3対3
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「蜜景さん!」
潔子先輩がジャージが入っていた段ボールを片付ける姿を見ながら申し訳なく思っていると飛雄君が座っている私の方に来た。
「ん?どーした?」
「…すみませんでした!」
「へ?」
そう言って私に思い切りガバッと腰まで綺麗に90度に頭を下げた飛雄君に驚き、マヌケな声が漏れてしまった。一体何を謝っているんだ、この子は。ほら、日向君とか龍とかめちゃくちゃ見てるじゃないか。
「さっきの試合!」
「!…」
「蜜景さんが左目見えないの分かってて、日向に左側を打たせるようにトス上げました」
そう口にした飛雄君に私は呆れて大きな溜息を吐いた。全く、この子は律儀と言うか馬鹿と言うか。なんて言えばいいか分からない。しかもこの子、なんで私が溜息をついたかも分かっていない。
「そんなの分かりきってることだよ。むしろ謝る必要なんてどこにもない。君はただ勝つ為にした事だろ?」
「でもっ…俺っ!蜜景さんに嫌なこと思い出させる様なっ…!?」
まだ何か言おうとする飛雄君の胸倉を掴み自分の方に引っ張って顔を近づけ、「〝でも〟も〝くそ〟もない」と言った。そんな飛雄君の顔はビックリしていた。飛雄君は本当にいい子だと思う。どこまでも律儀な彼の様子に私は自然と笑みが溢れた。
「君は正直すぎるよ。でもそれが君のいい所だ。だから気にしなくていいよ。あと、おめでとう飛雄君。これで思う存分セッターやれるな」
「あ、あざす…。あ、てか手っ…」
飛雄君はそう言うと自分の大きな両手で私の両手を優しく掴んだ。飛雄君の顔は心底心配そうで、飛雄君も他の先輩たちの様に心配してくれてるということが良くわかった。
「はははっ、大丈夫だよ…先輩たちが手当してくれたし」
「なんか重いもん持つ時とか言って下さい。俺持ちますんで」
「あ、ホント?その時はお願いするよ」
「組めた!!組めたよーっ!!」
その声のする体育館入口に顔を向けるとそこには現国担当の男子バレー部顧問の武田先生が汗だくで紙を握り締めて体育館に入って来た。
「練習試合っ!!相手は県のベスト4!!〝青葉城西高校〟!!」
「!…青葉城西」
え、最悪。あの人のいる学校じゃないか。そこと練習試合。正直言うと行きたくない。あの人に合うこと自体が最悪で、もう嫌な予感しかしない。
「蜜景さん…」
「ああ…最悪だな飛雄君。高校初の練習試合が…あの人がいる学校だとは…」
「蜜景さんも今年初の練習試合じゃないですか」
隣に立っている飛雄君に話しかけるとそう言われてしまった。そうだよ、私も今年初の練習試合だよ。それで今年初の練習試合の相手があの人のいる学校って。なんだ、私への嫌がらせなんだろうか。それよりも青城の条件が飛雄君をセッターとしてフルで出すことってどういう事だ。龍なんて顔がいつも通り威嚇顔になって文句言っているし。
「い…いいじゃないか。こんなチャンスそう無いだろ」
「良いんスか、スガさん!烏野の正セッター、スガさんじゃないスか!!」
「………俺は…俺は日向と影山のあの攻撃が4強相手にどのくらい通用するのか見てみたい」
「!」
孝支先輩が強くそう言えば、大地先輩が武田先生に詳しい詳細を聞く。武田先生が言うには日時は来週の火曜の放課後で、土日は他の練習試合で埋まっているらしい。短い時間だからその日は1試合だけで学校のバスを借りて行くらしい。今年初の練習試合。私もできることをする。
部活が終わり、みんな散々に解散して行く。私もさっさと帰ろうとするが、龍が大地先輩が肉まんオゴってくれると言うのでついて行かせてもらうことにした。大地先輩と龍、それと自転車を押す日向君と一緒に学校を出て先に帰ってしまった孝支先輩と飛雄君を追いかける。見つけた。坂ノ上商店の前で二人でなにか話しているみたいだ。
「蜜景」
「あ、はい」
まあ、あの様子だと何もないみたいだしいいか。大地先輩と肉まん選んでこよう。坂ノ下商店のお兄さんに肉まんとかあんまんとか色々頼んで大地先輩がお金を渡す。私が肉まんの入った紙袋を受け取って外に出ると孝支先輩が飛雄君の肩にポンと手を置き「影山が中学ん時と同じだと思ったら大間違いだって見してやりたいじゃん!」と龍と日向君に笑顔で言っていた。
「……そうだな。怖いのは影山〝単品〟じゃないってとこ、見してやろう」
「あ、」
「なあ日向!」
「!」
大地先輩が日向君の方を見ると、日向君は私の持っていた肉まんの入っている紙袋を持っており、その中の肉まんを食べていた。てかいつの間に取った。
「あっ、オふっ!」
「お前何先に食ってんだ!」
「フザケんな!」
龍と飛雄君の二人に日向君は胸ぐらを捕まれ持ち上げられていた。すごいな二人とも。てか日向君ドンマイ。すると坂ノ下商店のお兄さんが出てきて「店の前で騒ぐな!」と怒られてしまい、二人は「サーセェ〜ン」と謝る。
「あ、蜜景先輩!」
「んー?」
「緋蜂先輩ってなんでマネージャーしてるんですか?あんなにバレー上手いのに」
「!」
みんなに肉まんを配ってたら日向君に聞かれた。まさか、そんなこと聞かれるとは思わなかった。さて、困った。何から話すかな。と、思っていたら飛雄君が日向君に「ボゲェ!!日向ボゲェ!!」と怒鳴っていた。
「なっ!ボケってなんだよ!!」
「蜜景…」
大地先輩が私の名前を呼ぶ。言いたくないなら言わなくていい。何も言われていないが目でそう言われている気がした。他の人達も、飛雄君も。
「…日向君、そんなに気になるか?」
「あ、はい!」
「てめっ、日向!!」
「飛雄君」
私が彼の名前を呼び首を横に振った。すると飛雄君は辛そうな顔をする。君が辛くなる必要はないのにね。本当に君は優しいよ、飛雄君。
「……じゃぁ、何から話すかなぁ。バレーをしてないのは怪我と…気持ちの問題かな」
「怪我と…気持ちの問題?」
「そ。私は中学の時、バレーを1年の数ヶ月だけしてた。で、試合で怪我をして左眼の視力を失った」
「え!?じゃぁ、左眼って…」
「うん。ほとんど見えてない……私から見たら世界の半分は黒くなってる」
自分の左眼を覆うように手で押さえながら言ってからその左目を指差して、日向君を見れば彼は何故か元気が無くなっていて、他の人たちも暗い表情になっていた。私はそんなに暗くならないで下さいよと言う。
「でも…自分がこうなってよかったって思いますよ…」
「え…」
「怪我してなかったらここでマネージャーしてないだろうし…」
「…蜜景さんっ」
「蜜景っ」
そう言ったら飛雄君は嬉しそうな顔をしていて、大地先輩と孝支先輩には頭を撫でられ、龍は泣いていた。なんの冗談だろうか。ほら、月島君とかめっちゃ引いてる、って思ったら月島君まで私の頭を撫でてきた。そうか、君はツンデレ属性なんだな。
「あの、そろそろ放してもらっていいですか?」
「ああ、すまん。蜜景がいい子すぎて」
いや、大地先輩。言っている意味が良くわかりません。私なかなか性格悪いと思うんですけど。まあ、いいか。
「あ、そうだ。影山、それ食ったらちょっといい?」
「?、オス」
「蜜景も」
「はい」
大地先輩に呼ばれて坂ノ下商店の中の中においてあるテーブルの席に座らされる。さっきのお兄さんに騒ぐなよ!と言われ、私は返事しておいた。
「―今度の練習試合の日向のポジションをどうしようかと思ってさ」
「…俺は―」