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心地よい揺れを感じた。
温かくて、安心感を感じれる。
そう、子供の頃お母さんに抱かれて寝ているような感覚だ。
…寝ている?
ぼけっと、目を開ける。
あれ、ここ、はーーーー
はっとした。
私はがばっと、体を起こす。
「おはようございます」
声のした隣を見ると、Lがいつもの格好で捜査資料を眺めていた。私は瞬時に察した。
「え、L…!すみません、私…もたれて寝てましたね!?」
もしや、あのまま泣き疲れていつの間にか寝てしまったのか。
子供じゃあるまいし、いい大人がなにをやってるんだ…!
顔が熱くなるのを感じる。
「別に構いません。」
「は、話も長々としてしまって…すみません!」
「別になんともありません」
Lはいつものように無表情で、そう答える。
なんて贅沢な。世界のLにもたれて寝るだなんて。
…でも、L、私を起こすことなく支えててくれたんだ…
少し意外だった。
「お、重くなかったですか」
「いいえ特に」
そんなはずはない。人一人肩にのし掛かられればそれなりの重さになるのに。
Lの優しい嘘だと気がついた。
「…なんだか、泣いてスッキリしました…」
自分の気持ちが、どこか晴れたような感覚だ。
Lは振り返り、微笑んだ。
「ならよかったです」
しかしすぐ、また資料に目を落とした。
…また、笑った。
さっき見たLの笑顔と同じ、優しく柔らかな笑み。
「まだ真夜中です。部屋へ戻って寝てはどうですか」
「前から聞こうと思ってたんですが…Lはいつ寝てるんですか?」
「あまり寝ません。眠くなった時に寝ます。」
…やっぱり。
時計は丑三つ時。なのにけろっと起きてるLに、もしやあまり寝ないのかと思ったんだ。
「死にますよ、L…過労死で」
「眠くなったら寝ます。死にません。」
Lの目の下のクマの理由が、ようやく分かった。
「…ほんとに、ちゃんと寝てくださいね。睡眠がどれほど重要か、Lなら知ってるでしょう」
お菓子しか食べない、寝ない、むしろよく今も生きてるなと思う。
それとも、天才は体質すら私たちとは違うのか。
「そうですね。気が向いたら寝ます」
ま、またそれ!
私は少々呆れながらも、立ち上がって自分の部屋へ向かおうと歩き出す。
「光さん」
はっ、と、驚いて振り返った。
「眠れない時はこちらに来て頂いて構いません。大体私はここにいます。話を聞くくらいできますので。」
「L…」
「それとひとつ。貴方は私に謝りましたが、謝ることは何もありません。
どんな理由にしろ人の命を助けるために自分の身を差し出すことは普通出来ません。
世の中には人を殺しといて正義マンづらする殺人犯もいるのです。
貴方は何も間違ってないし胸を張ってください」
ふわりと、心が温かくなる。
…この人は。
ぶっきらぼうに見えるし、表情も乏しいし何考えてるかわからなかったけど。
とても、優しい。ただ不器用で、なかなかそれを上手く出せない人なんだ。
「…Lって、見かけによらず優しいですね」
「見かけによらずは余計です。」
「ふふ、冗談です。…ありがとうございます。」
私はそっと微笑んで、Lに頭を下げた。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私は少し名残惜しかったが、Lに背を向けて部屋をあとにし、自分の部屋に移動した。
先ほどの部屋と違い、自分の部屋はひんやりと冷え込んでいた。
私はベッドにダイブする。
まだ寝てていい時間だけど、私は眠れそうになかった。
それは、母を思い出したからでもFBIを思ったからでもなく、
Lの言葉を思い出してーー心が暖かかったから。
そして、私の頭に置かれたあの大きな手から感じるぬくもりが、
まだ残っていた気がしたからだった。
次の日、私はいつもより寝坊して捜査室に入っていった。
Lはやはり昨晩と同じところにいた。
普段となんら変わらない様子。
ホッとしたような、なんだか残念なような気持ちで私はLの紅茶を入れた。
「L、紅茶です」
「ありがとうございます」
Lの前に置くと、私は自分の分をもって、Lの隣に腰掛けた。
Lはちらりと私を見たけれど、何も言わずに紅茶を飲んだ。
…ちょっと、ドキドキした。
いつも遠くから眺めてるだけだったけど、勇気を出して隣に座ってみた。
もしかしたら、Lは自分から近寄ることはしないけど、こちらから近寄れば受け入れてくれるのかもしれないと思ったから。
案の定、彼は特に私を突き放すような事はしなかった。
「…L、それはなんですか」
ふと、テーブルの上に広がった写真が何枚か目に入る。
何か、血のような…?
「これですか。刑務所内でキラに殺された人間が、死ぬ前に書き残したものです。…女性のあなたには刺激が強いかもしれませんが…」
「グロいですか?私ホラー映画鑑賞が趣味なので大丈夫です」
「意外な趣味ですね」
Lはそういうと、私に何枚かの写真を手渡してくれた。
…指を切って出血させたのだろうか?よくわからない記号に、
文章…
私は首を傾げてそれを見る。
「頭文字を取って読んでください」
Lが言う。私は言われた通りそう読むと。
「…える、しってるか…?」
ぞっ、と心臓が冷える。
別段恐怖を感じなかった写真たちが一気に恐ろしくなった。
「キラが書かせたのでしょう。あからさまな私への挑発です」
「え、刑務所内の殺された人たちですよね?キラが書かせたとは…」
「おそらく。キラは死の時刻だけでなく…死の直前の行動も、操れる」
「!」
…そんなことが、本当にあるのだろうか?
一人の人間が、殺すだけでなく、その時刻や行動までも操れるなんて…
「これの、続きは?」
「そこにあるしにがみは、までです。近いうちまたメッセージが来るのかもしれません」
「…ふざけてる。人の死で、こんな…ゲームみたいなことして」
湧き出る怒りに震える。
もしキラが捕まったら、なんでこんなことができるのか問い詰めてみたい。一体、どんな人生を送ったらこんなことができるのかー
手に汗握る。
絶対、Lを殺させない。
こんなふざけたやつに、Lは殺させないー!
その日、再び送られてきたキラからのメッセージ。
それは、
りんごしかたべない
という、なんとも馬鹿にした意味不明なメッセージだった。
Lは怒りを押し殺すように、親指の爪をかじっていた。
それから2日後。
私はLに呼び止められた。
「光さん」
「はい?」
「大事な話があります」
Lがそんなこというもんだから、私はぐっと身構えて持っていた包丁を置き、すぐにLの元へ走った。
ソファに腰掛けた私をみて、Lはゆっくり体をこちらに向けた。
「FBIも全員殺され、更に日本警察は私が彼らの周辺を調べさせていたことを知り、私への不信感が募っています。私は彼らに顔も見せていない、当然です。
そこで、命を賭けてでもキラを共に追ってくれる者のみに人数を減らし、私はその者たちに素顔を見せようと思います」
「!」
「信頼なくして捜査は出来ません。」
「では…私が前見た予知は。」
「ここにきた5名。私と共にキラを追う日本警察の方でしょう。ここをキラ捜査本部とします。」
「ここを…」
年齢層もばらつきのあった5人の男性。あの人たちと、ここでキラを追うんだ。
前見た映像を思い出す。
「…光さん。引き返すなら今が最後です」
「え?」
Lは真剣な眼差しで、私を見つめた。
「あなたが私に協力していることは、今私とワタリしか知りません。しかしこれから日本警察に存在がバレるとなれば、あなたもキラに命を狙われる可能性があるのです。…いや、命というより…」
「いうより?」
「考えても見てください。あなたの予知能力…キラにとってはどんな事をしても手に入れたいでしょう。私や警察に身を追われているのです。あなたの能力を利用しようとするでしょう。」
そう言われて初めてその事実に気付いた。
Lの言うことは最もだ。そうか、私の能力…キラも利用したいと思うのか…
「今引き返せば、あなたも危険な目に合わずに済む。」
Lは淡々と、しかし語尾を強くしてそう私に告げた。
…引き返す??
私は一度、死んでいるというのに?
Lを死の未来から救えてないのに?
私はふっと、笑みをこぼす。
「…L。私が何て言うか、分かりますよね?」
あなたと共に闘い、この事件の結末を見たい。
あなたの死の未来を、変えたい。
今私が存在してる意義はそれがすべて。
私はじっとLの目を見つめた。
しばらく見つめあった後、負けたと言わんばかりにLは目を逸らし、ため息を漏らした。
「あなたも私に負けず劣らず頑固ですからね…」
「知っていてくれて嬉しいです」
「もう一つ方法があります。あなたの能力を捜査員には話さない事です。予知は、私にだけこっそり教えてくれればいい。ワタリの助手ということで、今まで通りお菓子やお茶の準備をするのです」
Lの申し出は、たしかに私の危険が減りそうな案だった。
私は腕を組んでしばらく考える。
Lはじっと、私の返答を待った。
「…L。私はこの力が人に知られる事でずっと苦労したので、誰かに打ち明けることはこの上なく怖いです。
ですが。命をかける現場で、ただお菓子を作ってお茶を入れるだけの存在が出入りするなど、捜査員の方は怪しみませんか?
それに…信頼関係を作る、という目的があるのに、隠し事をしては本末転倒ですよ」
そう、共に命をかける仲間に、隠し事をして不信感を生み出してはならない。
それこそ、キラ捜査に邪魔なだけだ。
Lは私の言葉を聞き、感心したように言った。
「…以前から思っていましたが、あなたは頭の回転が速いです」
「えっ!!い、言われたことありませんよ!学校の成績も悪かったですよ!?」
「頭の回転が速いのと成績は必ずしも比例するとは限りません。」
世界のLにそう言われるなら、ちょっと得意げになっちゃうな…
Lはそばにある角砂糖を持ち、積み木のように積み上げていく。
「あなたのいう通りです。…というか、あなたならそう言ってくれるだろうと思ってました。」
いくつか積み上げた所で倒れた角砂糖を、Lは全て紅茶へほうりこむ。
「捜査員には他言しないよう強く言っておきます。それと私のことは今後Lではなく、竜崎と呼んでください。あなたも偽名を考えて、本名は絶対に誰にも言わないでください。」
そういえば出会った頃、初めは竜崎と名乗っていたっけ…
私は偽名を少し考えたあと、なんでもいいかと思い直し、
「じゃあゆづき、でお願いします。」
適当に思いついた名前を言った。
「わかりました、ゆづき。本名は決して誰にも言わないでください。どこからキラに漏れるか分かりません」
Lは紅茶をスプーンでかき混ぜ、ごくりと飲んだ。
「明日、捜査員が来ます。心の準備をしておいてください」
「…はい」
ここに、見知らぬ人たちを招き入れて捜査する。
一般人である私がかなり場違いになることはわかっている。
足手まといになるかもしれない。…予知を、しっかり見なくては。
私は料理の続きをしようとたちあがる。
「光さん」
呼ばれて、振り返った。
「あなたの事は全力で守ります。」
Lが真剣な眼差しで、そんな頼もしいことを言う。
男性にこんなこと言われたの、初めてだ。つい微笑む。
「…L、それだけじゃありません」
「なんですか」
「私も、あなたを守りますからね」
私しか出来ない方法で。あなたを、きっと守ってみせる。
私の言葉を聞いて、Lは口角を上げて笑った。