は断言した。
みんながほっと、胸を撫で下ろす様子がわかる。
私も一番遠くで聞きながら安心した。
ここにいる人たちは、本当に強い正義感をもって集まった人達なんだと。信じていい人たちなんだ。
「竜崎…何故いないと言い切れるんです?」
夜神局長さんだけが不思議そうに竜崎に訊ねる。
「一言でいえばキラであるかどうか確かめるあるトリックを用意してたんですが…
皆さんにはそのトリックを仕掛ける気すら起こりませんでした」
…そのトリック、なんなのか凄く気になる…
心の中で思ったけれど、私は何も言わなかった。
「ところで。みなさんにまだ話していないことがあります」
竜崎が切り出す。私ははっとして、ガスの火を止めた。
「ゆづきの事です。昨日は私の世話役として紹介しましたが…彼女は私の世話役などではありません。キラ捜査に協力してくれてる人です」
「キラ捜査に?警察関係者か?」
夜神さんが驚いたように私を振り返った。
私はキッチンから出て、みなさんに近寄る。
「彼女は警察関係者ではありません、ごく普通の一般人です。ただ。彼女には特別な力があります。その力を借りています」
「と、特別な力…?」
相沢さんが聞く。
竜崎はいつもと同じトーンで続けた。
「はい。予知能力です」
しん…と静寂が流れる。全員がポカンと口を開けている。
視線が集まる。なんとなく気まずくて、私は俯いた。
模木さんが一番に口を開く。
「ほ、本気ですか…竜崎」
「はい本気です。彼女のチカラは本物です。私も今まで色んな捜査をする上でこの系統の者と関わることもありましたが、彼女の力は群を抜いている。ここにいる5人が残る事も、彼女は予知していたのですよ」
「り、竜崎が言うなら本物なのだろうが…」
「ただしいくつか条件はあります。未来が見えるのは同じ空間にある者のみ、写真や映像ではできません。未来は突然見えるもので、1日何度も見たりはたまた1週間見ない時もあります。見える未来は大体5年ほど先まで…基本近い未来を見る事が多いですが、だいぶ先のことも見えたりします。」
「も、もし本当に見えるなら、とても心強いが…」
「先ほども言ったように彼女はその力を貸してくれる一般人ですので、危険な捜査はさせません。それに、もしキラに彼女の存在がバレれば、自分の物にしようと狙われる可能性が高い。みなさんゆづきのことは決して口外しないようお願いします。」
私はペコリと頭を下げる。
「普段は竜崎のために大体甘いものを作ってますが…雑用くらいなら何でもやります。声掛けてください」
私は笑顔で言った。未だみなさんは信じられない、というような表情で私を見ていた。これが普通の反応だ、誰でもそうなる。
松田さんが一人明るい声を出した。
「で、でも、綺麗な女性がいると士気が上がっていいですね!」
「松田。浮ついたことをいうな。」
「す、すみません…」
しょんぼりとする松田さんと夜神さんを見て、私はつい微笑んだ。息子と父親みたいだな、と。
私の力について、5人は戸惑ったように視線を泳がせたが、夜神さんが一歩前に出て右手を差し出した。
「自己紹介がまだだった。夜神総一郎だ。」
私は差し出された手をそっと握る。
「よろしくお願いします、夜神さん。」
それを見て、他の人も次々名乗り出てくれる。
「相沢です」
「模木です」
「宇生田です」
「松田です!」
戸惑いはあるが、みな笑顔で私を受け入れてくれているようだった。私はほっと胸を撫で下ろす。
人付き合いはなるべく浅くしてきた私だ。どうしても臆病になってしまう。
けれどここでは、私の能力を知っている人たちばかりだ。壁を作る必要はないし、命をかけてキラを追う仲間だ、お互いを信頼することは重要だ。
私は一人一人の顔を見つめる。
この人たちと…私は戦うんだ。
ぐっと息を飲んだ。不安がないと言えば嘘になる。でも、私は信じるしか出来ない。キラを追ってLを、助けてみせる。
「あのぅ〜…ゆづきさん、さっきからいい匂いしてるのなんですか?」
気の抜ける声が聞こえてきた。松田さんだ。
つい、張っていた気が抜ける。
周りの人たちも呆れたように松田さんを見た。
私はふふっと笑みを溢す。松田さんみたいな人って、必要だと思うな。
「豚汁作ったんです、今お持ちしますね」
私はそういうと、キッチンへ向かう。松田さんがキラキラした目で見てきたのが、また笑えた。表情に出やすい、正直な人だと思った。
するとちょうど私といれかわるように、ワタリさんが部屋に入ってくる。何かを運び入れたようだった。
それを横目で見つつ、切った火を再び入れて温め直す。
耳だけ竜崎の話す内容に傾けると、どうやらみなさんの偽名の警察手帳を渡しているらしかった。
なるほど、キラは人を殺すのに名前と顔が必要…という竜崎の見解を聞いて、捜査員を守るために必要なものだと感心する。
もしかしたら、FBIが亡くなった事を反省して作ったのかもしれない。
そして、いざと言う時に押すとワタリさんへ緊急連絡のつくバックルが付けられたベルトも配られる。
…いつの間にこんなの作ってたんだろう。
松田さんが特殊部隊みたいでカッコイイです!とか言って夜神さんに軽率だと注意されてるけど、実は心の中で同じ事を思った私は少し罪悪感を感じた。
大きな鍋から、更にイイ香りが立ち込める。
私は火を消して、人数分に盛り付ける。
そして箸と共に、夜神さんから順番に手渡していく。
みな顔を綻ばせて受け取ってくれた。うん、作った甲斐がある。
「うわーいい匂い!…めっちゃ美味しいですゆづきさん!!」
すぐに手を伸ばして食べた松田さんが、ニコニコと褒めてくれるので、私もつい笑顔になる。
「よかったです。沢山作ってしまったので、もっと食べたくなったら言ってください」
そう言いつつ、私は少しの量の豚汁とフォークを、竜崎の前に置いた。
竜崎が一瞬固まる。
「…ゆづき」
「ぜんざいもありますよ。それ食べたらです。大分量は少なくしてます頑張ってください。前も言いましたが、竜崎は栄養バランスが酷いですよ」
竜崎は考えるように親指をくわえる。
さては、断る理由を考えてるな?最近、竜崎の考えてる事が少しわかるような気がしてきた。
「…ゆづき、とても美味しそうですが、私の推理力には糖分が…」
「竜崎。」
強く名を呼んで、じっと見つめる。
竜崎は目を丸くして私を見る。
少しの間、沈黙が流れた。
しかし竜崎は折れたようにおずおずと手を伸ばし、お椀をそっと取ると少し啜った。
よし。とうとうやってやった。
心の中でガッツポーズをとり、微笑む。
私はくるりと踵を返すと、みんなが食べる手を止めてこっちを見ているのに気がついた。ワタリさんだけは、目を細めて笑っている。
「?あの…どうしました?」
「あ、いや、なんでも…」
また食べるのに視線を戻す人々。私は不思議に思いながらも、ワタリさんに配るために彼に近寄って行った。
「ワタリさんも、よろしければどうですか?」
「ありがとうございます。ありがたく頂きます」
ワタリさんは微笑みながら手にとり、一口を食べるととても美味しいですよ、とほめてくれた。
口々に褒められて、私は素直に喜んだ。こんなに沢山の人に手料理を振る舞うことなど今までなかったからだ。
これから毎日、となると大変かもしれないが、自分に出来ることは頑張ろう、そう思えた。