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その日、私は死に場所を求めていた。
賑やかな街並みを、ただひたすらぼうっと歩き回っていた。
季節は冬。息を吐くと、白く空気が空へと上がる。
悴んだ手を、そっとポケットにしまった。足先も冷えてきてどことなく痛い。
若者の楽しそうな声が耳に入ってくる。子供連れの家族の声が、カップルたちの声が響いていた。
私は小さな鞄一つを持って、その中をくぐり抜けてきた。
この世界で、私だけ取り残されているような感覚が拭えないのはなぜなんだろう。実は、私はもうすでに死んでいるのかもしれない、と勘違いするほどに。
アスファルトを踏みしめながら、私はただひたすら、雑音にまぎれていた。
思い出すは、あの人の声。
力なく私の手を握った、あの人の細い手。
『あなたは…何も悪くないのよ…』
寝ても寝ても、その声が遠ざかることはなかった。耳にこびりついて離れなかった。
(ーー人の、迷惑にならないところまで、行かなきゃー)
身の回りの始末はすべてした。あとは、誰にも見たからなさそうな、そんな場所まで行く必要がある。さてどこへ行こう。
何か道具も必要だろうか。買っていくべきものはなんだろう…
回らない頭で色々考えている時ふと、足を止める。
そっと右側を見れば、懐かしい店が目に入った。
「ここ…」
よく、あの人と来たカフェだった。
有名なホテルの1階に構える、お洒落なカフェ。
ここのショートケーキが二人とも好物で、時々食べに来た。テラス席に座り、陽を浴びながら、二人でケーキをつつき、紅茶を飲んだ。
思い出の、場所だった。
目の奥が熱くなる。
私はふらふらとした足取りで、その中へ引き込まれていった。
「いらっしゃいませー!」
声をかけられる。人数を聞かれ、私は無言で人差し指をたてた。
お好きなお席へどうぞ、と言われ、店内に足を踏み入れる。
最後だ、最後にここの思い出の味を味わおう。
あの人との思い出の…
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